【移民】トランプ次期大統領への誤解【貿易】 | 独立直観 BJ24649のブログ

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流行に浮かされずに独り立ち止まり、素朴に真っ直ぐに物事を観てみたい。
そういう想いのブログです。

 第45代アメリカ大統領には共和党のドナルド・トランプ氏が就任することが決まった(http://www.sankei.com/main/topics/main-31786-t.html)。

 トランプ氏というと、過激発言の印象が強い。

 しかし、マスメディアによって発言が歪められているところが少なくない。

 今回取り上げるのは2点。

 トランプ氏の、移民に対する態度と貿易に対する態度だ。

 

 トランプ氏の移民に関する発言というと、「メキシコとの国境に壁を築く」が印象的だ(http://www3.nhk.or.jp/news/special/2016-presidential-election/?utm_int=news_contents_news-closeup_001)。

 アメリカは移民が建国した。移民の否定はアメリカ建国の歴史の否定であり、合衆国憲法の否定でもある。こんな話が選挙戦の中で聞かれた。

 私が見たABCのニュース番組では、あるパネラーが、フロリダ州についてだったと思うが、「トランプは移民を強制送還すると言っている。なのにヒスパニック系の3割がトランプに投票した。」などと言って不可解がっていた覚えがある。

 トランプ氏は移民全てを本国に強制送還しようとしているのだろうか。

 

 実は、これが誤解なのである。

 トランプ氏が問題視しているのは、あくまで不法移民なのだ。正規の手続きを経て合法的に入国・在留する移民まで追い返そうとしているのではない。アメリカの南部国境線を越えて入ってきたメキシコ人等の不法移民は3000万人以上いるとも言われている。こういう背景があって、「メキシコとの国境に壁を築く」という発言が出てくるのだ。

 また、テロ対策や犯罪対策のために入国審査を厳格に行おうと訴えているに過ぎない。

 「えっ!?」と意外に思うだろう。

 過激発言のように印象づけられているが、過激でも何でもなく、「法律違反を取り締まる」「国境・国民を守る」という、当たり前の主張なのだ。

 今まで、数多くの不法移民が流入し、送り返されることもなく、アメリカを蝕んできたのである。「サンクチュアリ・シティ」と呼ばれる不法移民を取り締まらない都市がある。むしろこんな大問題が看過されてきたことのほうがおかしい。

 トランプ氏の言い方にも問題はあるのだろうが、この当たり前の主張が過激と扱われてしまうところに、現在のアメリカの政治・教育・メディアの病理がある。安全保障の強化を主張すると右翼タカ派軍国主義者扱いされるわが国と似たようなところがあるが、アメリカの方がわが国よりもひどい言論状況らしい。

 

 以上のことは江崎道朗「マスコミが報じないトランプ台頭の秘密」(青林堂、平成28年)46~60ページに書かれている。

 江崎氏は、アメリカの政府関係者や研究者などと交流があり、特にアメリカの保守系の人々との交流があるところが特徴的だ。トランプ支持者とも交流がある。大勢を占めるサヨク・リベラル系メディアとは違った視点でアメリカを論じている。

 ぜひ手にとってもらいたい。

 

 

 

「【10月8日配信】特別番組「マスコミが報じないトランプ台頭の秘密」江崎道朗・内藤陽介・倉山満【チャンネルくらら】」 YouTube2016年10月8日

https://youtu.be/j2l7Mh4H7UA?t=9m13s

 

  ※ 移民問題を取り上げた書評としてhttp://yumikw.blog.fc2.com/blog-entry-155.html


 

 

 次は、貿易についてだ。

 トランプ氏というと、TPP反対の主張が印象的だ。

 民進党からこんな発言が出ている。

 

 

「【政論】 民進党・蓮舫代表「トランプ氏に失礼」でまたもブーメラン TPP交渉参加の協議入り決断は旧民主党政権ではなかったか」 産経ニュース2016年11月11日

http://www.sankei.com/politics/news/161111/plt1611110033-n1.html

 

