不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その45

 本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。

 予めお詫び:本裁判例は、LEX/DBから引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示なし)。

 

  東京地判平成10・ 5・29〔重盛の人形焼事件〕平6(ワ)13147

原告 合資会社重盛永信堂(代表者無限責任社員 重盛E造)
原告 ㈲重盛又雄商店(代表者代表取締役 重盛M治)
被告 ㈱シゲモリ(代表者代表取締役 重盛Y一郎)

 

■事案の概要等 

 本件は、「重盛の人形焼」との標章を付した菓子の人形焼を製造販売する原告が、「東京名物 重盛の人形焼」の標章を付した人形焼の製造販売に従事する被告に対して、不正競争防止法2条1項1号等に基づき、その差止め等を求めた事案です。

 

◆当事者
(1)原告合資会社重盛永信堂:現在の代表者の父・重盛永治が大正6年創業の個人商店「重盛永信堂」を、昭和16年9月1日、菓子製造販売等を目的とする会社組織化して設立。主力商品は「ゼイタク煎餅」(商標登録)の標章を付した煎餅と、「重盛の人形焼」の標章を付した菓子の人形焼。
(2)①原告有限会社重盛又雄商店:現在の代表者の父・重盛又雄が、兄・永治から昭和13年12月に重盛永信堂の武蔵小山分店として暖簾分けされた個人商店「重盛又雄商店」に由来し「ゼイタク煎餅」と「重盛の人形焼」を主力商品として製造販売。
②現在の原告又雄商店:重盛又雄死亡後設立の有限会社重盛又雄商店(平成4年7月20日に有限会社人形焼に商号変更されその後解散登記。以下「旧又雄商店」)の営業や暖簾を引き継いだもの。
③被告:平成3年10月4日設立の菓子の製造販売等を目的とし、被告の代表取締役の父である重盛好雄は、原告又雄商店の代表取締役である重盛又治の弟で、重森好雄も重森又治とともに旧又雄商店で「重盛の人形焼」の製造販売に従事していた。

 

重盛永治(兄):

  大正6年創業「重盛永信堂」(父)→(子)現在の代表者:重盛E造

   ↓
重盛又雄(弟):

  昭和13年暖簾分け「重盛又雄商店」(父)→(子)原告又雄商店の代取・重盛M治(兄)              

                               →(弟)重森Y雄(父)

                                   ↓(子)

                            被告㈱シゲモリ:Y一郎

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.不正競争防止法に基づく請求について
1.本件当事者の関係及び紛争に至る経緯等
①原告永信堂の来歴
 原告永信堂(以下「総本店」ともいう)は、E造の父永治が大正6年に現在の中央区日本橋人形町で創業した個人商店重盛永信堂に由来し、昭和初年に現在の本店所在地に移転後、昭和16年9月1日に菓子製造販売等を目的とする会社組織として設立されたもので、創業当時から現在に至るまで、煎餅と七福神をかたどった人形焼を主力商品としており、前者は創業当時から「ゼイタク煎餅」の標章で(「ゼイタク煎餅」は商標登録あり)、また後者は遅くとも昭和2年ころから「重盛の人形焼」という標章で製造販売。E造は三代目の代表者。

 

②原告永信堂の分店・支店及び登録商標規約書
 原告永信堂で働いた菓子職人の中でその腕と人柄を認められた者は、永治が定めた「登録商標規約書」(以下「本件規約書」)に署名押印したうえで独立(暖簾分け)が許され、永治の身内の者は「重盛永信堂分店」を、それ以外の者は「重盛永信堂支店」を名乗って、自己の店で製造販売する煎餅や人形焼及びその製造販売の営業に「ゼイタク煎餅」と「重盛の人形焼」の標章を用いることを許され…東京都内及びその周辺に一八の分店と支店が点在」。また、分店又は支店から独立する際にも、本件規約書に署名押印したうえで「重盛永信堂支店」を名乗って「ゼイタク煎餅」と「重盛の人形焼」との標章を使用することが許されており、分店又は支店の代表者が代替わり等で変更する場合にも、右規約書に「二代目」と付記して署名押印することが求められる。
 ・本件規約書には、次のような取り決め:
 一、登録商標ゼイタク煎餅の許可権は、人形町重盛総本店又は分店支店に永年勤続者にて優秀なる者に限り人形町総本店々主が認めたる場合許可するものなり
 一、登録商標看板は小売店に限ること。但し、卸売をなす場合は先方(得意先)には絶対にゼイタク煎餅の名称をつけさせぬ事
 一、店構へは総本店々主又は総本店代表幹事の一応決定を受けること
 一、右以外は知人又は金銭にて許可せざるものなり
 一、登録商標に類せざる商品販売又は総本店々主及び代表幹事が登録商標の名誉を毀損したと認めたる場合は何時たりとも取消すこと
 一、右の各条項を守るは勿論その他総本店又は各分店支店に迷惑又は不都合の廉ありたる節は如何なる処分を受けるも異議を申立てざる事
 一、各分店支店の一粁以内に支店を設置する場合は総本店及び近接の分店支店の承認を得ること

