アクセンチュアは本当に「ITに強いコンサルティング会社」なのか
島田 優子
 
日経クロステック/日経コンピュータ
 
具体的な競合は想定していないのですが、あえて名前を挙げるならばアクセンチュアです」。NECやNTTデータ、富士通など日本の企業向けIT業界をけん引する大手ITベンダーは、コンサルティング事業の強化を掲げている。そこで「コンサルティング事業での競合は」と各社に尋ねると、おしなべてアクセンチュアの名前が挙がる。
 日経クロステックの特集「SIer流コンサルの進む道」で、大手ITベンダーのコンサルティング事業の狙いや具体的な取り組み内容を取り上げた。DX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透など、経営とITの一体化が進むなかで、ユーザー企業のシステム構築だけを請け負う従来型のシステムインテグレーション(SI)事業から、経営戦略の立案から食い込めるコンサルティング事業への転換を各社が目指している、というのが特集の骨子だ
 
 
 
 
 
詳細は精鋭の若手記者が執筆した特集をぜひ読んでいただきたい。筆者は特集の取材に同席し、各社コンサルティング事業のキーパーソンの話を聞いていた。そこで各社の担当者が競合の企業名として挙げていたのがアクセンチュアだった。ただアクセンチュアの名前を聞くたびに疑問があった。大手ITベンダーのコンサルティング事業の競合は本当にアクセンチュアなのだろうか――。
 アクセンチュアは他のコンサルティング会社と比べてシステム構築に強く、勢いがあるのは間違いない。しかしアクセンチュアが日本の大手ITベンダーのコンサルティング事業の競合であるかというと、「実は違うのではないか」と考えていた。
米アクセンチュアの成長ドライバーは「コンサル事業以外」
 疑問を持ったのは、大手ITベンダーが「コンサルティング事業以外」のアクセンチュアをどう考えているか見えなかったからだ。
 米アクセンチュアは各国の詳細な財務数値を公開していない。そのためアクセンチュアのグループ全体の数値を見ていくことになるが、グローバルで見た場合、アクセンチュアのコンサルティング事業は売り上げの半分ほどしか占めない。
 アクセンチュアグループ全体の2025年度(2024年9月1日~2025年8月31日)の連結売上高は696億7000万ドル(1ドル150円換算で約10兆4500億円)だった。前年度比7%増の成長だ。
 注目したいのは売上高の内訳である。696億7000万ドルの売上高のうち、コンサルティング事業の売上高は351億ドルだった。つまり売上高の50.4%をコンサルティング事業が占めることになる。
 では残りのは49.6%は何の売り上げなのか。それはマネージドサービス事業による売り上げとなる。マネージドサービス事業の売上高は345億7000万ドルで、売上高に占める割合は49.6%だった。
 米アクセンチュアは決算報告において事業の種類をコンサルティング事業とマネージドサービス事業の2つに分けている。コンサルティング事業には、一般的なコンサルティングサービスやデジタル部門である「Song」が提供するコンサルティングサービスなどが含まれる。一方のマネージドサービスは「オペレーションズ」と呼ばれる部門を中心にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、AI(人工知能)やクラウドの運用支援を行う事業だ。
 米アクセンチュアの決算報告によるとコンサルティング事業は前年度比6%増の成長なのに対し、マネージドサービス事業は同9%増と、成長率ではコンサルティング事業を上回っている
 
 
 
