不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その50

 本日は、重盛の人形焼事件等のようなこれまで見てきた血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。

 予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号28090828)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  大阪地判平16・2・19〔自由軒事件〕平15(ワ)7208

第1事件原告兼第2事件被告 株式会社自由軒
第1事件被告兼第2事件原告 株式会社自由軒

 

■事案の概要等 

 本件第1事件及び第2事件は、同一の商号で「自由軒」ないしこれを含む営業表示・商品表示を用いて洋食店を営む原告と被告の間における不正競争防止法及び商法(第2事件)に基づく差止請求(第1事件については更に損害賠償請求)の事案です。

 第1事件では、被告がその取引先に対して、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したことにより、原告の営業上の利益が侵害されたとして、原告が被告に対し、不正競争防止法2条1項14号等に基づき、事実の陳述等の差止めと損害賠償を求めるとともに、被告がその店舗で提供する役務に「自由軒」の営業表示を使用することは同項1号の不正競争に当たると主張し、その使用の差止を求めた事案です。
 第2事件では、原告による「自由軒」の商品等表示としての使用や原告商号の使用が同項1号の不正競争に当たるなどと主張して、被告が原告に対し、その使用の差止めと商品の廃棄を、同項12号等に基づきドメイン名の使用差止めを、同項1号等及び商法20条1項及び21条2項に基づき(単純併合)商号の使用差止めを求めた事案です。

 

◆前提となる事実(争いがない事実)

(1)Dは、明治43年、大阪市千日前において洋食店「自由軒」を創業。原告の経営者はDとその後妻Fとの間の子の子孫被告の経営者はDとその先妻Eとの間の子の子孫である。

(2)洋食店「自由軒」の営業は、その後、大正15年7月1日設立の合名会社自由軒(本店所在地は大阪市南区〈以下省略〉〔現在の中央区〈以下省略〉〕、設立当初の代表社員はD。)に引き継がれた。
(3)原告:昭和45年1月20日設立。大阪市東区〈以下省略〉を本店所在地(現在の本店所在地は、平成元年に住居表示の実施により変更。)。原告の設立当初の代表取締役はJ(DとFの間の三男)。現在の代表取締役Lはその子。原告は、現在、大阪市中央区船場の本店所在地で「自由軒」の名称で洋食店を営業するほか、横浜市の横浜カレーミュージアム店、三重県四日市市の四日市店のほか東京都内の立川店(別会社に委託)など、全国数か所で同名の洋食店を営業。原告とフランチャイズ契約を締結した別会社が、東京都内の2か所で同名の洋食店を営業。さらに、原告は、各地の百貨店等やホームページを通じ通信販売によりカレールウやハヤシソースといったレトルト食品や冷凍食品も製造販売し、その中には別紙目録〈2〉(1)ないし(9)記載の各商品が含まれる。原告は、洋食店の営業又はレトルト食品もしくは冷凍食品の販売において、別紙目録〈1〉(1)ないし(9)又は別紙目録〈2〉(1)ないし(9)の標章ないし表示を使用している。
(4)原告は、インターネットのドメイン名「jiyuuken. co. jp」の使用する権利を取得し、ホームページを開設する等して使用。また、原告は、指定商品を以下のものとする登録商標「自由軒」(標準文字)(登録第4344160号)の商標権を有している。
 第29類 保存用にパックされた調理済み即席カレー(ほか略)、第30類 ウースターソースその他の調味料(ほか略)、第42類 飲食物の提供

 

