献食菜集 -158ページ目

言葉の池

私が 考えた ことなのに
言葉は 速い


もう 私を 追い越し
先で 私を 待ちかまえている


確かに そう考えた 
けれども その考えの 主は
私ではないのか


言葉は 速い
だから

なるたけ


簡単な 言葉にして

どうとでも とれるように


待ち構えられた ときに
かわせるように


つかまらないように
すきだらけ の言葉 にしたらどうか


そうして 

いわなければ 仕方が ない と
いう時まで

言うのを 待つのは

どうだ


















































































お八つ


せんべい かりんとう
あんぱん 草もち
おはぎ  ぜんざい


を 一度に買って来い


せんべい 以外は
ぜんぶ 甘い


せんべい かりんとう以外は
ぜんぶ やわらかい


せんべい かりんとう あんぱん 以外は
もち だ


せんべい かりんとう あんぱん くさもち 
以外は
自分で 作れる


せんべい かりんとう あんぱん くさもち おはぎ
以外は
手で 食べられない


せんべい かりんとう
あんぱん 草もち
おはぎ ぜんざい


を一度に 買って来てください




















壁の空

壁

荻を薙ぎながら 電車が通り過ぎて行く


細い街道と 並行して走る線路の
消え行くところには
秋の青いそらが つよくひかり


その 逆光は
線路の土手に生える 雑草を 
すべて シルエットにしてしまった


川向こうの 街は
すべてが近景に なり


空が壁のようになり
街は壁に張り付いた絵のようだ


澄んだ空気は 光線の反射を
あますことなく 伝え


にぎやかで  また さわがしく
雑然として 多様な
見慣れた風景の

かくれたところまでを
つぶさに みせる


あらゆる場所を ヒトの欲望で
覆いつくそうとする世界に 
私は 生れ落ち

 
世界とはこういうものだと 勘違いしたまま
放置されている


こんなに 強い光に さらされ
こんなに あらわに 見えているのに

何も見たくない ために 
同じことを繰り返すこと を望む


そして 自分の体に 言葉を 
出し入れしながら
そのことに
気づかぬように するのだ
























































なすの天ぷら

静岡の山奥 晩秋に

今村先生を 訪ねた


先生が ふもとの町 で買った 
たった 一切れ ナス の天ぷら


冷え切ったそれに 醤油をかけて
先生が 食べるのを ながめていたら


「お前が食え」と おっしゃった

何故僕が、とおもいながら
いただく


「お前の着ている服が気に入ったから
俺にくれよ」と おっしゃった
ひとからもらった水色の タオル地のシャツ


良く研がれたマサカリで まき割り を手伝い
電気釜 で沸かした湯で コーヒー 飲む


床の抜けかかった 厠
壁に 先生の 描いた
刺青のような こわい花の絵


傾いた家の 裏に回れば
ごろごろ石の 川原があり 
水の流れる音が
静かな紅葉の 山に ひびく
 
冷えたナス天に 醤油
食べて 思い出した


亡くなった先生と
19年前 のこと








































夜長

反抗期 は
反抗していない


特に反抗するつもりはないが
なぜか親と食い違う


それは親がいくつかの
難関を越えた ひとであり


それは子がこれから
難関を迎える 柔らかなひとであり


それぞれの成長の周期が
違うので
歩幅が違うので
あろう


ああ
なぜ時間が無限にあると錯覚するのか


なぜ身の回りのものを当然とするのか


もし反抗するなら固定観念にせよ


デカルトのように
すべてを疑えよ