雨も降っていたし、少し荷物もあったから、地下鉄なら6駅くらいのホテルまでタクシーで帰ることにした。タクシーは直ぐに来たが、乗り始めて10分程すると、ドライバーが車を止め、料金メーターを手で叩き始めた。



何事かと思ったら、「メーターがおかしい。動いていなかった。今、やっと動いたが、ここまで10ドルは掛かっている。それを現金で払ってくれるか?」と聞いてきた。ホンマかいな、と思ったが、英語の議論では負けそうだし、ここで降ろされるのは避けたいし、「分かった」と答え、降りるときにはメーター料金をカードで、10ドルは現金で支払った。現金の10ドルは多分、会社には内緒にできるドライバーのお小遣いになったのだろう。


ホテルに帰ってから、なぜドライバーに「メーターの故障は我々の責任ではないよね?」とか「では、ここで降ろしてくれ。別のタクシーに乗る」とか「10ドルは高い。5ドルなら払う」と言い返せなかったのかと悔しく思ったが、ドライバーは私が無防備な旅行者でトラブル回避のためなら10ドル払う甘ちゃんだと見定め、自信を持って行動に移したのだろう。悔しいが失敗から学び、今後は警戒心を忘れるまいと決めた。


ところが、帰りの空港でお茶していたら、店員さんがやって来て「あなた方の隣のテーブルでお茶していた女性たちはあなた方の友人か?」と尋ねて来るではないか。隣のテーブルにいたのは同じ合唱団のメンバーだったので「そうだ」と答えると、「先程の会計で10ドル多くもらい過ぎた。これを返してくれ」と10ドル札を手渡されてしまった。この誠実な対応に私の表情は早くも弛み、失敗から学んだはずの警戒心など瞬く間に消えてなくなってしまった。それに気付いて思わず苦笑してしまったが、ま、それでも良いかと最後は思った。その方が如何にも私らしいし(笑)

リバティ島に建つ自由の女神を見たあと再びフェリーに乗り、移民局のあったエリス島を訪れた。1892年から1954年までの間に約1700万人の移民がここからアメリカに入ったとのこと。1954年に移民局が閉鎖されてからは博物館になっているという建物を見学した。


(1905年の撮影、Wikipediaより)

 映画「ゴッドファーザー」には故郷のシチリアを逃れ、ニューヨークにたどり着いたヴィトー・コルレオーネ少年が登場するが、彼が不安そうな表情を見せていたのがこの移民局だと思う。ヴィトー少年同様、多くの移民希望者がエリス島を経てアメリカに入国したことから、「希望の島(Island of Hope)」と呼ばれた一方、病気の疑いがある人や所持金が全くなかった人は本国に送り返されたことから、「嘆きの島(Island of Tears)」とも呼ばれたらしい。


(入国審査を待つ移民でいっぱいのホール)

(現在のホール)

博物館には多くの移民の写真が掲げられていた。中には日本人のものもあり、ついついその人の人生や、その人の両親や子孫のことを想像した。




博物館には又、職業別に移民が占める割合を示すグラフや、移民が着用していた服や使用していた家財道具なども展示されていたが、異なる言語や文化、宗教や信条、生活様式や慣習がぶつかり合うことでトラブルもあったろうが、反面、新しい発想や工夫、エネルギーも生まれたのかと想像した。もしかすると、アメリカが移民を受け入れたことが「才能を引き寄せる力」につながったのではないかと思う。

マイケル・ジャクソンの半生を物語にした「MJ」を観に行った。



2022年2月が初演とあったから、既に2年間上演されている人気ミュージカルのようだ。


「言葉も分からないだろうし、雰囲気だけでも味わいましょう!」と、2階席の安いチケットを購入したが、ステージのエネルギーと観客の興奮がビシビシ伝わってきて、これまで経験したことのない熱い一体感を覚えた。マイケル・ジャクソンを演じた青年はマイケル・ジャクソンそのもので、歌い終える度に、又、踊り終える度に、大きな歓声と拍手が湧いた。


出演者は20名か30名だったと思うが、如何にも選りすぐられたメンバーという風格があり、彼らを目指す予備軍がその何倍もいるんだろうなと感じさせた。又、会場は1400名を収容できる Neil Simon Theatre という劇場だったが、調べてみるとブロードウェイにはこういう劇場が約40もあり、収容人数を合計すると約5万人になった。一晩にこれらの人々を満足させるパワーがブロードウェイにはあるということだ。


アメリカは世界最大の経済大国で、恐らく軍事や政治の世界でも他を圧倒する力があると思うが、そのパワーの源泉は「才能を引き寄せる力」なのかなと思った。さまざまな才能が集まり、政治や経済、軍事で存在感を示すと共に世界の人々を魅了するスポーツや芸術、エンターテイメントも創造できる。この才能を引き寄せる力がアメリカを築き上げたのだと思った。