不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その2

本日も、原告の元従業員が新たに会社を設立し、原告と同種の業務を行ったことにより紛争となった事例を見ていきます。

  東京地判平25・11・29〔ネットスクール事件〕平24(ワ)18701(知財高判平成26・4・22〔同・控訴審〕平26(ネ)10009

 

■事案の概要

 本件は、原告が、[1]被告らの背信的な引き抜き行為があったなど主張し不法行為に基づく損害賠償請求等求め、また、[2]原告発行の簿記検定試験受験誌が切り離し式暗記カードを付けているところ、被告会社がこれを模倣しているから、原・被告の商品等表示が同一又は類似で、原告の編集著作物の侵害であるなどとし不法行為に基づく損害賠償請求、不正競争防止法3条1項又は著作権法112条1項に基づく差止請求として,被告会社発行の簿記検定試験受験誌に切り離し式の暗記カードを添付等した出版等行為の禁止を求めた事案です。原告及び被告会社は、ともに教育出版物の企画・編集・発行、各種資格取得に係る教育事業等行い、被告Xは元原告の講座運営本部を統括するゼネラルマネージャー(GM)を務めた後退職し、被告会社出版事業部の事業部長の職にありました。また、原告従業員A、B、C、Dは、被告Xの退職と同時期に原告を退職し、被告会社に転職しています。

 

■争点

 争点は5つありましたが、下記争点4に対する判断を主に見ていきます。なお、争点1に係る被告らが違法な引き抜き行為があったか、については裁判所は「被告Xがその退職時に原告従業員に対してした働きかけは,社会的相当性を逸脱したものとは認められ」ず、原告の就業規則や社員契約における競業禁止義務や兼業禁止規定を根拠とする主張に対しこれらの規定が「存在するからといって,上記被告Xの行為が違法となるものとはいえない」と判断しています。

 

  争点4 不正競争防止法3条1項に基づく差止請求の成否

 

 

■当裁判所の判断

本事案では、不競法2条1項1号の「不正競争」の成立要件のうち、「商品等表示性」が問題となりました。

 

1.判断基準

「商品の形態は,商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが,ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し,かつ,それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され,又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,商品の形態が同号により保護されることがあるものと解される。」(前回の大阪地判平9・12・25〔シャーレンチ事件〕平7(ワ)2319の判断基準と同旨ですね。)

 

2.本件に関する判断

 原告が「原告受験誌は,〔1〕切り離し式の暗記カードをつけてきたこと,〔2〕イベントを設営して受講生を募集し,上記イベントを上記受験誌の宣伝販売等と連動させてきたこと,〔3〕表題を印刷した本扉頁をつける旧来のオーソドックスな手法に捉われることなく,表題を印刷した本扉頁を省略する編集形態を採ってきたこと,〔4〕読者の目につきやすい表紙の裏面も有効活用するため,あえて裏面部分にダイレクトに文字を印刷してきたことの4点において,同種の商品と識別し得る独自の特徴,独創性を有する」などとして、上記〔1〕~〔4〕の形態が1号の商品等表示として保護される旨主張するのに対し、裁判所は以下のように判断しました。

 すなわち「商品の形態とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩及び質感をいう」(法2条4項参照)から、上記〔2〕、〔3〕は、「アイデアであるとはいえても,商品の形態であるとい」えない。

 「また,上記〔1〕について,具体的には,原告第130回受験誌では,A4版の紙面1枚のうち,縦29.7cm横20cmの部分について,縦約5.9cm横10cmに分けて切り目(ミシン目)を入れ,切り離しができる10個の暗記カードを作成し,カードの表に問題をカードの裏に解答を記載して,合計25個の暗記カードを添付し…これらの暗記カードは,予想問題,答案用紙,解答・解説の合計95頁(第130回)又は90頁(第131回)からなる原告受験誌において6頁を占めるにすぎ」ず、「切り離し式という機能に着目するものであって,具体的な暗記カードの形態について主張するものではなく,このような暗記カードを受験誌である原告商品の形態と認めることは困難である」。


 そして「無敵の簿記 03年6月検定まるごと直前対策 2級」(ダイエックス出版・平成15年3月30日発行)では,B5版の紙面1枚のうち,縦25.7cm横16.8cmの部分について,縦約5.1cm横8.5cm・8.3cmに分けて切り目(ミシン目)を入れ,切り離しができる10個の暗記カードを作成し,カードの表に問題をカードの裏に解答を記載して,合計70個の暗記カードを添付していたこと,同様にB5版の書籍である「いざ!合格 無敵の社労士 2002-直前対策」(ダイエックス出版・平成14年7月17日発行),「無敵の宅建2003-1」(ダイエックス出版・平成15年6月18日発行)でも,紙面1枚のうちに切り離しができる10個の暗記カードを作成して,暗記カード合計80枚を添付していた…。そうすると,仮に,切り離し式の暗記カードが商品の形態であるとして検討しても,目新しいものではなく,ありふれたものであって,他の商品と比較して顕著な特徴を有するものではな」く,1号の商品等表示に該当しない。