 
米アクセンチュアは20年以上前から、コンサルティングサービスで業務改革を支援し、改革後の業務の受け皿としてマネージドサービスを提供するビジネスモデルを提供してきた。BPOサービスは単に顧客のバックオフィス部門の作業を請け負うのではなく、最新の技術を使い、さらなる効率化を図ってサービスを提供するのが同社のマネージドサービスの特徴の1つだ。
 コンサルティングサービスとマネージドサービスの両輪がしっかり存在していることが、アクセンチュアの強みの1つなのだ。マネージドサービスはコンサルティングサービス提供後の「受け皿」であり、それがしっかり機能しているからこそ、アクセンチュアは強いのではないだろうか。
「コンサル後」の成長ドライバーを日本のITベンダーは作れるのか
 アクセンチュアの日本法人に目を向けると、米アクセンチュアグループ全体よりも売上高に占めるマネージドサービスの割合がかなり低いものと見られる。
 アクセンチュアの日本法人はIT関連サービスの供給能力を高めるため、ITベンダーの買収を進めている。2025年8月にはSI&Cの買収を完了。SI&Cはグループで約1500人の従業員を抱える老舗のITベンダーだ。2025年5月には、デジタル関連の開発を得意とするゆめみの買収を発表した。ゆめみは約400人の社員を抱え、2025年12月1日付でアクセンチュア日本法人のデジタル部門であるソング本部に吸収合併される予定だ。
 最近のアクセンチュアの日本法人の活動を見ると、ITベンダーの買収を通じて、デジタル分野やシステム構築の能力を向上させているように見える。これはまさにITベンダーが目指す、ITに強いコンサルティングサービスの提供と重なる領域だろう。ここだけを見れば、大手ITベンダー各社がコンサルティング事業の競合としてアクセンチュアを挙げるのは納得できる
 
 
 
米アクセンチュアは2025年6月に「AI時代に向けて」と題して大幅な組織やマネジメントの再編を発表した。2025年9月からコンサルティング事業とマネージドサービス事業を構成するユニットを「Reinvention Services(リインベンションサービス)」という単一のビジネスユニットに統合した。よりコンサルティングとマネージドサービスを一体化する方向だ。この再編方針には日本法人も含まれる。
 では、日本の大手ITベンダーのコンサルティング事業が目指しているのは、コンサルティング事業に注力するアクセンチュアの日本法人型なのだろうか。それともマネージドサービスが半分を占める米アクセンチュアグループ全体のビジネスモデルなのか。競合となるアクセンチュアがコンサルティング事業とマネージドサービス事業の融合を加速するなか、日本の大手ITベンダーは「マネージドサービス事業」の部分をどのように考えているか、現時点で見えない。
 日本の大手ITベンダーのコンサルティング事業の強化策は現時点で、うまく進んでいるように見える。「今度こそ本気でコンサルティング事業に転換しよう」という意気込みが強く感じられ、具体的な施策も進んでいる。アクセンチュアのようにAI時代に向けてタイミングも良いだろう。
 しかしマネージドサービスの部分を考えると、コンサルティング事業を強化しただけでは、競合であるアクセンチュアに追いつけないのではないか。これまで主力だったSI事業で構築したシステムの運用をユーザー企業から請け負っていたように、コンサルティングサービスを提供した先にユーザー企業の変革を維持し続ける仕組みを用意できるかが、日本の大手ITベンダーのコンサルティング事業の今後の成長を左右しそうだ
 
 
 
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「全てにおいてナンバー1を目指す」、最大手アクセンチュアのすごみ | 日経クロステック(xTECH)
全てにおいてナンバー1を目指す」、最大手アクセンチュアのすごみ
島田 優子
 
日経クロステック/日経コンピュータ
 
 
 
DX(デジタルトランスフォーメーション)を追い風に需要が拡大するコンサルティングサービス。新規事業を創出したい、新たな領域でビジネスを拡大したいなど、曖昧なプロジェクトを様々な知見を持った専門家に相談したいというニーズが高まっている。
 ニーズの高まりに合わせ、海外に本部を置き世界的なネットワークを持つ大手コンサルティング会社(本特集では総称として「海外勢」と呼ぶ)は規模を拡大している。各社のコンサルティング事業あるいはITコンサルティング事業に関わる人員は右肩上がりだ。大きな設備の不要なコンサルティング会社は人員の増加が供給能力の増加につながる。
 
 

