保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書2018/第2部・第二課 女神と鬼神の神話、その行方(2) | 日々是本日

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 保立さんの「現代語訳 老子」を少しずつ読んでいる。

 

※本の概略についてはこちらを参照

 

■第2部 星空と神話と「士」の実践哲学

   第二課 女神と鬼神の神話、その行方

 

 話は、「道」と「神」の関係へと続いていく。


 取り上げられるのは原典60章である。

【現代語訳】
大国の政治は、小魚を損なわずに煮るのと同じで少しでも人を傷つけないようにする。世の中に正しい「道」を通すことができれば、鬼は神の荒々しい力を失う。

【書き下し文】

大国を治むるは、小鮮(しょうせん)を烹(に)るが若(ごと)し。道を以って天下に莅(のぞ)まば、其の鬼、神ならず。

 

※保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書p204

 「大国を治むるは、小鮮(しょうせん)を烹(に)るが若(ごと)し」とは「小魚を煮るときはつついたり、かき回したりしないのと同じように大国の政治は傷つけることがないように慎重に行えということである」(p205)という。

 

 史学的な考察はいろいろあるようだが、現代的意味としては、地方の文化と現状に配慮した政治と行政の重要性を指摘していると見ることができるように思われる。

 

 また、原典29章も取り上げられている。

【現代語訳】
天下を取ろうなどとすれば、我々は、それが不可能なことを思い知らされるだけだ。世の中は神秘な器(うつわ)である。

【書き下し文】

将(まさ)に天下を取らんと欲してこれを為さば、吾れ、其の得ざるを見る已(のみ)。天下は神器(じんき)なり、為すべからざるなり。

 

※保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書p211-212

 この章の残りの部分は、天下は慎重に扱わねばならないという内容が続くがここでは、「老子が「神器」というのは、具体的には世界は「壺」の中にあるという神秘的なイメージに基づいている」(p213)という指摘に注目したい。

 

 当時の人々が、地球は大気圏に包まれているが宇宙は真空であると知っていたということはないだろう。

 

 現代の我々はこのことを知っており、例えばアメリカの作家であるポール・ボウルズは「シェルタリング・スカイ」という作品で、空を「我々を守ってくれるシェルター」として表現している。

 

▼ポール・ボウルズ「シェルタリング・スカイ」新潮文庫1991

 

シェルタリング・スカイ (新潮文庫)

 

 このイメージの類似性には驚くばかりである。

 

 以降はまた別の話となるので、次の記事とする。

 

 

▼保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書2018

 

現代語訳 老子 (ちくま新書)

 

【目次】
序 老子と『老子』について
第1部 「運・鈍・根」で生きる

 第一課 じょうぶな頭とかしこい体になるために
 第二課 「善」と「信」の哲学
 第三課 女と男が身体を知り、身体を守る
 第四課 老年と人生の諦観
第2部 星空と神話と「士」の実践哲学

 第一課 宇宙の生成と「道」
 第二課 女神と鬼神の神話、その行方
 第三課 「士」の矜持と道と徳の哲学
 第四課 「士」と民衆、その周辺
第3部 王と平和と世直しと

 第一課 王権を補佐する
 第二課 「世直し」の思想
 第三課 平和主義と「やむを得ざる」戦争
 第四課 帝国と連邦制の理想