「さーて! では宿題でもするとするかね!」
麗奈が2杯目の紅茶を飲み終え、伸びをすると同時にそう言った。翔太は1杯目の紅茶を啜りながら、渋い顔をし、角砂糖を5個入れる。甘党の翔太はこれで角砂糖の個数は13個目だ。いちよ私は家が茶道の家元だから渋いお茶には慣れているので翔太が苦いと感じる紅茶も何も入れずに飲める。まあただたんに翔太が甘党なだけかもしれないけど。
「宿題って、何あったっけ?」
私は自分のカバンを引き寄せてチャックを開けファイルからプリントを取り出す。翔太が横から私の持っているプリントを見る。って、顔近いって、翔太! 本当キレイな顔してるよなあ……改めて感心するけど。確かお祖母さんがイギリス人でクウォータだから色素が薄くて髪も自然な茶色で。凄くキレイ。惚れ惚れする……。何故か顔が熱くなり、手を顔に当てると本当に顔が熱い。うそ、私ってば翔太に惚れてんのかな?
「暑い!」
麗奈がウガーッと声をあげいきなり立ち上がる。なぜか私は恥ずかしがりながら翔太を横目で見ると面倒くさそうな顔でため息を見た。その時には翔太は私からは離れていて、少し名残惜しかった……って! 何でこうなるのよ、私!
「暑い! 暑過ぎる! 蒸し蒸しするのよねっ! 冷房でもつけようかしら。ねぇ、翔太?」
「うるせーなあ……暑けりゃ冷房でも何でもかけりゃいいだろ」
「へっえ! 随分と偉そうな口きくじゃない! 少しは身分を弁えたらどうなの?」
弁えたらって……どっちも大財閥の子どもじゃない。本当、最近、麗奈はおかしい。
「……分かったっつうの。すみませんでした!」
あれ、翔太は何か謝っちゃってるし。私の分からないところで二人の会話が成立してる。
あ……孤独感。
別に麗奈と翔太が仲がいいのは元々のことで、今のことだってそんなに気にもとめないけど、何なのだろう、この感じは? 記憶に残っているとかそういうのじゃなくて、もっと深い。生まれついて元から私に染み付いていたもの。そう、本能的なもの……。
「あ、ごめんね、美和。別に美和に関係ない話しじゃないのよ!」
「え? あー、うん。全然気にしてないし、そんな気を使わなくても良いから」
「ったく、麗奈! お前変なことばっか言ってんじゃねぇよ」
「はいはい」
本当に、気にしてないし。
私如きに気を使わなくても良いのに。家に帰ってもそうだから、せめて麗奈や翔太には普通に接してほしいのに。
何で、何でこんなことになっちゃうんだろう? それは全部、あなたのせいですよ……。
「まあ、宿題しよ、宿題!」
そう言って麗奈はカバンから今日の課題になっていた数学のプリントを出した。あー……数学かあ……私理系は全然ダメなんだよな……。それでも選択授業で数学を選んだのは麗奈と翔太がいるからだ。
そう、よくよく考えてみたら私は二人がいなかったら本当にダメな人間になってるんじゃないだろうか? いや、それ以前の問題として私は一人でちゃんと立っていられているのかな……。
憂鬱に持っていたプリントの中から数学のプリントを出し、仕方なく問題文に目を通す。
……訳分かんない。
麗奈はやる! と言ったら凄い集中力でそれをやってのけるし、その作業が終わるまで話しかけても全く反応がない。だから、こういうときは翔太だ。
「ね、翔太。ここ、分からないんだけど……」
さっきのことがあったから、私は緊張しながらも翔太にシャーペンで問題文を指す。
「ああ、ここね。ここはー……」
