8月2日の記事、 8月4日の記事8月6日の記事では、鍵関連の事業者において、内部分裂が起こった場合に、不正競争防止法2条1項1号における差止請求主体(特に「他人性」)について考えました。今日も、同様の問題意識で、ファイアーエムブレム事件について、特に、請求主体に焦点を絞り見てたいと思います。 BLMは、ゲームはほとんどしない(インターネット通販の日常雑貨や、アンティーク食器・家具、洋菓子・和菓子関連のサイトを見て時間を過ごす方が幸せなにやりラブラブ)のですが、弁理士としては外せない裁判例。ここはひとつ頑張って判決文(今日は東京地裁)を読んでいこうと思います。

(判決文:最高裁HP「こちら」。引用文は「」をつけ、それ以外は、BLM任意に抽出しまとめています。太字・着色・改行:BLM。)

 

東京地裁平成13年(ワ)第15594号 平成14年11月14日判決

事案の概要

 被告株式会社エンターブレイン(以下、Y2)(代表:被告A)及び被告有限会社ティルナノーグ(以下、Y1)(以下、被告Yら)は、プレイステーション版ゲームソフト「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」(発売元:被告Y2。以下、被告ゲーム)を共同製作し、被告ゲームの旧名称は,「エムブレムサーガ」であり、被告Y2らは、ゲーム雑誌、インターネットの公式サイト、テレビコマーシャル等でこの表示を使用し、その後,被告らは、被告ゲームの名称を旧名称から上記現名称に変更しましたが、その後も、第三者によって「エムブレムサーガ」の表示の使用が続けられる等していました。

 被告らは,平成13年5月24日以降,被告ゲームを「(c) 2001 ENTERBRAIN,INC. (C) 2001 TIRNANOG Co.」の表示の下で販売し、加えて、被告Aは,被告Y1の代表者であり、被告ゲームが原告ゲームをプレイステーション版に移植したゲームであるかのように装うために,被告Y1の代表者として被告ゲームの製作行為に主体的に関与しました。

 

 かかる被告らの行為に対し、原告任天堂株式会社(以下、X1)及び原告株式会社インテリジェントシステムズ(以下、X2)は、原告ゲームにおける「ファイアーエムブレム」との表示及びその略称である「エムブレム」との表示、並びに、原告ゲームであることを示す別紙影像等目録記載(目録は「こちら」。最高裁HPより。)の特徴ある影像とその変化の態様は,いずれも原告ゲームの商品表示であり,周知性ないし著名性を具備しているとして、これと同一又は類似の商品等表示に係る「プレイステーション版ゲームソフト「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」(発売元:Y2)」の製造、販売等について差止めを求め、かつ、X1及びX2に対し損害賠償請求を求めた事案です。

 なお、 原告X2は、ゲームソフト「ファイアーエムブレム」の表示の下で、計5つのゲームソフト「暗黒竜と光の剣」、「外伝」、「紋章の謎」、「聖戦の系譜」、「トラキア776」(併せて「原告ゲーム」と総称。)をファミコン又はスーパーファミコン用に製作し,原告X1は,原告ゲームを製造,販売していました。

 

当事者

・原告X1は,家庭用ビデオゲーム機及びゲームソフト等の開発,製造,販売等並びにキャラクター商品化業務等を業としする会社、原告X2は,コンピューターソフトウエアの設計,販売等を業とする会社です。
・被告Aは、原告X2の元従業員(退職時における役職・開発部部長)、被告Y1は、コンピュータソフトウェアの設計,販売等を業とする会社(代表者:A)、被告Y2は,株式会社アスキーの子会社として書籍・雑誌の出版,販売,コンピューター関連のソフトウェアの製造販売等を業とする会社です。

 

