『The White Album』Remix 2018 | Music and others

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リリース当初からあまり評価していないし、大して好きではなかった2枚組みのアルバム、アートワークだけが画期的で印象には残っていた、『The BEATLES』(通称は、”The White Album”)の発売50周年記念アルバムが11月9日に発売されました。
 
買いたいという衝動を抑えつつ、いつものSPORTIFYでデラックス・セット(全CD6枚組)をダウンロードして聴いています。
 
DeluxSet(White-Album)02
 
 
 
ジャイルス・マーティン(Giles Martin)による、現代のテクノロジーに沿ったリミックスを否定するか、肯定するかで評価は分かれるでしょう。 
 
それにしても、この”The White Album”って、4人のバンド・メンバーによるセルフ・プロデュースのアルバムだとあらためて感じました。 いつものジョージ・マーティン(George Martin)の存在感は薄く、右腕として常に横に座っていたレコーディング・エンジニアのジェフ・エメリック(Geoffrey "Geoff" Emerick)も途中で嫌気が差して離脱したことは周知の事実です。
 
 
今回あらためて聴き直してみて、シンプルかつダイナミックなロックン・ロールへの回帰だったのではないかと感じました。
 
 
1968年2月にインドへ向かった”超越瞑想”のための旅行は、食事や環境に関しては当然ながら厳しい日々の連続だったようです。 但し、副次効果としては、現状を見つめ直すことになり、併せて、創作活動の上では有意義な日々を過ごすことになりました。 特に、ジョンとポールはインド滞在中にニュー・アルバム用の曲作りに励み、数多くのモティーフが出来上がったのです。 同時期に、ビーチ・ボーイズのメンバーも提唱者であるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギー(Maharishi Mahesh Yogi)に魅せられて、マイク・ラヴ(Mike Love)を筆頭に多大な影響を受けて来ました。
 
帰国後には、ファンの間ではつとに有名な、デモ・レコーディングのイーシャー・デモ(Esher Demo)が行われています(この時の楽曲については、別のブログで触れてみたいと思います)。
 
4人のミュージシャンとしての成長、それと共に強くなるエゴ。 更には、レコーディングの途中から8トラック・レコーダーが導入され、個々の自由なレコーディング・セッションが可能になり、全員による共同作業と言う意味合いが薄れて行ったと言われています。
 
5月には、自身のレコード会社「アップル」が設立されましたが、コントロール・タワーであったブライアン・エプスタインBrian Samuel Epstein)の急逝による測りしえない影響が、ビートルズ4人の心のバランスを蝕んで行ったことは想像に難くないと言えます。
 
さて、今回のリミックスは2009年のリマスター盤と同様に、アビーロード・スタジオに保管されていたマスター・テープを題材にして処理されています。 全体的に鮮明な音像になり、ベースの迫力も増し、定位も曲によってはかなり変わっているものもあります。
 
30曲もあるので、気になった曲について少し触れてみたいと思います。
 
□ 『The Beatles 』(‘White Album’) – 6CD+blu-ray super deluxe;
 
CD 1: The BEATLES (‘White Album’) 2018 Stereo Mix
1.  Back in the U.S.S.R.
2.  Dear Prudence
3.  Glass Onion
4.  Ob-La-Di, Ob-La-Da
5.  Wild Honey Pie
6.  The Continuing Story of Bungalow Bill
7.  While My Guitar Gently Weeps
8.  Happiness is a Warm Gun
9.  Martha My Dear
10.  I’m so tired
11.  Blackbird
12.  Piggies
13.  Rocky Raccoon
14.  Don’t Pass Me By
15.  Why don’t we do it in the road?
16.  I Will
17.  Julia
 
CD 2 The BEATLES (‘White Album’) 2018 Stereo Mix
1.  Birthday
2.  Yer Blues
3.  Mother Nature’s Son
4.  Everybody’s Got Something to Hide Except Me and My Monkey
5.  Sexy Sadie
6.  Helter Skelter
7.  Long, Long, Long
8.  Revolution I
9.  Honey Pie
10.  Savoy Truffle
11.  Cry Baby Cry
12.  Revolution 9
13.  Good Night
 
 
□ The Beatles - Back in the U.S.S.R.  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 

 

やはり、冒頭のこの曲、”Back in the U.S.S.R.”でしょうね。 ジャイルズ曰く、オリジナルのレコーディングにはベース・パートが存在していなかったそうです?! 
さて、今回のリミックスでは、ベース2本(ジョージは6弦ベース-Fender Bass VI)がより強調されており、音像の定位も中央寄りになっています。 あと、ヴォーカルに関しては従来よりも左右に拡げられている様に聴こえました。 
 