そして次々と翔太の口から数学の訳の分からない公式が飛び出す。嫌いな数学の公式も、翔太の手にかかれば、どうとでもなってしまような気がした。耳に心地よい、それは本当。
「って、美和。聞いてんの?」
「へっ! ああ、ごめん」
「……ってことは聞いてなかったってことね」
「はい……ごめんなさい」
それでも翔太は呆れた顔はせずに軽く笑ってくれた。
なんて優しいんだろう。どうしてこんなに優しいの……。
私は冷たい、冷たい腫れ物だから……どうしても冷たい人に触れられてしまった。あんなに暗い冷たさに触れてしまったらこっちまで冷たくならざるを得ない。
だからこんな私に翔太の優しさはとても痛い。
「……なあ美和。何思い詰めてるのか知らねえけどさあ、俺らは美和の友だちな訳でしょ? だから小ちゃいことでも頼ってもらわないと、俺信用ねぇのかなあーと思ってしまうわけよ」
「……うん。ごめんなさい」
「や、別に謝らそうと思った訳じゃなくて! 本当ごめん」
謝ってばっかりだ、私。この物怖じする性格だってきっと、あの家で育ったからだ……。
「美和」
翔太がそっと私の頭に手を触れようとするのが、動作で分かった。
「やめて!」
なのに……。私はそのせめてもの救いの手を簡単に振り払ってしまった。何してんのよ、私。嫌になる、本当に。あんなに憎い人に優しく撫でられて頭さえ他の人には触れさせたくないなんて—……。
「ごっ、ごめん……」
もう、嫌だ……。こんな自分が恥ずかしい。
「大丈夫。無理しなくても良いからさ」
翔太は優しい、とっても。だからこんなに優しい翔太に私は関わってはいけないような気がしてならない。
どうしたらいい? こんなに悩んで、憎いと思うあなたさえ憎めずにいる私は、どうしたらいい?
そういえば……翔太はどうして私が''何か''思い詰めていることが分かったのだろう? そう、きっとそれは私が思い詰めた表情をしていたからだ。私如きのせいでこんなにも多大な迷惑をかけてるなんて—……。
「そうよぉ! 頼ってよ私たちを。翔太は確かに頼りないかもしれないけどさ。それに困ったとき必要なのが友だちってモンでしょぉがぁ! 分かってんの? 美和!」
麗奈が顔をあげて人差し指で私の額をトンと押した。ニコニコ笑ってる麗奈は本当に可愛い。
「うん、ありがとう、麗奈!」
そう言って麗奈を抱き締めた私の横で翔太は笑っていた。
麗奈が2杯目の紅茶を飲み終え、伸びをすると同時にそう言った。翔太は1杯目の紅茶を啜りながら、渋い顔をし、角砂糖を5個入れる。甘党の翔太はこれで角砂糖の個数は13個目だ。いちよ私は家が茶道の家元だから渋いお茶には慣れているので翔太が苦いと感じる紅茶も何も入れずに飲める。まあただたんに翔太が甘党なだけかもしれないけど。
「宿題って、何あったっけ?」
私は自分のカバンを引き寄せてチャックを開けファイルからプリントを取り出す。翔太が横から私の持っているプリントを見る。って、顔近いって、翔太! 本当キレイな顔してるよなあ……改めて感心するけど。確かお祖母さんがイギリス人でクウォータだから色素が薄くて髪も自然な茶色で。凄くキレイ。惚れ惚れする……。何故か顔が熱くなり、手を顔に当てると本当に顔が熱い。うそ、私ってば翔太に惚れてんのかな?
「暑い!」
麗奈がウガーッと声をあげいきなり立ち上がる。なぜか私は恥ずかしがりながら翔太を横目で見ると面倒くさそうな顔でため息を見た。その時には翔太は私からは離れていて、少し名残惜しかった……って! 何でこうなるのよ、私!
