さて、『Abbey Road』Demos & Outtakes Part I に移ります。 色々と話題を提供するデモ&アウトテイク集がCD2枚で全29曲収められています。
今迄同様にある程度の加工が行われており、複数のマテリアルを繋ぎ合わせているものもあります。 ですから、その作業を容認するかどうかが、この作品を楽しめるかどうかのボーダー・ラインになると思います。
ただ、今回の『Abbey Road』 2019 Stereo Mix の場合にはそれほど驚愕したり、わくわくするような”発見”はありませんでしたが、最後のアルバムとなってしまったことを考え合わせると逆に不思議な気にさせられます。
『ザ・ビートルズのレコーディングの旅路には多くの紆余曲折があり僕らは勉強を重ねながら、スリリングな体験をしてきた。 そして今でも、それらの魔法にまだ心を奪われている。』
ポール・マッカートニー『Abbey Road』50周年記念エディションの序文より ―
□ Track listing;
※)All tracks are written by Lennon–McCartney, except where noted.
Disc 2 of 3-CD Box Set: Demos & Outtakes
1. "I Want You (She's So Heavy)" (Trident recording session & reduction mix) 6:59
2. "Goodbye" (home demo) 2:23
3. "Something" (studio demo) Harrison 3:37
4. "The Ballad of John and Yoko" (take 7) 3:37
5. "Old Brown Shoe" (take 2) Harrison 3:15
6. "Oh! Darling" (take 4) 3:30
7. "Octopus's Garden" (take 9) Starkey 1:43
8. "You Never Give Me Your Money" (take 36) 5:17
9. "Her Majesty" (takes 1–3) 1:33
10. "Golden Slumbers / Carry That Weight" (takes 1–3) 3:20
11. "Here Comes the Sun" (take 9) Harrison 3:40
12. "Maxwell's Silver Hammer" (take 12) 4:44
Disc 3 of 3-CD Box Set: Demos & Outtakes
1. "Come Together" (take 5) 3:30
2. "The End" (take 3) 2:11
3. "Come and Get It" (studio demo) Paul McCartney 2:42
4. "Sun King" (take 20) 3:14
5. "Mean Mr. Mustard" (take 20) 1:34
6. "Polythene Pam" (take 27) 1:39
7. "She Came In Through the Bathroom Window" (take 27) 1:39
8. "Because" (take 1 / instrumental) 3:07
9. "The Long One" (trial edit & mix—30 July 1969) 16:10
* 1. "You Never Give Me Your Money"
* 2. "Sun King"
* 3. "Mean Mr. Mustard"
* 4. "Her Majesty"
* 5. "Polythene Pam"
* 6. "She Came In Through the Bathroom Window"
* 7. "Golden Slumbers"
* 8. "Carry That Weight"
* 9. "The End"
10. "Something" (take 39 / instrumental / strings only) Harrison 2:41
11. "Golden Slumbers / Carry That Weight" (take 17 / instrumental / strings & brass only) 3:17
では、まずはいきなり”I Want You (She's So Heavy)”の途中経過の興味深い音源ですね、69年2月22日のセッション音源にオーヴァーダブやリダクションが加えられた音源です。 ヴォーカルはまだラフですが、演奏は完成版に近いです。 ジョンがジョージ・マーティンとやりとりしている会話が入っています。 最終的にはカットされましたが、ビリー・プレストンによるハモンドB3によるソウルフルな演奏が聴けるのは嬉しいです。
当時のエピソードとしては、レコーディング時に近隣の住民から「うるさいぞ、何時だと思っているんだ・・・」みたいな苦情を受けており、ジョンが「もう1回大きな音で演奏しようぜ、これが最後のチャンスだ。」と言っている音声が入っています。 スタジオなのに、そんなに音漏れするんでしょうかね・・・??
