不正競争防止法2条1項1号に規定する「商品等表示」の表示主体になり得る者において、内部分裂が起きた場合、誰が表示主体として認められるのか?という問題について、下記裁判例を通して今日は考えます。判決文は「こちら」(最高裁判所HPより引用・参考。引用文には「」をつけず、BLM任意に抽出しまとめています。太字・着色はBLM。)

 

東京地裁平成25年(ワ)第3832号 平成26年1月20日判決

当事者

 原告 株式会社フキ(合鍵製作用のキーブランク(合鍵作製用の鍵母材)を含む鍵,合鍵複製機…等の各種防犯商品の販売取付け等・合鍵複製を業とする者。)、原告代表者Aと、被告創業者Bは兄弟。

 被告 株式会社後藤製作所(合鍵製作用のキーブランクを含む鍵,合鍵複製機の製造,販売…等を業とする者。)、現在の「被告代表者」Cは、被告創業者の子。

 

 本件は,原告が,以下の本件標章1乃至3(これらを併せて「本件標章」)は、原告の 販売する鍵,錠前,キーホルダー,鍵加工機械装置等や錠前修理保守サービスを表示する商品等表示として周知であるから,被告が,本件標章と同一又は類似の標章である被告標章1乃至7(これらを併せて「被告標章」) を鍵,…,鍵加工機械装置や被告標章を付した上記商品を販売するなどして原告の商品と混同を生じさ せる行為は,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当する等と主張し,同法3条1項に基づく侵害の停止・予防請求等を求めた事案です。

 

本件標章1(1)、(2)

 

本件標章2         本件標章3

 

(上記本件標章乃至3は最高裁判所HP掲載の本件判決文より抽出・抜粋。)

 

被告標章1乃至7

被告標章1は、本件標章1と同一(本件標章1と被告標章1を併せて「本件標章1」)で、

被告標章2は,本件標章とほぼ同一で、その下部に鍵頭部分に「HACHIOUJI」と表示し、

被告標章3ないし5は,それぞれ「フキ八王子」「名古屋フキ」「北海道フキ」と横書きし、 「フキ」は,本件標章2とほぼ同一、

被告標章6は,本件標章2と同一(以下,本件標章2 と被告標章6を併せて「本件標章2」)、

被告標章7は,本件標章3と同一(以下,本件標章3 と被告標章7を併せて「本件標章3」)。

 

第4 当裁判所の判断

1 以下の事実が認められる。

(1)被告創業者による事業の開始

 被告創業者は,①昭和34年頃「後藤製作所」の屋号で鍵の製作等を行うようになり,遅くとも昭和38年頃までには,その妻の名「フキ」にちなみ「FUKI」と刻印したキーブランク(「FUKI印キーブランク」)を製造し、②本件標章3を出願し商標登録を受け、③昭和41年6月頃,有限会社後藤製作所を設立し,昭和45年7月,株式会社後藤製作所に組織変更しました(組織変更の前後を通じて「被告」ともいう。)。

 

(2)原告代表者による事業の開始・推移

 原告代表者は,1)当初、被告創業者の作業所内で,その指導の下,合鍵複製業を営み2)昭和40年頃,被告創業者の了承を得て,「新橋キーセンター」を創設し,引き続き、被告から納入を受けたFUKI印キーブランク等を用いて合鍵複製を行い、被告から納入を受けたFUKI印キーブランクや合鍵複製用機械(キーマシン)等の販売を行い3)昭和42年、有限会社ゴトウを設立し,昭和45年には株式会社へ組織変更(組織変更の前後を通じて「ゴトウ社」)しました。


(3)被告によるキーブランク等の製造・販売(原告設立以前)

 被告は,ⅰ)製造したFUKI印キーブランクを,原告代表者(法人成り後はゴトウ社)、有限会社加賀商会(FUKI印キーブランクの納入数は,昭和45年7月には約11万本)に納入、ⅱ)昭和45年頃,「N.S.K」と刻印したキーブランクを製造し,有限会社野村商会及び渡芳製作所に納入、ⅲ)ゴトウ社等の上記納入先は,いずれもキーブランク等の商品を,主としてその代理店や中間卸売業者を介して小売店に対し卸売りしていました。

 その後、野村商会の中間卸売業者へのNSK印キーブランクの販売を中止させ,さらに後に野村商会が販売を中止した中間卸売業者に対する卸売を,ゴトウ社に行わせることとし,上記業者に対し,NSK印キーブランクの代わりに,FUKI印キーブランクを販売するようになりました。

