不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その4

本日も、原告の元従業員が新たに会社を設立し、原告と同種の業務を行ったことにより紛争となった事例を見ていきます。

  東京高判平15・12・25〔街路灯事件〕平15(ネ)3073、平15(ネ)4455

 

控訴人・附帯被控訴人 A
控訴人・附帯被控訴人 株式会社タカノ
被控訴人・附帯控訴人 株式会社関東ライティング

 

■事案の概要  

 控訴人タカノ及び被控訴人は、商店街等に設置する街路灯等の販売等を業とし、控訴人Aは,被控訴人の元従業員で退職後、控訴人タカノに入社。被控訴人は、控訴人タカノが、控訴人A等、被控訴人の従業員を引き抜き、既に成立又は成立がほぼ確定するかしていた被控訴人と複数の商店会との街路灯の設置販売契約を破棄させるなどした上、被控訴人の商品に類似した街路灯をそれら商店会に販売したとして、控訴人らに不正競争防止法、合意に基づく競業避止義務違反等を理由に、損害賠償等の支払を請求しました。また、商店会には売買契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をしました。原判決は控訴人らに対する請求を一部認め、その余を棄却したため(不正競争防止法2条1項1号の成立は否定)、敗訴部分の取り消しを求め控訴人が控訴したのが本件です。

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.控訴人らの主張1(土手町会及び原市会との工事請負契約の成立の蓋然性)について

 裁判所は、「被控訴人の担当営業員が、断続的ではあるものの、いずれも昭和63年ころから、まず商店会の役員等の主立った構成員を訪問し、街路灯設置の必要性・設置した場合の利点等を説明し、その気運を、商店会の構成員全体に広げるなどし」、合意成立後「街路灯設置に対する補助金の受給のための申請手続も、上記担当営業員が補助していた」点、その一方「上記…気運が醸成され、設置自体についてはある程度確定的な意思決定がなされ、他方で、被控訴人がその気運の醸成に大きく寄与し、街路灯設置の本契約…に至る過程のものとして、器具註文書等が、被控訴人と上記各商店会との間で作成されて」、本件各合意が成立した点、さらに「被控訴人は、その後も、街路灯設置を実現すべく、補助金の申請手続を手伝うなどしていた」点を認定しました。そして「被控訴人の担当営業員、ひいてはその雇主である被控訴人自体と、上記各商店会ないしその主立った構成員との間に一定程度以上の良好な関係が形成されてきた」と認め、かかる状況下、被控訴人が、上記各商店会から、街路灯設置を請負う高度の蓋然性があった」と認めました。

 なお、被控訴人と上記各商店会との間の器具註文書には「2.助成金が確定するまで着工致しません。」等との内容の文言があるが、「上記各商店会が,現実には,補助金を多く受給して自己負担を零にすることを意図していたとしても、上記文言から、そうならない場合に街路灯の設置を白紙撤回することを考えていたとまでは認めることができない」等と判断しました。
 

Ⅱ.当審における控訴人らの主張2(違法競業行為)について

 裁判所は、「要するに,原判決は,控訴人Aが,B,C及びDの営業活動を指揮する立場にあり,同人らの行った営業活動は,控訴人A自身が行ったものと同視できることを前提として認定しつつ,B,C及びDの営業回りの回数を認定しているもので」、「控訴人A自身の営業行為の有無を認定する必要はな」く、「B,C及びDのいずれかが,控訴人Aが本件競業避止義務を負う期間内において、土手町会及び原市会に対し、控訴人Aの指示に基づき一定以上営業行為をしたこと自体が認定できれば十分であり、その間の回数まで正確に特定することまでは必要ではない」とし、「控訴人Aが本件競業避止義務を負う」までの間に,土手町会について,Bは14回程度,Cは4回程度,原市会について,Bは18回程度,Dは1回程度,営業に赴いていることが認められる」とし、「原判決の、控訴人Aの本件競業避止義務違反の認定に欠けるところはない」と判断しました。

 