□ "I Want You (She's So Heavy)" (Trident recording session & reduction mix);
そして、ポールによる弾き語りによるメアリー・ホプキンス(Mary Hopkin)の第2弾シングルとなった”Goodbye”ですが、わざわざキーを上げてファルセットを交えて歌っています。 正式なレコーディングがこの1週間後くらいに行われています。 第2弾シングルとして発表されて、全英2位にチャートインしました。
□ "Goodbye" (home demo);
続く”Something" (studio demo)はスタジオ・デモになるアコースティック・ヴァージョンですが、歌詞が少し違っています。
□ ”Something" (studio demo);
”The Ballad of John and Yoko" (take 7) は何とポールとジョンによる二人だけの録音になります、ドラムスはポールです。 ここでは二人のやりとりが面白いですね、スタジオにはいない筈のリンゴやジョージに向けて「もう少し速くできるかい、リンゴ?」とか、「ОK ジョージ」と言っているやりとりが入っています。
□ ”The Ballad of John and Yoko" (take 7);
続く”Old Brown Shoe" (take 2)はテイク2とありますが、最終版と遜色はありません。
”Oh! Darling" (take 4)は、ポールのヴォーカルは枯れてはいませんがほぼ最終版に近い出来ですね、この後わざわざ喉をつぶしてまでテイクを重ねた気持ちが分るような気がします。 途中でトライアルの様に色々な歌い方を試しています。
一番心に残ったのは、このデモ”Octopus's Garden” (take 9)でしょうね、ジョージの優しさが端的に表れています。 発端は自身の楽曲なのに、リンゴが2Verse目の歌い出しを間違えて1Verse目の5小節目の「He'd let us in, knows where we've been,」を歌ってしまう素人のような間違いをしでかします。 ここで、ジョージが笑いながら優しく声をかけているシーンが目に浮かびそうで、彼の思いやりを感じます。 決して、ポールやジョンのように手厳しいことは言っていません。
□ ”Octopus's Garden” (take 9);
”You Never Give Me Your Money" (take 36) はポールがおふざけで色々と試しています。
”Her Majesty" (takes 1–3) ではほぼ完全に近いですが、メロディーが違っていたリ、途中で歌い直したりとスタジオでの情景が目に浮かびそうです。
□ ”Her Majesty" (takes 1–3);
”Golden Slumbers / Carry That Weight" (takes 1–3) は、テイク1では元歌?のようにポールが”Fool on the hill”を口ずさんでいます。 歌い出しのイントロが非常に似ていますよね。
ジョンが交通事故でいない中で3人でレコーディングに臨んでいるのですが、結構途中で失敗しています、ビートルズも人間でしたね。
□ ”Golden Slumbers / Carry That Weight" (takes 1–3) ;
”Here Comes the Sun" (take 9)は、初期だからかブリッジ部の「Sun, sun, sun, here it comes」がまだありませんけれど、演奏自体はほぼ完成しています。
そして、”Maxwell's Silver Hammer" (take 12)では、ポールがリンゴに対してイントロのドラムスのパターンを細かく指示しています。 こう言うシーンは他の楽曲でもありましたね、1分強の曲だった”Polythene Pam”でもフィル・インまで指定していましたね、これバンド・メンバーだときついですよね?!
□ ”Maxwell's Silver Hammer" (take 12);
さて、2枚目の音源に移りますが、"The Long One"と言うB面メドレーのオリジナル完成版が収録されています、興味深い曲順になっています。
まずは、"Come Together" (take 5)ですがほぼ完成版に近いですが、ジョンのヴォーカルがかなりラフです。
続く"The End" (take 3) はまだ初期のオケ作りの段階なので、ドラムソロがなかったり、メロディーもブルーズみたいです。
"Come and Get It" (studio demo) は、映画『マジック・クリスチャン』(The Magic Christian)のテーマ曲としてアップルレコーズからデビューしていたアイヴィーズ(the Iveys)、後のバッドフィンガー(Badfinger)、にポールが提供した楽曲です。 ポールがプロデュースして69年12月にリリースされて全英4位にチャートインしました。 デモとは言えすでに完成しており、アイヴィーズの演奏はほぼ同じです。
□ "Come and Get It" (studio demo);
"Sun King" (take 20) はまだガイド・ヴォーカルの段階で、ジョンがメロディーの確認をしており、一方演奏はほぼ完成しています。
"Mean Mr. Mustard" (take 20) も上の"Sun King" (take 20) と同じ日時、69年7月24日、でのレコーディングです。 メドレーにすることが当初から決まっていたことが伺えますが、テンポはかなりスローに落としたヴァージョンになっています。
"Polythene Pam" (take 27) は翌日、69年7月25日、のレコーディングで"She Came In Through the Bathroom Window" (take 27) とメドレーになることが決められていたことが分かります。
この曲はジョン作の楽曲ですが、リンゴの叩きだすビートに対して「デイヴ・クラーク・ファイヴみたいだ!」とけなしている会話が収められています。
□ "Polythene Pam" (take 27);
"Because" (take 1 / instrumental) はまだシンセサイザーなどは入っていないデモです。
そして、一番の目玉とも言える、"The Long One" (trial edit & mix—30 July 1969) です。 驚くべき点は、 "Her Majesty" が "Mean Mr. Mustard"と"Polythene Pam"との間に収まっていることです。
□ "The Long One" (trial edit & mix—30 July 1969);
"Something" (take 39 / instrumental / strings only) はジョージ・マーティン(George Martin)編曲によるストリングスだけのステレオ音源です。
最後も、"Golden Slumbers / Carry That Weight" (take 17 / instrumental / strings & brass only) での同じくジョージ・マーティン編曲によるストリングスとブラスの音源だけを抜き出したものです。マルチ・トラックのマスターから抜き出した音源のようで、ポールによるヴォーカルが入り込んでいます。 これら最後の2曲は、ジャイルズ・マーティン(Giles Martin)による父親、ジョージ・マーティンへの敬意を表しているのだと思います。
今までのザ・ビートルズ関連のブログを再掲させてもらいます。
2018年11月 『The White Album』Remix 2018 (こちらです↓↑)
2018年12月 『The White Album』 Sessions in '68 (こちらです↓↑)
2018年12月 ”While My Guitar Gently Weeps” の真実 (こちらです↓↑)
2024年4月 『Abbey Road』 2019 Stereo Mix (こちらです↓↑)