裁判所の判断

■原告X2の不正競争防止法2条1項1号,2号にいう「他人」該当性

 原告らは「ゲームソフトという商品は,コンピュータープログラム化されたゲームソフトをROMに固定してなる商品であるという,商品としての特質」や、「原告X1と共同して,原告ゲームにつき平成2年の「暗黒竜と光の剣」の発売時点から商品化事業を開始し,現在に至っている」点から、「原告X1が販売する商品である原告ゲームについて,その商品の需要者の間で信用,名声を形成している主体は,良質のゲーム内容のゲームソフトを独立して業として製作したゲーム製作会社である原告X2と,これを最終的に監修してカートリッジに複製製造し,宣伝広告して販売をした原告X1の両者である」と主張しました。
 すなわち、「原告X2は,原告X1と共に,原告ゲームの製作,販売,商品化事業の展開を相互に協力して10年以上もの長期にわたって継続し,原告ゲームの商品表示の出所表示機能,品質保証機能,顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に,緊密な営業活動を行ってきたのであるから,原告X2が,原告X1と共に,不正競争防止法2条1項1号,2号の「他人」として,同法に基づく請求権を有することは明らかである(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁(以下「プロフットボール事件上告審判決」という。)参照)」と主張しました。

 なお、原告らは「裁判例の中には,実用新案権者あるいは著作物使用許諾者であることのみでは不正競争防止法に基づく請求権者たり得ないと判示するものがある(最高裁昭和61年(オ)第30号第31号同63年7月19日第三小法廷判決・民集42巻6号489頁(以下「アースベルト事件上告審判決」という。),東京高裁昭和7年4月28日判決・無体集14巻1号351頁(以下「タイポス事件控訴審判決」という。))」が、「これらの事件の実用新案権者,著作物使用許諾者は,自ら商品表示を使用して商品を販売するなどの営業をしていない」とし、「原告ゲームの場合は,原告X2はゲームソフト製作会社としてゲームソフトを製作し,原告X1はかかるゲームソフトをカートリッジに複製製造して独占的に販売し」、「原告X2は営業を行っていると評価できるものであるから,事案が異なっている」等と主張しました。

 

 これに対し、裁判所は、同法各号の規定は、当該規定の行為を防止することで、「当該商品表示に化体された商品主体の信用の冒用,毀損を防止し,もって,公正な競業秩序の維持,形成を図ろうとするものであると解されるから,この規定によって保護されるべき者は,商品に関する信用の保持者たる主体,すなわち当該商品の製造,販売等の業務に主体的に関与する事業主体に限られる」とし、「原則として,当該表示を付した商品について,その品質等を管理し,販売価格や販売数量を自ら決定する者が,これに該当するものと解するのが相当である」と判示しました。

 

 本件に照らすと、原告ゲームに関する原告X2とX1との間のライセンス契約や覚書による合意内容を精査した上で、合意等の各事実を総合し、裁判所は、「原告X2は,単に原告ゲームの著作権者として,原告X1に対してその独占的使用についての許諾を与え,その対価として,契約に定められたロイヤリティを受領しているにすぎないものであって,商品としての原告ゲームの製造,販売等の業務に主体的に関与する事業主体ということはできない。」と判断しました。

「すなわち原告X2の受領すべきロイヤリティについては,原告ゲーム1本当たりの所定額とされており,その販売数量の増大に応じてロイヤリティの額も増大するように定められているものであるが,売れ残りの在庫等による債務の危険を負担するものではなく,かえって,ロイヤリティのうちの相当の額(例えば「暗黒竜と光の剣」では10万個,「紋章の謎」では30万個の販売に相当する額)については販売数量の多寡にかかわりなく原告X1からその支払を保証されている

他方,原告ゲームの販売価格,製造・販売の数量等はすべて原告X1において決定し」、「その商品化事業においても,専ら原告X1が再使用許諾権に基づいて,原告ゲームの登場人物のキャラクター等に関し,再使用許諾先の業者に対して,その使用態様や商品の品質等についての管理統制を行っているものであって,

原告X2は,商品としての原告ゲームの販売価格や販売数量の決定に何ら関与しておらず,また,商品化事業の展開について原告X1や再使用許諾先の業者に対して管理統制を行う立場にもない」と判示しました。

