最近目が死んでる気がする人ですこんばんはw
熱い所為か不摂生の所為か、とにかく何もやる気が起きません…
でも学戦のことは考えてます←
今年は夏休みが例年より多く取れそうだから…あぁあ、生きねば。
前回の続きです。
尤&樹、決着つけさせていただきます…!!
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初夏だと言うのにひんやりとした学校の廊下。
コツコツと響く自分の足音が嫌に耳について落ち着かない。
退院が決まって、しかしまるで心が晴れなかった。
軍の皆は、先生方は、樹先輩は、どんな風に僕を見るだろうか…
そればかりが気になって、隠れるように足早に歩いた。
いつも通り人気の無い演習室近く。見たことあるシルエットに、僕は立ち止まった。
「…、先輩」
そこにいたのは樹先輩だった。
いつもなら笑顔で挨拶するところなのだが、今日は違う。
「これから行くつもりですの?職員室…」
前置きもない質問。彼女は僕が何をしようとしているのか、わかっているようだ。
それが無性に悔しくて、思わず強い口調で返事をしてしまう。
「…知ってるなら止めないで下さい」
「尤さん、どうして?今回のことは、貴方の所為じゃない」
笑うことも怒ることもせず、先輩は僕の方をじっと見つめて静かに言う。
「周りは、そう思ってないと思います」
「それこそ貴方の勝手な想像じゃないかしら」
僕の根拠の無い不安を、彼女がそっと否定する。
まぁ、そうかもしれませんが…と言葉を濁しつつ、僕は視線を逸らした。
次の言葉が見つからず黙っていると、はぁ、と彼女の深いため息。
そして優しいその声が沈黙を破った。
「私ね、今日お別れを言いにきたの」
その突拍子も無い内容に慌てて視線を先輩に戻す。
「樹、指令塔辞めますの。転校、するから…」
「?!」
淡々と話す先輩とは裏腹に、僕は動揺が隠せない。
「ちょ、ちょっと待ってください。冗談、ですよね?そんなの…」
思わず聞かずにはいられない。「いいえ、本当」と彼女。
「そんな、どうして…?」
「今回の戦いで、私は何も守れなかった。貴方も、白軍も…だから責任を取れって。それに…」
それに…?
「尤さん、私のこと、嫌いみたいだから」
出てきたのは思いがけない言葉だった。
頭の中が真っ白になる。
「お見舞いに行ったとき、変だと思ったの。尤さん、樹のこと…避けてるでしょ」
「そんな…ぼ、僕、避けてません!」
「避けてるじゃない」
「避けてない、です」
「尤さん…こっち見なさいよ」
強気な先輩の言葉に、おずおずと目を向ける。
鋭い2色の瞳に見つめられて、自分はまるで石にでもなったようだった。
「私がいなければ…尤さんだけなら、多分そんな怪我しなかった。ええ、きっと逃げることが出来たかもしれない」
「違う…っそんなことない。先輩がいてくれたから、僕は…っ」
慌てて反論する。そうだ。先輩を嫌いになるはずがない。そうじゃないんだ。
「ならどうして?!」
掠れた先輩の問いかけが容赦なく僕に刺さる。
何をどう言っていいのかまるでわからない。
「そうじゃない、そうじゃなくって…あぁもう!」
たくさんの言葉が、伝えたい気持ちがドッと押し寄せてぐちゃぐちゃになる。
そして、とっさに口から言葉が出た。
「もう嫌なんだよっ!」
何だかもうどうだっていいという気分だった。
「あの時先輩に抱きしめられて!その手に触れられて…正直嬉しいと思った!あの状況で、僕は!あんな時に!」
樹先輩の顔がみるみる青ざめていく。だがお構いなしに僕はわめき続けた。
「先輩のこと見るとどうしても思い出すんだ…それが辛くてっ。もう一回、抱きしめたいとか、そんな…そんな最低なこと考えちゃうから!」
毎晩毎晩、暗くなると恐怖や不安で体が震えた。
止めようにも止められず、寂しさと切なさが追い討ちをかけるようにこみ上げた…
「笑えば良いじゃないですか。どうぞ笑って下さいよ!先輩だってこんなどうしようもない奴、いなくなった方が良いでしょ?!」
…。
一気にそう言って…言ってから、本当に馬鹿だったと思った。
先輩の顔を見るのが怖い。
荒くなった呼吸が整うのを待って、僕はそろそろと顔を上げた。
そして僕は、ぎょっとした。
泣いていた。
樹先輩の目から、ぽろぽろと涙が落ちていく。
「やっぱり、夢じゃなかったの…」
ぽつりと呟くその声に、胸が詰まった。
「何よ偉そうに…っ」
弱々しく潤んでいだ瞳が、打って変わってキッと僕を鋭く睨んだ。
「樹が…私が今日どんな思いでここに来たか、知らないくせに!」
止まらない涙を拭いもせずに先輩が怒鳴る。
今までこんな彼女を見たことはない。
「覚えてるの!尤さんに何したか…私だって全部、全部覚えてる!」
今度は僕が青ざめる番だった。
「お見舞いに行った時、貴方が目を逸らしたのを見て、まさかって思った…嫌われたと思ったら、私、怖くて怖くて仕方なかった!」
その言葉にハッとする。
先輩が見舞いに来てくれたあの日。僕はまるで上手く受け答えすることが出来なかった。
色々な思いが抑え切れなくて、ろくに顔を見ることも出来ず、彼女は早々に帰ってしまった。
そしてあれ以来、ほとんど彼女は来なかった…
「思い出したくないのに思い出すのっ。苦しくてしょうがなかった!だけどあんなこと、誰にも言えないじゃない!」
彼女はさっき「全部覚えている」と言った。
洗脳されても記憶は残るのか…つまり、彼女もまた、あの痛みと恐怖に苦しんだと言うのか。
プライドも何もかも打ち砕かれて、それでもなお、こうして毅然と振舞っていたと言うのか。
誰にも打ち明けられずに。たった一人で。
僕は自分が情けなくて、本当に小さく思えて、今すぐ消えてしまいたかった。
終いにはしゃがみこんで泣きつづける彼女に、僕はもう何も言えなくて。
震える足でゆっくりと近付いて、その小さな背中を撫でることしか、僕には出来なかった。
…。
「明日華さんに聞いたわ。あなたが指令塔辞めたがってるって…そんなの、ダメに決まってるじゃない」
「樹先輩、でも…」
「絶対ダメ」
真っ赤な顔で小さく鼻をすすりながら、しかしきっぱりと先輩が言い放つ。
どう答えて言いかわからずうろたえていると、先輩が僕の顔を覗き込んで微笑んだ。
「それとも尤さんは、本当に、もう私とはいたくないのですか?」
「…それって…?!」
「樹は、もっと尤さんと、い、一緒に、いたいです…」
彼女の一言で急に顔が熱くなる。
あぁ、まんまとはめられた…きっと彼に違いない。
後でお礼を言わなくちゃ。
「先輩…今度こそ、貴方を守らせてください!」