虚無
それは何も無い空間で。
(R12指定です)


  既にそれは始まっていたことで、



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#31  #32  #33  (完)



  血は私たちを蝕んでいく

抹茶

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  夏の近づくのと同じ それは徐々に近づいてくる

扇

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#11  #12  #13up


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 「翔太?」

 翔太の門前まで来たとき、暗闇の中に誰かが立っていた。目を凝らせばなんとそれは翔太で。もう2時になるというのに私を待っていてくれたのだろうか。

「美和」

 パッと顔を輝かせて嬉しそうに微笑む。なんか翔太って可愛いなあ~。お姉様方に可愛がられそうだ。

「待っててくれたの? ありがとう」

「何てことないって。ほら、麗奈もいるんだぜ」

 そう言って翔太が体をずらすと、地面にしゃがみ込んで眠っている麗奈が見えた。

「俺だけでも良いって言ったんだけど麗奈が聞かなくてさ」

 困ったように笑う翔太に笑い返すと、私は麗奈と姿勢を同じにして、肩を少し揺すった。そうすると寝ぼけた麗奈の顔が上がる。

「あら、美和」

「待っててくれてありがとう」

「何てことないわよ」

 この翔太と同じ切り返し。やはりこの二人は本当に気が会っているのだと思う。そう思ってくすっと笑うと麗奈の腕を引っ張って立ち上がった。

「そんじゃ行きますか。もう使用人とか思いっきり寝てるから持て成せないけど」

「そんな良いって。無理言ってこんな夜中に上がり込ませてもらうんだもん」

「そう? なら良いけど」

 翔太は既に開いていた門を通り、私たちを招き入れてくれた。

 翔太の家までのこの長い道。その両際にある広い庭。新緑の匂いが鼻をつく。

「でも、美和? こんなこと言っちゃあれだけど、こんな夜中に抜け出すより明日の学校の帰りに翔太の家に来れば良かったじゃない」

「そうなんだけど、何ていうか早くみんなと一緒になりたくて」

 そう言った瞬間、自分が何て恥ずかしいことを言ったんだということに赤面した。

「やぁっだ美和ったら。そんなに私が愛おしかったのねぇ~」

 麗奈は翔太を尻目に、私、という部分だけ強調して私に詰め寄った。

「ったく早く歩けよ。遅いんだよ麗奈は」

「何よ! うっさいわね」

 ふんと鼻を鳴らすと私の手を取って、そのまま走り出した。翔太を通り越すと、勝手に玄関の大きな扉を開けて、我が物顔で翔太の部屋に直行する。

「鍵かけちゃいましょ」

 いたずらっぽい顔でそう言うと麗奈は本当に鍵をかけた。数秒すると外から戸を叩く音がする。扉の外の翔太の焦った顔を想像して麗奈と顔合わせて笑い合った。

「しょうがないわね。開けてやるわよ」

 そう言うと麗奈は鍵を開けると翔太を部屋へ入れた。

「もう最悪だよ。ってかここ俺んちだぞ」

「あら、そうだったかしら」

「最悪だな!」

 二人とも顔を膨らませて睨み合う。

「てか美和大丈夫なのか? あの堅物兄貴は」

 堅物兄貴……翔太に言わせればそうかもしれないな。しかし、その響きに私は笑いを堪えられずに、くすっと笑ってしまった。

「ああ……良いの」

「良いの……って良いの?」

「良いって言ってんじゃないの。てかややこしいわね、良いの、の連発じゃない」

「お前がややこしくしてんだろ! うっせーわ!」

「……二人とも静かにしてよ。何時だと思ってんの」

 私の静かな声に二人ともはっとして黙った。

 って、これって私空気読んでない?!どうしよう……。

「そうだな、ごめんな」

「ううん、こっちこそ」

 数秒翔太と目が合う。恋人じゃないからこんな表現はおかしいかもしれないけど。見つめ合っていた。 

 って何でそこで私は顔を赤らめるんだ? 私、おかしい……。なんか翔太見てると体温が上がってくる。

「あーっ、あっつい! ちょっと冷たいものでも持ってくるわ」

 麗奈は何かを察してか、翔太の広い部屋から出て行った。

 その麗奈の声に我に返る。翔太も同じだった。

「あ……あ、何か……その……」

 翔太が何かを喋ろうと懸命なんだろうけど、言葉が見つからないらしい。この気まずい空気をなんとかしていのは私もなんだけれど……私も何をして良いかよく分からない。

「あ、じゃあ、私も麗奈のところに……」

 そう言ってドアの方に向かおうとした時、翔太に右腕を掴まれた。

 まただ。

 また体温が上がる。

 何なんだろう……何か、何か―……。

「行かないで」

 翔太の低い声。

「……」

 何かを喋りたいんだけど、言葉が見つからない。

「美和……」

 後ろからふわりと抱き締められる。翔太の甘いシャンプーの香り。

 長く伸ばした髪の一束をそっと撫でられる。

 びくっと体が反応してしまう。

 何なんだろう、私は。急に……翔太に対して……。

「風呂、入って来たんだ」

「……うん」

 翔太はそう言いながら私の髪に顔を埋める。背中から伝わってくる翔太の呼吸と鼓動。

 ああ、何で私はこんなにドキドキしているんだろう?

