【三橋貴明】「「私の第3の矢は悪魔を倒す」考」考【全てが、逆方向に向かっています。】 | 独立直観 BJ24649のブログ

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流行に浮かされずに独り立ち止まり、素朴に真っ直ぐに物事を観てみたい。
そういう想いのブログです。

 今まで三橋貴明「先生」と呼んできたが、これからしばらくは三橋貴明「氏」とする。
 本ブログは、三橋氏を応援する目的で始まったが、もはや素直に応援できない。

 三橋氏は、今月1日、下のブログ記事を公開し、ネット保守界隈で物議を醸している(以下、「本件三橋記事」という。)。



「「私の第3の矢は悪魔を倒す」考」 三橋貴明ブログ2014年7月1日

http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11887014825.html

「 徳間書店「移民亡国論: 日本人のための日本国が消える! (一般書)  」が発売になりました。


 明日は文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」に出演します。
http://www.joqr.co.jp/tera/


 本日はチャンネル桜「日本よ、今...「闘論!倒論!討論!」 安倍政権の経済政策は、はたしていいのか?」の収録日(放送は土曜日)なのですが、討論直前に物凄い爆弾が来ましたね。


『「私の第3の矢は悪魔を倒す」 安倍首相が英紙に寄稿
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140630/plc14063008560008-n1.htm
 安倍晋三首相は30日付の英紙フィナンシャル・タイムズに、「私の『第3の矢』は日本経済の悪魔を倒す」と題した論文を寄稿し、経済再建なしに財政の健全化はあり得ないと述べて、日本経済の構造改革を断行する考えを表明した。
 首相はまず、改革の例として今年、法人税率を2・4%引き下げたほか、数年で20%台に減らすことを明らかにし、「それは成長を助け、外資を呼び込むことになる」と強調。規制の撤廃のほか、エネルギーや農業、医療分野を外資に開放することを言明した。
 さらに、今年4月の消費税増税でも、「影響は限定的だ」として、少子高齢化社会で経済成長を続けられるか否かについては「すべての国民の協力」と、「女性の社会進出」が重要だとして、「働く母親のために家事を担う外国人労働者の雇用を可能にする」と約束した。
 欧米諸国では、安倍首相が打ち出した「アベノミクス第3の矢」の成長戦略に対し、懐疑的な見方も出てきており、議論を呼ぶことになりそうだ。』


「悪魔を倒す」
 って・・・・。


 FT向けの表現なのかも知れませんが、率直に言って「日本人離れ」していると思います。日本には歴史的に「悪魔」はいません。鬼はいましたが。


 第三の矢で「倒す」と言明している以上、「悪魔」とは日本国民を保護している各種の「規制」を意味しているのでしょう。しかも、エネルギーや農業、医療という、
「エネルギー安全保障」
「食料安全保障」
「医療安全保障」
 という、日本国民の安全保障と直結する分野について「外資に開放する」と。


 常識を疑います。安倍総理は「保守派」の政治家だったと記憶しています。「保守派」とは、安全保障を重視するのではなかったのでしょうか。

 別に、保守派の定義といった神学論をしたいわけではありませんが、保守派と名乗ったことがない三橋であっても、「安全保障を軽視する」安倍総理の寄稿に強く反発させて頂きます


 また、あれほど大騒ぎをして消費税を増税したにも関わらず、「影響は限定的」と、流す。現実の数字を見ていらっしゃらないようですね。


5月の実質消費支出、前年比8.0%減 住宅や自動車で落ち込み
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL270HQ_X20C14A6000000/
 総務省が27日発表した5月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は1世帯当たり27万1411円で、物価変動の影響を除いた実質で前年同月に 比べ8.0%減少した。減少幅は東日本大震災が起きた2011年3月(8.2%減)以来、3年2カ月ぶりの大きさだった。前年同月を下回るのは2カ月連 続。(後略)』


『住宅着工 15%の大幅減に
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140630/k10015622701000.html
 先月、全国で着工された住宅の戸数は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動で、去年の同じ月に比べて15%減少し、リーマンショック後以来、4年5か月ぶりの大幅な落ち込みとなりました。
 国土交通省によりますと、先月、全国で着工された住宅の戸数は6万7791戸で、去年の同じ月を15%下回りました。
 住宅の着工戸数が前の年の同じ月を下回ったのは3か月連続で、リーマンショックの影響でマイナス15.7%となった平成21年12月以来、4年5か月ぶりの大幅な落ち込みとなりました。(後略)』