 

③本件規約書中には「重盛の人形焼」の標章に関する明文の取り決めはなく、また、原告永信堂から各分店・支店に対し、人形焼の生地の配合や商品の値段についての厳格な規制はなく、ある程度、各分店・支店の裁量に委ねられている。


(3)又雄の独立と旧又雄商店の設立
 永治の弟(M治とY雄の父)である又雄は、昭和13年12月、暖簾分けを許されて重盛永信堂の武蔵小山分店として個人商店である重盛又雄商店の営業を開始。総本店と同様に「ゼイタク煎餅」と「重盛の人形焼」の標章を用いて菓子の製造販売を営む。
 又雄は昭和40年に死亡し、妻の志ん子、長男H男、三男M勝及び四男M治が重盛又雄商店の営業を引き継いだが、昭和41年

個人商店を法人化した有限会社重盛又雄商店(旧又雄商店)が設立され、志ん子が代表取締役就任。程なくして、高校を卒業したY雄も旧又雄商店の営業に加わったが、昭和45年1月には長男H男が西小山支店を、また同52年12月には三男M勝が寺尾支店をそれぞれ開店して旧又雄商店から独立。以後はM治とY雄が分担して旧又雄商店における菓子の製造販売に従事し、M治が「ゼイタク煎餅」を、Y雄が「重盛の人形焼」を製造。又雄死亡後、志ん子やその息子達は、原告永信堂に対し、武蔵小山分店の後継者を正式に報告することはなく、本件規約書に同分店の二代目が署名押印することのないまま推移。


(4)本件紛争に至る外形的経緯(下線筆者:被告らが分裂していく段階に入ったと解される記載)
①平3年初めころ、志ん子はM治を伴って原告永信堂を訪れ、E造に武蔵小山分店の後継者をM治とし、Y雄は旧又雄商店から独立させる旨報告・許可を求めた。他方、M治とY雄は、独立資金に供するための退職金の支払い、旧又雄商店に関するY雄の社員持分の買取りあるいは旧又雄商店店舗の借地権の持分の処理等…金額の折り合いがつかないままY雄の独立話は具体化せず、…その後…Y雄が他所で支店を開設するのではなく、旧又雄商店の店舗を取り壊し、新たに内部を半分に区分した一棟の建物(三階建て)を建築することを計画し、…M治が新店舗計画の説明のために原告永信堂に赴いた。
 これと相前後して、平成3年、旧又雄商店からY雄と妻のちづ子及び長男のY一郎に退職金が支払われた。被告会社の設立登記がされ、Y一郎が代表取締役に就任し、Y雄はちづ子とともに取締役に就任。M治は本件規約書に「武蔵小山分店 二代目 重盛又治」との署名押印。ところが、その後、Y雄が別個独立した建物を建築するよう設計を変更。又治もこれに追随し、両者は独自に新店舗を建築。平成4年7月1日に被告(Y雄)の店が、また同月26日には原告又雄商店(M治)の店が開店。それぞれが菓子の製造販売を営むようになった。

 なお、M治は、平成3年12月6日、菓子製造販売等を目的とする有限会社広治を設立し、翌4年7月20日に有限会社重盛又雄商店に商号を変更、同日、旧又雄商店の商号を有限会社人形焼に変更したが、Y雄からの金銭請求を封じる目的で同有限会社解散。
 