「 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)承認案などをめぐり、米大統領選でTPP脱退を明言するトランプ氏が勝利したことを受け、民進党執行部から承認案の即時撤回を求めるような発言が相次いでいる。そもそもTPP交渉参加に向けた協議入りを決断したのは、平成23年の旧民主党・野田佳彦内閣だ。自由貿易体制を重視する本来の立場を忘れ、トランプ氏を安倍晋三政権の攻撃材料にするのは本末転倒でないか。

 蓮舫代表「新大統領に対して失礼にあたるのではないかとも思い、懸念している」

 野田幹事長「新しい大統領にケンカを売るような話にもなりかねない」

 蓮舫、野田両氏はトランプ氏が勝利した9日、承認案などの衆院採決を急ぐ政府・与党を批判した。

 民進党は「今回の交渉で農産物重要5項目の聖域が守れなかった」ことなどを理由に承認案に反対しているが、TPPの理念は否定しない立場。7月の参院選で発表した「民進党政策集2016」にも「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現をめざし、その道筋となっているTPPなどの経済連携を推進します」と明記している。

 トランプ氏はTPPを「米製造業の致命傷になる」と批判するなど保護主義的な姿勢を示してきた。民進党の考えるべき道は、TPPの理念まで消え去りかねない危機への対応であり、「トランプ氏に失礼」などと肩を持つことではないはずだ。(水内茂幸)」

 

 

 蓮舫が考えるところの「失礼」にあたらない外交、裏を返せば礼を尽くした外交とは、どのようなものなのだろうか。

 「はーっ にございます」と、アメリカ様の下僕として振る舞う土下座外交だろうか(http://annextokuroya.blog48.fc2.com/blog-entry-369.html)。

 主権を有する独立国家の態度ではない。

 驚きなのは、TPP交渉参加に向けた協議入りを決断した張本人である野田佳彦だ。

 「ケンカ」を避けよとは、言うべきことも言わず、アメリカに唯々諾々と従おうとしていたのだろうか。

 民進党には外交が存在しない。

 「友好第一」を建て前にして外交を放棄している(安倍晋三「新しい国へ 美しい国へ 完全版」(文藝春秋、2013年)249,250ページ参照。http://ameblo.jp/bj24649/entry-12187157595.htmlで引用)。

 私は「TPP亡国論」を疑っているが、民主党政権においては当たっている部分があったのかもしれない。

 

 

  ※ 蓮舫外交のイメージ図

http://blog-imgs-11.fc2.com/a/n/n/annextokuroya/20070412153916.gif

 

 

 ヒラリー・クリントン氏も大統領選においてはTPP反対を主張した。

 しかし、クリントン氏はオバマ政権の国務長官としてTPPを推進してきた。

 なんだかんだ言って、最終的にはTPPに批准するということが予測できた。

 しかし、トランプ氏はどうなるかわからない。

 トランプ氏については、自由貿易を否定する保護主義の傾向がメディアで強調されている(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20161110-OYT1T50184.html)。

 対して、オバマ大統領は保護主義の台頭に懸念を示している。

 

 

「米、TPP承認に暗雲=トランプ氏が離脱表明-クリントン氏も「拒否」」 時事ドットコム2016年7月2日

http://www.jiji.com/jc/article?k=2016070200219&g=int

 

 【ワシントン時事】米大統領選で共和党の指名獲得を確実にした実業家ドナルド・トランプ氏(70)が、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を宣言した。民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(68)も拒否の姿勢を強めており、米国のTPP承認手続きに暗雲が広がってきた。
 「TPPは米製造業に致命的打撃となる」。トランプ氏は6月28日、ペンシルベニア州での集会で、貿易自由化による雇用減少の懸念をあおり、大統領に就任すれば「米国をTPPから離脱させる」と、12カ国の枠組みに反対する姿勢を一段と鮮明にした。カナダ、メキシコと結んだ北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉も訴えた。
 前国務長官時代にTPPを推進したクリントン氏も、貿易協定批判を繰り返す。同21日のオハイオ州での集会で「水準を満たさないTPPは拒否すべきだ」と訴え、発効済みのNAFTAなどについても「米国人のためになっていない協定は再交渉する」と表明した。