5月鉱工業生産、出荷減少止まらず在庫積み上がりが鮮明
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0F500D20140630
 経済産業省が30日発表した5月鉱工業生産指数速報によると、耐久消費財を中心に出荷の低下に歯止めがかからず、生産抑制が追い付いていない。このため在庫の積みあがりが鮮明となり、今後の生産回復の足を引っ張る可能性が出てきた。
  消費税引き上げに伴う先食い需要が自動車やパソコン、家電などで大きかった分の反動減が遅れて現れた。一方、増税分の実質所得目減りの影響はまだこれからとみられ、生産動向や予断を許さない状況だ。(後略)』


 4月の落ち込みは予想していましたが、5月までもが実質消費が8%もの減少になってしまったのは、衝撃的です。散々に消費税に反対し(今でも反対ですが)ておきながら何ですが、現実の消費税が増税されてしまった以上、何とか軽微な被害で乗り切って欲しいと思っていたわけです。


 とはいえ、さすがに実質賃金がマイナスで推移している状況における消費税増税は無茶だったようで、日本国民は、
「賃金が下がる中、物価が(強制的に)上がり、消費を減らした」
 と、ごくごく普通の行動を取ったわけでございます。実質賃金の下げ幅が拡大している以上、消費の「自然回復」など考えられません。


 と言いますか、実質賃金の低下幅拡大、二か月連続の実質消費の大きな落ち込み、住宅着工の15%もの減少、鉱工業生産の落ち込みは、「所得面(分配面の GDP)」「消費・投資面(支出面のGDP)」「生産面(生産面のGDP)」と、GDP三つの面の落ち込みを示しており(三つが同時に動くのは当たり前で すが)、政府は補正予算を組むべき状況です。具体的な例を出すと、リーマンショック直後に近い状況になっているのです。


 ところが、現実には補正予算は組まれず、国会は閉会してしまいました


 同時に、政府が「新成長戦略」を掲げ、安全保障までをも無視した「構造改革」に邁進しようとしているわけです。
 全てが、逆方向に向かっています


 しかも、国民を保護している「規制」を悪魔呼ばわりとは・・・・。こんな政権になって欲しくて、わたくしは安倍総理を支援したわけではありません。正しい対策は打たず、間違った対策を立て続けに打つ。


 恐らく、橋本政権の増税後、小泉政権発足直後の緊縮後以上の「政策的不況」が訪れることになります。しかも、今回は小泉政権を救った「外需(=アメリカの不動産バブル)」はありません。安倍政権は、長続きしないでしょう。といいますか、長続きさせてはまずいことになります。しかも、「取り返しがつかないまずいこと」です。」




 三橋氏は、「安倍政権は、長続きしないでしょう。といいますか、長続きさせてはまずいことになります。しかも、「取り返しがつかないまずいこと」です。」と言い、安倍政権打倒の意思を示した。控え目に見て、次の自由民主党総裁選で安倍晋三内閣総理大臣を支持しないという意思を表明している。
 今まで三橋氏がおかしな経済評論をしていても、三橋氏は安倍総理を支持しているし、政治家としての見込みもありそうだし、ということで、三橋氏を強く批判してこなかった人たちが、本件三橋記事を皮切りにして、三橋糾弾に大きく舵を切ったように見える。

 安倍総理がフィナンシャル・タイムズに寄せた論考の原文を紹介する(以下、「本件安倍論考」という。)。



安倍晋三「My ‘third arrow’ will fell Japan’s economic demons」  The Financial Times 2014年6月29日

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/bebeb5c8-fb8c-11e3-9a03-00144feab7de.html#axzz36L3ecJ6G

There will be no fiscal consolidation without economic recovery, writes Shinzo Abe 

Since I introduced a package of measures to revive Japan’s economy, there are three questions I am regularly asked about our country’s prospects. First, people want to know whether I am genuinely committed to the “third arrow” of Abenomics. Make no mistake: I am. Our structural reforms have shifted up a gear this month. We reduced Japan’s corporate taxes by 2.4 per cent this year, and will cut the rate further next fiscal year. We aim to reduce the level of the effective tax rate to the 20s over several years. This will help growth and draw international investors. Strengthening corporate governance is also critical to enhance shareholder value.