Ⅲ.当審における被控訴人の主張1(被控訴人商品1の形態の特別顕著性等)について

 被控訴人は、その商品1の形態が,商品等表示の著名性を主張しましたが、裁判所は「埼玉、千葉、東京及び栃木に所在する、極めて多数に上ると推認される商店会において、平成3年度から平成7年度までの間に、被控訴人商品1を購入した商店会は34にとどまることの事実は、被控訴人商品1の形態の著名性を否定する方向に働く」としています。そして「開発にかけた費用の額の多寡と,被控訴人商品の商品等表示としての著名性との間に,直接の関連性はな」く、「また、営業活動の程度・範囲は、確かに商品等表示の著名性と関連する要素ではある」が、「結果としてどの程度流通(本件の場合設置)されているかの方が、より重要な要素である」と判示しました。また「被控訴人は、商店会の役員等は、この種街路灯に興味を持っており、これらの者の間で、は特別に顕著な形態であった、と主張」するも、「そのような者たちが、一般的に、街路灯に特に興味を持ち,注目し,微細な差異についてまでこれを顕著と認識できる、と認めるに足りる証拠はない」と判断しました。

 

Ⅳ.当審における被控訴人の主張2(違法競業行為)について

 被控訴人は、「控訴人らは、当初から被控訴人の取引先を奪うことだけを目的としていて動機の悪性が高く、控訴人Aの、被控訴人在職当時の怠業行為も含めて、行為態様も悪質であり、これにより、被控訴人が多大な費用と時間をかけて構築した有形無形の営業努力の成果が奪われ、代表者の死亡・被控訴人の倒産という深刻な結果を生じたこと等を列挙し、これらを総合して、控訴人らの競業行為の違法性を強調するものでもある」と理解できるとし、「この主張の中には、控訴人Aが、Bらに働きかけ、被控訴人の文書の写しをとらせたり,控訴人タカノへの移籍を勧誘するなど」事実と認めることのできるものもあるとしました。しかし「西上尾商友会との関係では,器具註文書はおろか,説明会の開催にすら至っておらず,逆に,平成5年6月ころ,同商店会は同業他社と仮契約済みであったことに照らせば、同商店会と契約し、利益を得る高度の蓋然性があったとは認められない、との原判決の判断は相当で」、控訴人Aの損害賠償義務を否定しました。

 

Ⅴ.結論
 裁判所は「その余の点について判断するまでもなく,原判決は相当であって,本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないことが明らかである」等としました。

 

■BLM感想等
 元従業員が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員が従前の会社の製品の形態とある程度同じものを製造販売する場合、当該会社は元従業員に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。前々回のシャーレンチ事件、前回のネットスクール事件は元従業員と会社との間で紛争が生じた事例で、本件も同様の事例ですが、本件では、不競法2条1項1号の問題については、商品(本件では街路灯)の形態の商品等表示性を特に判断せず、周知・著名性を否定することで同号該当性の結論を導いています。

 もっとも、本件の争点は、控訴人Aの競業避止義務等にあると解され、この点、当該義務を負うまでの間に、控訴人Aの指示に基づき、B,C及びDが土手町会と原市会に何度か営業に赴いたことにつき、同違反が認められています。不競法2条1項1号との関係で考えると、一定の期間を過ぎれば、元従業員らは、原告製品の形態と同一又は類似の形態を有する製品を製造販売することは認められるといえます。但し、前々回のシャーレンチ事件、前回のネットスクール事件と異なる点は、元従業員が真に欲したのは、街路灯の形態・デザインを製造できるか否かではなく、「商店会の役員等の主立った構成員を訪問し、街路灯設置の必要性・設置した場合の利点等を説明し、その気運を、商店会の構成員全体に広げるなどし」て形成した、商店会との関係自体にあるといえるのでしょう。

 そうすると、控訴人が競業避止義務を負う期間を経過後は自由に同一又は類似の街路灯を商店会に販売していくことが可能となるわけで、被控訴人としては、街路灯自体の性能や景観におけるデザイン性を高めて差別化し(又は不要なデザインを削いで価格を安くするという手もあるかもしれません)、より販促活動を強化して街路灯の設置数とその売り上げを伸ばしていくことが必要となるのでしょう。もっともそれだけでは戦えないとなると、街路灯の開発や補助金の獲得・設置のみならず、メンテナンス、さらにこれから発展して商店会の景観や昼夜の防犯等といったサービスが充実し、街路灯の形態がそのビジネスの出所識別標識となるような取り組みがなされるなどして商店会の関係をより強固にしていく、という戦い方もあるのかもしれません。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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