なお、ご存知のように、ドラムスはリンゴ・スター(Ringo Starr)がバンドから離脱中のレコーディングのため、ポールが叩いており、後からジョンとジョージによってタムやスネアがオーヴァーダブされています。 この曲は、59年リリースのチャック・ベリー(Chuck Berry)作の”Back in the U.S.A.”に着想を経てポールが作曲しました。 ジョンとジョージによるビーチ・ボーイズ風のコーラスと合わせて、とても軽快な曲になっています。
 
2曲目、”Dear Prudence”はジョンがインドで書上げた曲であり、同行していたプルーデンス・ファロー(女優のミア・ファローの妹)に対して語りかけた曲だと言われています。 ドロップD・チューニングを使った3フィンガー・ピッキングのアコギ2本が左右に拡がり、より浮遊感を増幅させるような定位に変えられており、神秘的な感じを強まっています。
ここでのドラムスも前の曲と同じくポールが担当しています。
 
□ The Beatles - Dear Prudence  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
レゲエ(スカ)のリズムをモティーフにした陽気な楽曲、4曲目”Ob-La-Di, Ob-La-Da”ですが、ジョンはレコーディング・セッションが嫌で堪らなかった曲ですね。 今回のRemixでは、イントロの手拍子が6拍から5拍になり、最初の1拍がカットされているのは何故なのだろうか??  何故にこの曲が、本国のイギリスやアメリカでシングルカットされなかったのか?、謎ですね・・・・・。
 
□ The Beatles - Ob-La-Di, Ob-La-Da  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
そして、この曲の最終テイク#22のリード・ヴォーカルをレコーディングし直した、68年7月17日に起きた出来事(ポールとジョージ・マーティンとの口論)により、ジェフ・エメリックは 「もういやだ。オレは辞めるよ!」とスタジオを飛び出してしまい、半年が経過するまで戻って来ませんでした。
 
奇妙さが前面に出ていて、未だに好きになれない5&6曲目の2作品、共にポールとジョン個々によるソロ作品ですが、今回のリミックスにより珍奇さが際立つように聴こえました。
 
 
そして、今回のリミックスでジャイルズが最も多くの時間を割いたと言う曲が、何と”While My Guitar Gently Weeps”と云うことなのですが、俄かには信じ難い話ですね。 ジョージのヴォーカルがより前面に出てきているように聴こえますが、他のパートはそれほど大きく変わった感じは受けませんでした。 
□ The Beatles - While My Guitar Gently Weeps  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
最大の変化は、エリック・クラプトン(Eric Clapton)の弾くオブリガート、ギブソン・レスポール(Gibson Les Paul)から放たれるフレーズがより躍動的になり、チョーキング・ヴィブラートがさらに鮮明に流れてカッコいいです(感激!)。 やっぱり、フェンダーよりもギブソンのこの骨太な音ですよ。
 
 
 
そして、このアルバムの中では外せない曲、”Blackbird”です。 従来よりも、2本のアコギ(Martin D-28)の定位が変えられて、センターに置かれたポールのヴォーカルを包み込むようになり、凄い臨場感を感じることが出来る。 本当に良い曲。 パーカッション代わりのポールの靴音はやや中央寄りに変わりました。 そして、SEとしての鳥の鳴き声が、モノラル盤とステレオミックスとでは入ってくるポイントが数秒異なる点もよく知られている。
 
□ The Beatles - Blackbird  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
そして、続く12曲目、ジョージ作の辛辣なメッセージを込めた”Piggies”ですね。 ”Taxman”と同じ趣向の経済、階級格差に対する皮肉を込めた内容の曲です。 富裕層を大きな豚に喩えて皮肉っています。歌詞、”What they need's damn good whacking”の通りでしょうね。 この曲のプロデュースは、若かりし頃のクリス・トーマス(Chris Thomas)で彼自身が演奏するハープシコードが良いアクセントになっています。 なお、ジョンが作った豚の鳴き声のテープループですが、今回は定位が最初は左に、エンディングでは右に振り分けられていました。
 
□ The Beatles - Piggies  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
そして、1枚目の最後に置かれた”Julia”、44歳の若さで亡くなった母親に捧げられたジョンによる楽曲です。 本アルバム・セッションの一番最後にレコーディングされた曲であり、ジョン単独でレコーディングされた唯一の曲になります。 ”Blackbird”同様に、2本のアコギの定位が変更されて、左右に拡がりを持つようになり、ダブル・トラックによるジョンのヴォーカルを微妙にずらされているのか、”揺らぎ”を感じさせる仕上がりになっている。 こちらも、ドロップD・チューニングを使っているのかな・・・・・?
 