②右新店舗建築中、M治とY雄はそれぞれ近所に仮店舗を設け、M治は「ゼイタク煎餅」を、Y雄は旧又雄商店で用いていた型を使って「重盛の人形焼」を製造販売新店舗開店後も、被告は右型を使って製造した人形焼を、その包装紙、袋、しおり、案内書、広告等に「東京名物 重盛の人形焼」の文字からなる標章を用いて販売「東京名物 重盛の人形焼」及び「重盛の人形焼」という文字を記載した看板を掲げて和菓子の製造販売。看板には「昭和13年創業」との表示も掲げる
 

③他方、原告永信堂は、平成4年6月に、M治、Y雄及び二人の兄であるM勝を呼んで被告が原告又雄商店に隣接して別個の店舗で営業していることの事情を問いただし、また、原告又雄商店においても「重盛の人形焼」との標章を用いた人形焼の製造販売をするよう求め、現在、原告又雄商店では、「ゼイタク煎餅」とともに原告永信堂から交付された型を用いて「重盛の人形焼」を製造販売している。
④原告永信堂は、平成5年11月16日、被告を債務者とする「重盛の人形焼」の標章の使用差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て(後に取り下げられた。)翌6年7月4日、原告又雄商店とともに本件訴訟を提起した。
 なお、原告永信堂は、平成3年5月17日に指定商品を人形焼とする「重盛の人形焼」との商標登録出願をし、翌4年12月8日に出願公告がなされたが、平成5年に至り、被告が登録異議を申し立てた。

(筆者コメント:なおJ-PlatPat「こちら」によれば登録されたようです。)


2.原告永信堂が暖簾分けの対象としているのは「ゼイタク煎餅」だけかについて

 被告は「重盛の人形焼」との標章はその対象にはなっていない旨反論ているところ、裁判所は以下認定・判断しました。
 「本件規約書の記載は「ゼイタク煎餅」に関するものにとどまり、「重盛の人形焼」を対象とした別個の規約書その他の書面が存する事実も窺えないし、分店・支店で製造販売される人形焼の生地の配合や値段について総本店の規制が及んでいるわけでもない」が、「永治は、「ゼイタク煎餅」が商標登録されていた関係からこれを対象とした「登録商標規約書」を作成し…、原告永信堂は、20年以上前に「重盛の人形焼」の商標登録出願をしたことが認められるが(このときは拒絶査定を受けている。)、かかる出願をしたこと自体、原告永信堂が「重盛の人形焼」との標章を暖簾分けの対象とし、その管理の必要性と標章の重要性を認識していたことが優に窺われる」。「一般に暖簾分けと称される行為は、老舗の営業主が、永年勤続して功労があり、技術的にも人格的にも信頼のおける使用人に対し、自己と同一又は類似の商号や標章を使用して、自己と同一又は類似の商品を製造販売することを許容し、これを許された者は、暖簾分けを受けて独立した後も本店と相携えて、取り扱う商品の品質の維持及び商号や標章の名声の向上のために協力、尽力するといった意味合いのものと解されるが、そこには、何らかの明文化された規約や取決めといったものも、商品に対する本店の厳格な規制が前提とされているわけではなく、本店と分店・支店間の暗黙の了解事項として、本店から使用を許された標章が何であるか認識されている場合もあると考えられる」。

 本件も「18ある分店・支店のうちのほとんどは「重盛の人形焼」との標章を用いて人形焼を製造販売しており」、「人形焼を製造販売していない1店舗を除く17店舗のうち、代表者が重盛姓でない支店は11店舗にも及んでいるのであるから、原告永信堂は、暖簾分けに際し、登録商標である「ゼイタク煎餅」とともに「重盛の人形焼」の標章の使用を許し、これを暖簾分けの対象としている」と認められる。 