This month we established a rule requiring companies to appoint outside directors or explain why they have not done so. By 2015 the Tokyo Stock Exchange will introduce a wide-ranging corporate governance code, also asking that companies “comply or explain”. Over 100 institutional investors have adopted a stewardship code, similar to one used in the UK. We are pushing ahead with forward-looking reforms to the Government Pension Investment Fund, which has assets of $1.2tn. A review of the fund’s portfolio will be completed as quickly as possible, benefiting the insured and also bringing investments that foster growth. 

We are restoring Japan’s venture spirit, creating opportunities for start-ups to bid for government contracts, opening markets and promoting new entrants in areas including energy, agriculture and medical services, and pursuing institutional reforms. We have established National Strategic Special Zones where businesses have been freed from burdensome rules, with further deregulation planned. Selected Japanese cities will be freed from zoning regulations limiting building heights. A one-stop process will replace byzantine procedures for starting a company. I have also accelerated negotiations on the Trans-Pacific Partnership and on an Economic Partnership Agreement with the EU in recent months.

A second question I am often asked is: can the Japanese economy withstand the consumption tax increase, which is effective from April. Unlike in 1997, the signs are encouraging. Summer travel reservations are stronger than last year. I am judging that the dip in consumption will be temporary.

The employment market is also improving. The ratio of job offers to job seekers has risen for 18 consecutive months, reaching the highest level in nearly eight years. Many companies, including small and medium-sized ones, have raised wages, resulting in the steepest increases in a decade. Summer bonuses are expected to be strong. Japan’s economic recovery has resulted in imports reaching an all-time high of $800bn last year, contributing to the global economy.

A third question is whether economic growth can be sustained in Japan, with its ageing society and falling birth rate. Here, my answer is clear. We need the support of all citizens. Since I hoisted the banner of “womenomics” in Japan, 530,000 women have entered the labour market. Large companies have vowed to appoint at least one woman to executive ranks. Listed companies will be subject to external checks to verify progress, under rules to be announced this autumn. We will help working mothers by making it possible to hire foreign workers as housekeepers in the special zones.

We need to help people make the most of their talents. The key word is diversity. Inflexible labour systems will be reviewed to enable all people, including women, youths, older workers and people with special talents, to fully display their capabilities. Enabling previously untapped resources to fulfil their potential will bring about robust and sustainable growth.

Fiscal sustainability is crucial. The 2014 budget improved the primary balance by $50bn, more than the target enshrined in our medium-term fiscal plan. But without economic revival, there can be no fiscal consolidation. We will improve the government’s fiscal position through steady revitalisation of the economy.

Since I launched my economic platform, the Liberal Democratic Party I lead has won two elections. Our coalition government now holds majorities in both houses of the legislature. The political environment is now favourable to advance our reforms. The Japanese public has requested a break from the “politics of indecision”. With the public’s support, I am absolutely committed to carrying out this reform agenda.

The writer is prime minister of Japan 」

※ 外務省HPにも掲載されている(http://www.mofa.go.jp/p_pd/ip/page4e_000101.html)。



 外務省による訳は下記の通りである。



「私の「第三の矢」は,日本経済につきまとっていた悪鬼を退治する(仮訳)

~経済回復なくして財政健全化はない,と安倍総理は記す

 日本経済再生のための政策パッケージを導入して以来,日本の将来の見通しについて,私がよく尋ねられる三つの質問があります。


 まず初めに,人々は,私が,アベノミクスの「第三の矢」を本当に約束しているかを知りたがっています。間違いなく,私は約束しています。我々の構造改革は,今月,そのギアをハイギアに加速させました。日本は今年,法人税を2.4%引き下げ,翌年度も更なる税率引き下げを行う予定です。数年で法人実効税率の水準を20%台まで引き下げることを目指しています。これは,経済成長を促進し国際的な投資家を引きつけることにつながります。コーポレート・ガバナンスの強化もまた,日本企業の株主価値を高めるために極めて重要です。

 今月,我々は,企業が社外取締役を任命するか又はなぜそうしないのかについて説明を求める規則を設けました。2015年までに,東京証券取引所は幅広い内容のコーポレートガバナンス・コードを導入し,ここでも企業にこれを「実施するか又は実施しない場合の理由の説明」を求めます。100以上の機関投資家は,英国で使われているものに類似したスチュワードシップ・コードを受け入れました。また,我々は,1兆2千億ドルの資産を有する年金積立金管理運用独立行政法人について,前向きな改革を推進しています。可能な限り早くそのポートフォリオの見直しを完了させ,被保険者に利益をもたらすとともに,成長を促す投資も呼び込みます。