 被告が発行したキーブック(合鍵作製時に,対応するキーブランクを識別するため取引先に頒布。)の表表紙に「TRADE MARK FUKI」との表示、中表紙に「FUKI印」の表示等があり、キーマシンにも「FUKI」の表示がみられました。

 ゴトウ社は,被告に対し商標利用の類似商品販売業者阻止について申し入れ」と題する書面を送付し、「株式会社ゴトウは…後藤製作所が製造する製品の売買契約を締結し爾来両者の共同商標であるフキ印マークを使用して販路の拡張に努めてきました」「次のことを実行されますよう申し入れます 一,NSK印を取り止めフキ印のみとする自衛手段を執ること」等との記載がありました。

 

(4)原告の設立

 原告代表者は、①昭和46年、第三者と原告を設立し、②原告設立に当たり,デザイナーに依頼して本件標章1及び2のデザインを行わせ原告の社名表示及びシンボルマークとして使用開始、③日本刃物工具新聞の「社名変更のお知らせ」には,「多くの方々からご愛顧をいただいてまいりましたブランドFUKIにちなみ,社名を株式会社フキと改称いたしました。」との記載があり、④被告創業者が 昭和46年、本件商標権1及び2の出願を行っています。

 

(5)本件契約 

 被告創業者,被告,原告代表者及び原告は,昭和48年、被告創業者は,原告,原告代表者及び被告に対し,本件各商標権の使用許諾等定める契約(本件契約)を締結しました。(8月4日(5)部分修正。:本件契約の詳細はこちらの「甲234契約」をご参照。)

 

(6)原告の営業形態等 

 原告は,ⅰ)キーブランク,キーマシン,鍵関連小物類等のほか,取替用錠前・シリンダー,解錠用具,防犯用品等の鍵関連用品を広く取り扱うようになり、ⅱ)昭和51年頃から日本各地に代理店を設けて上記商品の販売等を行わせ、その後、代理店を原告の出資により株式会社とし,各商号を,地名と「フキ」を組み合わせ(「株式会社山陽フキ」等)、「フキ」部分の表示に本件標章2を用い、ⅲ)代理店との間で継続的取引基本契約を締結して,上記契約に基づき,キーブランク等の商品を継続的に納入し、ⅲ)昭和47年から平成24年までの売上額及び広告宣伝費の推移は別紙一覧表のとおりでした。

 なお、被告創業者は,昭和40年頃からキーマシンについて意匠登録出願を行い、株式会社泰明製作所等に製造させたキーマシンを被告に納入させた上で、ゴトウ社に卸売りし、原告設立後は、被告の仲立ちを取り止め,原告が製造業者と直接取引を行うことができるよう取り計らいました。


(7)原告による本件標章の使用等
ア 本件標章1及び2については、原告の設立後現在に至るまで,
原告又は原告の販売代理店会社案内名刺,キーブック又はカタログ取引書類(注文書,納品書,請求書等),封筒,価格表,チラシ,定期刊行物加盟店向け資料等の,社名等を表示する部分(表表紙又は裏表紙,チラシ隅等)には,原告の社名のうち「フキ」の部分が本件標章2を用いた書体で表示されるとともに本件標章1が掲載される等しました。
 原告のキーブック又はカタログ,チラシ等に掲載されている商品の中には,キーマシン等に,本件標章1及び2を印刷したラベルが貼られているものがあり,その他,ケース,スプレー類,ショップスタンド,看板類,ネームマシンに本件標章1が表示されているもの等ありました。


イ 本件標章3については、
原告において、「FUKI」印は,キーブランク以外に解錠用具、補助錠、取付部品にも付されているものがみられるが,その数は極めて少ない等とされました。

 

(8)被告による本件標章の使用等

 被告は,ⅰ)FUKI印キーブランクのほか,「GSS」「GTS」等を刻印したキーブランクを製造し、原告設立後は,FUKI印キーブランクは専ら原告に対し納入し、ⅱ)ジャパンキーサービスのカタログには,上記「FUKI」「GSS」等のロゴマーク入り商品は被告が製造する商品である旨の表示等があり,顧客(合鍵販売業者)に安価でキーブランク商品を提供することを目指す旨記載し、ⅲ)原告も通知書で「ジャパンキーサービス等が弊社の販売先に弊社の仕入れ価格よりも安価で販売している事も発注数が減った一因でございます。」と指摘し、ⅳ)ジャパンキーサービスは,被告から仕入れた「GSS」「GTS」を主力とするキーブランクを,合鍵販売業者へ販売する業務を行い,「FUKI」印のキーブランクを掲載したキーブランクリストを販売しています。

