『東和銀行とゆうちょ銀行などが組成する地域活性化を目指したファンド「東和地域活性化投資事業有限責任組合」』が、群馬大学発のベンチャー企業であるグッドアイ(群馬県桐生市)に出資するというニュースがありました(→記事はこちら)。
このグッドアイ社は「技術オリエンテッドとデザインオリエンテッドとの双方を活用する?」でも取り上げた銅繊維シートを開発した企業です。記事によると『グッドアイは群馬大で開発した特許技術を生かし、土壌改良剤など独自の製品を作って』おり、『グッドアイへの出資額は1億円』とのこと。
同社のホームページには『50年掛けてでも群馬大学はスタンフォード大学を必ず抜く。(中略)スタンフォード大学はどのようにして資金を集めているのでしょうか?それは、大学発ベンチャーが事業で得た利益の一部を大学に還元しているのです。このシステムを群馬大学にも作れば良い!』と記載されています。私見では、大学発ベンチャーがうまくいくことが難しい状況下で、グッドアイがどこまで行けるか?興味深いです。
さて、こういった報道に接すると、ついつい当該企業の技術力にのみ目が行きがちです。もちろん、技術力が優れている、技術力があることが融資や出資をする際には必須条件になるはずですが、果たしてそれだけでしょうか?
◆技術を活かすストーリーが構築されているか?
技術系の人間は、ついつい、技術にのみ着目しがちですが、実際に技術による価値が社会に実装されるためには、技術だけでOKというわけにはいかないことが多いと思います。というのも、いまの社会は本当に先が読めない不確実な環境です。そのような環境下では、どのような価値を、どのようにして社会に実装すればよいのかストーリーを考え、具体的に実行に移す必要があります。
例えば、車の省エネルギー化や、排気ガスによる公害防止を考えてみます。優れた技術を知っている研究者であれば、低燃費エンジンはどうか、ハイブリッド車はどうか、水素自動車はどうか、自動車を構成する部品の材質をどうすればよいか等々、即座に技術的な解決策をいくつも思いつくでしょう。
しかし、自動車を自動車単体として捉えるか、社会の中における存在として捉えるかで解決策は大きく異なってきます。それにより、社会に与える価値も(望ましいか否かにかかわらず)変わってくると思います。
例えば、自動車を社会の中における一つの存在である、と考えれば、公共交通機関の充実やカーシェアリングという発想、更にはいかに自動車を使わないで済むかという発想も出てきます(例えば、生協のように自分から買い物に行かずに届けてもらう仕組み等)。
つまり、「すごい技術があります!」と技術単独で技術力をアピールするよりも、どのような価値をどういう流れで世の中に実装したいのか?という流れの中で、ある技術を用います、というストーリーを構築することで、仮にその技術が技術的には新しくなかったとしても、ストーリーが優れており実装できる価値も多くの人が望むものであれば、第三者に対して差別的優位性を発揮することも不可能ではないと考えます。
再び自動車の例ですが、例えば、自動車がある社会において、どのような社会のシーンが最適であるかをイメージします。そして、そもそも人々はなぜ自動車を使用しているのか。単なる移動手段か、あるいは、ステータスシンボルなのか。その上で、では、個人が自動車を使わずにするにはどうしたらよいか。単なる移動手段を欲している人とステータスシンボルが欲しい人とを切り分けて考えるとどうか、等と思考を展開することで、自動車単体で考えた場合とは異なる価値に気が付くことがあります。
そうすれば、移動手段としては公共交通機関やカーシェアリングの利用はどうか。ステータスシンボルが欲しい人にはそれ用のハイブリッド車はどうか。あるいは、人が自動車を使って所定の場所に移動しているが(そして、その場所で商品を購入したり、サービスの提供を受けているが)、場所が人のところに来るのはどうか(これは、高齢者向けの食料品・日用品販売や弁当宅配等に見られます。)等と様々なアイデアを創出することができ、創出したアイデアを実現するために必要な技術は何かを考え、実現に向けて動いていくことができます。
◆結局、魅力的なストーリーが重要?
医薬品等の限られた分野では技術力が優れているだけで融資や出資を引き出せるかもしれません。しかし、多くの分野では技術力だけではなく、保有している技術を用い、どういった価値を社会に提供できるのかについて魅力的なストーリーを構築していることが必要なのだと考えます。
ストーリーを構築していないとどうなるか
社会に価値を提供することを考えずに新規な技術開発をしてしまいがちです。新規な技術ができ、それを使ってどのような社会を実現するのか?に考える段階に移行すればよいのですが、ついつい技術にのみ注力しがちです。
もちろん、価値実装は開発陣の役割ではなく、マーケター等の役割だとも言えるかもしれませんが、そうであるとしても、技術を用いて社会における課題を解決することで、社会に有用な価値を提供するというストーリーの存在、及びストーリーの設計を「初めから」意識しておくべきと考えます。
初めからこの一連の流れを意識して物事を進めないと、つまり、この一連の流れのどこかが分断されてしまうと、分断の前段と後段との間で様々な情報や人々の想いの流れが途切れてしまうため、技術はあってもどう使えばいいか分からないという状態になり、融資や出資をする側にとっては魅力的には映らないことになっていまいます。
「エンタメ系のIPの捉え方から、他の業界での「知的財産」を違った視点で考えてみる」において、『顧客と「世界観」を共有することで、「顧客は何を買いたいか」をより把握しやすくなるのではないでしょうか?エンタメ系の場合は、顧客側も商品・サービス提供側も「世界観」を作品を通して共有しやすいので、もしかしたら他業界の製品・サービスよりも「世界観の共有」という観点からはやりやすいのかもしれません。』と述べましたが、ストーリーを構築することは、この「世界観」を共有することにも通じると思います。
最近、どこかの国のやり方を見ていると、行き当たりばったりでストーリーの「ス」の字もない状況であり、政治の劣化もここまで来たか、と嘆息しています。
by KOIP
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