3.「重盛の人形焼」の商品等表示としての周知性について
a)原告永信堂が製造販売する人形焼は、被告が営業を開始した平成4年7月1日までにも、和菓子を紹介する文献や旅行ガイドブック等に何度となく取り上げられ、b)原告永信堂の最寄りの地下鉄の駅には、看板や椅子等での宣伝広告がなされ、関東地域向けのラジオコマーシャルが流されたこともあり、c)原告永信堂の店舗がある人形町や水天宮界隈は、東京の観光スポットとしてガイドブックに取り上げられる場所で、東京以外からも原告永信堂宛に人形焼の注文があり、原告永信堂を知る者は広範囲に及んでいる。以上の点に加え、「原告永信堂は、その前身の個人営業時代の遅くとも昭和2年当時から、現在の店舗所在地で「重盛の人形焼」との標章を用いて今日に至るまで人形焼の製造を継続し」、その使用歴は、被告が営業を開始した平成4年7月1日までに少なくとも約65年に及ぶ」。以上を考慮し、裁判所は、たとえ原告永信堂が百貨店等における出店販売等を行っておらず、暖簾分けを受けた分店・支店でのみ「重盛の人形焼」の標章が用いられているに過ぎないこと及びテレビコマーシャルによる宣伝広告活動を行っていないとしても、「「重盛の人形焼」との標章は、原告永信堂が製造販売する人形焼及びその製造販売の営業を表示するものとして…被告が営業を開始した平成4年7月1日までには、少なくとも東京都及びその周辺地域の需要者に広く知られた」と認めました。


4.「他人」について

(1)判断基準

 不正競争防止法二条一項一号は、周知商品等表示のもつ出所識別機能、品質保証機能、公告機能及びこれによって取得される顧客吸引力を保護するものであるから、同号にいう「他人」には、特定の者から一定の関係に基づきある標章の使用を許された者も含まれると解するのが相当である

 

(2)本件に関する判断

 「原告永信堂の分店又は支店は、暖簾分けを許された者が総本店に備えられた本件規約書に署名押印することで、「重盛の人形焼」との標章を用いることが許され、現在東京都内及びその周辺において一八店の分店・支店が存するのであって、右一で見たとおり、「重盛の人形焼」との標章が原告永信堂の製造販売する人形焼やその製造販売の営業を表示する標章として周知であることに鑑みると、原告永信堂から暖簾分けを受けた各分店・支店についても、「重盛の人形焼」との標章は、原告永信堂から暖簾分けを許された菓子職人が製造販売する人形焼あるいは右暖簾分けを受けた者の営業であることを表示するものとして、遅くとも平成四年七月一日までには、東京都及びその周辺地域の需要者に広く知られた標章であると認めるのが相当である」。 

 「武蔵小山分店の二代目として原告永信堂の承認を得たのはM治であるから、同人が代表取締役を務める原告又雄商店が、武蔵小山分店として「重盛の人形焼」の標章の使用を原告永信堂から許されているものと認められ(法的には、M治が自己が経営する又雄商店に標章を使用させていることを原告永信堂が認めているものと解される。)、「重盛の人形焼」との標章は、原告又雄商店の商品表示ないし営業表示でもあると認められる」


 被告は、文献での紹介は「重盛永信堂(人形焼)」としか記載されておらず、「重盛の人形焼」とは載っていないと主張して、「重盛の人形焼」との標章の周知性を争うところ、裁判所は「「人形焼」が菓子の種類を表す一般名称化していることを考え併せると、「重盛の」という表記部分は「重盛永信堂の」という表記を省略し、当該商品の出所表示として用いられていることは明らかであるから、「重盛永信堂(人形焼)」との表示と「重盛の人形焼」との表示が同一の意味内容をもつことは容易に判別できるものと解されるし」、「前記ラジオコマーシャルでも、「人形焼なら重盛よ」あるいは「東京重盛人形焼」との歌が流されており、原告永信堂と無関係に「重盛」を冠したそれ以外の菓子店の存在を認めるに足りる証拠もないから、紹介記事の体裁から「重盛の人形焼」との標章に周知性が認められないとする被告の主張は理由が無く、その他の被告の主張も…採用できない。