 ただ、クリントン氏は今のところ、TPPの再交渉や離脱など具体的手続きを明言していない。将来の軌道修正の余地を残しているとの臆測から、トランプ氏はクリントン氏が大統領になれば「TPPを承認するだろう」とけん制。民主党指名争いで敗れたサンダース上院議員は今月下旬に採択する党政策綱領に「TPP承認採決阻止」を明記するよう要求し、クリントン陣営に「踏み絵」を突き付けた。
 大統領選でTPP批判に焦点が当たり、米議会の承認審議の見通しは不透明さが増す。TPP交渉に関与した元米政府高官は「トランプ政権下に持ち越されれば、発効は困難になる。クリントン氏が大統領に就任しても、軌道修正に時間がかかる」と指摘する。
 オバマ大統領は6月29日の会見で「貿易協定から撤退し、自国市場だけに集中するのは誤った処方箋であり、雇用が失われる」と訴え、保護主義の台頭に懸念を示した。米紙によると、大統領は6月上旬、サンダース氏との会談で、「TPP阻止」を民主党の政策に掲げるよう求められたが拒絶し、引き続き年内のTPP承認を探る意向を強調した。(2016/07/02-15:46)」

 

 

 「トランプ=保護主義」という類いの報道などを聞いて、私は全く正反対の誤解をした。

 自由主義陣営のオバマ、共産主義陣営のトランプ、といった具合である。

 社会主義者のバーニー・サンダース氏(民主党)の支持者の何割かがトランプ支持に回るという観測も、この誤解を補強した(http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/07/post-5555.php)。

 どういうことか。

 回りくどい話になるが、安倍晋三総理大臣の戦後70年談話に、こういうことが述べられている。

 

 

「内閣総理大臣談話」 首相官邸HP平成27年8月14日

http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html

 

「 世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。この戦争は、一千万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれました。

 当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。

 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。

 そして七十年前。日本は、敗戦しました。」

 

 

 賛否両論の激しい談話だ。

 江崎氏は本書で否定的な評価を下している(151ページ)。

 今回着目したいのは、「経済のブロック化」だ。

 世界恐慌の時に、保護主義が台頭し、そして社会主義(共産主義)が広がったのである。

 この歴史については江崎氏も述べている。

 保守系の評論家の中にも保護主義・反自由貿易を唱える者がいる。時宜に応じて関税を引き上げる余地があった方がよいという程度の主張ならまだしも、「貿易自由化はデフレを悪化させる」などという経済学上の根拠が不確かな主張が合わさると、国家社会主義が根底にありやしないかと疑う(中野剛志「TPP亡国論」(集英社、2011年)125ページ、http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-10772988180.htmlhttp://www.shinchosha.co.jp/book/610526/。なお、中野は同137ページで、「世界恐慌は保護主義で悪化したのではない」としている。)。

 こういうことがあって、私は保護主義を主張する者には警戒心を持っている(絶対に信用できないというものでもないのだろうが)。

 

 

江崎道朗 「マスコミが報じないトランプ台頭の秘密」 (青林堂、平成28年) 96~100ページ

 

戦前期――国家社会主義者ルーズベルトの支配

 

 アメリカは、共和党・民主党の二大政党が互いに政権を争い、選挙の勝敗によってその二大政党のいずれかが政権を預かる二大政党制の国です。

 共和党と民主党のどちらが強いのかというと、第十六代大統領エイブラハム・リンカーン(一八六一年~一八六五年)から第三十一代大統領ハーバート・フーバー(一九二九年~一九三三年)までの七十二年間、共和党の方が圧倒的に強力でした。

 リンカーン大統領のときに南北戦争があって、共和党は勝った北軍の側でしたので、その後もずっと多数派の地位を維持し続けたのです。

 日本でいえば幕末から明治維新、大正、そして昭和の満州事変に至るこの七十二年間に選挙で勝った民主党の大統領はグロバー・クリーブランド(一八八五年~一八八九年、一八九三年~一八九七年)とウッドロウ・ウィルソン(一九一三年~一九二一年)の二人だけで、いずれも共和党の内紛のおかげで勝てたにすぎません。