(5)被告は、昭和41年11月25日設立。現在の本店所在地で設立。被告の設立当初の代表取締役はH現在の代表取締役であるMはG(DとEの間の長男)の孫、同じくOはGの孫であ被告は、現在、大阪市中央区〈以下省略〉(千日前)で「自由軒」の名称で洋食店を営業するほか、大阪市港区の1か所(第1事件請求の趣旨第3項掲記の場所)で同名の洋食店を営業。
(6)被告は、原告販売製品「カレーまん」の製造下請先である株式会社T・その販売代理店に対し内容証明郵便を送付し、原告による同製品の製造販売は不正競争防止法2条1項1号に該当するとして製造販売の停止等を求めた。被告は、それ以降、原告の取引先である複数の百貨店等に内容証明郵便をもって、原告が「創業明治43年」、「自由軒」等の広告宣伝を行うことは虚偽の広告宣伝に該当する、原告の製造したレトルト食品を販売することは、同号の不正競争行為である旨通知し、同年7月にも、原告の取引先である市民生活協同組合ならコープほかに内容証明郵便で同様の通知をした(以下これらの通知文書を「本件警告書」)。

 

◆争点

本ブログでは、不正競争防止法2条1項1号に関するものを中心に見ていき、下記争点の一部は省略(※で明示)します。

(第1事件)
(1)本件警告書は、虚偽の事実を告知ないし流布するものか。
(2)原告が使用している「自由軒」との表示は、原告の商品等表示として周知性があるか。
(3)被告が「自由軒」の営業表示を使用していることにより、原告の営業と誤認混同を生じさせるか。
(4)本件警告書の送付が不正競争防止法2条1項14号の不正競争に当たるとした場合の原告の損害額(※省略)
(第2事件)
(5)被告による訴えの追加的変更(請求の趣旨第6項)の適否(※省略)
(6)被告が使用している「自由軒」の営業表示は、被告の営業表示として周知性があるか。
(7)原告が「自由軒」の商品等表示を使用することにより、被告の営業と誤認混同を生じさせるか。
(8)原告が「自由軒」の商品等表示を使用することにより、被告が営業上の利益を害され、又は害されるおそれが生じているか。
(9)原告が「株式会社自由軒」の商号を使用することは、商法20条1項の「不正の競争の目的」又は同法21条1項の「不正の目的」をもってするものか。
(10)原告がインターネットのドメイン名「jiyuuken. co. jp」を使用する権利を取得し、これを使用する行為は、不正競争防止法2条1項12条の「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を加える目的」によるものか。(※省略)
(11)請求の趣旨第6項(レトルト食品等の廃棄請求)に係る請求の必要性
(12)被告の不正競争防止法に基づく差止請求に対し、原告には同法12条3号所定の適用除外事由があるか。(※省略)
(13)被告の不正競争防止法に基づく差止請求は、信義則違反により許されないか。(※省略)

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

1.各争点を判断する前提として、合名会社自由軒と原・被告の関係について

(1)裁判所は、上記「◆前提となる事実(争いがない事実)」に加え、Dが創業した洋食店「自由軒」の営業は、合名会社自由軒に承継され、昭和17年Dが死亡すると、その家督はDの孫(Gの長男)であるKが相続した旨が認定されたほか、以下の事実を認定しました。


合名会社自由軒の代表社員にはH(DとEの間の二男)が就任した。
・合名会社自由軒が営業していた洋食店「自由軒」は、第2次世界大戦の戦災によって店舗建物が焼失したが、昭和22年、現在被告が洋食店を営業している地に再建。

