不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その3

本日も、原告の元従業員が新たに会社を設立し、原告と同種の業務を行ったことにより紛争となった事例を見ていきます。

  東京地判昭61・1・24〔伝票式会計伝票事件〕昭53(ワ)11905
(関連:福岡地判昭60・3・15〔会計用伝票販売差止請求事件〕昭56(ワ)1262、昭56(ワ)2202)

 

原告・株式会社ミロク経理  被告・株式会社日本ミロク票簿

 

■事案の概要  

 原告は、その製造販売等する伝票会計用伝票(原告伝票)がその形態上の特異性及び長年にわたる全国的にほぼ独占的に普及販売してきた実績により、その形態自体で原告の製品であることを示す表示として周知性を獲得しているため、これと同一又は類似の被告が製造販売する伝票会計用伝票(被告伝票)に対し、不正競争防止法1条1項1号(現行法2条1項1号)の不正競争に該当するとして差止等求めた事案です。被告は、原告の元取締役SKが代表取締役となり設立した株式会社です。

 

■主張の概要

 本件は、不正競争防止法1条1項1号(現行法2条1項1号)に基づき、被告伝票の製造販売帆布の差止と、その原版の廃棄及び損害賠償を求めるもので、これに対し、被告は、「(1)本件伝票の形態上の特徴は、伝票の技術的機能に由来する必然的結果であるから不正競争防止法上の保護は求めえない、(2)本件伝票の形態は、出所表示機能を有する商品表示とはいえない、(3)…本件伝票の形態が周知性を獲得する以前から、被告伝票の形態を使用していた者から、善意でその使用を承継した」(判タ608号 122頁引用)などと主張しました 。

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」該当性

 本事案でも、1号の「不正競争」の成立要件のうち、「商品等表示性」が問題となりました。裁判所は、原告の主張は、1号の「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当することを前提とするから、まずこの点につき判断するとしています。

 

1.判断基準

(1)「商品の形態は、一次的にはその商品の目的とする機能をよりよく発揮させるための技術的要請ないし需要者の嗜好を考慮した美感等の観点から選択されるものであって、商品の形態の果たす技術的機能ないし美感等にのみ着目して需要者が商品を購入する限りにおいては、その商品の形態が特定人の商品たることを示す表示とはいえないことが明らかである。しかしながら、技術的要請ないしは美感等への配慮の制約の範囲内ではあっても、ある商品の形態が他の同種商品の中にあって特別顕著性を有する場合、永年にわたり排他的に使用されてきた場合、その形態に関して強力な宣伝が行われてきた場合あるいは、それらの事情が複合的に生じた場合には、その商品の形態が、二次的にではあるが、出所表示機能を備えるに至ることがあり、この場合には、商品の形態自体が特定人の商品たることを示す表示に該当すると解すべきである。」(前々回のシャーレンチ事件、前回のネットスクール事件の判断基準と同旨と言えそうですね。)

 

(2)本件では、被告は、本件伝票の形態は、技術的機能に由来する必然的なものなどと主張したのに対し、裁判所は、次のように判示しました。すなわち、「商品の形態は、…通常は、一つの技術思想、一つの美感等への配慮から構成されるものではなく、各種の技術思想ないし各種の美感等への配慮の集積の結果であって、場合によっては、これらの理由がないにもかかわらず選択される形態部分も加わって形成される…。このような場合、商品の形態の特徴は、単に右の諸要素を並列的に挙示することによって、示されるものではなく、これらの組合わせのあり方のなかに存する…。したがって、…その形態の特徴の中から代表的なものをいくつか抽出し、これを抽象的文言で羅列した場合、かならずしも、その商品の形態上の特徴を示したものとはならず、それらの特徴がいずれも技術的機能に由来する不可避的な形態であると述べてみても、何ら意味をなさない」。

 

2.本件に関する判断

(1)「本件伝票すべてに共通する形態は、(一)伝票の左右両側に整理穴スペースがあり、このスペースに等間隔に縦方向に整理穴が設けられていること、(二)伝票の第一行の上辺及び最下行の下辺には余白がなく、これら上辺及び下辺の各側縁がそれぞれ伝票の上下の枠線を構成しており、各欄に月日、摘要、金額その他が記入できるようになっていること、(三)整理穴スペースの区分線、金額欄と集計欄、予備欄と他の欄との区分線は中罫線を用い、他の行線、金額の位取線は細罫線を用いていること、(四)二枚ないし六枚組で複写式となっており…、右各組中の伝票の罫線及び文字は、紺、緑、橙、灰、黒等の色でカラフルに着色されていること」である。