□ The Beatles - Julia  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
 
2枚目に移り、新米ベーシストだった頃を思い出させる曲、”Birthday”です。 従来のミックスとは異なり、楽器の定位に注意が払われているようで、トゥイン・ギター、ベース、が左右、中央に振られており、聴き取り易くなっています。 替わりに、コーラスを含むヴォーカルが塊のようになっている部分があり、少し聴き辛い箇所が出ています。 
 
□ The Beatles - Birthday  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
それにしても、印象的なリフが先行して、ポールとジョンのシャウトするデュエット・ヴォーカルがその合間に応えて続く展開は画期的です。 その後にフィルなしのドラム・ソロが続く、こんなパターンのパーティー・ロックンロールを作れる、ポールって凄い才能を持ってますね(天才)。
 
 
 
続く2曲目、ジョンの作品では人気の高い”Yer Blues”です。 イントロのリンゴのカウントとドラムスの定位が左からやや真ん中よりに変わっています。 エンディングのインスト・パートにおける、ジョンとジョージのギターの定位が右から中央に動く部分が、まるでステージを前に聴いているような感覚になる。
□ The Beatles - Yer Blues  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
基本は8分の6拍子のスロー・ブルーズですが、テンポアップしてシャッフルに変わったりと、変拍子好きのジョンらしいひねくれた曲調です。 ロックンローラー ジョン、ここにあり! ですねー。
 
 
リリース当時から最も話題に上がった楽曲、ビートルズ版ハード・ロック、”Helter Skelter”です。 エンディングにおいて、フェイドアウトして尻切れトンボのように終わってしまうモノラル盤とは違い、従来のステレオ盤と同様に再びフェイド・インして、最後にリンゴの叫び声、”I've got blisters on my fingers!!”が入りますよね。 今回は、そこに更にギターのノイズが被さります。 今回のリミックスでは、より音圧が上がり、冒頭のギターリフだったり、ドライヴするベースが際立っています。 ジョージの弾くリードギターを初めとしてADT処理を駆使しているように聴こえますね。
 
□ The Beatles - Helter Skelter  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
 
 
やはり、あのチャールズ・マンソン(Charles Milles Manson)の影が付きまとう楽曲ゆえに、ポールはつい最近までライヴでは全く演奏していませんでした。
 
そして、続く”Long, Long, Long”はジョージ作のボブ・ディランっぽいコード進行の曲です。 前のトラックがあまりにも凄まじいので埋没してしまっていますが、ここでのリンゴのドラム(特にスネア)の生々しさは特筆すべき点だと思います。
 
そして、8曲目はジョンの作品、”Revolution I”です。 歌詞はとてもシニカルであり、サウンドはアコースティック主体のブギー調スローブルーズです。 でも、小節の構成はブルーズとは全く関係なく12小節の枠には縛られない形式で、一筋縄では行きません、だからこそジョン・レノンなんです。 シングル・カットされた”Hey Jude”のB面に収められたテイク(日本語のタイトルは、”レボリューション”)は、よりハードな別ヴァージョンになっています。
 
□ The Beatles - Revolution I”  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 
チョコレート好きのための曲が10曲目の”Savoy Truffle”、ジョージの作品です。 甘いものに目がなかった親友、エリック・クラプトンが虫歯で苦しんでいたことをヒントに作ったそうで、彼らしいソウルフルな曲調です。 歌詞の中には、マッキントッシュ・フーヅ社の作っていたチョコ菓子の商品名が沢山出てきます。 この曲の特徴的であったディストーションを掛けたブラス・サウンドがより強調されており、その分ギターが後ろに引っ込んだ印象を受けました。
 
そして、本アルバムの最大の問題作である”Revolution 9”、サウンド・コラージュと言えばいいのか、恋人であたヨーコ・オノの影響が出た実験的な楽曲です。 未だにフルに聴いたことはありません。
 
最後を飾るのが、ジョンが息子であるジュリアの為に書いた甘く優しい子守唄、”Good Night”です。 前の曲が曲だけに、アナログ時代にはきちんと聴いたことがないように思います。 当初は、ジョンのアコギとリンゴのヴォーカルによるレコーディングだったのです。 しかし、よりスタンダード曲っぽくゴージャスな仕上がりにするために、ジョージ・マーティンによるストリング・アンサンブルとコーラスだけをバックにリンゴが一人で歌う作品に変わったのです。
 
□ The Beatles - Good Night  from 『The White Album 2018 Remix ; 

 

 

 
 

FabFour 01