実に久しぶりの私の楽典・ウンチクシリーズである。今日は同主調(Parallel Key)に転調する楽曲について解説したい。

 

 実は、昨年の3月に「宏美さんの主要楽曲に見られる平行調への転調」というブログを書き、メインの「学生街の四季」を含めて6曲について説明した。その時から「同主調」はそのうち取り上げよう、という構想はあった。だが、掃いて捨てるほどある「平行調」(Relative Key)への転調と違って、「同主調」への転調はこれがなかなかレアなのだ。なかなか数多く思いつかないままに時間だけが過ぎて行った。

 

 考えてみれば、平行調より同主調への転調の方が少ないのは当たり前である。下の譜例をご覧いただきたい。ハ長調(Cメジャー)を元のキーと考えると、平行調のイ短調(Aマイナー)とは、自然短音階*の場合は使用する音は全て共通なのである。なので当然行き来もし易いし、転調する時も調号は変わらない。だが、同主調のハ短調(Cマイナー)とは、自然短音階の場合7つの音のうち3つの音が半音下がる(赤丸印)ことになる。転調のハードルは上がるし、調号もフラットが3つ付くことになる。

 

 

 では、まず宏美さんの楽曲に入る前に、私が子ども心に同主調への転調を意識したテレビ主題歌や歌謡曲をご紹介しよう。同年輩の方々は懐かしく思ってくださるのではないか。

 

●『河童の三平 妖怪大作戦』OP 作曲:小林亜星 Aマイナー→Aメジャー(1968)

♪ 行きはよいよい 帰りはこわい〜から転調

 

 

「ちいさな恋」天地真理 作曲:浜口庫之助 Aマイナー→Aメジャー(1972)

♪ ちょっとこわいの 恋かしら〜から転調

 

 

『ウルトラマンタロウ』OP 作曲:川口真 Fマイナー→Fメジャー(1973)

♪ 何かが地球に おきるとき〜から転調

 

 

 3曲とも短調から長調への転調で、霧が晴れたように明るくなるのをお感じいただけたのではないか。

 

 さて、では宏美さんのオリジナル曲に入ろう。宏美さんの楽曲については、譜面も例示したい。

 

「ピラミッド」作曲:筒美京平 Gマイナー→Gメジャー(1978)

 

 

 雲の絨毯に乗ってシルクロードを飛ぶという、摩訶不思議でアラビアンなGマイナーに始まるが、「♪ 『Are you happy?』ハッピーですか?」と、歌詞の雰囲気もガラッと変わるところでメジャーになる。厳密には、その前の「♪ 私をきっと待っててね」の語尾の「ねー」の部分からGのメジャーコードが鳴り響き、ハッピー感いっぱいの歌に変わるのだ。ツーコーラス後、半音上がってメジャーの部分が繰り返され、テンションMAXになるのは、この曲のブログの際大いに語ったので、繰り返さない。譜例の赤丸を付した音やコードが、GマイナーになくGメジャーに特徴的な音やコードである。

 

 

「泣きながら目覚めて」作曲:馬飼野康二 Cマイナー→Cメジャー(1979)

 

 

 「♪ 泣きながら目覚めたの」と憂いを帯びたマイナー調の前半だが、「♪ 旅立つわ 私のハート」「♪ 青い空 飛んでく鳥よ」と、主人公の気持ちの前向きな変化に伴ってメジャーに転調する。転調する前の小節のカッコ付きのコードは、厳密にはノーコードと記すべきだろうが、耳にはそのように聞こえ、実際そのコードと同様の役割を果たす。この曲も「ピラミッド」同様、ツーコーラス終了後半音上がり、そこからの盛り上がりはハンパない。前振りの曲も含め、サビで同主調に転調を行なっている楽曲が多く、効果を上げているのが分かる。

 

 

「家族」作曲:樋口康雄 Cメジャー→Cマイナー(1991)

 

 

 親子3代で繋がって歩くオープニングは、元気よくハ長調で始まる。途中「♪ 枯れ葉が 風に追われる秋/初めてみる 雪の冬は」と、人生はいつも順風満帆とはいかない、と母が諭すところで若干テンポも落とし、哀調を帯びたハ短調に転調する。上の長調の譜面と下の短調の譜面では、同じモチーフを用いていることがよく判るであろう。ピアノが奏でるベースラインは、調号がなければ全く同じ動きである。「♪ 君のあとをついてくる」でゆったりとハ長調に回帰する。

 

 

 いかがでしたでしょうか。同主調への転調、何となくお分かりいただけたなら嬉しいです。😊

 

*自然短音階の他に、和声短音階、旋律短音階があるが、本稿には直接的に大きな影響がないため、説明は省く。