 民主党の第二十八代ウィルソン大統領の後、一九二〇年代のアメリカは共和党政権の下で空前の経済的繁栄を迎えました。

 ところが、共和党の第三十一代フーバー大統領のとき、決定的な事件が起こります。一九二九年の暗黒の木曜日に端を発する世界恐慌です。

 一九二九年十月二十四日木曜日、ニューヨーク株式取引所で空前の株価大暴落が起こり、その影響がアメリカ経済全体に広がり、さらには世界各国も巻き込んで、空前の長期経済不況に突入しました。

 このとき大統領であった共和党のフーバーは経済政策を決定的に間違い、対策が後手に回って国民を食わせられなくなったために信を失ってしまいます。また、不況対策として保護貿易政策を採ったために、貿易を縮小させて不況を世界に広げる結果になりました。

 政治家の経済オンチは、国を危うくするのです。

 世界恐慌の影響はすさまじいものでした。一九三三年のアメリカでは一九一九年比で名目GDPは四五%減少、株価は八〇%下落、工業生産は三〇%低下、農産物価格は三分の一になり、失業者は二五%にまで悪化しました。

 この大恐慌により「資本主義はもうダメだ」という空気が蔓延します。

 この当時、共産主義国家ソ連が、一九一七年のロシア革命を経て、既に建国していました。アメリカでもヨーロッパでも大量の失業者が出ている一方で、ソ連では雇用が維持されていたと欧米では報じられていましたし、ソ連の内実が暴力的な専制であることは当時あまり知られていませんでした。

 欧米に対するソ連の政治宣伝が巧妙だったこともあって、「誰もが平等で貧富の差がない」「家も医療も教育も、全て政府が面倒を見てくれる」という社会主義型の統制経済への共鳴・共感が、未曾有の長期不況という現実の中で欧米諸国の間で説得力を持ってしまったのです。

 また、ソ連の指導者レーニンは、アジアやアフリカの植民地に対して、「独立を支援してやる」と手を差し伸べました。

 欧米の植民地支配に苦しんでいたアジア・アフリカの独立運動の指導者たちは、欧米諸国に対して反感を持っていましたし、自分たちを支援してくれるのがソ連・コミンテルンだけでしたので、「コミンテルンが主張する共産主義はよく分からないが、差別に反対し、虐げられた人たちの味方になってくれているのだから、素晴らしいものに違いない」と思い込んでいました。

 このような空気の中で、選挙で圧勝したルーズベルト政権がニューディール(新規蒔き直し)政策を始めます。

 これは、これまでの経済社会政策では効果がないので、国家社会主義を採用するというものでした。

 簡単に言えば、貧しい人々の面倒を政府がみる代わりに、金持ちから多額の税金をふんだくる政治のことです。貧しい人々にどれだけの福祉を提供するのか、金持ちからどれだけ税金を取るのかは政府が決めますので、政府の力が圧倒的に強くなります。

 国家社会主義というとヒトラー率いるナチス・ドイツが代表例としてよく挙げられますが、ルーズベルトのニューディールも、国家社会主義政策でした。

 ルーズベルトは、このニューディール政策を推進する中で、労働組合を中心とした巨大な政治勢力を味方につけることに成功しました。この民主党の支持基盤のことを、ニューディール連合と呼びます。

 ニューディール連合とは、労働組合、官僚・学者・マスコミ、そして、マイノリティと呼ばれるいわゆる社会的弱者で構成される、民主党支持組織や利益団体の連合体です。

 このニューディール連合のとりわけ中心的な組織は労働組合です。

 ルーズベルトが大統領に就任した当時は、労働組合員は三〇〇万人といわれていましたが、ルーズベルトの長期政権中の一九四一年には、労働組合員が九五〇万人になりました。労働組合員が実に三倍以上になったのです。