 

(9)本件紛争の経緯

 被告は,原告による売れ筋商品の年間契約中止,総発注本数の減少した状況に陥り、原告に対し納入する商品を優先製造できないので,納期遅れが発生する旨を原告に通知し,原告がTLH印キーブランクの販売に注力していることや,被告の提供する新番情報をTLH商品の製造に利用していることなどを指摘した上で,原告の背信行為により原被告間の友好関係が破綻に至った以上,本件商標権の使用許諾を解除し,被告にてFUKI印を付した商品の販売の開始を検討する旨の書面を送付し、原告は,被告のFUKI印商標権の買取りを含めて検討したい旨回答しましたが断られた。原被告間で,本件標章を付した商品の販売終了時期等協議され、原告は本件商標権3は「商標通常使用権設定の解除を受け」「各商標が及ぶ範囲の製品・商品の製造を中止することを承諾しました」とする一方で,本件商標権1及び2を原告名義に変更すべき旨主張。その後、協議は進展せず、被告代表者は書面で,原告に、本件商標権の使用許諾契約を解除する旨の意思表示をし原告に到達しました。

 

(10)協議不調後の原告の本件標章の使用状況等 原告は,平成22年の年賀状で「…TLH印のキーブランクに力を注ぎ,FUKI印の在庫がなくなり次第自動的にTLH印のキーブランクの販売といたします」等と記載しました。また、原告は、FUKI印キーブランクの取扱いを順次終了し,そのカタログ等に掲載するキーブランク及びキーマシンの写真から本件標章1・3を抹消等しています。原告のカタログ裏表紙及び注文書等書式頁において,原告の社名表示として本件標章2が表示されているのみで,本件標章1は表示されておらず、掲載商品に本件標章3を付したものも見当たりません。

 

 裁判所は、以上の事実を前提に,各争点について、以下のように判断しています。

 

2 争点(1)(本件標章は被告にとって「他人の商品等表示」に当たるか。)

(1)裁判所は、「不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることにより,当該表示に化体した他人の信用にただ乗りして顧客を獲得する行為を不正競争として禁止し,もって公正な競業秩序の維持・形成を図ろうとするものであるから,同号における商品等表示の帰属主体とは,自らの判断と責任において主体的に,当該表示を付された商品を市場に置き,あるいは営業活動を行うなどの活動を通じて,当該表示につき,商品等の出所,品質等について信用を蓄積し,当該商品の取引者・需要者の間において,当該表示に化体された信用の主体として認識されるに至った者をいうと解するのが相当であるしたがって,ある者が,同号における商品等表示の帰属主体に当たるか否か(当該商品等表示が誰に帰属するものであるか)は,当該商品の性質,流通形態,当該商品等表示の内容や態様,当該商品の宣伝広告の規模や内容等を考慮した上で,当該商品等の出所,品質等について信用を蓄積してきた主体は誰であるかという観点と,当該商品の取引者・需要者において,当該表示が何人のものとして認識されているかという観点を併せて検討するのが相当である。」と判示しました。

 

(2)本件標章3についての検討

 本件標章3は,主としてキーブランクに刻印されて使用され、FUKI印キーブランクは,原告設立以前は,被告から,原告の前身であるゴトウ社のほか,加賀商会にも相当数が販売され、ゴトウ社及び加賀商会が,それぞれの代理店や中間卸売業者に卸売りし又は小売店等に直接販売した上で,最終的には小売店等で合鍵に加工・販売されていたと認められるが、原告の設立後,本件紛争までは,FUKI印キーブランクは,被告から原告に納入され,原告から,その販売代理店又は当該販売代理店の傘下にある小売店(合鍵複製業者)に卸売されて,合鍵に加工され,顧客に交付され、原告は,FUKI印キーブランクを市場に置くとともに,そのキーブック,チラシ,定期刊行物等に掲載し,これらを上記小売店等に頒布するなどして、FUKI印キーブランクについて,その販売を促進するための活動を行ってきたものであり,FUKI印キーブランクを長期間にわたり単独で卸売販売し,営業活動を行うことにより,本件標章3について,販売者としての信用を蓄積してきたということができるとしました。