 「洋食店「自由軒」では、創業当初から、大衆向けのハイカラな洋食屋として評判を呼んだが、ことに、カレーと飯をあらかじめ混ぜ合わせておき、中央にくぼみを作って生卵を落とすライスカレーが、「名物カレー」、「インディアンカレー」、「混ぜカレー」等と呼ばれて、特に有名で」、「大阪出身の小説家である織田作之助が昭和15年に発表した代表作「夫婦善哉」の中で、登場人物が「自由軒」に行ってライスカレーを食べる場面があり…登場人物のせりふ」にあり、「自由軒」の名は知られていた。
昭和31年当時、合名会社自由軒営業の洋食店「自由軒」の運営の中心を担っていたのは、Hであった
・Jは、昭和31年、F(Dの後妻、Jの母)から合名会社自由軒の社員持分を譲り受け、同社に入社したが、昭和40年に同社を退社。Jが合名会社自由軒の営業に実質的に関与していたかどうかは、明らかでない。
・昭和41年11月、被告設立。設立当初の代表者はH。
・昭和42年1月、現在被告が洋食店を営業している地で営業していた洋食店「自由軒」の店舗が建て替えられ、建替後の建物は、被告名義で表示登記及び所有権保存登記がされた。被告は、現在、この店舗で洋食店「自由軒」を営業。
・昭和45年1月、それまで洋食店とは無関係の仕事をしていたJが中心となって「本店」から独立して原告を設立し、「本町自由軒」として洋食店の営業開始。その際、被告の「自由軒」も開店に際して「祝開店 千日前自由軒より 本町自由軒さん江」と記載した花輪を贈るなど協力。
・合名会社自由軒は法人としては現在も登記簿上存続。洋食店の営業はしておらず、登記上の代表社員Hも既に死亡。
・原告がその肩書地で営業している洋食店について、保健所の営業許可は、平成7年5月31日真では「本町自由軒」として取得し、平成8年4月17日以降は「自由軒」として取得。同洋食店の電話帳には「昭和61年度は「本町自由軒」として、平成元年度及び平成2年度は「本町自由軒」及び「自由軒ヘットオフィス」として、平成3年度ないし平成7年度は「自由軒・本町」及び「自由軒ヘットオフィス」として、平成8年度以降は「自由軒・本町」及び「自由軒」として掲載。
・原告がその肩書地において営業している洋食店が入居しているビル内の掲示板の案内図には、原告店舗の表示として、「本町自由軒」と記載。
・原告は、昭和62年ころから冷凍食品の、平成6年ころからレトルト食品の各製造販売を始めたが、その中には、包装や箱に、「うまいは本町自由軒」との記載があるものがある。
・原告の現在の経営者は、Dとその後妻Fとの間の子孫であり、被告の現在の経営者は、Dとその先妻Eとの間の子孫である。両者の間では、近時は、冠婚葬祭での付き合い程度の親戚付き合いをしている。

・以上の事実が認められる。
 

(2)裁判所は、「原告は、その営業している洋食店は、「本店」との区別をつけるために「本町自由軒」と表示したことはあるが、屋号としてはあくまで単なる「自由軒」であると主張し」、これに沿う証拠があるが、これら「供述ないし陳述記載はいずれも客観的な裏付けを欠き」、かえって「原告の洋食店開店時から店内に掲示されている「織田作之助好み 自由軒の名物 インデアンカレー由来」との表題のパネルには、「明治四十三年の創業以来の伝統の味、玉子入り名物インデアンカレーを引っさげて当船場に本町自由軒を開店させて戴きました」と記載されていることが認められ」、「単なる「自由軒」ではなく「本町自由軒」を屋号として営業していた」と認め、原告の洋食店の営業は「「本町自由軒」として開始されたと認めました。


(3)裁判所は、「原告は、概ね平成7年ころまでは、「本町自由軒」との屋号を主に用いて営業していた」が、「平成8年ころから、単なる「自由軒」の屋号を主に用いるようになった」と認めました。

 

(4)合名会社自由軒の代表社員であり、実際にも事業活動の中核を担っていたHが中心となり被告が設立され、その直後に洋食店「自由軒」の店舗建物を建て替えた際には、被告名義で表示登記及び所有権保存登記が行われ、現在では、合名会社自由軒は洋食店の営業をしておらず、洋食店「自由軒」の営業は、昭和41年11月の被告の設立に伴い、遅くとも昭和42年1月の店舗建物の建て替えに伴って、合名会社自由軒から被告に承継された」と認めました。そして「合名会社から株式会社への組織変更が商法上なし得ないことをも考慮すれば、この、合名会社自由軒から被告への営業譲渡は、実質的には、合名会社自由軒の株式会社への組織変更ともいうべき」ものであったとし、「合名会社自由軒と被告との関係は、実質的には同一体とい」えると判断し、「原告が昭和45年にJによって設立された時点では、既に、洋食店「自由軒」の営業は合名会社自由軒から被告に承継されていた」から、「原告が独立する元となったのは、合名会社自由軒ではなく、被告であった」と認定しました。
 この点につき、原告は、原告と被告は共に合名会社自由軒から独立したものであると主張するも、「原告設立の約3年前に、合名会社自由軒はその洋食店「自由軒」の営業を被告に承継させており、実質的には両者は同一体ともいうべき関係にある」から、「被告が合名会社自由軒から独立した」といえないとし、「同じ理由によって、原告が独立する元となったのは合名会社自由軒ではなく被告であった」としました。また「被告設立後も、合名会社自由軒が存続していたことについても…洋食店の店舗建替資金を借入れるための技術的な要請から解散しなかったにすぎ」ず、「営業の実態がな」く、上記認定の妨げとなるものではないとし判断しました」。


