こんにちは。
スポーツトレーナー協会JARTA代表の中野崇です。
選手にトレーニングを指導する際、何を考えてというか、何を理由に数あるトレーニングの中から指導するものを決めますか?
僕の場合は、競技動作そのものの物理学をまず考えます。
例えばピッチングであれば、まずは力積とエネルギー保存の法則。
そしてバイオメカニクス。
詳細は省きますが、こちらをご参照。
それらを前提条件とし、目の前の選手の動きを分析します。
だから全てのトレーニングに理由、つまり根拠がある。
そこに曖昧さは存在させません。
僕はそこが専門家としての責任だと思っていますし、非常に多様な要因によって流動的に結果が左右されてしまうスポーツの中にあって「確定できる数少ないもの」だと考えています。
https://ameblo.jp/bodysync/entry-12324960709.html
一方で、トレーニングには「弱いところを強くする」という考え方も存在します。
評価と呼ばれる方法で身体をチェックしていき、筋力が弱いところを発見したらその筋肉を鍛えるためのトレーニングを処方するというスタイルです。
筋力の評価はMMT(Manual Muscle Test)と呼ばれたりします。
柔軟性も同様。
可動域(ROM)検査と呼ばれるテストで関節や筋肉の硬さをチェックし、硬いところにストレッチを入れるように指導。
非常にわかりやすい考え方です。
一般的にも理解されやすく、受け入れられやすいと思います。
多くのジムなどでも取り入れられている考え方の一つです。
もちろん有効な考え方の一つなのですが、落とし穴が。
このスタイルで僕が非常に気になるところは、トレーニングの目的の部分。
特にスポーツでのパフォーマンスアップを向上することを目的としてトレーニングを行う選手は、注意していただきたく。
トレーニングを行う目的は、あくまでパフォーマンスアップのはず。
本当に、その弱い・硬いところを改善すればパフォーマンスは向上するのかを考える必要があります。
人間ですから、生活様式やその時の精神面の状況によっても筋力は変わります。
全身のどこもかしこもが同じように強い、ということはちょっとリアルではありません。
しかも弱いや硬いなど、専門家から「問題点」とされる部位は、実際たくさんあったりします。
スポーツ選手であれば、競技で使っているところと使っていないところには必ずギャップが生まれます。
だからって、限られた時間の中で、弱い部位を局所的に鍛えるだけで本当にパフォーマンスアップにつながるのか。
カラダは機械ではありません。
単に弱いところを強くする、硬いところを柔らかくするだけではパフォーマンスが上がるとは限りません。
そればかりか、闇雲に鍛えた結果、パフォーマンスが落ちたということも起こり得ます。
例えばピッチャーの大胸筋。
大胸筋を鍛えてしまうと、動作の中で大胸筋が働きやすくなります。
大胸筋が簡単に働きやすくなると、ピッチング動作においては回旋系の反射であるRSSCの発動を阻害してしまい、結果的に腕の振りが遅くなったり肩に怪我を起こしてしまったりします。
(大半の競技における大腿四頭筋も同様の構図)
なぜこのようなことが起こるかというと、トレーニングには筋力を向上させる作用の他に、「動きを覚えるという作用もある」からです。
筋肉を鍛えるために行なった「動き」を、人間は学習します。
本人や指導側が「今は筋力をつけるのが目的」、動きは後で。と考えていても、脳と身体はそう都合よく分類してくれません。
「筋力をつけたら、動きにつなげる」という発想についての意見>
https://ameblo.jp/bodysync/entry-12312095190.html
先の大胸筋の話でいうと、一般的に存在する大胸筋を鍛えるトレーニング方法と、ピッチングで回旋系反射の中で大胸筋が伸張・収縮するパターンは明らかに異なります。
僕が最も危惧しているのは、この部分。
筋力トレーニングが良いとか良くないとかいう表面的な観点ではなく、トレーニングで使う動作を身体が覚えてしまうというところです。
そういう意味で、弱いから強くする、硬いから柔らかくする、という発想は、手段の目的化というリスクを内包していると感じています。
お読みいただき、ありがとうございました。
全てはパフォーマンスアップのために。
中野 崇
追伸
こちらも参照してみてください。
「筋肉をつけるときだけは、動き方を学習しないでください!」
https://ameblo.jp/bodysync/entry-12250352472.html
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