 

 なお、上記「ダイエックス出版」とは、原・被告以外の会社です。裁判所は、引き抜き行為の違法性判断において、被告Y1が昭和54年に入社した会社で,その出版部門である「大栄出版」(後に「ダイエックス出版」)の創設に関わり,後に専務取締役事業本部長に就任したが、同社の営業譲渡に伴い,その営業譲渡を受けた会社に移籍し,さらにその後原告に入社した旨事実認定しています。また、G及びHは,被告Y1のダイエックス在籍時の部下であり,被告Y1と同時期に原告に入社、Iは,ダイエックスに入社し,その後,転職を経て,原告に入社した旨事実認定しています。

 

 「上記〔4〕の表紙の裏面にダイレクトに文字を印刷することは,商品の形態とは認めが難いし,仮に,これを商品の形態としてみても,上記「無敵」のシリーズ…で既に採用され」、「他の商品と比較して顕著な特徴を有」せず,1号の商品等表示に該当しない

 

 裁判所は、以上のとおり,原告受験誌の切り離し式の暗記カード等の1号の商品等表示性を否定し、その余について判断するまでもなく,被告受験誌が不正競争防止法2条1項1号に該当するとは認められないと判断しました。

 

 

3.本件に関する他の判断

 争点5の著作権法112条1項に基づく差止請求の成否について、原告は,〔1〕切り離し式の暗記カード,〔2〕予想イベントとの連動,〔3〕本扉頁を省略する編集形態,〔4〕表紙の裏面部位にダイレクトに印字する編集形態を選択したとして,これらの4点において,編集著作物である旨主張するところ、裁判所は「著作権法12条1項は,編集物でその素材の選択又は配列に創作性のあるものを著作物(編集著作物)として保護する旨を規定するが,これは,素材の選択・配列という知的創作活動の成果である具体的表現を保護するものであり,素材及びこれを選択・配列した結果である実在の編集物を離れて,抽象的な選択・配列方法を保護するものではない」との判断基準を示し、上記〔2〕〔3〕は「抽象的な選択あるいはアイデア」で、「原告受験誌の具体的表現」ではなく、また、上記〔1〕について「被告第131回受験誌の問題の選択、配列の内容」は、「原告第130回受験誌及び原告第131回受験誌の内容とは全く異なっており、原告の主張する切り離し式の暗記カードの編集著作物性の有無にかかわらず,侵害が成立しない」などと判断しました。上記〔4〕の表紙の裏面部位にダイレクトに印字する編集形態は「素材の選択,配列を主張しているもの」ではないと判断しました。結果、編集著作物を侵害を否定しました。

 

 

■BLM感想等
 元従業員が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員が従前の会社の製品の形態とある程度同じものを製造販売する場合、当該会社は元従業員に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。前回の大阪地判平9・12・25〔シャーレンチ事件〕平7(ワ)2319もそうでした。但し本件の簿記検定試験受験誌が切り離し式の暗記カードの原案は、原告の元従業員が、原告入社前に在籍していた会社で企画・製作等した商品のようでした。

 

 新卒で一つの会社に定年まで働き続けることは少なくなりつつあり、一方、会社が事業譲渡や合併等でそこに所属する人々が自分の意に反して異なる会社に所属することにもなる時代にあって、その転々とする所属先で、各人がアイデアを何度かカタチにしていき、ある時点で一定の完成品(又は表現)として需要者に受け入れられるに至ることも多いと思います。

 

 本件では、原告は、原告発行の簿記検定試験受験誌が切り離し式暗記カードを付けているという形態が、原告の商品等表示に該当すると主張し、その特徴的な構成要素をいくつか主張しましたが、その一部はアイデアにすぎず、その一部は機能にすぎず、その一部は、仮に商品の形態としてみても、第三者の商品(出版物)で採用され顕著な特徴とはならないと判断されました。 

 

 不正競争防止法2条1項1号の商品等表示性の判断において、上記判断基準で示されたように、「商品の形態は,商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではない」のですが、会社としては、従業員の企画等した商品の形態(本件では簿記検定試験受験誌が切り離し式暗記カード)を、いったんその会社のコントロール下におく作業を経る必要があるのだろうと思います。コントロール下におくとは具体的にどういうことか? この点については、伝票式会計伝票事件が参考になるかもしれません。次回はこの事件についてみていきたいと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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