B737MAX続報 MCAS(失速防止装置)修正プログラムとMCASの補足 | 夢老い人の呟き

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28日付ロイター “焦点:737MAX飛行再開になお時間、米航空当局に厳しい目” によると、ボーイングは737MAXのMCAS(失速防止装置)のソフトウェアのパッチ(修正プログラム)をリリースしました。

パッチを当てる作業そのものは1時間もあれば完了しますが、各国の航空当局の承認を取り飛行再開までには数カ月かかりそうとのことです。

ボーイングの株主でもあるフォート・スミス・キャピタル・グループの最高投資責任者、チャーリー・スミス氏は「この問題は、7月か8月まで片が付かないだろう」と予測します。

 

 

 

ソフトウェアのパッチの内容は?

 

以下“Boeing presents MCAS fix to pilots, regulators and media”より引用

  • 修正プログラムでは、フライトコントロールシステムは両方のAOAセンサー(迎角センサー)からの入力をフライトコントロールコンピュータ(FCC)に送られる前に、ADIRU(Airdata Inertial Reference Unit)で比較し、フラップが上がった状態で5.5度以上ずれると、MCASは無効となります

      図出典:Boeing issues 737 Operations Manual Bulletin after Lion Air accident

  • また不作動のMCASについてパイロットに警告するために、Primary Flight DisplayにAOA Disagree Alertを表示します。

  • MCASが不作動で、AOAの不一致が飛行中に10秒以上かつ10°以上異なる場合、有効な迎え角が失速に近いしきい値(しきい値は速度および他のデータに依存)を超えるとMCAS機能が作動します。
  • しかし、MACSの介入中または介入後に、パイロットがノーズダウンを止めるためにトリムすると(上図①)、それ以後は作動しない。
  • MCAS機能のトリムの量はパイロットが昇降舵で機体を制御できる限界を超えないよう制限します。

これでFAA及び各国の航空当局の承認が得られるか否かは分かりません。

MCASが必要となった理由(エンジンが大きくなり前方かつ少し上方に取り付け位置が変わったことにより、ピッチ安定性が低下し、AOAが大きくなると機首上げモーメントが発生し、失速の危険性が増した)を考えると難しいような気もします。

 

 

 

MCASの概要

 

1.MCASが必要となった理由

B737MAXは従来型のCFM56エンジンよりも大型で燃費性能が良いLEAP-1Bエンジンが採用されました。

このためエンジンのナセルが大きくなり、地面とのクリアランスを確保するためにエンジンが前方かつ少し上方に取り付けられました。(下図参照)

つまり大きくなったエンジンナセルがより前方に付きましたが、この空力的影響がMCASが必要となった理由です。

出典:https://leehamnews.com/2018/11/14/boeings-automatic-trim-for-the-737-max-was-not-disclosed-to-the-pilots/

 

出典:B737 MAX: Changes To Airframe And Systems

 

【MCAS(失速防止装置)が必要となった理由】

 

エンジンのナセル(カウリング)は通常揚力を発生しません。

B737MAXも通常の飛行では、エンジンは揚力を発生しません。

 

しかし、何らかの理由で操縦士が航空機を激しく操縦し、約14°の失速角に近い迎え角を発生させると、エンジンナセルが揚力を発生させます。

それはピッチアップモーメントとして働き、対気迎角:アタック角(AOA)が高いとB737MAXのピッチの安定性が不安定になります。

 

最も難しい状況は、操作のピッチ比が高いとき(ピッチアップの速度が速いとき)で、航空機はピッチアップの慣性力によりAOA(迎角)が過度となり、失速する可能性があります。
そのためAOAが高いときのB737AXの、低いピッチ安定性マージンによる失速を防ぐために、ボーイングはMCASを導入しました。

図出典: FAA evaluates a potential design flaw on Boeing’s 737 MAX after Lion Air crash

 

現在の航空機は燃費を追究する(空気抵抗を減らす)ために邪魔な水平尾翼を極力小さくする傾向にあります。これは揚力と重心を近づけて機首下げモーメントを小さくし、釣合い力である水平尾翼を小さくしますが、機体のピッチ安定性の低下につながりますので、これを補うために電子制御に依存することとなります。

 

 

2.MCASの作動

MCASは次の条件がそろうと自動的に機首を下げ、AOA(対気迎角)を減らして失速を防止します。

  1. AOAが失速領域に近づいている。(エンジンナセルの発生する揚力が大きくなる)
  2. 自動操縦がオフ(自動操縦が作動していれば迎角が失速領域に近づかないように制御されます)
  3. フラップアップ(=機速が速い=エンジンナセルの発生する揚力が大きい)
  4. 急激な旋回(旋回中は揚力が遠心力に抗する方向にも分解されますので、より大きな揚力が必要となり、迎角を大きくする必要がある)

 

出典:What is the Boeing 737MAX Maneuvering Characteristics Augmentation System

 

 

MCASが作動すると毎秒0.27度の速度(機速により変化する)で9.26秒以下、2.5度を限度として、水平尾翼は前縁が上がります(機体は機首下げとなります)。

 

【停止するには】

  • 停止するには①のマニュアル・エレクトリック・トリムスイッチ操作でも一旦停止しますが、5秒後にまた作動します。
  • 完全に停止するためには②のスタビライザー・トリム・カットアウトスイッチをカットアウトします。
  • すると電動モーターの作動は停止しますので、③のマニュアルトリム・コントロールホィールを手動で回し、ジャッキスクリューを回し水平尾翼を調整します。