不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その67

本日は、フランチャイズ契約により関係形成した事業者間の関係解消事例を見ていきます。

本裁判例は、LEX/DB(文献番号28082529)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平15・8・25〔ホテルサンルーツ事件〕平14(ワ)15585(東京高判平16・1・29〔同〕平15(ネ)4725)

原告 株式会社サンルート
被告 株式会社ホテルサンルート鈴鹿

 

■事案の概要等 

 本件は、「ホテルサンルート」という統一営業表示等をはじめとする本件各商標の商標権者である原告が、原告との間でホテルチェーン加盟契約を締結していた被告が、本件加盟契約終了後も、本件登録商標と同一又は類似した被告標章を使用していることは、原告の有する本件商標権を侵害するものであるなどとして、被告に対し、その侵害行為の差止等を求めた事案です。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

 裁判所は以下のように認定し、判断しました。

 

Ⅰ.事実認定
1.統一営業表示及び統一マークの周知性

 裁判所は、以下の事実を認定し、原告の統一営業表示「ホテルサンルート」及び統一マークは、原告のホテル事業を示す営業表示として需要者に広く知られている」と認定しました。

(1)「訴外サンルートホテルシステムは,昭和58年にホテル,飲食店業等を目的として設立され」、「ホテルの直営店やフランチャイズシステムによるホテルチェーン(サンルートホテルチェーン)を全国的に展開し」、「訴外サンルートホテルシステムのホテル事業は,「ホテルサンルート」を統一営業表示とし,別紙登録商標Aを統一マークとするものであり,直営店やフランチャイズ加盟店は,その施設,備品,取引書類等に営業表示として統一営業表示及び統一マークを使用し,また,これらを使用して宣伝広告を行ってきた」。
(2)「原告と訴外サンルートホテルシステムは,平成12年2月29日,同年4月1日をもって,訴外サンルートホテルシステムの営業全部を原告に…譲渡する旨合意し…サンルートホテルチェーンのフランチャイザーの地位も原告が承継した」。
(3)「原告のサンルートホテルチェーンは,全国に7軒の直営ホテルと58社66軒のフランチャイズ加盟ホテルを有する国内最大手のビジネスホテルチェーンの一つで」、「毎年,全国紙や地方紙等で広告を行っている」。

 

2.被告の行為等

 裁判所は、以下の事実を認定しました。

(1)「被告は,昭和63年6月10日にホテルの経営等を目的として設立され」、「本件加盟契約におけるフランチャイジーの地位を承継して訴外サンルートホテルシステムのフランチャイジーとなり,三重県鈴鹿市をテリトリーとしてホテル業を営」み、「被告は,ホテル建物に大きく統一営業表示と統一マークを掲げ,ホテル内の設備,備品,取引書類等に,統一マーク,統一営業表示及びこれを含む「ホテルサンルート鈴鹿」,「ホテルサンルートチェーン」等の標章を付したり,…「HOTEL SUNROUTE」及びこれを含む標章を付したりして,ホテル営業を行」っていたところ、「平成12年4月1日,本件加盟契約におけるフランチャイザーの地位は,訴外サンルートシステムから原告に承継された」。
(2)「本件加盟契約には,契約が終了した場合,被告(フランチャイジー)は,直ちに統一営業表示及び統一マークの使用を停止すること(25条1項)、かつてサンルートホテルチェーンに属していたことを表示するような行為,その他ホテル経営についてサンルートホテルチェーンと何らかの関係があるかのような誤認を第三者に生じさせる行為をしてはならないこと(同条3項)が定められていた」。
(3)「平成12年12月11日,本件加盟契約は終了した」が、「被告は,「株式会社ホテルサンルート鈴鹿」との商号でホテル営業を続け,その営業表示として統一営業表示や統一マークを使用したほか,ホテル内の設備,備品,取引書類等に,「ホテルサンルートチェーン」の標章,…「HOTEL SUNROUTE」やこれらを含む標章を付して営業を継続した」。
(4)「被告は…仮処分の代替執行後…ホテル建物の看板の表示を「ホテルサンルート」から「ホテルサンルーツ」に」、同様に「HOTEL SUN ROOTS」等にそれぞれ変えたが,ホテル内の備品や取引書類等には統一マークのほか「やすらぎネットワーク サンルートホテルチェーン」,「ホテルサンルート鈴鹿」,「HOTEL SUNROUTE」…等の各標章を使用している。また,被告は,ホテル客室の鍵のキーホルダーに「HSR」との標章を付して宿泊客の利用に供している」。