 ルーズベルト政権は政府の人員も大幅に拡大して、増員された官僚たちが組合と結びつき、日本でいえば自治労にあたる勢力を作っていきます。

 そしてこれらの組合員は全て民主党政権の支持者でした。

 ルーズベルト政権の間に、九五〇万人を擁する巨大な組合が盤石な民主党政権を作り、同時に学者・マスコミ・マイノリティ全部を牛耳ってしまったわけです。

 日米戦争でアメリカは勝利を収めましたが、アメリカ国内は、ニューディール連合という国家社会主義勢力によって乗っ取られてしまったのです。

 こういう状況の中で、ニューディール連合からどうやって政治的主導権を奪い返すのかが、共和党、特に社会主義に反発を覚えていた保守派たちの問題意識でした。

 この構図を知らないことには、アメリカの戦後政治史は全く理解できません。

 日本では、敗戦後にGHQとニューディーラーによって日本が支配され、制度を改悪されたと多くの人が言っています。

 実は同時期、アメリカもニューディーラーに支配されておかしな方向へ動き出していたというのが、アメリカの保守派の基本的な認識なのです。」

 

 

 

渡部昇一 「決定版・日本史」 (育鵬社、2011年) 204~207ページ

 

◎ 世界大不況とマルクスの予言

 なぜそれまでに日本人が左翼好きになったのか。それには理由がある。これもまたアメリカに責任があるといっていい。

 アメリカは第一次大戦中および大戦後のしばらくの間、空前の好景気にあった。ところが、そのうち第一次大戦で傷ついたヨーロッパの産業が復興すると物が売れなくなり、輸入制限をして自国産業を保護しようというブロック経済論が台頭してくる。そして一九二九年(昭和四)に、ホーリーとスムートという上院議員と下院議員が、二万品目以上の輸入品に膨大な関税をかける「ホーリー・スムート法」を上程した(一九三〇年に成立)。

 しかし、これは貿易反対法ともいえるもので、アメリカが輸入品の関税を上げれば、他国も対抗してアメリカの商品に高い関税をかけた。その結果、アメリカの貿易高は半分以下にまで落ち込んだ。アメリカの株式市場は大暴落し、空前の不況がアメリカを襲い、世界へと広がっていくことになった。いわゆる「世界大恐慌」である。

 日本に対してもアメリカは一千品目について万里の長城のような高い関税をかけたから、日本の対米貿易高は一年以内で半分になった。それはヨーロッパも同様で、結果として世界に不況の嵐が吹き荒れることになったのである。

 そのとき、思いがけない現象が起こった。この不況はマルクスの予言が的中したのだという解釈が横行したのである。マルクスの経済論は、非常に簡単に言えば、機械が発達すると労働力が不要になって大量失業が起こり不況になるというものであり、まともな経済学者には問題にされていなかった。ところが、この不況になるという一点だけが拡大解釈されて予言が当たったといわれたのである。

 もちろん、それは間違っている。この大不況にマルクスの経済論は全く関係なく、ホーリー・スムート法により貿易が止まり、物資が流通しなくなったことが、すべての原因であった。つまり、その不況の原因はアメリカのブロック経済にあったわけである。そしてアメリカに対抗するために、イギリスも一九三二年(昭和七)にオタワ会議を開き、連邦諸国との間でブロック経済を行うことを決めたのである。

 これが不況の本当の理由だったにもかかわらず、その解釈をマルクスととったために、日本では資本家が悪いという発想になり、社会主義がもてはやされ、それが軍隊にも入って社会体制を変えなければいけないというふうに飛び火したのである。昭和初期の日本に起こったごたごたは、明らかにアメリカのエゴイズムと、それに引き続いたイギリスのエゴイズムと、それからマルクスとは関係がないのにマルクスの予言が当たったと宣伝したコミンテルンの策略のうまさがかみ合わさったために生み出されたものであったといってよいだろう。

 また、米英のブロック経済政策は第二次世界大戦への引き金ともなった。これらの資源豊富な「持てる国」はブロック経済で不況をしのげるが、日本やドイツ、イタリアのような「持たざる国」はたまったものではない。その結果、日本では東アジアに日本を中心にする経済ブロックをつくろうという「日満ブロック政策」が生まれ、ドイツやイタリアでは国家社会主義化(ファッショ化)が国民の支持を得るようになった。第二次世界大戦はドイツと日本がはじめたものとされるが、実際に日本やドイツを追い込んだのは、「持てる国」のブロック経済がきっかけだったのである。

