不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その62

 本日は、フランチャイズ契約により関係形成した事業者間の関係解消事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25444975)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  秋田地判平9・1・22〔ピザ・カリフォルニア事件〕平8(ワ)290

原告 株式会社ピザ・カリフォルニア
被告 T島M喜

 

■事案の概要等 

 本件は、原告が宅配ピザのフランチャイズ契約の相手方であった被告に対し、同契約の解除後の被告の営業行為が不正競争防止法2条1項1号に該当し、かつ、同契約に違反するとして、同法3条及び同契約に基づき、商号等の使用差止並びに店舗等からの商号等表示の除去を求めている事案です。


◆争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
 原告は「宅配ピザ業の経営並びにそのフランチャイズチェーンの経営、企画、指導等を業として平成2年5月24日に設立された会社であり」、「PIZZA CALIFORNIA」と「Quick Delivery」と図形からなる商標(以下「本件商標」)の商標権者であり、「平成8年9月25日現在、全国に店舗数三八八店舗の直営(21店)及びフランチャイズ店(367店)を有する宅配ピザチェーンの主宰者である」。訴外友アンド愛と被告は、平成元年2月10日、「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」を締結した。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)
 

1.争点1について

 裁判所は以下のような認定事実により、「被告は、原告が訴外友アンド愛から被告との間の「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」上の地位を譲り受けたことについて、異議なく承諾した」と認めました。
1.裁判所は、「訴外友アンド愛及び原告との間の営業譲渡に対する被告の態度」を以下のように認めました。
 「訴外友アンド愛と被告が平成元年2月10日に「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」を締結し(争いがない)、被告は、同年3月から「ピザ・カリフォルニア」の名称を使用して宅配ピザ業を行っていた」。
 「訴外友アンド愛及び原告は、宅配ピザ事業に関する営業譲渡契約に基づいて、平成2年7月、各フランチャイジーに対し、個別に通知書にて契約上の地位譲渡について通知すると共に(争いのない事実)、各フランチャイジーへ定期的に配送する機関紙「ピザ・シャトル」上にその旨を通知し、併せてロイヤルティー、買掛金の振込口座の変更を通知した」。
 「被告は、平成2年7月分以降の買掛金を原告らの右通知に基づき指定された原告名義の普通預金口座に支払い、以後、平成7年1月31日の合意解除まで原告との間の「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」の契約関係を継続した」(争いのない事実)。

 

2.争点2について
(1)裁判所は、以下の事実を認定しました。

 「訴外友アンド愛は昭和61年11月に宅配ピザの直営店を三鷹市に出店し、昭和62年度から「ピザ・カリフォルニア」の名称で宅配ピザのフランチャイズチェーン事業を展開し、1年間で50店を出店し、平成元年11月、直営及びフランチャイズチェーン店を含めて150店を出店した」。
 「原告は、平成2年5月、実質的には訴外友アンド愛の事業部から業務拡大のために独立し、設立された会社であるが、同年8月には200店を突破して出店し、売上高、店舗数ともに宅配ピザ業界トップとなり、平成7年度売上は二287億3200円で宅配ピザ業界の第2位、平成8年9月25日現在の直営及びフランチャイズ店の店舗数は388店舗で宅配ピザフランチャイズチェーン中全国第一位を占め、業界大手の宅配ピザのフランチャイズチェーン事業者である」。
 「これまで、原告及びその宅配ピザ事業は、各種全国紙、雑誌その他マスコミに再三取上げられているし、また、右全国紙、雑誌、放送媒体にも、「ピザ・カリフォルニア」「PIZZA CALIFORNIA」という表示を付して原告の業務内容、商品等の各種コマーシャルを提供している」。


2.判断

 以上の事実により、裁判所は、「原告の宅配ピザ業務に係る「ピザ・カリフォルニア」「PIZZA CALIFORNIA」の商号ないし営業表示は、遅くとも平成三年以降から現在まで、需要者の間に広く認識されている(周知性がある)」と認めました。
 なお「被告が「ピザ・カリフォルニア」の名称の使用を開始した平成元年の時期の周知性とその後の周知性の承継を問題にしているが、本件は、原告と被告との間の「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」が合意解除されて、被告が「ピザ・カリフォルニア」「PIZZA CALIFORNIA」の商号ないし営業表示を使用する権利を失ったにもかかわらず、営業行為を継続していることを前提に、不正競争防止法2条1項1号の該当性の問題として、右合意解除前後における右商号ないし営業表示の周知性が争点になるだけであり、被告が主張するところの周知性の問題は,本件の不正競争防止法における争点とはならない」としました。
 

