1976年の広島平和音楽祭のために書き下ろされた曲だという。「遅れてきたファン」の私が初めて「いちご讃歌」を生で聴いたのは、1980年7月20日、『サマーホリデーin日比谷』でのことである。その時すでに、「あざやかな場面」のシングル盤は持っていたので、B面に入っていたこの曲は知っていて、大好きだった。アンコールでこの曲のイントロが流れると、客席は大いに盛り上がった。「あ、ファンの間ではこんなに人気曲なんだ!」と嬉しかったのを覚えている。

 

 ところが、いよいよサビの「♪ わーたしーたち 色あせーぬよーうに」のところに来て、勇んで手拍子をしたら、周りの皆さんとリズムが違うではないか!慌てて周囲に合わせたものの、私の疑問は解けない。なぜ手拍子のリズムがレコードと違うのか?それが判ったのは、その後しばらくして、デビュー2年目のライブアルバム、『ロマンティック・コンサートⅡ〜ちいさな愛の1ページ〜』を買った時だった。そのアルバムに収録されているライブバージョンの手拍子は、まさしく日比谷野外音楽堂でのリズムと同じだった。このライブ盤の方が、シングルより一年半ほど前の録音になるのだ。ライブ盤の中で宏美さんは、一旦演奏が終わった後、ドラムのリズムに乗せて、「もう一度、手拍子!いいですか?」と自らお客さんに促し、リフレインを歌っている。

 

◯ライブバージョンの手拍子は、

「(ウン)タタ(ウン)タン」

 

 

◯シングルバージョンの手拍子は、

「(ウン)タン(ン)タタン」

 

 

 お解りいただけただろうか。平たく言えば、ライブver.の方が「シンプル」、シングルver.の方が「ちょっとお洒落」という感じだろうか。是非聴き比べてみていただきたい。改めてスタジオレコーディングする際に、このちょっとした変更が行われたのであろう。

 

 もう一つ、この曲は構成が少しく変わっている。

 

(前奏)

A 胸につけた 赤いいちごのしみは〜

B 青春の日ざかりの中で〜

C 私はただの ただの娘だったけど〜

B' この時をいつまでも どうぞ〜

(間奏)

A 胸につけた 赤いいちごのしみは〜

B この胸のときめきの音は〜

B' 私たち 色あせぬように〜(リフレイン)

B' 私たち 色あせぬように〜(リフレイン)

B' 私たち 色あせぬように〜(リフレイン)

(後奏)

 

 このように、「B」の部分を短くして少し変えたような部分を「B'」とすると、それをリフレインとして最後に半音ずつ上がりながら3回繰り返している。キーが上がるごとに、宏美さんの伸びやかな高音の輝きが増し、テンションも上がっていくのだ。リフレインの2回目が、ボーカルとコーラス、ドラム、手拍子だけのアカペラになり、3回目にフルバンドが入ることによって、さらに演奏効果を高めている。

 

 さらに、一度しか現れない「C」の部分は、half time feel でゆったりしている上に、キーもAメジャーからドミナント・キー(属調)のEメジャーに転調しているのだ。演奏時間の短い日本の歌謡ポップスでは、転調はパラレル・キー(同主調)レラティブ・キー(平行調)へのものが多く、クラシックで多いドミナント・キーやサブドミナント・キー(下属調)への転調は滅多に見られない。珍しい転調と、テンポ感の変化を併用することで、「C」の部分をとても印象的なものにすることに成功している。三木たかし先生の傑作の一つである。

 

 「私たち」「パピヨン」等と並んで、ライブを盛り上げるこの曲。宏美さん、是非50周年のコンサートでは「いちご讃歌」、いかがですか?😉

 

(1976.12.5 アルバム『ロマンティック・コンサートⅡ〜ちいさな愛の1ページ〜』収録)