 我々は,日本のベンチャー精神を復活させつつあり,創業間もない企業に政府調達への参入機会を創出し,エネルギー,農業,医療サービスを含む分野で市場を開き,新規参入者を促進し,制度改革を追求します。我々は,企業が煩わしい規則から解放される国家戦略特区を設立し,更に一層の規制緩和が計画されています。選ばれた都市は,建物の高さを規制する区画規制から自由になります。会社を始めるための複雑でわかりにくい手続は,ワンストップのプロセスに置き換わります。また私は,最近数か月の間に,環太平洋パートナーシップ協定とEUとの経済連携協定の交渉を加速させました。

 2番目に私がよく聞かれる質問は,日本経済は,4月に実施された消費税増税に耐えうるのかというものです。1997年の場合と異なり,兆候は元気づけられるものです。夏の旅行の予約は昨年よりも好調です。私は,消費は多少落ち込んでも,一時的なものとみています。

 雇用市場もまた,改善しています。有効求人倍率は,18か月連続で上昇しており,ここ8年近くの中で最高水準に達しています。中小企業を含む多くの企業が賃金を引き上げ,この10年で最も急速な上昇をもたらしました。夏のボーナスも大幅な伸びが見込まれています。日本経済の回復により,輸入は昨年,過去最高の8000億ドルに達し,世界経済に貢献しています。

 3番目の質問は,日本の経済成長は,高齢化社会と低下する出生率の中でも持続可能かというものです。私の答えは明確です。我々は全ての国民の支持を必要としています。私が日本で「ウィメノミクス」の旗印を掲げて以来,53万人の女性が労働市場に参入しました。大企業は,少なくとも1人の女性を役員として任命することを誓約しました。上場企業は,この秋に発表されるルールの下で,その進捗状況を確かめるための外部からのチェックを受けることになります。国家戦略特区で,外国人労働者を家政婦として雇用することを可能にすることで,働く母親たちを支援します。

 我々は,人々がその才能を最大限生かせるように支援する必要があります。キーワードは多様性です。柔軟性を欠く労働制度は,女性,若者,高齢労働者や特別な能力を有する人々などを含む全ての人々が,十分に能力を発揮できるよう見直していきます。これまで活用されてこなかった資源を開花させることは,力強く持続可能な成長につながります。

 財政の持続可能性は,極めて重要です。2014年度の予算では,プライマリー・バランスが,中期財政計画における目標を上回る500億ドルの改善を見ました。しかし,経済再生なくして財政健全化はあり得ません。我々は,経済を着実に再生させることを通じて,財政状況を改善します。

 我々の連立政権は,衆参両院で過半数を有しています。政治環境は,今や我々の改革を推進するに有利なものとなっています。日本の国民は,「決められない政治」からの脱却を求めてきました。国民の支持を受けて,私は,この一連の改革の実行に断固コミットしています。

(寄稿者は,日本の内閣総理大臣である。)」



 空き地さんがまとめているが、要するに本件安倍論考の主眼は「潜在供給力の向上」である(http://ameblo.jp/akichi-3kan4on/entry-11889266119.html)。
 人口が減少する中、非効率な制度で凡庸な技術しか持たなくなったら、日本は間違いなく衰退する。
 今のうちから精強な日本を作らないといけない。イノベーションを喚起すべきである。
 私は、「Demons」について、日本を衰退させる死神を思い浮かべる(死神は日本にもいるらしい。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%BB%E7%A5%9E_(%E6%97%A5%E6%9C%AC))。
 


 三橋氏は、本件安倍論考に怒りまくる。
 論理を売りにする三橋氏だが、かなり感情的である。
 政権打倒のアジ演説、と言ったら大げさか。
 以下、本件三橋記事の私の感想を述べる。
 本件三橋記事はいくつもの不合理を指摘でき、全く筋が通っていない。