 それでも日本には高橋是清という抜群の財政家がいたため、世界大不況から抜け出すことができた。同時に、昭和六年(一九三一)に起こった満州事変をきっかけとして高度成長期に入り、順調な発展を遂げていくことにもなるのである。」

 

 

 

  ※ 「貿易自由化はデフレを悪化させる」=輸入デフレ論につきhttp://ameblo.jp/khensuke/entry-12092937897.html

  ※ 貿易自由化がデフレ要因ならば、NAFTAが発効した1994年初頭から、アメリカのインフレ率は下がりそうである。しかし、同年から1996年にかけて、インフレ率は上がっている(http://ecodb.net/country/US/imf_inflation.html)。1997年にインフレ率が下がっているが、アジア通貨危機の影響であろう。ちなみに、中野「TPP亡国論」の「貿易自由化はデフレを悪化させる」の項目には具体的事例への言及がなく、NAFTAにも言及がない。ISD条項を語るときはNAFTAを取り上げるのだが(http://diamond.jp/articles/-/14540?page=5)。

    ついでに言うと、この記事の4ページ目の脚注に衝撃の事実が書かれている。中野は「しかも信じがたいことに、米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである」と書き、三橋貴明はこの論考をブログにコピペし、この部分を大文字で強調して拡散した(http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11058446913.html)。しかし、これはデマであることが判明し、訂正されている(http://diamond.jp/articles/-/14540?page=4)。「信じがたいこと」など存在しなかったのだ。

 

 

 で、本題のトランプ氏だが、江崎氏によれば、TPPには反対を唱えるものの、自由貿易そのものを否定してはいないとのことであり、自由主義経済はあくまでも守るとのことだ。

 トランプ氏はゴリゴリの保護主義者ではない。トランプ氏は指名受諾演説で貿易について「個々の国々と個々の協定を結ぶ」と述べている。

 断片的情報に基づく憶測に過ぎないが、トランプ氏は、多国間交渉よりも二国間交渉の方が相手国に対してアメリカに有利な内容を押し付けやすく、「アメリカ・ファースト」に適うと考えているのではなかろうか。だから多国間交渉のTPP(およびNAFTA)に対して批判的になる。

 TPP亡国論者たちは、「TPPは過激なFTA」「TPPは日本包囲網」などと言い、アメリカに対する恐怖を煽ってきたが(中野剛志「TPP亡国論」(集英社、2011年)21,45ページ、http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110203/218273/?bvr&rt=nocnt)、トランプ氏のTPPに対する態度を見るとこういう言説は疑わしく思う。

 それにしても、トランプ氏に「貿易赤字=負け」という重商主義の感覚があるように見えるのは気になるところだ(http://ameblo.jp/khensuke/entry-12212904732.html#cbox。重商主義については、上念司「歴史から考える 日本の危機管理は、ここが甘い 「まさか」というシナリオ」(光文社、2012年)88ページ)。

 

 

江崎同上40~46ページ

 

偉大なアメリカの復活を目指すトランプ

 

 では、トランプは具体的にどのような政策を行おうとしているのでしょうか。ひとつひとつ見ていきましょう。

(中略)

 第三は中産階級の復活です。

 適切な社会保障を維持ししつつ、財政出動で公共事業を拡大する。国内産業を活性化する。雇用を国内に呼び戻して国民の所得を上げる。

 共和党の伝統的な経済政策は「小さな政府」、つまり緊縮財政と、徹底した規制緩和が基本でした。

 

 それだけでは中産階級を復活させることはできませんし、オバマ政権のもとで痛めつけられた中産階級、経済弱者への手当も必要ですから、トランプはこれまでの共和党保守派の経済ドグマを修正していく考えです。もちろんトランプ自身が土建屋なので公共事業を主張しているというところもありますが。

 アメリカ・ファーストで国内産業を復活させるとなると、「国民経済を無視した」グローバリズムには反対ということになります。アメリカは現在NAFTA(北米自由貿易協定)をカナダ・メキシコとの間で結んでおり、この三カ国の中での貿易自由化を目指して、関税の引き下げや撤廃、金融サービス市場の開放、投資の自由化などを実施しています。