5.誤認混同及び営業上の損害を蒙るおそれ
 「被告が、その製造販売する菓子である人形焼の包装紙、しおり、案内書に「東京名物 重盛の人形焼」の文字からなる標章を使用し、その菓子製造販売の営業に「東京名物 重盛の人形焼」の文字からなる標章、「重盛の人形焼」の文字からなる標章を用いている」。「「東京名物 重盛の人形焼」の標章中「東京名物」の部分は、商品が東京の名物であるという事実又は東京の名物といわれるものでありたいとの願望を表現するものであり、多くの商品や営業の商品等表示に使用されるものであるから、「東京名物 重盛の人形焼」の標章中自他識別力を有するのは「重盛の人形焼」の部分である」。「「重盛の人形焼」との標章は原告永信堂あるいはその分店・支店が製造販売する人形焼及びその製造販売の営業を表示するものとして、東京及びその周辺地域において周知であると認められるから、これと同一の文字からなり実質的に同一の標章(重盛の人形焼)又は要部がこれと同一の文字からなりこれに類似する標章(東京名物 重盛の人形焼)を用いて人形焼を製造販売している被告の行為は、被告が原告永信堂から暖簾分けを受ける等の形で許諾を受けるなどの業務上の関係があるものと顧客に誤信させる行為であると認められ、たとえ被告が原告永信堂の分店あるいは支店との表示をしていなくても、不正競争防止法二条一項一号にいう「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」に該当する。
 そして、被告の行為が、被告が原告永信堂から暖簾分けを受ける等の形で許諾を受けるなどの業務上の関係があるものと顧客に誤信させるものである以上、原告らは、被告の行為によって営業上の利益を侵害されるおそれがあると認められる。

(太字筆者)


Ⅱ.抗弁について
1.Y雄は原告永信堂からもM治からも、標章「重盛の人形焼」を用いた人形焼の製造販売の許諾を得たか

①原告永信堂が「重盛の人形焼」との標章使用を許諾していたか

 裁判所は以下の事実を認定し、被告の主張を採用できないと判断しました。
 M治の原告永信堂のE造に対する「一棟の建物としての店舗を半分に区分し、M治とY雄の仕事場を別々にして又治はゼイタク煎餅の製造販売を、好雄が人形焼の製造販売をそれぞれ担当し、会計(レジ)も別々にする旨を説明」について、「E造は、客に迷惑がかからないよう一つの店として違和感のないよう…指示」し、具体的な方策はM治とY雄に委ねた」。
a)原告永信堂は「ゼイタク煎餅」だけでなく、これと不可分一体のものとして「重盛の人形焼」の標章も暖簾分けの対象としていること、b)本件規約書では、原則として各分店・支店が一キロ以内に存在することを認めていないこと、c)「E造は平成4年6月に被告からの開店披露の招待状を受け取った後に、M治とY雄に加え兄のM勝までも呼んで、被告が原告又雄商店と隣接して別個の店舗で営業していることの事情を問いただしていること」、d)「同人が直接E造に新店舗の運営方法や使用する標章についての説明をしていないこと」、以上の事実を併せ考慮すると、「原告永信堂は、Y雄がM治と別個の店舗を構えて「重盛の人形焼」との標章を用いて人形焼を製造販売すること」、「ましてや、それが隣接する店舗であるなど周囲から好奇の目で見られる形態であること」は、「当初から予期していなかった」と認められ、「Y雄がM治と別個の店舗を構えた場合」まで「原告永信堂から「重盛の人形焼」との標章の使用を許されたとする被告の主張は採用できない」。

 

②M治がY雄に「重盛の人形焼」との標章使用を許諾していたか

 裁判所は「原告永信堂と無関係に分店内部の合意によって、許諾による「重盛の人形焼」との標章使用権が発生」せず、「原告永信堂との関係で右許諾の事実が認められない以上、M治とY雄との合意の有無は被告の抗弁として」意味はないが、「原告又雄商店の請求の当否との関係」で、「新店舗建築計画が持ち上がった段階で、Y雄から別棟の建物を建築したい旨の希望があったことの諸事実と…M治がY雄の右希望を明確に拒絶したことは窺われない」ため、M治とY雄の右分担合意は、同一店舗、一棟の建物という前提を抜きにしたものと解する余地もあるとしつつ、以下のように認定、判断しました。

 