◆ 産経新聞に掲載された抄訳だけを見て安倍倒閣という過激な主張をしている。

 本件三橋記事を読んだ限り、三橋氏が本件安倍論考の原文を確認した形跡が窺えない。引用した産経新聞の抄訳しか見ていないと思われる。
 もし原文を確認しておれば、本件安倍論考のリンクを載せるだろうし、主に潜在供給力の向上という当たり前のことが書かれたものだとわかればここまで強い批判にならないはずである。
 ところで、三橋氏は安倍支持を表明している(http://abesouri.com/menber.html)。
 共産党のような反安倍勢力が安倍叩きを軽はずみに行うのはまだわかるが、安倍支持であれば、政権打倒という強い批判には慎重になって然るべきである。
 特に本件三橋記事が出た当時は、集団的自衛権についての報道のせいで、安倍政権の支持率が低下しやすい時期だったわけで、特に慎重になるべき時期だったと言える。
 せめて、原文を確認して、安倍総理の考えを好意的に忖度して、本件安倍論考以外の政策も勘案して、擁護の可能性を探るべきである。
 それでも擁護の余地がないのであれば、政権打倒の結論もやむを得ないだろう。
 安倍政権打倒の結論を出すこと自体は構わないが、そういう過激な結論を出すのであれば、慎重に考えるべきである。
 にもかかわらず、原文を見ているとも思われないし、下で述べるように、三橋氏はのっけから「悪魔」という言葉にくってかかり、安倍叩きに前のめりの姿勢を見せる。
 安倍支持であれば、産経新聞のこの記事を見て、「安倍総理がこんなこと言ったの?本当?」と思って原文を確認するものだと思うし、特に三橋氏は一次資料を確認してマスメディアのウソを論破することを売りにしてきたわけで、原文を確認すべきだと思うが、なぜか今回は原文を確認せず、三橋氏は、待ちに待った安倍叩きの材料が来たという感じでこの記事に飛びつき、安倍打倒の記事を書き上げたように見える。
 実際には三橋氏は原文を確認していたかもしれないが、それならそれで、ここまで批判一辺倒になるのは妙である。



◆ 言葉尻をとらえて批判し、しかも間違っている。

 三橋氏は、「悪魔」という表現を批判する。
 しかし、これは産経新聞が勝手に付けた訳語に過ぎない。
 外務省は、「悪鬼」と訳している。悪鬼羅刹の悪鬼だ。日本的な訳語をつけることも可能だ。
 「悪魔」の訳語は、安倍総理が日本人離れしているかどうかの根拠にはなり得ない。こんなものより麻生太郎財務大臣の失言の方がよほど問題だ。
 また、三橋氏は、「日本には歴史的に「悪魔」はいません。鬼はいましたが。」と言う。
 マジレスするのもバカバカしいが、歴史的には悪魔も鬼もいない。三橋氏は、鬼退治が史実だと考えているのだろうか。出典でもあるのだろうか、と言うと嫌味かもしれない。
 神話を歴史に含めるとしても、古事記にも鬼は出てこないのではないか。醜女(しこめ)がビミョーなところか。
 こういう言葉尻に噛みつくところを見るに、三橋氏が安倍叩きにかなり前のめりになっていることが窺える。



◆ 手段を目的だと捉え、自由の制約を美化し、さらに陰謀論じみたことを言っている。

 三橋氏は、「第三の矢で「倒す」と言明している以上、「悪魔」とは日本国民を保護している各種の「規制」を意味しているのでしょう。」と言う。
 一見正しいように思えるが、論理のすり替えが行われている。
 三橋氏は、「第三の矢の目的=悪魔を倒す=規制を撤廃する=日本国民の保護が弱まる」という論理である。
 まず、「第三の矢の目的=規制を撤廃する」だが、これでは規制の撤廃そのものが目的化してしまい、規制を撤廃するために規制を撤廃するということになり、なぜ規制を撤廃するのかがわからなくなる。
 第三の矢は「成長戦略」である。つまり、「第三の矢の目的=経済成長(潜在供給力の向上)」である。この目的を達成する手段(矢)の1つとして、規制の撤廃が存するのである。
 規制の制定改廃は、必ず目的をもって行われる。それ自体が目的になることなどない。そんなことが行われたら違憲無効だ。たとえお飾りであっても、目的は掲げる。
 三橋氏は、手段であるところの規制の撤廃を、目的に位置づけてしまっており、手段を目的化してしまっている。
 次に、「規制を撤廃する=日本国民の保護が弱まる」というのもおかしな話である。
 確かに、規制は基本的に合理性を有しており、これを撤廃すれば国民に不利益が生じる傾向はあるだろう。
 しかし、制定当初は合理的でも現在では合理性を失っている規制もあるし、制定当初から批判のある不合理な規制もある。こういう規制は撤廃した方が国民に利益だ。規制が必ず国民の保護に役立つとは限らない。
 また、基本的な価値観として、規制は自由を制約するものであるから、少ないに越したことはない。費用対効果を失している不合理な規制はないほうがいい。
 三橋氏は、規制を過度に信頼しているというか、美化しているきらいがある。
 さらに、三橋氏は、安倍総理は国民を保護する規制を次々と撤廃しようとし、安全保障を軽視しているという旨を言うが、陰謀論じみている。決めつけに過ぎない。
 安倍総理も、国民の保護に必要な規制は残すだろう。もしもそういう規制さえ撤廃しそうになったら、個別に批判すればよい。
 こういう論理のすり替えを誤魔化すために、読者の怒りの感情に訴えかける勢いのある文章を書いたのだろうか。
 もしそうでないとしたら、三橋氏の、インフレ対策・デフレ対策という目的のために経済政策を行うという思考体系自体が間違っている可能性がある。
 つまり、規制の撤廃はデフレ対策にならないと考えてしまうと、それ以上の目的を考えないことにもなりかねない。だから、「悪魔って何?→産経新聞に「規制の撤廃」って書いてある→規制を撤廃してもデフレ対策にはならない→目的不明の規制撤廃をするのはおかしい→規制の撤廃そのものが目的だ→安倍は日本人を守る規制を撤廃する国賊」という思考になってしまうのではないか。
 インフレ対策・デフレ対策は副次的な判断要素であって、あくまで一次的な判断要素は、当該政策の必要性である(http://ameblo.jp/tokyo-kouhatsu-bando/entry-11755583163.html)。



