夏の休日の午後をイメージさせるサウンドに、透明感のあるヴォーカルが優しく絡む、ceroの「Summer Soul」。リリースされた1995年当時はユルめのネオクラシックに注目が集まりはじめた頃、時代の空気感を先取りした日産「ラシーン」のチョイスはさすがです。

自分のライフスタイルにはまるクルマ、その答えが「ラシーン」

 ヤングタイマー、ネオクラ(ネオクラシック)などと呼ばれる、1980〜90年代のクルマが注目されるようになって久しい。今となっては中古車の流通台数が激減しているのに多くの人が物色しているから、残っているものは軒並み中古車相場が上昇。気づけば新車時の価格より高い値段で取引されるケースも珍しくなくなった。

 おもしろいのは、見るからに“クルママニア”が飛びつくのではなく、クルマが趣味とはとても見えないような普通の人たちがこの年代のクルマを手にするケースが多いことだ。彼らは自分のスタイルに合う洋服や家具を選ぶのと同じ感覚でこれらのクルマを選んでいる。

 考えてみれば、ヴィンテージなインテリアに多くの人が注目したり、1980〜90年代のファッションがリバイバルしても、クルマは当時のイメージを復活させたようなものがない。ここには保安基準も影響していて、仮に過去の名車をオマージュしたモデルを自動車メーカーが作ろうとしても、当時と同じ形にはできないという事情もある。だから彼らは「新車には自分のスタイルにハマるものがない」と、古いクルマに注目するのだ。

●ラシーンでのんびりドライブ

 今回紹介するMVは3人組のバンド、ceroが2015年5月にリリースしたアルバム『Obscure Ride』に収録されている「Summer Soul」。夏の休日の午後をイメージさせるユルいサウンドに、髙城晶平の透明感のあるヴォーカルが優しく絡む、チルアウトにピッタリな楽曲だ。

 MVの舞台は郊外の街。延々続くフェンスとオレンジのラインが入った電車が映っているので、横田基地のあたりだろうか。ceroの3人は夕暮れの柔らかい日差しの中、日産「ラシーン」でのんびりドライブしている。そして途中から夜の東京をドライブするシーンに変わり、土曜の夜を楽しみに行くのかな。そんなことを連想させてくれる。

「ゆるキャン△」で再ブームとなった「ラシーン」

 ラシーンは1994年にデビューしたコンパクトなRV。「僕たちの、どこでもドア。」というキャッチコピーで、ドラえもんを起用したCMを覚えている人もいるはずだ。小さくても、どこにだっていけるクルマ。それを端的に表現したCMはとても秀逸だった。

 1980年代後半から日産は、「Be-1」、「パオ」、「フィガロ」など、パイクカーと呼ばれるモデルを発売。これらは「マーチ」をベースにレトロ感あふれるデザインを与えて大ヒットした。Be-1とフィガロは台数限定、パオは期間限定での販売だったが、どれもオーダーが殺到しパニック状態になったほど。

2004年結成のCero。メンバーは高城昌平、荒内佑、橋本翼で、それぞれが作曲、アレンジ、プロデュースを手がけているという(C)YouTube(KAKUBARHYTHM)

●定期的にブームが訪れる人気モデル

 ラシーンは商用モデルの「エスカルゴ」を加えたパイクカー4モデルとは異なり、正式なカタログモデルとして登場。B13型「サニー」をベースに開発されていて、全グレードフルタイム4WDのアテーサを搭載していた。

 1994年といえば「パジェロ」や「ハイラックスサーフ」などクロカン4WDが全盛の時代。それらに比べると悪路走破性が高いモデルとはいえないが、今でいうクロスオーバーSUVの走り的な存在として、レジャーを楽しむ人、かわいい雰囲気のクルマが欲しいという人から支持され大ヒットした。

 残念ながらラシーンは2000年まで生産された後フルモデルチェンジすることはなく姿を消した。だがその愛らしいスタイルに惹かれる人は多く、生産終了後も中古車市場で人気は衰えることはなく、しかも定期的にブームと呼べるほど人気が高まることがあった。

 何度目かはわからないが、現在はラシーン人気がかつてないほど高まっている真っ只中にある。理由はテレビアニメとテレビドラマで放映された『ゆるキャン△』で丸目にカスタムしたスカイブルーのラシーンが登場していることにある。アニメとドラマが放映されてから、ラシーン専門の中古車販売店には「ゆるキャン△仕様のラシーンに乗りたい!」という人が押し寄せ、丸目カスタムが飛ぶように売れているという。

 ラシーンの中古車は平均価格こそ約90万円とそこまで高くないように感じるが、個別の物件を見てみると200万円近い価格で取引されているものも珍しくない。もちろん『ゆるキャン△』仕様になっていない、ノーマルのラシーンも人気だ。

「Summer Soul」のMV中に出てくるラシーンはボディサイドにウッドパネルが貼られた仕様。そういえば1980年〜90年代はウッドパネルでカリフォルニアスタイルにしているワゴンが流行っていたなと懐かしくなる。

 振り返れば、「Summer Soul」が収録された『Obscure Ride』がリリースされた2015年頃から、ユルめのネオクラに注目が集まりはじめた。そしてこの後にアースカラーにオールペンした「ランドクルーザー」や「ハイエース」などがブームになる。メロウなイメージの映像にぴったりハマったラシーン。時代の空気感を先取りしたこのチョイスはさすがだ。