 「別棟の建物を建築したいとの好雄からの希望があった段階で、両者の間で二棟の建物を建築する旨の合意が成立していたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって「内部を二つに区分した一棟の建物の設計計画が進行する中、M治とY雄との間では、客が双方の店舗を行き来できるように境の壁をくり抜き、閉店時にはシャッターで区切ることが話題に上っていたことが認められ、この限りでは、外観的には一つの店舗とするための方策が両者間の懸案になっていたことが窺われ」、また「原告永信堂の分店・支店の店長の集まりにはY雄も出席し…Y雄は20年以上にわたって旧又雄商店での営業に従事し、その間二人の兄の独立の経緯を間近に見て」、「Y雄は、「重盛の人形焼」との標章が「ゼイタク煎餅」と不可分一体のものであり、分店・支店間には原則として一キロ以上の距離が本件規約書上要求されていることを充分認識していたものと考えられ」、Y雄は、かかる点を考慮に入れて分担合意をしたものと考えられるし、もし、Y雄がこの点を度外視してM治は「ゼイタク煎餅」を、Y雄は「重盛の人形焼」をそれぞれ別個独立して製造販売することができるものと考えていたとするならば、端的にいってM治とY雄との間では、「重盛の人形焼」の標章使用に関する思惑の違いがあったことを意味し、そもそも被告が主張する合意は成立していないことに帰着する」。

 「M治がE造にした新店舗完成後の運営についての説明内容からしても、M治とY雄の間でなされた前記分担合意は、Y雄が旧又雄商店から独立するという当初の趣旨を生かしつつ、原告永信堂の意向や本件規約書の内容に反しないための妥協の産物として、M治とY雄の内部関係では、互いに別個の営業主体ないし経済主体としながらも、原告永信堂あるいは顧客との関係では、あたかも武蔵小山分店一店舗であるかの如き外観を装い、「ゼイタク煎餅」と「重盛の人形焼」の標章の分離と本件規約違反を回避することがその前提ないし条件とした合意であったと認められる」。(下線筆者)


 そもそも「Y雄はM治に対し、独立に際し種々の名目の金員を要求し、その金額も一億円を超える支払いを要求していたものと認められるうえに、金額的折り合いがつかずにY雄の独立話が具体化しない中、その対応に苦慮したM治が窮余の策として新店舗の建築という道を選び、E造に対しても暖簾分けの趣旨や本件規約書に抵触することのない新店舗の運営を説明し、一応の了解を得るところまで進んでいた経緯が看て取れる」。

 「Y雄がM治に相談しないまま独自に別棟の建物に設計変更した段階で、M治がY雄との交渉を諦め、いわばさじを投げた状況に立ち至ったとしても無理からぬものがあり、M治がY雄あるいは被告に対し、仮店舗や新店舗開店後の「重盛の人形焼」の製造販売に異議を述べなかったとしても、そのことから直ちに無条件の分担合意があったものとは認められない。「…店舗では「ゼイタク煎餅」と「重盛の人形焼」双方の製造販売をするだけの人的物的設備が整わなかったことも、M治がY雄に対し異議を述べなかった原因の一つであると認められる」。
 「したがって、M治とY雄との間に、好雄が「重盛の人形焼」の標章を用いて人形焼を製造販売する旨の無条件の合意があったとする被告の主張は採用できない」。


2 先使用について
 「「重盛の人形焼」の標章は、原告永信堂ばかりでなく、原告永信堂から標章使用を許された分店・支店をも合わせた商品表示ないし営業表示であると認められる」。「M雄は、原告永信堂の前身である個人商店重盛永信堂を経営する兄永治から昭和13年12月に暖簾分けを許されて右標章を使用していたものであるから、ある営業主体(他人)が用いる標章が周知性を獲得する以前から、これと同一又は類似の標章を右営業主体とは無関係に用いている第三者について認められる先使用の抗弁が妥当する場合ではない」。「仮に「重盛の人形焼」との標章が、総本店たる原告永信堂とは別個独立した、武蔵小山分店の用いる標章として認識できるとしても、それは、原告又雄商店及び被告の設立以前は、又雄個人商店とその営業を引き継いだと認められる旧又雄商店の営業ないし商品を示す標章として認識されるのであって」、「Y雄とその家族は、旧又雄商店から退職金の支払いを受けて旧又雄商店を退社し別個に被告を設立しており、その際、被告が旧又雄商店から営業譲渡等によってその営業を引き継いだものとは認められない」。被告は「不正競争防止法11条3項にいう「その商品等表示に係る業務を承継した者」に該当せず、先使用の抗弁の前提を欠く」。

