映画「ゲゲゲの女房」は2010年製作、監督・鈴木卓爾の日本映画である。
先日、水木しげるのエッセイ集「妖怪になりたい」と「なまけものになりたい」の記事を書いたので、この機会に観てみた。
水木しげるの妻・武良布枝の貧しく厳しい時代に生きた夫婦の姿を綴った自伝エッセイを映画化!お見合いからわずか5日で結婚。昭和36年、出雲の安来から上京した布枝が見たのは、花の東京とは無縁のしげるの底なしの貧乏暮らしだった…。出演者は吹石一恵、宮藤官九郎ほか。
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2010年のNHK連続テレビ小説作品なので、ご記憶の方もいることだろうと思う。
▼NHKオンデマンド「連続テレビ小説 ゲゲゲの女房」(全156話)
※各回単品:110円(税込み) 購入期限:2024年3月13日
※全156話の総額は17,160円につき注意!
こちらの主演は松下奈緒さんで、若き日の水木しげる役は向井理さんである。
折角なので、DVD-BOX のバナーを貼っておいた。
▼「ゲゲゲの女房 完全版」DVD-BOX1
NHK連続テレビ小説の放送期間は2010年3月29日から9月25日、映画の公開日は2010年11月20日なので、テレビ放送が終わった後に映画テイストでもう一度という流れだろう。
原作は水木しげるの妻・武良布枝(むらぬのえ)のエッセイである。
▼武良布枝「ゲゲゲの女房」実業之日本社2008
※表紙画像は文庫版
ちなみに、武良布枝さんは2018年にこんな本も出版していた。
▼「「その後」のゲゲゲの女房」辰巳出版2018
『ゲゲゲの女房』が刊行されてから10年。夫・水木しげるが亡くなってから3年が経ち、著者が今の想いを綴る人生エッセイ。「ゲゲゲ」ブームの後、布枝夫人に水木さんに、さらに水木一家に、どのような出来事があったのか。そして水木さんが入院し、最期の日を迎えるまで、夫人がどのような思いで接したのか。最愛の夫が亡くなり、一人になったこの先、何を指針として過ごそうと考えているのか。著者の今の想いがつまった一冊です。
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機会があれば読んでみたい気もするが、過去の記事に書いた通り、こちらを先に読む予定なのでどうなるかはわからない。(笑)
▼水木しげる、水木プロダクション(編)「ゲゲゲのゲーテ」双葉新書2015
水木サンが最後に伝えてくれたのは、
人生を幸せに生き抜く智慧の詰まった、
珠玉の言葉の数々でした――。
「水木サンの人生は80%がゲーテです」と自ら語るように、
10代で出会い、死線を彷徨った戦場にも密かに携え、
暗唱できるほど繰り返し読んだ『ゲーテとの対話』。
ドイツの文豪・ゲーテが創作、社会、仕事、そして人生について語った、
名言、格言、箴言の中から、水木サン自身が選んだ言葉93篇を収録。
体の隅々まで沁み込んだゲーテの思想を、ユーモアを織り込みながら、
“ゲゲゲ流”にわかやすく解きほぐす。
さらに、インタビューや過去の執筆原稿を交えながら、
水木サンが敬愛した賢者の“人生の杖"となる言葉を贈ります。
※上記バナーの Amazon 商品サイトより引用
さて、そろそろ本題に入ろうと思う。
この作品で描かれているのは水木さんが昭和36年(当時39歳)に見合い結婚をしてから、昭和40年(当時43歳)に講談社での連載が決まるまでの約四年間である。
結婚当時、妻の布枝さんは29歳、今では珍しくないが当時の感覚では晩婚であっただろう。
この頃の水木さんは、紙芝居に見切りをつけて貸本マンガを描いていた。
軍人恩給があって生活は安心という話だったが、実際に上京して結婚生活が始まると、質札が沢山出てくるような貧乏暮らしであった。
水木さんは、軍人恩給は実家の母親が受け取っているが、質に入れたものを流したことはないとも言う。
やり繰りすればなんと生活はできるということであろう。
そしてこの後、度々出てくるのが、
「貧乏は全然平気です。」
というセリフである。
基本的には講談社での連載が決まるまでの、貧乏ながらなんとかやり繰りする生活が描き続けられる作品なのであるが、見続けているうちに、まぁこの貧乏ながらなんとかやり繰りする生活というのも、なんとも思わなければ案外なんでもないという気にさせられるものがあった。
もちろん、実際にはなんでもないというばかりでもない、いや、けっこうなんでもなくないことばかりなのであるが。
当時、住んでいる一軒家の二階を貸間にしていたのだが、そこに住んでいる男が家賃を待って欲しいと布枝に頼みにくる場面がある。
布枝は男にキャベツの葉っぱを突きつけて、売り物にならないものを畑で分けてもらいました
と言い、パン屋に行ったって食パン買えないんですと言って、パンの耳の入った袋を突きつけて
、河原で摘んできたと言って小さな大根を突きつける。
布枝の鬱憤、爆発である。
また、税務署の職員がやってきて、親子三人暮らしにしては申告している収入額が少なすぎると言う場面がある。
水木さんは大量の質札を突き付けて、「俺達の生活がおまえらにわかるわけないだろう!」と荒ぶった。
まぁそれでも、それでもである。
貧乏がいいということでもないが、貧乏だから必ずしも不幸であるとは限らないということが伝わってくるのであった。
ここには下を見てまだましだと思うのではない、大らかな気持ちで生活のその時々の出来事に喜びを感じていくような心の在り方があるように思う。
ところで、この作品には登場人物には見えていない設定で、妖怪がちょいちょい現れる。
なかなか映画的な作りである。
見えているものばかりが全てではないという訳である。
敢えて非現実的に妖怪を登場させているというところには、現代では妖怪を見る感性も、大らかな気持ちで生活のその時々の出来事に喜びを感じていくような心の在り方も失われてしまった、というメッセージがあるように思われた。
尚、この貸本マンガを描いていた時代についての水木さんの方の語りは、エッセイ集「妖怪になりたい」の「わが狂乱怒涛時代」の項に書かれているので、興味のある方はこちらを参照されたい。
▼水木しげる「妖怪になりたい」河出文庫2003
▼水木プロダクションの公式サイトはこちら
▼過去の水木しげる関連の記事はこちら
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