雨も降っていたし、少し荷物もあったから、地下鉄なら6駅くらいのホテルまでタクシーで帰ることにした。タクシーは直ぐに来たが、乗り始めて10分程すると、ドライバーが車を止め、料金メーターを手で叩き始めた。



何事かと思ったら、「メーターがおかしい。動いていなかった。今、やっと動いたが、ここまで10ドルは掛かっている。それを現金で払ってくれるか?」と聞いてきた。ホンマかいな、と思ったが、英語の議論では負けそうだし、ここで降ろされるのは避けたいし、「分かった」と答え、降りるときにはメーター料金をカードで、10ドルは現金で支払った。現金の10ドルは多分、会社には内緒にできるドライバーのお小遣いになったのだろう。


ホテルに帰ってから、なぜドライバーに「メーターの故障は我々の責任ではないよね?」とか「では、ここで降ろしてくれ。別のタクシーに乗る」とか「10ドルは高い。5ドルなら払う」と言い返せなかったのかと悔しく思ったが、ドライバーは私が無防備な旅行者でトラブル回避のためなら10ドル払う甘ちゃんだと見定め、自信を持って行動に移したのだろう。悔しいが失敗から学び、今後は警戒心を忘れるまいと決めた。


ところが、帰りの空港でお茶していたら、店員さんがやって来て「あなた方の隣のテーブルでお茶していた女性たちはあなた方の友人か?」と尋ねて来るではないか。隣のテーブルにいたのは同じ合唱団のメンバーだったので「そうだ」と答えると、「先程の会計で10ドル多くもらい過ぎた。これを返してくれ」と10ドル札を手渡されてしまった。この誠実な対応に私の表情は早くも弛み、失敗から学んだはずの警戒心など瞬く間に消えてなくなってしまった。それに気付いて思わず苦笑してしまったが、ま、それでも良いかと最後は思った。その方が如何にも私らしいし(笑)