 

 したがって、「本件における事実関係の下においては,被告らの行為によって原告ゲームの商品表示の出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれがある者として不正競争防止法2条1項1号,2号の「他人」に該当し,同法に基づく請求の主体となり得るのは,原告X1のみであ」ると判断されました。


 なお、原告らが引用した「プロフットボール事件上告審判決」「米国のプロフットボールチームの名称及びシンボルマークについて,その商業的利用のためにこれを管理する目的で設立された米国法人と,同法人から我が国における独占的な使用権と商品化事業の実施権限を与えられて,我が国において再使用許諾先の業者に対して表示の使用態様や商品の品質等についての統制管理を行っていた日本法人を,同一の表示の商品化事業を営むグループに属する者として,不正競争防止法上の請求の主体となることを認めたものであって,本件とは事案を異にする」とも述べ、採用されませんでした。


 また,「原告らは,ゲームソフトという商品がコンピュータプログラム化されたゲームソフトをROMに固定してなる商品であるという特質を持つことを指摘し,需要者の間での原告ゲームの信用,名声を形成している主体に原告X2も含まれると主張する」点に対して、裁判所は、「コンピュータのビジネスソフトウェア,ゲームソフトウェアやテレビゲームのゲームソフトのようなプログラムの著作物が商品となっている場合には,当該ソフトウェアの動作の確実性や操作性等の点は,バグの有無等を含めたプログラムの内容に係る点が少なくないものであって,その意味では当該商品の性能・品質には著作物の内容と密接に関連する部分がある」としつつも、「そのことから,プログラムの著作物の著作権者が商品に関する信用の保持者たる主体と解されるものではない。商品の性能・品質に関する上記のような事情は,特許権や意匠権等の実施品が商品となっている場合にも同様に認められるものであるが,そのような場合に特許権者や意匠権者が直ちに不正競争防止法上の請求の主体と解されるものではない。原告らの主張が採用できないことは,この点に照らしても,明らかである」と判示しました。

 

 さらに、原告らは「トラキア」のパッケージやゲーム中のタイトル表示、ゲーム雑誌,攻略本等において原告X2の名称が記載されていることを指摘することに対し、裁判所は「「トラキア」のパッケージやゲーム中のタイトル表示における原告X2の表示は, マークと共に著作権者として表示されているにすぎず,ゲーム雑誌や攻略本等においても原告X2は「トラキア」の著作権者として記載されているにすぎない。原告らの主張は,著作権者と商品に関する信用の保持者たる主体とを区別しないで論ずるものであって,採用できない」と判示しました。

 

■「ファイアーエムブレム」「エムブレム」の周知・著名性、及び「影像等目録」記載の影像とその変化の態様についての商品表示性

 裁判所において、原告ゲームの各ゲームソフトの販売本数、当該ゲームソフト掲載の雑誌の販売部数等から、「ファイアーエムブレム」表示の周知性は認めましたが、その略称である「エムブレム」については、表示の周知性、著名性を認めず、かつ、「既に複数の会社から「紋章」の語をタイトルに使用したゲームソフトが発売され」、「ゲームソフト業界においては,「エムブレム」ないし「紋章」というだけでは,自他商品を識別することが困難な状況にあった」とされ、「エムブレム」との表示の周知性・著名性は認められませんでした。

 「影像等目録」記載の影像とその変化の態様の商品等表示性について、裁判所は、「ゲームソフトの表示画面は,通常は,需要者が当該ゲームソフトを購入して使用する段階になって初めてこれを目に」し、「この種類のゲームソフトにおいてありふれた画面の構成は「商品等表示」となり得ないものと解され」、「ゲームソフトの表示画面の構成や影像の変化の態様が「商品等表示」に該当するのは,極めて例外的な場合に限られ」るとし、本件の表示画面は、「いずれも,シミュレーションRPG又はロールプレイングゲーム等のゲーム分野に属するゲームソフトにおいてありふれた画面の構成」で、かつ、その周知性も認められず、その商品等表示性は認められませんでした。