 また、TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉にも、二〇〇九年にオバマ大統領が参加を表明しました。

 TPPは太平洋周辺諸国の間で、人、物、サービス、金の移動をほぼ完全に自由にすることを目指す国際協定で、二〇一六年現在、カナダ、アメリカ、メキシコ、ペルー、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、日本の十二カ国が締結交渉に参加しています。

 トランプは、ビル・クリントンが締結したNAFTAによってアメリカの製造業の三分の一近い雇用を失ったと批判していますし、アメリカがTPP協定に参加したら、NAFTAと同様にアメリカの製造業が破壊され、アメリカは外国政府の決定に従わされるから、加入するべきではないと主張しています。

 指名受諾演説では、「我が国の労働者に害を及ぼす、あるいは我々の自由や独立を損なう悪い貿易協定には参加しない」「その代わり、個々の国々と個々の協定を結ぶ」「アメリカ第一だ。我々の雇用を守り、不正なことをする国に立ち向かう、新しい公正な貿易協定を結ぼう」と述べました。

 トランプはNAFTAやTPPに対して批判的ですが、自由貿易に反対ということではありません。

 自由主義経済はあくまでも守るし、自由貿易も行っていくのですが、そのためにはフェアな貿易体制を維持しなければならない、と主張しています。国際的な自由主義経済は維持するが、無制限に移民を認めるようなグローバリズムは、中産階級の利益にはならない、という立場です。

 フェアな貿易体制が維持されないまま、何でもかんでも自由というふうにすると、国民経済が解体して自由貿易自体が成り立たなくなってしまう。だから、公正な自由貿易体制を作るために、よりよい通商協定を作るべきだ。そのためにTPPも見直そう、という話です。

 自由主義経済を守るためにも、弱者に思いやりのある形で国民経済を守りつつきちんと段階を踏んで貿易自由化ができるように、政府が適切な関与をすることは必要だ、ということなのです。」

 

 

 

  ※ 「トランプは、・・・NAFTAによってアメリカの製造業の三分の一近い雇用を失ったと批判しています」とのことだが、NAFTAが発効した1994年以降、就業者数は増え、失業率は下がっている(http://ecodb.net/country/US/imf_persons.html)。

 

 

 逆に、共産主義者疑惑があるのは、オバマ大統領の方だった(江崎同上24~37ページ)。

 オバマ大統領の両親は共産主義者で、高校時代の恩師も共産主義者で、オバマ氏自身も大学時代には熱心な共産主義者となっていたようで、大学卒業後も草の根左翼運動に従事し、「Change」つまりは社会主義革命を目指していた。自叙伝のタイトルにもなっている「父からの夢」すなわちアメリカの破壊に突き進む。

 「ホワイト・ギルト」思想に則って、中産階級・中小企業に対して重税・規制を課すなどする。オバマケアはその一例だ。前回の記事で、オバマケアで失業者が増えているという批判に疑問を示したが、オバマケアという失業者を増やす政策を行っているにもかかわらず、FRBが金融政策で雇用を支えているということかもしれない(http://ameblo.jp/bj24649/entry-12218109460.html)。

 よくわからないところではあるが、NAFTAやTPPで自由貿易を推進していく中で、オバマケアという実質上の重税を中小企業に課すと、アメリカ企業の価格競争力が落ちそうな気はする。

 なお、オバマケアの廃止を主張してきたトランプ氏だが、軌道修正を見せている(http://www.yomiuri.co.jp/world/20161112-OYT1T50102.html)。

 

 

 

  ※ オバマ大統領の共産主義者疑惑について取り上げた書評としてhttp://ameblo.jp/scorpionsufomsg/entry-12217905511.html

 

 

 我々は等身大のドナルド・トランプを知らない。

 我々は等身大のアメリカを知らない。

 江崎氏の新著はそれを知る一助となる。

 

 

「【10月29日配信】特別番組「マスコミが報じないトランプ台頭の秘密 第2弾」江崎道朗・宮脇淳子・倉山満【チャンネルくらら】」 YouTube2016年10月29日

https://www.youtube.com/watch?v=AMXYDqz56T4