 また,キーブランクの,合鍵作製用の鍵母材という商品の性質や,卸売業者から中間卸売業者又は販売代理店に卸売され,又は小売店に直接販売された上で,最終的に合鍵に加工されて販売されるものという流通経路に加え,原告のカタログ,チラシ,定期刊行物等が,その内容から,いずれも小売店(合鍵複製業者)を対象としたものとみられることに照らせばキーブランクの需要者としては,小売店(合鍵複製業者)を想定するのが適切と解され、上記需要者は,原告の頒布するキーブックやチラシ等に掲載されるキーブランクの多くに本件標章3が刻印されていることや,原告以外からFUKI印キーブランクを入手できない状況が,30年以上の長きにわたり続いたことなどから,FUKI印キーブランクの販売者は原告であるとの認識を有するに至っていると解すことができるとしました。

 しかし,他方で,被告は、その妻の名にちなんで本件標章3を考案し,FUKI印キーブランクの製造販売を開始したもので、原告の前身であるゴトウ社のほか,加賀商会にも,FUKI印キーブランクを相当数販売し,原告設立後には,FUKI印キーブランクの納入先を原告に一本化したものの,被告は,商品の製造業者として原告とは独立した地位にあったとみることができ、そうすると,被告は,製造業者として,FUKI印キーブランクを自らの判断と責任において主体的に市場に置いてきた者と評価するのが相当で、そして,FUKI印キーブランクの製造業者は被告のみであったものと認められるから,被告は,その製造業者として,FUKI印キーブランクの品質等についての信用を蓄積してきたものとみることができるというべきであるとしました。

 加えて,被告は,国内最大手のキーブランク製造業者とされ、キーブックの他社品番対照表からは,キーブランクに刻印される標章のうち,流通量の多いものは,本件標章3のほか,「G.S.S」(被告製造)やクローバー印,「MMJ」など限られその製造業者も限られていることがうかがわれ,キーブランクの需要者である合鍵製造業者においては,被告がFUKI印キーブランクの製造業者であることを認識している可能性が高いと解されるとしました。

 仮に,上記需要者が被告の名称までを認識していないとしても,当該表示がある者の商品等表示に当たるというためには,当該表示がある特定の者の商品等を他の者の商品等から識別するものとして知られていれば足り,それ以上に識別された商品の主体の名称までが需要者に知られている必要はないと解されるとしました。

 そして,本件標章3がキーブランクの鍵頭に刻印され,上記刻印は,通常は製造時に付されるものであること,本件標章3が,かつては加賀商会が販売するキーブランクにも付されていたことに照らせば,キーブランクの需要者において,本件標章3を,キーブランクの製造業者を識別するものとして認識しているものというべきとしました。

 

 そうすると,本件標章3は,原告は販売業者として,被告は製造業者として,それぞれの信用を蓄積してきたものであり昭和46年から30年以上にわたり,被告のみが製造し,原告のみが販売する状況が続いたことにより,需要者において,原告及び被告の双方が,その信用を蓄積してきた主体(製造業者及び販売業者)として認識されるに至ったとみることができ本件標章3の商品等表示としての帰属主体は,原告及び被告であると解するのが相当であるというべきであると判断しました。

 被告は,その妻の名にちなんで本件標章3を考案し,キーブランクに刻印して,最初に市場に置いた者で、販売先も,平成46年頃まではゴトウ社に限られなかった点、同年時点での被告のFUKI印キーブランクの販売量は,既に30ないし40万本にも及んでいた等の点で、原告の設立をもって,被告がFUKI印キーブランクを主体的に市場に置くものではなくなったとみるのは相当ではないとし、原被告との紛争に発展した間のやり取りからは,商品の開発等は,むしろ被告において行われていたことがうかがわれ、被告が,単に原告からの依頼に基づき商品を製造、納入するものと評価できないとも判断しました。

 以上により、被告は,FUKI印キーブランクの製造業者として,FUKI印キーブランクを主体的に市場に置き,その信用を蓄積してきたと評価すべきで,原告の主張は採用できないとしました。

 

 また,キーブランクの商品としての性質,流通経路,FUKI印キーブランクの宣伝広告の内容等に照らし,FUKI印キーブランクの需要者としては,小売店(合鍵製造業者)を想定することが適切でとし、合鍵複製の依頼者(一般顧客)を需要者とみることができるとしても,上記依頼者は,本件標章3が,加工済みの合鍵に刻印されているから,上記標章を,合鍵製作用の材料(キーブランク)の製造業者又は合鍵複製を行う主体のいずれか又は両方を示すと認識すると解され、本件標章3が,およそ製造業者の標章と認識され得ないとの原告の主張は採用できない等としました。

