バイオリンの先生から絵の個展の案内はがきを頂いた。場所を見ると、レッスンの帰りに寄れる所だったので、その足で寄らせて頂いた。

 

 

奥山 忠さんという方の作品で、略歴を見ると、工学院大学を卒業された後、中国、インド、チベットなどアジア諸国の仏跡を2年ほど遍歴され、その後、独学で日本画を学ばれたとのこと。原色を使われず、淡く、柔らかな色だけで描いておられるのに、絵に奥行きがあって何か不思議な気がした。

 

 

作品が20ほど展示されていたように思うが、一番心惹かれた絵がこれだ。少し暗い背景に清楚な女性が立ち、その周りを光が包む。その光が希望のようにも、命のようにも、魂のようにも見え、暫く眺めている内に心が落ち着いた。ギャラリーに奥山さんがおられたので、「不思議な絵ですね」と話し掛けたら、「絵は良くご覧になるんですか?」と尋ねられた。心の準備をしていなかったので、「いえ、博物館にはときどき行きます。恐竜の骨なんかが好きなんです」と頓珍漢な返事をしてしまったが、不思議なのは絵ではなく、バイオリンを背負って恐竜の骨の話をする私の方だ、と思われたかも(笑)

バイオリン発表会のスナップ写真を先生から頂いた。当日のことを思い出し、ニコニコ笑いながら見ていたのだが、その中の一枚に見入ってしまった。こんなに真剣な表情で弾いていたとは・・・。

 

 

思えば、60年も生きてきて、職場でも家庭でも大事にされることが多くなり、20代の駆け出しの頃のようにドキドキしたり緊張したりすることが本当に少なくなった。良く言えば「余裕」だが、厳しく見れば「慣れ」だろう。その点、バイオリンは初心者で、それを人前で弾くなどというのは冒険以外の何ものでもない。その緊張感が表情に出ているということだろう。

 

ラグビーのキックオフを待つ選手たちは、みんな良い表情をしている。どんなゲームになるのか分からないけれど、練習してきたことを全部出し切ろう。多分、私もそんな心境でドキドキしながらキックオフの笛を待っていたのかなと思う。もうラグビーはできないが、バイオリンではそのドキドキをこれからも体験できる。できれば、ノックオンやオフサイドのミスや反則は避けたいから、これからも練習に励もうと思う。

白のジャケットに身を包んだコーロ・カステロがステージに出て来られた。大きな拍手が沸いた。

 

 

最初に歌われたのは「Bande di Alpini」というイタリア民謡で、1990年代にイタリアを訪問されたコーロ・カステロがコモ湖近くの男声合唱団から入手、それに詞を付けて編曲された歌とのこと。だとすれば、この歌を日本で歌えるのはコーロ・カステロだけで、しかも20年もの間、大切に保存されてきたことになる。又、コンサートの終わり近くで歌われた「故郷にて若き日を憶う」はベートーベンのピアノソナタ27番第2楽章に日本の故郷をイメージした合唱を乗せた曲とのこと。すなわち、コーロ・カステロが創造されたオリジナル曲だ。こういう歌に対する愛情、好奇心、そして挑戦を続ける精神こそコーロ・カステロの財産かなと思う。

 

永久団員で名アコーディオン奏者だった宮長大作さんがシベリア抑留から持ち帰られた「Salavi」は、哀愁漂うメロディーと力強い響きが交互に出て来る歌で、これも男声合唱に相応しい曲だと思った。その次に歌われた「Troika」は永久団員で名指揮者だったアキさんの愛唱歌だったとのこと。アキさん晩年の頃だと思うが、椅子に座って指揮をされていた姿を今も覚えている。録音されていたアキさんの歌声が流れ、皆さんがそれに唱和された。ステージにはアキさんの写真が映し出されたが、コーロ・カステロを支え、皆さんから信頼され愛された方だったのだと思う。70周年に相応しい企画だったと思う。

 

その後に歌われた「ヴォルガの船曳歌」と「Pilger Chor」(歌劇タンホイザーより)が今回の舞台では秀逸だったように思う。個人的な好みがあると思うが、コーロ・カステロの力強い歌声に、私は苦しみに耐える男の意地や使命感のようなものをいつも強く感じる。ヴォルガの船曳歌を聴いていると、正に苦しみに耐え歯を食いしばって船を曳く男たちの姿が思い浮かぶし、タンホイザーの巡礼の合唱には男の決意や信念が感じられた。この2曲は特に聴き応えがあったと私は思う。

 

アンコールに応え、最後に歌われたのは「アヴェ・ヴェルム・コルプス」で、「会場の皆様もご一緒に」というご案内があったのだが、「そうは言っても、歌う方などおられないだろう」と思っていたところ、隣のご婦人がいきなり美しいソプラノで歌い始められた。あれれ、と思っていたら、今度は後ろからもきれいな歌声が聞こえてきた。どこにも楽譜はないし歌詞もない。ということは、合唱の心得のある方が多く来ておられたということだ。かように、コーロ・カステロはレベルの高いファンをお持ちということだ。幸せなことだが、反面、これはプレッシャーになるし、来年のコンサートも手抜きはできないだろう・・・・と私も来年の71回目のコンサートのために、今からプレッシャーを掛けておこうと思う(笑)

 

コーロ・カステロの皆さま、素敵なコンサートでした。ありがとうございました。