 

■結論
 「「東京名物 重盛の人形焼」又は「重盛の人形焼」の文字からなる標章を人形焼(菓子)の包装紙、しおり、案内書に使用する行為、右各標章を包装紙、しおり、案内書に使用した人形焼(菓子)を販売し又は販売のために展示する行為、和菓子製造工場及び同販売店の営業に右各標章を使用してその営業を行う行為は、不正競争防止法二条一項一号に該当し、これによって原告らの営業上の利益を侵害するおそれが認められるから、原告らの、被告の右商品である人形焼(菓子)の包装紙、しおり、案内書及び被告の営業である菓子の製造販売への右各標章の使用の差止め及び被告の販売店の店舗の看板からの右標章の抹消請求は理由がある」。

 裁判所は、被告は「「東京名物 重盛の人形焼」の文字からなる標章又は「重盛の人形焼」の文字からなる標章を人形焼(菓子)の包装紙、しおり、案内書に使用し、又は右各標章を包装紙、しおり、案内書に使用した人形焼(菓子)を販売又は販売のための展示をしてはならない」とし、また「その和菓子製造工場及び同販売店の営業に「東京名物重盛の人形焼」の文字からなる標章又は「重盛の人形焼」の文字からなる表示を使用して、人形焼(菓子)の製造販売をしてはならない」とし、かつ、「その販売店の店頭に掲げられた看板から、「東京名物重盛の人形焼」の文字からなる営業表示を抹消せよ」等と命ずる判決をしました。

 

■BLM感想等

 本件で争いとなった表示は、菓子の商品又は製造販売等の営業に使用する「重盛の人形焼」でした。そもそも、かつてこれを商標出願した際は、拒絶査定を受けたとされています。したがって、商標法としてみれば、原告たる重盛永信堂が、「重盛の人形焼」の帰属主体を名乗る資格はないのではないか、とも思いますが、言葉は生ものです。その後、さらに「重盛の人形焼」の下で営業努力を重ねて、周知性も獲得するに至りますし、実際、商標登録もされているようです。

 そうすると、不正競争防止法2条1項1号の判断では、商標法とは別に、事実状態がどのようなものかを精査して判断していくことになりますが、本件の場合、「原告永信堂から暖簾分けを受けた各分店・支店についても、「重盛の人形焼」との標章は、原告永信堂から暖簾分けを許された菓子職人が製造販売する人形焼あるいは右暖簾分けを受けた者の営業であることを表示するものとして」周知性を獲得したと認められています。換言すれば同標章の出所は、以上のグループということになるかと思います。

 そして、武蔵小山分店の二代目として承認を得たのはM治なので、同人が代表取締役を務める原告又雄商店が使用許諾を受け

(なお裁判所は、法的には、M治が自己が経営する又雄商店に標章を使用させていることを原告永信堂が認めているものと解される、と解釈しています。)、「重盛の人形焼」との標章は、原告又雄商店の商品表示ないし営業表示でもあると認めています。BLMとしては、本事案で、M治も、原告として差止請求を行使できる立場にあるとの趣旨と解されます。

 また、裁判所は、M治の原告永信堂のE造に対する「一棟の建物としての店舗を半分に区分し、M治とY雄の仕事場を別々にして又治はゼイタク煎餅の製造販売を、好雄が人形焼の製造販売をそれぞれ担当し、会計(レジ)も別々にする旨を説明」について、「E造は、客に迷惑がかからないよう一つの店として違和感のないよう…指示」した点を重視しているように思います。この点は、標章に係る品質保証権限を行使しているかという問題につながっているように思います。表示の品質保証機能を保護する必要があるかという問題につながり、当該機能を害する者は、不正競争行為となるとの判断を導くことができそうです。

 本事案には、いろいろと興味深い論点があり、BLMとしてはもう少し検討して、また再考をアップしたいと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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