「暑い! 暑過ぎる! 蒸し蒸しするのよねっ! 冷房でもつけようかしら。ねぇ、翔太?」
「うるせーなあ……暑けりゃ冷房でも何でもかけりゃいいだろ」
「へっえ! 随分と偉そうな口きくじゃない! 少しは身分を弁えたらどうなの?」
弁えたらって……どっちも大財閥の子どもじゃない。本当、最近、麗奈はおかしい。
「……分かったっつうの。すみませんでした!」
あれ、翔太は何か謝っちゃってるし。私の分からないところで二人の会話が成立してる。
あ……孤独感。
別に麗奈と翔太が仲がいいのは元々のことで、今のことだってそんなに気にもとめないけど、何なのだろう、この感じは? 記憶に残っているとかそういうのじゃなくて、もっと深い。生まれついて元から私に染み付いていたもの。そう、本能的なもの……。
「あ、ごめんね、美和。別に美和に関係ない話しじゃないのよ!」
「え? あー、うん。全然気にしてないし、そんな気を使わなくても良いから」
「ったく、麗奈! お前変なことばっか言ってんじゃねぇよ」
「はいはい」
本当に、気にしてないし。
私如きに気を使わなくても良いのに。家に帰ってもそうだから、せめて麗奈や翔太には普通に接してほしいのに。
何で、何でこんなことになっちゃうんだろう? それは全部、あなたのせいですよ……。
「まあ、宿題しよ、宿題!」
そう言って麗奈はカバンから今日の課題になっていた数学のプリントを出した。あー……数学かあ……私理系は全然ダメなんだよな……。それでも選択授業で数学を選んだのは麗奈と翔太がいるからだ。
そう、よくよく考えてみたら私は二人がいなかったら本当にダメな人間になってるんじゃないだろうか? いや、それ以前の問題として私は一人でちゃんと立っていられているのかな……。
憂鬱に持っていたプリントの中から数学のプリントを出し、仕方なく問題文に目を通す。
……訳分かんない。
麗奈はやる! と言ったら凄い集中力でそれをやってのけるし、その作業が終わるまで話しかけても全く反応がない。だから、こういうときは翔太だ。
「ね、翔太。ここ、分からないんだけど……」
さっきのことがあったから、私は緊張しながらも翔太にシャーペンで問題文を指す。
「ああ、ここね。ここはー……」
そして次々と翔太の口から数学の訳の分からない公式が飛び出す。嫌いな数学の公式も、翔太の手にかかれば、どうとでもなってしまような気がした。耳に心地よい、それは本当。
「って、美和。聞いてんの?」
「へっ! ああ、ごめん」
「……ってことは聞いてなかったってことね」
「はい……ごめんなさい」
それでも翔太は呆れた顔はせずに軽く笑ってくれた。
なんて優しいんだろう。どうしてこんなに優しいの……。
私は冷たい、冷たい腫れ物だから……どうしても冷たい人に触れられてしまった。あんなに暗い冷たさに触れてしまったらこっちまで冷たくならざるを得ない。
だからこんな私に翔太の優しさはとても痛い。
「……なあ美和。何思い詰めてるのか知らねえけどさあ、俺らは美和の友だちな訳でしょ? だから小ちゃいことでも頼ってもらわないと、俺信用ねぇのかなあーと思ってしまうわけよ」
「……うん。ごめんなさい」
「や、別に謝らそうと思った訳じゃなくて! 本当ごめん」
謝ってばっかりだ、私。この物怖じする性格だってきっと、あの家で育ったからだ……。
「美和」
翔太がそっと私の頭に手を触れようとするのが、動作で分かった。
「やめて!」
なのに……。私はそのせめてもの救いの手を簡単に振り払ってしまった。何してんのよ、私。嫌になる、本当に。あんなに憎い人に優しく撫でられて頭さえ他の人には触れさせたくないなんて—……。
「ごっ、ごめん……」
もう、嫌だ……。こんな自分が恥ずかしい。
「大丈夫。無理しなくても良いからさ」
翔太は優しい、とっても。だからこんなに優しい翔太に私は関わってはいけないような気がしてならない。
どうしたらいい? こんなに悩んで、憎いと思うあなたさえ憎めずにいる私は、どうしたらいい?
そういえば……翔太はどうして私が''何か''思い詰めていることが分かったのだろう? そう、きっとそれは私が思い詰めた表情をしていたからだ。私如きのせいでこんなにも多大な迷惑をかけてるなんて—……。
「そうよぉ! 頼ってよ私たちを。翔太は確かに頼りないかもしれないけどさ。それに困ったとき必要なのが友だちってモンでしょぉがぁ! 分かってんの? 美和!」
麗奈が顔をあげて人差し指で私の額をトンと押した。ニコニコ笑ってる麗奈は本当に可愛い。
「うん、ありがとう、麗奈!」
そう言って麗奈を抱き締めた私の横で翔太は笑っていた。