Ⅱ.被告の営業表示等の使用差止めについて
 裁判所は、認定事実を基礎に「被告が,ホテルの看板,備品,取引書類等に使用している「ホテルサンルーツ」,「HOTEL SUN ROOTS」,「Hotel Sun Roots」,「やすらぎネットワーク サンルートホテルチェーン」,「ホテルサンルート鈴鹿」,「HOTEL SUNROUTE」,「SUNROUTE SUZUKA」,「HOTEL SUNROUTE SUZUKA」,「HSR」の営業表示等を使用する行為の可否について判断しました。
 

(1)商標権に基づく差止請求

(ア)「ホテルサンルーツ」
「被告は,ホテル業を営んでおり,「ホテルサンルーツ」はホテル建物の看板に使用されているから,「ホテルサンルーツ」のうち「ホテル」の部分は業種を示すものとして識別力を有しない。したがって,「ホテルサンルーツ」の要部は「サンルーツ」部分である」。
「本件登録商標10と「サンルーツ」とを対比すると,称呼はそれぞれ「サンルート」と「サンルーツ」であり,末尾の「ト」と「ツ」が異なるが,ともにタ行の音であること,英語を想起させる「サンルート」の複数形が「サンルーツ」となることは,一般人が容易に思い至るところであること等の点に照らせば,両者は称呼において類似する。また,5文字中,4文字が一致しているから,外観において類似する。以上のとおり,被告標章「ホテルサンルーツ」は,その要部の称呼及び外観が本件登録商標10に類似するから,両者は類似する」。「また,本件商標権10の指定役務には「宿泊施設の提供」が含まれている」。
 「したがって,被告がホテル業において「ホテルサンルーツ」の標章を使用することは,本件商標権10の侵害となる」。


(イ)上記のほか、同様の判断手法で、「HOTEL SUN ROOTS」,「Hotel Sun Roots」「ホテルサンルート鈴鹿」「HOTEL SUNROUTE」「SUNROUTE SUZUKA」「HOTEL SUNROUTE SUZUKA」「やすらぎネットワーク サンルートホテルチェーン」「HSR」について、本件商標権の侵害となる旨認めました。


(2)不正競争防止法に基づく差止請求
 「被告は,三重県鈴鹿市においてホテル業を営んでおり,「ホテルサンルート鈴鹿」のうち「鈴鹿」の部分はホテルの所在地を示すものと理解されるから,識別力を有しない」。「「ホテルサンルート鈴鹿」のうち「鈴鹿」の部分を除外すると,その余の部分は,原告の周知な営業表示である「ホテルサンルート」と同一である。したがって,「ホテルサンルート鈴鹿」は,原告の周知な営業表示である「ホテルサンルート」と類似する。そして,原告と被告の業種は同一であるから,被告がホテル業において「ホテルサンルート鈴鹿」を使用すれば,被告の営業と混同するおそれがあるものと認められる。したがって,被告がホテル業において「ホテルサンルート鈴鹿」の営業表示を使用することは,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たる。」


Ⅲ.被告の商号の使用等の差止めについて
 裁判所は、以下のように認定し、判断しました。

 「被告は、「株式会社ホテルサンルート鈴鹿」の商号でホテル業を営んでいるから,「株式会社ホテルサンルート鈴鹿」を営業表示として使用しているものというべきである。「株式会社ホテルサンルート鈴鹿」のうち,「株式会社」の部分は,識別力がないところ,前示のとおり,「ホテルサンルート鈴鹿」と原告の周知な営業表示である「ホテルサンルート」とは類似するから,被告がホテル業において「株式会社ホテルサンルート鈴鹿」の商号を使用することは,不正競争行為となる。
 したがって,原告は,被告に対し,不正競争防止法3条に基づき,「株式会社 ホテルサンルート鈴鹿」の商号の使用差止と被告の設立登記中の「株式会社 ホテルサンルート鈴鹿」の商号の抹消登記手続を求めることができる」。


