Dr.ドラゴンを名乗って、筒美京平先生が陣頭指揮を執ったアルバム『パンドラの小箱』は、全体を通してのサウンドの統一感も強く、ファンの人気も高い。宏美さんの歌唱力の高さを再認識させられるアルバムでもある。その中から迷いに迷って、今日は「ピラミッド」を選んでみた。

 

 

 タイトルチューンの「パンドラの小箱」のバリエーション、バイオリンの印象的なフレーズから、間髪を入れずに始まる。疾走感のあるエキゾチックなイントロのおかげで、「♪ あなたが雲の絨毯に乗り〜」という唐突な歌詞が自然に聞こえる。イントロと歌い出しに共通して繰り返されるGm-A/G-A♭/G-Gmというコード進行が、異国情緒を演出する。

 

 だが、「♪ 私をきっと待っててね」の最後の「ね」の部分のGのメジャーコード、ユニゾンで鳴るストリングスのリードで、おどろおどろしい雰囲気は雲散霧消する。

 

 Gマイナー(ト短調)からパラレル・キーのGメジャー(ト長調)に転調してから、宏美節が炸裂する。「♪『Are you happy?」』ハッピーですか?/ah 尖らせた くちもとに」の「ah」に跳躍する所の声の出し方。「♪ 微笑がもどりましたか/うずまく夢が飛び散って M〜」の部分のビブラートとノンビブラートの使い分け、「夢が」の「が」のフォール、そして「飛び散って」の「て」の後のハミングに移る前に一瞬混じる「泣き」のような高音(こういうの、業界的には何と言うんですかね?)。短いフレーズに細かい歌唱テクニックをふんだんに織り混ぜている。コーラスも効果的に使用されている。

 

 2コーラス終わって、半音上がってサビが繰り返される。宏美節がさらにヒートアップし、聴いているこちらは完全にノックアウト状態。

 

 雲の絨毯が遠ざかるようにフェイドアウトするアウトロだが、ここでもコード進行に着目したい。A♭-B♭/A♭-B♭m(♭5)/A♭-A♭を繰り返しているが、これはイントロのGm-A/G-A♭/G-Gmに対応していると言える。暗雲立ち込めるように始まったイントロに対し、あくまで底抜けに明るいエンディングである。

 

 1986年10月、宏美さんは、親善大使としてエジプトはギザのピラミッドの前でコンサートを行った。ピラミッド繋がりでこの曲を披露されるかと思ったが、残念ながらそれは実現しなかったようだ。『パンドラの小箱』がリリースされた当時、スタジオライブというものがあり、その中でこの「ピラミッド」を歌われた記録があるのを見たことがある。その時ほど「遅れてきたファン」を口惜しく思ったことはない。

 

(1978.8.25 アルバム『パンドラの小箱』収録)