保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書2018/第2部・第一課 宇宙の生成と「道」(その2) | 日々是本日

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 保立さんの「現代語訳 老子」を少しずつ読んでいる。

 

※本の概略についてはこちらを参照

 

■第2部 星空と神話と「士」の実践哲学

   第一課 宇宙の生成と「道」

 

 前回の宇宙論から、話は「和光同塵」の世界に進んでいく。

 

 「和光同塵」という言葉は「知恵の光を和らげ、世の中の人々に同化する。」というように解釈されてきたが、これは誤りだと言う。(p170)

 

 この言葉の出典は原典56章である。

【現代語訳】
知はすべて言葉にできるわけではなく、言葉は知を表現する上で限界がある。人はまず目・耳などの感覚をふさぎ、その門を閉じて瞑想しなければならない。目をつぶれば外界の光は和らぎ、塵も細かく輝き、鋭光はくじかれ、紛(むすぼ)れたものは解けていく。これを玄同、つまり奥深い合一という。

【書き下し文】
知は言にするあたわず、言は知にするあたわず。其の孔を塞ぎて、其の門を閉ざし、其の光を和らげ、其の塵に同じ、其の鋭どきを挫き、其の紛を解く。是を玄同と謂う。

※保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書p166-167

 

 保立さんはこの「其の光を和らげ、其の塵に同じ」、つまり「和光同塵」の意味するところは、瞑想での心の風景だと言っている。

 

「光を和らげる」とは、受け入れてきた明知が自分の内面に灯ってそこを照らし出す微妙な光となる様子である。これは目を閉じれば眼中に広がる光の印象であろうと思う。そして「其の塵に同じ」の「塵」とは、過去の生活の中で蓄積された塵労といわれるような経験のことであろう。内面の光は、その一つ一つを柔らかく照らし出す。そして、続いて「其の鋭どきを挫き、其の粉を解く」というのは、人間の内面に記憶として残っている辛い経験、コンプレックスがときほぐされる様子であろう。

 

※保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書p168

 

 そして原典4章に出てくる宇宙についての同じ表現を挙げて、老子は宇宙と精神世界を同じ言葉で表現したのだと言う。

 

 原典4章にはこうある。

 

【現代語訳】

天空の彗星のような鋭い光をくじき、密集した星雲を分けほどき、遍満する光を和らげ、塵のように細かなものまで及んでいく。天空は満々たる水のように静かだ。

 

【書き下し文】

其の鋭を挫き、其の紛を解き、其の光を和らげ、其の塵に同ず。湛(たん)として或(つね)に存するに似たり。


※保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書p162-163

 

 私も保立さんの考えに賛成するところではあるが、瞑想での心の風景については、心に鋭く現れたものが徐々に受け入れられて心に沁みていく様と読んだ。

 

 以降は天と人間の話へと進んでいくので、次の記事とする。

 

 

▼保立道久「現代語訳 老子」ちくま新書2018

 

現代語訳 老子 (ちくま新書)

 

【目次】
序 老子と『老子』について
第1部 「運・鈍・根」で生きる

 第一課 じょうぶな頭とかしこい体になるために
 第二課 「善」と「信」の哲学
 第三課 女と男が身体を知り、身体を守る
 第四課 老年と人生の諦観
第2部 星空と神話と「士」の実践哲学

 第一課 宇宙の生成と「道」
 第二課 女神と鬼神の神話、その行方
 第三課 「士」の矜持と道と徳の哲学
 第四課 「士」と民衆、その周辺
第3部 王と平和と世直しと

 第一課 王権を補佐する
 第二課 「世直し」の思想
 第三課 平和主義と「やむを得ざる」戦争
 第四課 帝国と連邦制の理想