(5)裁判所は、原告は、その独立時に、「自由軒」の暖簾を継ぐことについて被告が同意していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって「原告は「本町自由軒」として洋食店の営業を開始したことが認められるところであり、その店舗が、被告の店舗と同じく大阪市内に所在すること、原告店舗の開店時に被告は協力しており、被告から贈った花輪にも「本町自由軒」との文言があることをも考慮すれば、むしろ、被告の店舗との区別のために、原告の営業する店舗の名称に「本町」の表示を付すことが、原・被告間で了解されていたと推認するのが相当である」と判断しました。


(6)以上により、裁判所は「原告は、合名会社自由軒から洋食店「自由軒」を承継して営業していた被告から独立したものであるから、その独立元である被告に対し、不正競争防止法2条1項1号に基づき、単なる「自由軒」を営業表示として用いることの差止めを求めることが許されない」とし、「原告の第1事件の請求の趣旨第3項に係る請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない」と判断しました。


2.商品等表示の周知性と誤認混同のおそれについて
 裁判所は、下記認定・判断し「原告による…表示や商号の使用は、不正競争防止法2条1項1号に該当する行為である」と結論づけました。。 

(1)「原・被告の双方が洋食店を営業していること、「自由軒」の商品等表示が全国的に周知のものであること自体は、当事者間に争いがな」く、「明治43年に創業された洋食店「自由軒」は、古くからハイカラな洋食店として評判を呼び、特に「名物カレー」、「インディアンカレー」等と呼ばれたライスカレーは他に類を見ない洋食として有名であり、大阪出身の小説家織田作之助の代表作「夫婦善哉」にも描写されていることでも、広く知られてきたところ大正時代以来、この洋食店「自由軒」を経営してきた合名会社自由軒の営業は被告に承継された…から、明治43年創業以来の「自由軒」の周知性も被告が承継した」と認定し、その他認定事実に照らし、「「単なる「自由軒」の商品等表示は、被告の営業表示として需要者の間に周知であると認めることができ、逆に、原告の商品等表示として周知であるとは認められない」。

 そして「原告の営業を被告と混同する紹介や、原告についての紹介の中で、原告が被告から独立する以前の由来や、創業が明治43年である旨をも紹介をするものがあることに照らせば」、「原告が単なる「自由軒」との商品等表示」…等、「更には原告の商号を使用することにより、需要者において、原告の営業について被告の営業との混同が生じるおそれがあ」り、現実にも、…これらの混同が生じている」としました。
 なお「原告は、原告のレトルト食品等の販売は、被告の店舗における洋食の提供とは業態が異なるから、混同を生じ得ないと主張するが、原告が販売しているレトルト食品や冷凍食品も、カレールウやハヤシソースといった、形態こそ違うけれども、その内容物は洋食店でも提供され得るものである」ことに照らせば、被告の営業との混同が生じるおそれがある」としました。
 さらに、「原告は、被告は2店舗で洋食の提供をするにとどまるのに対し、原告の商品は全国的に広く流通するものであることをも混同が生じ得ない理由とするが」、「「自由軒」との商品等表示は、被告のものとして全国的に周知なのであるから原告主張の事情は、原告の営業を被告の営業と混同するおそれが生じることを妨げるものではない」としました。
 なお、「「自由軒」の表示と共に、「本町」や「せんば」の文字を添えることで,被告の営業との混同を防止することができるものと認めることはできるが、これらの文字を小さく添えることによっては、混同の防止のために十分」ではない、としました。