グローバルに展開するコンサルティング会社の日本拠点の従業員数の推移
各社からの提供データを基に作成。アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティング、PwCコンサルティングの人数は概数(出所:日経クロステック)
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 右肩上がりとはいえ、各社のリソースの共有には限りがある。顧客が望むサービスを全て提供できるわけではない。各社とも自社の強みを打ち出すことで、競合他社との差異化を目指している。
 違いの1つがサービスの提供範囲だ。プロジェクトの構想段階の支援からシステムの実装、導入後の保守運用など、どこからどこまで手掛けるかはコンサルティング会社によって異なる。海外勢の各社は監査法人がグループの中心になっているケースが多い。IT関連コンサルティングサービスはERP(統合基幹業務システム)パッケージといった会計システムの導入に端を発している会社が多く、プログラミングが必要なシステム実装まで手掛けるかどうかは現在も分かれている。
 サービスの効率化の方法や実現手段、重視するプロセスなど、一口にコンサルティング会社といっても会社ごとに異なる。海外勢の日本法人は世界的なネットワークの傘下にあり、他国の成功事例やノウハウを共有し、新しい案件などを共有する。グローバルのネットワークの強さも提供できるサービスを左右する
 
 
 
 
主なコンサルティング会社の概要
(出所:各社からの提供データを基に日経クロステックが作成)
	
		
			| 企業名 | 
			アクセンチュア | 
			デロイトトーマツコンサルティング | 
			KPMGコンサルティング | 
			PwCコンサルティング | 
		
		
			| 日本の売上高 | 
			非公開(9期連続2桁成長を達成) | 
			非公開(デロイトトーマツグループ全体の2022年5月期の売上高は3129億3300万円) | 
			非公開(KPMGジャパン全体の2022年6月期の売上高は1850億円) | 
			非公開(2023年6月期はPwCコンサルティングで1000億円を超える見込み) | 
		
		
			| 日本の従業員数 | 
			約1万9000人(2022年12月末) | 
			約4300人(2022年5月末) | 
			1302人(2022年6月末) | 
			約3850人(2022年6月末) | 
		
		
			| グループ名称(主要法人) | 
			― | 
			デロイトトーマツグループ(監査法人トーマツ、デロイトトーマツ税理士法人など) | 
			KPMGジャパン(あずさ監査法人、KPMG税理士法人など) | 
			PwC Japanグループ(PwCあらた監査法人、PwC税理士法人など) | 
		
		
			| グローバルの従業員数 | 
			約73万8000人 (2023年3月時点) | 
			41万5000人(2022年度) | 
			26万5646人(2022年度) | 
			約32万8000人(2022年度) | 
		
		
			| グローバルの売上高 | 
			616億ドル(2022年度) | 
			593億ドル(2022年度) | 
			346億4000万ドル(2022年度) | 
			503億ドル(2022年度) | 
		
	
 
 

 
コンサルティングサービスを依頼したいという顧客側も、コンサルティング会社の特徴を見極める必要がある」とガートナージャパンの海老名剛リサーチ&アドバイザリ部門バイスプレジデントアナリストは指摘する。事業会社がコンサルティング会社に依頼するときも、あるいはITベンダーの立場でコンサルティング会社と協業したいと考えるときも、各社の強みを見極める必要がある。
 そこで、国内事業の規模を拡大している海外勢の各社が強みとする点について、順に見ていこう。まずは2023年3月23日(米国時間)に大規模な人員削減を発表して世間を驚かせたアクセンチュアだ。
期待に応えるには「一番」が必須
 
 
 
アクセンチュア米本社が今回発表した人員の削減数は約1万9000人だ。この人数は現在のアクセンチュア日本法人と同じ数に相当する。今後1年半でバックオフィスの人員を中心に削減する。「各国が担う役割やビジネスの成長度合いによって異なるため、全ての国や地域で一律に適用されるものではない」(日本法人の広報担当者)としており、3月末時点で具体的な影響は不明とみられる。
 米本社は人員削減に着手したが、日本法人は9期連続で2桁成長と好調だ。「顧客の数は増えており、当社が提供するサービスの範囲も広がっている」と日本法人の土居高廣常務執行役員テクノロジーコンサルティング本部統括本部長は強調する。これまで顧客として大企業が中心だったが、近年は中堅・中小企業へも裾野が広がっているという。DXの普及により「企業規模を問わず問題意識が共通になってきているからだ」と土居常務執行役員はみる