 

(2)「…形態中から抽出し、抽象的文言で表現した特徴であって…これらが技術的機能に由来するとの側面を有していたとしても、直ちに、被告主張のような結論を出すことはでき」ず、「本件伝票と被告伝票の備える特徴を抽象的文言で表現した部分においてすら、必ずしも技術的機能に由来するものでない」。「それのみならず、本件伝票が一つの技術思想そのものの具現ではなく、各種の技術思想にそれ以外のものも加わって、それらが組み合わされて一つの商品の形態とな」り、「たとえそれら組合わせの材料の構成が技術的機能に由来するものであったとしても、その組合わせもまた、直ちに技術的機能に由来するということはできないから、本件伝票の全体的形態がすべて技術的機能に由来する不可避的なもの」ではない。
 

Ⅱ.周知性

 裁判所は、以下3点を認定事実として挙げています。
 第一に、昭和40年頃から現在まで、本件伝票のほかに、伝票会計用伝票としては、幾つか製造販売会社とその伝票があるが、「本件伝票とは一見して明らかに異って」いるなどの点、他の原告元従業員が、昭和46年ころ、SSビジネスフォームコンサルタントの名称で製造販売した本件伝票に類似する伝票会計用伝票があるが、原告は別途製造販売の差止を求める訴を提起し、同事件は現在最高裁判所に係属中である点、一方、本件伝票の販売実績を挙げたうえ、需要者は税理士等の職業会計人を除いても二万社近くに及び、伝票会計用伝票の販売市場においては圧倒的なシェアを維持してきている点を認定しています。
 

 第二に、本件伝票は、鈴木安平氏考案の伝票会計のシステムを商品化したもので、同氏は、右システムを普及するために昭和32年、経税理実務協会(ミロク経理協会と名称変更)を設立し、本件伝票の製造・販売・普及・指導を行っていた点、昭和38年、株式会社ミロク(その後原告名に商号変更)が設立され、本件伝票の普及・指導部門を前記協会が担当し、製造・販売部門を同社が担当するようになり、昭和42年には、普及、指導部門も原告が担当するようになり、昭和48年以降、ミロク経理協会の名称も使用されなくなったが、原告は一貫して本件伝票(形態はほぼ当初から同一。)を統一されたシステム(ミロク式票簿システム等)として製造販売してきた点を認定し、かつ、統一されたシステムとは「本件伝票のすべてに共通する形態的特徴を含む本件伝票の全体的形態及びその目的とする伝票会計用伝票の統一された使用方法などによって形成されたもの」と認定しています。
 

 第三に、原告は、設立当初から、ミロク経理協会の単名又は同協会と株式会社ミロクの連名で、また昭和48年以降は原告の単名で、各雑誌にほぼ毎月本件伝票を広告し、日本経済新聞にも本件伝票の広告を掲載等し、全国的に宣伝してきた点、本件伝票の販売方法は、新規に購入者に、原告から各企業の経理係宛に本件伝票の説明講習会開催の案内を記載したダイレクトメールを郵送し、講習会に参加した需要者に本件伝票の技術的特徴、利点を説明し、同時に伝票の記入方法、帳簿の編綴方法を指導し、その後講習会参加者を個別に訪問して、企業実態にあった使用方法等を指導して行うのが一般的であり、企業訪問等による販売方法でも個別的指導が必要で、このような講習会は、昭和46から53年まで合計708回全国各地で開催、合計3万5,000人が参加した点を認定しています。

 

 第四に、本件伝票は消耗品で需要者は日々使用し、順次新たな伝票を購入し、通常は、本件伝票の需要者である企業の会計担当者、職業会計人などは一旦その使用方法を習得したら、指導を継続せずとも機械的作業でこれを使用でき、本件伝票は、最初に購入する需要者は、技術的観点に着目してこれを購入するという傾向にあるとしても、一旦使用を継続することとした需要者にとっては必ずしも常に技術的観点にのみ着目してその使用を継続しているのではなく、二次的にではあるにせよ、その形態の示す出所に着目してこれを購入し使用継続している側面もあると認定しています。