Ⅳ.原告の申し立てた仮処分に係る損害賠償債務不存在確認請求について
 (省略)


Ⅴ.損害賠償請求について
(1)被告の利益額に基づく損害
 裁判所は、本件全証拠によるも,被告の経常利益がどの程度であるかを確定することができないので,結局,被告の利益額による損害の主張を認めませんでした。


(2)実施料相当額の損害
ア 相当額について
 「被告の商標権侵害行為及び不正競争行為」は、「サンルートホテルチェーンのフランチャイジーであった被告が,本件加盟契約終了後も,原告から使用許諾を受けていた統一営業表示に類似する標章の使用を継続したという経緯によ」り、「本件侵害行為による実施料相当額の損害を算定するについては,そのような事情を考慮し,被告の一連の侵害行為を一体のものと評価して算定するのが相当である」とし、「被告は原告に対し,本件加盟契約に基づくロイヤリティの支払義務を負っていたところ,平成9年1月以降のロイヤリティは,〔1〕宿泊ロイヤリティが室料とサービス料の売上合計の2.25パーセント,〔2〕宴会ロイヤリティが宴会の売上の0.75パーセント,食堂ロイヤリティが食堂の売上の0.375パーセントであったことが認められるので,このような事情を考慮して,本件侵害行為によって生じた原告の実施料相当額の損害については,上記の料率によって算定するのが相当である」等と判断し、算定しました。

(以下省略)

 

■結論

 裁判所は、被告に対し、ホテル業において「株式会社ホテルサンルート鈴鹿」の商号を使用してはならない旨、「株式会社 ホテルサンルート鈴鹿」の商号の抹消登記手続を命ずる旨、ホテル業において,「ホテルサンルーツ」,「HOTEL SUN ROOTS」,「Hotel Sun Roots」,「やすらぎネットワーク サンルートホテルチェーン」,「ホテルサンルート鈴鹿」,「HOTEL SUNROUTE」,「SUNROUTE SUZUKA」,「HOTEL SUNROUTE SUZUKA」,「HSR」の各標章を使用してはならない旨、これらの各標章を付した看板,備品,取引書類を廃棄する旨等を判断しました。

 

■BLM感想等

 本件は、以前に見たエイブルフランチャイズ契約解除事件ピザ・カリフォルニア事件のように、フランチャイズ契約終了後も商標・その他の表示の使用を継続していた元フランチャイジーに対し、商標権者及び周知表示主体である原告に、商標法及び不正競争防止法2条1項1号に基づく差止請求及び損害賠償請求を認めた事例です。

 本件では、原告と訴外サンルートホテルシステムは,訴外サンルートホテルシステムの営業全部を原告に譲渡する旨合意し、サンルートホテルチェーンのフランチャイザーの地位も原告が承継しました。原告のサンルートホテルチェーンは,全国に7軒の直営ホテルと58社66軒のフランチャイズ加盟ホテルを有する国内最大手のビジネスホテルチェーンの一つで、毎年,全国紙や地方紙等で広告を行っています。したがって、被告が明らかに類似する名称を使用し続けてホテル事業を行うことは、商標・その他の表示の信用や顧客吸引力にフリーライドすることになるため、認めらえないものと考えます。もっとも裁判例ではそこまで述べておらず、単に同一類似の判断をして、商標法及び不正競争防止法の要件を満たす旨判断しています。

 被告としては、これまで頑張ってホテル営業を行い、名前にも愛着があるだろうとは思うのですが、「ホテルサンルート」を「ホテルサンルーツ」に変える予算があるのであれば、思い切って、抵触登録商標等の商標を行い、新しい名前を考えればよかったのにと思います。訴訟費用に比べたら、商標出願費用なんかも、各段にお安いですし…ほっこり汗

 

By BLM

 

 

 

 

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