朴 令鈴さん率いる音音(おとね)工房さんから面白そうなコンサートのご案内を頂いた。題して「少年の魔法の角笛~グスタフ・マーラーの音絵本~」。私の知識や想像力ではどんなコンサートになるのか全く分からなかったが、フライヤーがあまりに可愛らしかったので、ともかく、お邪魔することにした。



プログラムによると、「少年の魔法の角笛」とはドイツで語り継がれてきた民謡を集めた本のことらしい。名もない民衆の素朴な詩が700篇以上収められており、風景、動物、神様、愛、戦争、死など、私たちの暮らしに密接に関わってくるものを通して、人々の日々の営みが描かれているとのこと。これに様々な作曲家が曲を付けたらしいが、その筆頭とも言えるグスタフ・マーラー(1860~1911)は「他の文学的な詩とは本質的に異なる。芸術ではなく『生』と呼ぶに相応しい」と述べ、24曲の「角笛歌曲」を残したらしい。

 

今回はその「角笛歌曲」から16曲が選び出され、その各々の物語に絵本作家のまつむらまいこさんが実に魅力的な絵を描かれ、更にはそれを荒井雄貴さんがプロジェクションマッピングという投影法でステージや壁面に動きのある映像として描かれたので、これまで経験したことのない空間を味わうこととなった。



 正に、百聞は一見に如かずで、アンコールの時間になって撮影を許された画像がこちら。何とも幻想的な空間で、その中でメゾ・ソプラノの花房英里子さん、バリトンの小林啓倫さんが張りと深みのある声で時には力強く、時には優しく物語を歌われたので、写真にある絵本の中に引き込まれそうになる不思議な時間を過ごすこととなった。



観客席の隣近所には令鈴さんにお世話になった同志社混声合唱団の団員が十名程居られたが、終了と同時に皆さん「こんなの初めて。面白かったわね!」、「絵がきれい。なんか夢を見ているようだった」、「それにしても、令鈴さんのピアノも歌手のお二人も聞かせるわよね!」と皆さん、大満足の様子だった。


ちなみに、私は第10曲目の「天上の暮らし」が一番気に入った。大きなお皿が出てきて、そこに次々と美味しそうなフルーツや食べものが山盛りになっていく。晩ごはんを食べずに行ったから余計かな?(笑)

同志社学生混声合唱団ご出身の男性12名から成る男声合唱団で、同じく同合唱団ご出身の女性、W邊さんが指揮者として束ねておられる。代表者の「家族や友人しか聞きに来てくれないようでは、ミュージシャンではなく、ミウチシャン(身内)だ」というご挨拶に観客席から笑いが起こったが、なかなかどうして、素晴らしい演奏がいくつもあった。


(団を相撲部屋に例えた面白いチラシ)

第1ステージは「日本語のうた」と題し、隠れキリシタンがテーマの「おらしょ」、男声合唱のための「夜もすがら」と「抒情詩」、酒を讃え親しむ「酒頌」、そして「最上川舟歌」の5曲が演奏された。曲の紹介に立たれた方の説明通り、「夜もすがら」では下鴨神社の禰宜になれなかった鴨長明の未練たらたらの哀愁が感じ取れたように思うし、世の中、思い通りには行かないけれども、そんなときは酒を飲んで翌日は再び元気に働かねばならないという男の心意気が「最上川舟歌」からは感じられ、大変良かったように思う。



第2ステージでは「英語のうた」5曲が歌われ、アメリカ民謡の「Vive L' Amour」、アメリカTVドラマ主題歌の「Sing Along」に続き、3曲のスピリチュアル(奴隷が歌いつないだ霊歌)が歌われたが、「Ride the Chariot」が特に良かった。奴隷という辛くて厳しい人生も、必ずや神さまに救ってもらえる。そして、馬車に乗る準備(神さまに会う準備)はできているという決意や希望がひしひしと伝わって来る力強い歌声だった。


(トップテノールM藤さんの熱唱)

 

第3ステージには、女性指揮者のW邊さんが「私も歌いたい」とおっしゃったことから編成されたという混声合唱団「アンサンブル・プチ・プチ」が賛助出演で登場され、ブラームスの作品74から第1曲を歌われたが、女声が入ると男声にはない柔らかさ、清らかさが加わる。耳に優しい演奏だった。


(アンサンブル・プチプチのステージ)

第4ステージは「ラテン語のうた」4曲が歌われたが、秀逸は「Ave Maria Angelus Domini」だったと私は思う。曲の後半にアーメンコーラスが出て来たが、これが本当に美しいハーモニーで、心が癒されるのを感じた。タイトルからして宗教曲だと思うが、同志社という学校で4年間過ごすと、自然に神さまの存在を近くに感じることもある。そういう同志社の卒業生ならではのハーモニーを感じさせてもらったように思う。

 

打上げのパーティにも参加させてもらい、最後に全員でカレッジソングを混声四部で唱和したが、あまりに美しく、しかし、力強いハーモニーに危うく泣きそうになった。ラグビー部で歌ってきたカレッジソングとはひと味ふた味違っていたかな(笑)

大学の先輩から紹介された朗読劇「青空」を観に行った。



主人公の大和(やまと)は、昭和12年の支那事変、14年のノモンハン事件、15年の日独伊三国同盟、16年の真珠湾攻撃から始まる太平洋戦争という激動の時代を生き抜いた少年だ。

元々は軍国少年だったが、日本の劣勢が感じ取れる生活になり、武器を作るための「金属類回収命令」に続き、極寒の地で戦う兵士の毛皮や食料を確保するための「犬や猫の供出令」が出されるに至り、大いに悩むこととなる。彼には家族のように思い、慈しんでいる柴犬の「麦」と野良猫の「小太郎」がいたからだ。その後の展開にはハラハラしたが、大和も麦も小太郎もたくましく激動の時代を生き抜き、勇気を与えてくれる。

朗読劇は初めての鑑賞だったが、ステージに置かれた4脚の椅子に、ナレーターを務めながら大和少年の父親や警官など登場人物を演じる安田 顕さん、大和少年を演じる瀬戸利樹さん、柴犬の麦を演じる小池栄子さん、野良猫小太郎を演じる梶原 善さんがお座りになり、時には軽妙に、時には重々しく物語を読んでいかれた。

言葉だけでその場面を想像させる朗読の才能や技術には感服したが、終幕の頃には「平和な時代に生まれて良かった。子供や孫にも平和な時代を生きて欲しい」と心の底から願うようになっていた。戦争は何の罪もない犬や猫まで犠牲にするのだと知り、改めて平和のありがたさ、平和を守る人間の責任に気付かされたのだろう。素晴らしい朗読劇だった。