 

(2)裁判所は、「原告は、当初は「本町自由軒」との商品等表示を用いて、被告から独立したもの」で、「原告が「本町自由軒」との表示を用いるについては被告が許諾したものである」とし、「原告が「せんば自由軒」ないし「船場自由軒」との表示を用いることについても、被告の営業と区別できるという意味では、被告の許諾の範囲内と解することができる」と判断しました。
 その上で「原告の営業と被告の営業との混同を防止するためには、少なくとも、前記各表示中の「本町」又は「せんば」もしくは「船場」の表示部分は、「自由軒」の表示部分に比して、その字の縦横双方の大きさ及び字の太さのそれぞれにおいて、同等程度、少なくとも70パーセント以上の比重を有することが必要である」と判断しました。

 

3.不正競争防止法2条1項14号の請求について
 裁判所は、同項1号の不正競争に該当する旨を需要者や取引関係者に陳述又は流布することや、同趣旨の警告書を原告の取引先に送付することは、同法2条1項14号所定の「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する」行為には該当しないと判断しました。
 

4 営業上の利益を害するおそれ及びレトルト食品等の廃棄請求の必要性について
 裁判所は、以上の認定・判断に基づき、「既に容器に充填されたレトルト食品や、袋詰めや箱詰め、あるいは包装等が施されたレトルト食品ないし冷凍食品は、これらの容器、袋、箱、包装紙等と一体となって、侵害行為を組成する物となるというべきであるし、ラベルの張り替えについても、現にラベルが張り替えられていないものは、なお侵害のおそれを有するものであるから、廃棄の対象とすべきである」と判断しました。

 もっとも「「創業明治四十三年」の表示の部分は、営業の由来に関する事実を表すにすぎず、不正競争防止法2条1項1号にいう営業等表示に該当するものとは解しがたい」が、「被告は、請求の趣旨に「自由軒」との表示と共に「創業明治四十三年」との表示を加えることによって、差止請求及び廃棄請求の対象を自ら限定したものと解することができるから、判決によって差止め及び廃棄を命ずるにおいても、「創業明治四十三年」との表示部分を除外することは相当ではない」としました。


5 商法20条1項、21条1項にいう「不正(の競争)の目的」について
 裁判所は、以下のように認定し、判断しました。

(1)判断基準

 「商法20条1項にいう「不正の競争の目的」とは、自己の営業を既に登記されている商号権者の営業と誤認混同させ、当該商号の有する信用ないし経済的価値を自己の営業に利用しようとする意図をいい、同法21条1項にいう「不正の目的」とは、他人の営業を表示する名称を自己の営業に使用することで、自己の営業をその他人の営業と誤認混同させようとする意図をいうものと解すべきである」。


(2)本件に関する判断 

 「原告が「株式会社自由軒」を商号として設立される以前に、被告が「株式会社自由軒」を商号として設立され」、「「株式会社自由軒」という原・被告の商号の中核をなしている「自由軒」との商品等表示は、被告のものとして全国的に周知であると認められ…被告から独立して大阪市内等で営業している原告が善意であるとは考えがたい。そして…原告が「株式会社自由軒」との商号を使用することによって、同一の商号を使用している被告の営業との混同が生じていると認められるところ、これも、同一の商号を用いて同名の洋食店の営業を行い、あるいはレトルト食品や冷凍食品の販売という、いわば洋食店営業に隣接する営業を行えば、混同が生じるおそれが高いことは、原告においても容易に予見することができたといわざるを得ない」。
 「そうすると、原告が、洋食店の営業及びレトルト食品ないし冷凍食品の販売に、被告と同一の「株式会社自由軒」という商号を用いるについては、原告の営業を被告の営業と誤認混同させ、被告の商品等表示ひいてはその商号が有する周知性という信用ないし経済的価値を原告の営業に利用する意図があったものと認めるべきであり」、「商法20条1項にいう「不正の競争の目的」及び同法21条1項にいう「不正の目的」がある」。