3.争点3及び争点4について
 本件「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」は、その各条項の内容に照らせば、「被告が原告(ただし、平成2年7月までは訴外友アンド愛)の商号の一部、営業表示等を使用し、継続的に、原告から商品の製造、経営、宣伝等について指導協力を受け、ピザ・カリフォルニア・チェーン店として統一されたイメージの下に、顧客に対して原告及び他のチェーン店と同質同等の商品及びサービスを提供し、顧客から、右の商品及びサービスの提供を受けることができるとの信頼を得ることを目的としているものと認められ」(甲第一号証)、一方「同契約が解除されれば、顧客からの信頼の裏付である右契約関係は当然なくなるのであるから、ピザ・カリフォルニア・チェーン店から離脱する被告に商号等の使用停止義務を負わせることは、合理性があり、同契約は公序良俗に反す」せず、「同契約の合意解除により、被告が長きにわたって使用を継続してきた商号等が使用禁止となり、被告が培ってきた営業基盤が失われることになる結果は、被告の営業努力も被告の商圏における前記の周知性に貢献していることを考慮しても、契約自由の原則や同契約の合理性及び前記…事情に照らすと、やむを得」ず、「本訴請求が権利の濫用となるものではない」。 

 

■結論

 裁判所は、以上の次第により、被告の現在の営業行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当し、かつ、「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」に違反するものであるから、原告は、同法三条及び同契約に基づき、被告に対し、「ピザ・カリフォルニア」「PIZZA CALIFORNIA」の商号ないし営業表示の使用差止並びに店舗等から右商号等の表示の除去を求めることができると判断しました。

 

■BLM感想等

 本件は、前回見たエイブルフランチャイズ契約解除事件と似ている事案で、フランチャイズ契約の解除がなされ、原告は商標権を有しており、契約の解除後に、被告が未だ原告の商標を使用しているため、不正競争防止法2条1項1号に基づき、被告の営業表示等の使用差止等を求めています。商標権侵害は求めていないようです。 エイブル事件と異なる点は、本件が不正競争防止法上の請求を認めたこと以外には、被告は、訴外友アンド愛とフランチャイズ契約を締結している点が考えられます。この点、裁判所は、「原告は、宅配ピザ事業に関する営業譲渡契約に基づいて、平成2年7月、各フランチャイジーに対し、個別に通知書にて契約上の地位譲渡について通知する」等して所定の通知等しており、これに対し、「被告は、平成2年7月分以降の買掛金を原告らの右通知に基づき指定された原告名義の普通預金口座に支払」う等しており、上記譲渡を同意したとみなされていますが、仮に商標権侵害で争ってもかかる主体の変更は問題なかっただろうと思います。一方不正競争防止法で争っても、原告は「実質的には訴外友アンド愛の事業部から業務拡大のために独立し、設立された会社」であったので、訴外友アンド愛と原告について、表示主体の同一性が認められ、周知性の主張においても両社合わせて主張できたと考えます。

 また、裁判所は「被告が長きにわたって使用を継続してきた商号等が使用禁止となり、被告が培ってきた営業基盤が失われることになる結果は、被告の営業努力も被告の商圏における前記の周知性に貢献していることを考慮しても」と述べており、このように周知性への貢献は、「合意解除」の一字をもって、被告の商号等の使用ができなくなるのは原告による権利の濫用だとの主張もあり得ないことはないと思います。しかし、結局、契約により合理的に判断していくのは、裁判所が述べるように本件「ピザ・カリフォルニア・チェーンフランチャイズ加盟契約」は、…「被告が原告(ただし、平成2年7月までは訴外友アンド愛)の商号の一部、営業表示等を使用し、継続的に、原告から商品の製造、経営、宣伝等について指導協力を受け、ピザ・カリフォルニア・チェーン店として統一されたイメージの下に、顧客に対して原告及び他のチェーン店と同質同等の商品及びサービスを提供し、顧客から、右の商品及びサービスの提供を受けることができるとの信頼を得ることを目的としているものと認められ」るためであり、そうすると、「契約自由の原則や同契約の合理性及び前記…事情に照らすと、やむを得」ないとの判断になるわけです。これは、不正競争防止法2条1項1号を巡るフランチャイズ契約類型以外の他の類型(これまで見てきた、元従業員との紛争事例や、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例等)において、誰が表示主体になり、元関係者に対してなぜ差止が認めれるのか、という問題と同旨の問題に対する答えのように思います。

 

By BLM

 

 

 

 

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