 翔太の右手が私の頭を緩く撫でる。そのまま額、眉、目、鼻、頬の純に撫でて行く。

「……っ」

 唇を触れられた瞬間、甘いと息が私の口から漏れる。

 こんな声―……!

「美和……」

 上気した翔太の声。

 その声が私を上気させていく。

「しょう……た……」

 更に下降していく翔太の右手。

 首筋を撫でる。

「ふ……っ」

 鎖骨をなぞる。

 瞬間、私の頭に先程おこった光景が鮮明に甦る。

 走馬灯のように、頭の中をぐるぐる回る。

 ずらされた着物の襟。

 鎖骨を噛むお兄様の唇。

「あ―……っ」

 喘ぎ声でも何でもない。

 生気を失った私の声。

 でも翔太はそのまま鎖骨を撫でる。

 気づいているはずのに、気づかない振りをしているのだろう。

 私に何かが起こっていることを分かっているはず。

 でも……何も言わないでくれる翔太の優しさ。

 ああ、なんて心地よいんだろう。

「ありがとう……」

 切れ切れになって出した声。

 そのまま翔太の右手は胸に行くものだと思っていたが、鎖骨をなぞり終えた右手は再び左手と再会した。
 「開けろ」

 その声は静まり返った屋敷によく響く。勿論これから翔太の家へ行くことを楽しみにしている私が眠っているはずもなく、その低い声に敏感に反応してしまった。時計は0時を丁度打ったところだ。

 無意識に体が動く。冷えた畳はこれから夏という季節の今には心地よい。襖に手をかける。すると私は何の考えもなしに開けてしまうのだ。何故だろう? そう問う暇もなくお兄様は私の部屋へ侵入した。

 お兄様がこの部屋へ来たのはあの日以来、これで二度目だ。いつもは私がお兄様の自室へ赴く故、お兄様がこの部屋にいることに違和感を覚え、数秒そのままぼうっと立っていた。見上げればお兄様の端正な顔。お兄様は中々動こうとしない私を見越してか、視線を私へやった。瞬間、私は呪いにかかったように布団へと向かう。お決まりの儀式。

 布団へと横になると、直ぐにお兄様が私に覆い被さってくる。整えた着物の襟をずらし、鎖骨を噛む。甘い声をあげてしまうのは、お兄様のせいだ。

 この毎夜の情事をやめようと思ったことはない。嫌悪感などない。やめれない。いや、依存しているわけではないのだ。だが……。

 いつもは冷たいお兄様が、このときだけは限りなく私に優しくしてくれる。その何と心地よいことか。それに染まっているのかもしれない。

 なんという妹だろう。

 しかしそれでも良いのだ。

 これは兄妹としての儀式。

 そこに愛はない。

 ただの儀式だから……何も感じる必要はないのだ。



 「杉園さんが……っ……起きてし……っ……あっ……ま、われるのではっ……?」

「構うな」

 胸を揉む手に力が入る。

 自分以外を見させないというのか。

 それならそれで、

 私は、良い―……。



 少し、眠ってしまったらしい。お兄様はもう隣りにはいない。それはあの日から数えても同じことだった。

 寂しさはない。

 そこに愛はないからだ。



 「ふう……っ」

 上半身を起こし、湯殿に入る準備をする。この体では翔太と麗奈の前には出られない。

 部屋を出ると私は急ぎ足で向かった。





   ----------





 「んぁ? はーちゃん?」

 遙は自室へ戻ると、寝ぼけなまこの杉園がぼやけた口調で自分に話しかけた。

「どったの。こんな時間に」

「―……ああ……、ちょっとな……。夜の散歩だ」

「へぇ、そぉ。どうだったぁ? 夜の散歩は」

「―……」

「……なぁんか分からないけどさ、珍しいね。はーちゃんが俺にちゃんと答えてくれるの」

「そうか?」

「うん。まぁ良いやぁ。お休みぃ」

「ああ」

 一通りの会話を済ませると、遙は静かに部屋の襖を閉め、縁側に出た。

 柱に寄りかかり、そのまま目を閉じる。

 夜風が心地よい。

 池に写る満月に照らされた鯉。

 木々がそよそよと揺れる。

 ああ……このままでも眠れそうだ。