 

■結論

 裁判所は「以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の第1事件の請求は、いずれも理由がなく、被告の第2事件の請求はいずれも理由がある」等と判断しました。

 

■BLM感想等

 本件では、原告が誰から使用許諾を認められたのかが大きな問題となっています。裁判所は「合名会社自由軒の代表社員であり、実際にも事業活動の中核を担っていたHが中心となり被告が設立され、その直後に洋食店「自由軒」の店舗建物を建て替えた際には、被告名義で表示登記及び所有権保存登記が行われ…合名会社自由軒から被告に承継された」と認めました。そして「合名会社自由軒から被告への営業譲渡は、実質的には、合名会社自由軒の株式会社への組織変更ともいうべき」ものであったとし、「合名会社自由軒と被告との関係は、実質的には同一体とい」えると判断しています。確かに、法律上は異なる法人同士が表示主体性を受け継いでいるように見えますが、第三者との契約による「営業譲渡」というよりは、出所の一貫性が認められる状態で営業が続けられているように思われます。そのようにして表示の主体を認定した上で、その主体からさらに暖簾分けや表示の使用許諾がされているのかといったことが判断されています。裁判所は、「原告が昭和45年にJによって設立された時点では、既に、洋食店「自由軒」の営業は合名会社自由軒から被告に承継されていた」から、「原告が独立する元となったのは、合名会社自由軒ではなく、被告であった」と認定し、かつ、「被告の店舗との区別のために、原告の営業する店舗の名称に「本町」の表示を付すことが、原・被告間で了解されていたと推認するのが相当である」と判断しています。

 他の血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例、例えば、重盛の人形焼事件でも、現在の代表者の父・重盛永治が大正6年創業の個人商店「重盛永信堂」を、法人化して原告合資会社重盛永信堂を設立し、一貫した表示主体を特定したうえで、同社の下で表示の使用許諾がなされ、有限会社重盛又雄商店(代表者代表取締役 重盛M治)は暖簾分けが許された者として、表示主体のグループの一員として認められています。差止請求権も有するグループの中核的な存在と解されるのに対し、被告株式会社シゲモリは、そのようには認められませんでした。本件も原告が、被告と仲違いせず、原告と被告が協力していれば、原告は、第三者に対する場合であれば「自由軒」及び「本町自由軒」について、差止請求権を有した可能性があります。原告が被告と関係解消したため、本町自由軒のみ権利があるということになるのかもしれません。その場合でも完全に関係解消しないのではないかと考えます。血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例では、関係者が協力している状況では、家制度の下で事業を行っている場合、かかるグループを構成する主要な事業者は第三者に対しては差止請求権が認められる可能性があります。関係解消すると、そのようなグループから離脱する関係にあるのかもしれません。

 一方、丸美屋食品工業事件では、周知性を獲得していた「是はうまい」の表示が、戦前戦後を通して、原告会社の製品を表示するものとして周知と認められながら、一方で、戦災により約9年間は休業又は本格的な再開に至っていない状態だった点が認められ、その間、原告会社の元従業員が立ち上げた被告会社が戦後いっきに成長をとげ、周知性を獲得し、不正競争防止法上の行為規制による保護が認められました。本件でも、実際に、市場に商品を流通させ、「自由軒」の表示を広めたのは原告である可能性もありますが、もともとの周知性を獲得した主体(被告含む)が、その使用を途切れることなく継続してきたので、こちらに軍配が上がったのでしょう。結局、丸美屋食品工業事件では、空白の9年間とも呼べるべき期間では、不正競争行為が認められないのに対し、後者(本件)では不正競争行為が認められる点で異なる判断となるのかもしれません。

 なお、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例では、兄弟姉妹間で、一定程度、黙示の使用許諾も認められる場合も散見されます。本件も、自由軒ではなく、他の文字を結合させた「本町自由軒」であれば、被告による使用を承認した事実が認められ、使用継続も可能な判断でした。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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