 

 上記認定事実により、裁判所は以下のように判断しました。

「本件伝票の、いずれも統一されたシステムを構成する…各特徴を含むその全体的形態は、その永年にわたり伝票会計用伝票の販売市場をほぼ独占し、大量に販売されてきた実績、永年にわたり継続的に宣伝広告がなされてきたことに加え、他の伝票会計用伝票に比して一見して明らかな特色ある全体的形態であることにより、遅くとも昭和五〇年ころまでには、日本全国の会計担当者、職業会計人等の会計事務を行う需要者において広く認識された、原告の商品たることを示す表示となった」。

 

Ⅲ.出所の混同

 原・被告の両伝票は同一又は極めて類似したものと認定したうえ、相違点についても「本件伝票も被告伝票もそれを構成する個々の伝票に着目されるというよりは、これを一括して一つの伝票会計用伝票として認識されるものというべき」とし、両伝票が「全体的に対応して同一もしくは極めて類似している中にあっては、右は、些細な相違点といってよいものであって、両者の形態は、識別全くないし極めて困難である」と判断しました。
また、販売において、同封されるパンフレットの体裁等も類似し、原告名と被告名も、「ミロク」との経理伝票販売業者の名称としては特殊な部分が共通し、被告の設立されて間もない昭和52年当初から、被告の価格表には「票簿システムのパイオニア」との表示がなされていたことが認められる事情が加わって、本件伝票と被告伝票とが混同される状況が生じていたものと認定しました。


Ⅳ.先使用の抗弁及び権利濫用の抗弁について
 被告は、被告の代表者SK及びその父鈴木安平は、原告の設立後も本件伝票を独自に販売継続してきたと主張するけれども、鈴木安平の主宰するミロク経理協会は、昭和42年頃からは実体が存せず、原告の本件伝票の普及・指導をする一部門となっており、昭和48年以降は同協会の名称も消滅し、鈴木安平は、本件伝票の統一的システムの基本となる実用新案権を原告に実施許諾する者との立場及び原告の最高顧問としての立場をも兼ね、SKは、昭和42年以降は原告の取締役の地位にあり、両名が個人として本件伝票の販売を行ってきたことを認めませんでした。そうすると、周知性獲得以後に被告伝票の販売を開始した被告について、その先使用の抗弁も、被告の権利濫用の抗弁も認めませんでした。

 

Ⅴ.結論

 裁判所は、被告伝票の製造、販売、頒布の差止、侵害の予防に必要な措置として、被告の所有する被告伝票及び右伝票の製造に使用する原版の廃棄、損害賠償の請求を認めました。

 

■BLM感想等
 前々回のシャーレンチ事件、前回のネットスクール事件は元従業員と会社との間で紛争が生じた事例で、本件は、元取締役である点で相違するものの、同様の事例と解することができそうです。但し、本件は、原告の元取締役で被告の代表取締役となった者が、伝票会計のシステムを考案した鈴木安平氏を父にもつという点で、被告が、その父の考案を主体的に商品化していれば、商品等表示の主体と認められる余地もあったかもしれません。しかし、周知性の判断で裁判所は「本件伝票の、いずれも統一されたシステムを構成する…各特徴を含むその全体的形態は、その永年にわたり伝票会計用伝票の販売市場をほぼ独占し、大量に販売されてきた実績、永年にわたり継続的に宣伝広告がなされてきたことに加え、他の伝票会計用伝票に比して一見して明らかな特色ある全体的形態である」点を認め、かかる周知性への貢献は原告にあるとし、原告を商品等表示の主体と認めました。

 本件は、技術的形態除外説を否定した裁判例として着目する見解もあると思いますが、BLMとしては、むしろ、一定の特徴ある形態を打ち立て、その一貫性を保持しながら継続的に使用し、その形態の下でビジネスモデルを構築したことにより、その形態が出所識別性又は「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」該当性を獲得し、ひいては、周知性を獲得した事例として注目すべき事案と考えます。前回のネットスクール事件で〝商品の形態(前回の件では簿記検定試験受験誌が切り離し式暗記カード)を、いったんその会社のコントロール下におく作業を経る必要がある〟と述べましたが、本件事案で認定されたようなことが、このコントロール下におく一つの例になるのではないかと考えました。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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