 さらに「ALPHa」「MIWA」の例が,いずれも錠前メーカーのいわゆる純正キーに付されるもので,キーブランクとはその需要者を異にし,キーブランクの標章に対する需要者の認識の例とするのは適切ではないことに照らせば,キーブランクの刻印が販売業者を示すものであるとの理解が鍵の業界では常識との原告の主張も相当ではないとしました。

 

 原告と被告は一体事業を構成する関係になかったから,本件標章3が原告と被告の双方に帰属することはあり得ないとの原告の主張に対し、原告及び被告の関係に基づき,需要者が,本件標章3を,被告が製造し原告が販売する商品を表示すると認識するに至ったと評価できるのであって,原告と被告の役員関係に重複がないことや株の持ち合いがないことなどによって,需要者の上記認識が左右されるものではないと解され,原告の主張は採用できないとしました。

 

(3)裁判所は、本件標章3は,原告及び被告の双方に帰属すると認められるとしましたが、本件標章3が,原告及び被告の双方に帰属すると認められるのは,原告と被告が,被告において,主として原告のみにFUKI印キーブランクを納入し,原告においてFUKI印キーブランクをメインに取扱い,積極的に営業活動を行うという協力関係を前提とするところ,原告と被告は上記協力関係を解消済みである現時点において,本件標章3が原告のみに帰属すると評価できるか更に検討しました。

 

 昭和48年12月25日に本件契約を締結しているところ,本件契約が,被告創業者から原告及び原告代表者に本件商標権3の使用を許諾する旨のものであり,原告及び原告代表者は,本件標章3を被告又は被告創業者の製造したキーブランク以外に付してはならず,又は被告又は被告創業者以外からキーブランクを購入してはならない旨の条項や,原告代表者が原告の代表取締役たる地位を失った場合に本件商標権3の使用権を失う旨の条項,さらには,被告創業者が,一定の場合に本件契約を解除することができる旨の条項を含むものであることを考慮すれば,原告と被告と協力関係が解消された場合に,本件標章3が原告のみに帰属することになるものとみることはできないとしました。

 

 原告は,本件標章3の周知性の獲得について、原告代表者が原告を創業し,その売り上げを順調に伸ばすことができたのは,被告創業者が,原告代表者に技術指導等を行い,設備を提供するなどして合鍵複製業を営むことができるよう環境を整えた上,原告代表者の営む「新橋キーセンター」やゴトウ社等に継続的にキーブランク等の商品を大量に供給し、被告が野村商会に代償金支払と引き換えに中間卸売業者に対するキーブランクの卸売を中止させ当該卸売をゴトウ社に行わせ、原告設立後は,上記キーブランクの納入先を原告のみとするに至る等によるところも大きいと解され、加えて,被告は,FUKI印キーブランクの製造業者として、一定の品質を有するFUKI印キーブランクを継続的に原告に納入し,その信用の構築に寄与してきたもので,被告が本件標章3を使用することが,原告の構築した信用にただ乗りするものと評価できないとしました。

 

 以上、本件標章3が,現時点で原告のみに帰属する商品等表示であるとは認められないと判断しました。本件標章3と同一の標章である被告標章7に関する原告の請求は理由がないとしました。

 

BLM感想

 本記事、少々長すぎたので、「(5) 本件標章1,2について」は、別途続きを考えることにしました(8月4日に本記事を修正。)。本件標章3は、被告創業者が、奥様の名「フキ」さんにちなんだ造語「FUKI」に係るもので、その標章を付した商品は、当初販売していたキーブランクに付したものでした。考えてみれば、鍵というのは、究極的には大量生産できないもので、このキーブランクが「鍵」という製品の完成形であり、各家庭に合わせた複製合鍵は製品と言えるのか?合鍵製造というサービスなのではないか…という面白い問題があります。そうすると、少なくとも「鍵」という商品に関し、本件標章3は、キーブランクを製造しているのが被告なら、本件標章3の出所は被告と言い切ってしまっても良かったかもしれません。ただ、本件標章3を周知にさせたのは原告ということになるので話が厄介になるのですが…。

 けっきょく、裁判所は、現在の状態をなるべく壊さないように判断したということでしょうか…。

 

by BLM(8月4日修正あり。長いので削りました。6日に続きを書こうと思います。)

 

 

 

 

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