 

■「ファイアーエムブレム」との商品表示と,被告ゲームの「エムブレムサーガ」との商品表示との類似性
「「ファイアーエムブレム」が周知の「商品等表示」に該当すると認められる」とされたため、「ファイアーエムブレム」との商品表示と被告ゲームの「エムブレムサーガ」との商品表示との類否が検討されました。
裁判所は、「ある商品表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものにあたるか否かについては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(「プロフットボール事件上告審判決」参照)」と判示した上、「自他識別力のある部分として称呼,観念を生ずるのは「ファイアーエムブレム」全体であり,「エムブレムサーガ」については,「サーガ」の部分又は「エムブレムサーガ」全体であるから,両者を対比すると,両者は外観,称呼を異にすることが明らかであり,観念についても,前者が「火の紋章」「炎の紋章」の観念を生ずるのに対して,後者は必ずしも明確な観念を生じない(強いて言えば,英語の知識の豊富な者には「紋章物語」との観念を生じ得る)ものであるから類似するものではない」と判断しました。

 

■その他

 上記、類似性が否定されたので、「混同を生ぜしめる行為の有無」について判断するまでもなく,原告らの不正競争防止法に基づく請求は,いずれも理由がないと判断されました。

 

 なお、裁判所は「原告ゲームはいずれも,被告Aが原告X2に従業員(退職時における役職・開発部部長)として勤務していた際にゲームデザイン,監修等を手がけて製作の総指揮をと」り、「被告ゲームは原告X2を退職した被告Aが,被告Y1において企画,シナリオ等を手がけてその製作を行った」という経緯があり、「ゲーム雑誌の記事のなかには,被告ゲームを,原告ゲームの作風等を継承する内容のものとして,原告ゲームの事実上の続編であるかのように紹介するものが存在」し、「このような経緯から,テレビゲーム愛好者,殊に原告ゲームの愛好者の間に,被告ゲームについて,これが被告Aの製作に係るものであることに着目して,原告ゲームと同程度の技術水準を備え,共通の作風の下に製作されたゲームソフトであることへの期待が生じ,そのことから,被告ゲームにつき一連の原告ゲームの系譜を継承するものと認識が生じて,結果として市場において何らかの混乱を生じたことはあり得ることと推測される」と言及しました。

 しかし、裁判所は「このような混乱は,その内容の多くの部分を製作を担当するゲームクリエイター個人の感性に依存するゲームソフトの性質上,避けられないことであり,同様の混乱は,同じように個人の感性に依存する面の多いファッション業界において有名デザイナーが移籍する際にも生ずるもので」、「本件において,このような事情から,市場において何らかの混乱が生じているとしても,上記のとおり,被告らにおいては原告X1の周の商品表示に類似した表示を使用していないのであるから,不正競争防止法上の問題を生ずるものではない」と判示しました。

 

 以下は 著作権法に関する判断なので省略します。

 

BLM感想

 まだ確証が持てないのですが、不正競争防止法上の差止請求主体(又は「他人性」)が問題となるケースで、内部関係において問題となる場合、請求主体(他人性主張する者)を主張する者が、著作権や特許を受ける権利等を原始的に取得する者のような場合や、バター飴容器缶事件のように、周知な商品等表示を譲り受けたと主張する者の、その譲り受けたとされる商品等表示が、創作物に係る場合は、請求主体(他人性主張する者)としての地位が認められ難いように思います。アザレ事件では、販売した者のみならず、製造した者も請求主体として認めました。しかし製造者は、知的財産(特に創作物)を生み出した者ではなく、実施した者です。そうすると、不正競争防止法はあくまで市場で実際の商品や営業に責任が持てる者(いわば品質コントロール権を有する者)を、対象にしているということなんでしょうかね。

 

by BLM

 

 

 

 

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