◆ 産経新聞の訳が恐い印象を与える上に、三橋氏がこの印象を煽っている。

 産経新聞は、安倍総理が、「規制の撤廃のほか、エネルギーや農業、医療分野を外資に開放することを言明した」という。
 かなり過激で恐い印象を受ける。安倍総理は断固たる決意で国際金融資本に日本を売り渡すのか、という気がする人もいるだろう(チャンネル桜視聴者など)。
 そこで、本件安倍論考の外務省訳を見てみる。
 該当する部分は、「我々は,日本のベンチャー精神を復活させつつあり,創業間もない企業に政府調達への参入機会を創出し,エネルギー,農業,医療サービスを含む分野で市場を開き,新規参入者を促進し,制度改革を追求します。我々は,企業が煩わしい規則から解放される国家戦略特区を設立し,更に一層の規制緩和が計画されています。選ばれた都市は,建物の高さを規制する区画規制から自由になります。会社を始めるための複雑でわかりにくい手続は,ワンストップのプロセスに置き換わります。」だ。
 ちょっと印象が違うのではないだろうか。「規制の撤廃」というとやたらめったら撤廃する過激なもののような気がするが、本件安倍論考でどういう規制を撤廃するのかを見れば、そういうことも必要かもわからんな、問題はそのやり方だ、という程度のことは思うだろう。
 また、産経新聞が「外資に開放する」と訳すところが、外務省の訳では「市場を開く」となっている。この言葉遣いの差も異なった印象を与える。原文では「opening markets」となっている。今までが「close」だったのを「open」にするということだろうが、文脈から考えて、少なくとも新規参入を促進するものではありそうだ。外資にも開放する部分もあるだろうが、日本人にとっても過剰な規制が存するところも指摘されている事業分野であり、日本人にも開放する意味もあるということは考えておいた方がよいと思う。やはり、やり方次第だろう。産経新聞の抄訳だと、そういう思考が働きにくい。
 産経新聞は、安倍総理の力強い決意が伝わる抄訳を行っているのだろうが、原文と異なる印象になっていると思う。
 三橋氏は、産経新聞の抄訳を下敷きにして、さらに恐さを煽る。
 むしろ、三橋氏に求められたのは、産経新聞のこの記事に狼狽える読者をなだめることではなかったか。



◆ 金融政策を無視する。

 三橋氏は、「具体的な例を出すと、リーマンショック直後に近い状況になっているのです。」と言う。
 リーマンショックは、麻生政権で発生した。麻生政権は財政出動を行った。
 しかし、麻生政権は量的緩和を十分にしなかったために、円高を悪化させた。
 現在の安倍政権は、量的緩和を積極的に行い、円高を緩和している。
 リーマンショック直後とは似ても似つかない。
 三橋氏は、麻生政権の頃の日本銀行と同じく、金融政策無効論に立つので、アベノミクス第一の矢という大きな金融政策の変化をすっぽりと見落としてしまうのではないか。



◆ 不況悪化の原因について、消費税増税から注意を逸らし、財務省一味を庇う。

 本件三橋記事の最終段落で、三橋氏は、「恐らく、橋本政権の増税後、小泉政権発足直後の緊縮後以上の「政策的不況」が訪れることになります。」と言う。
 私はこれが非常に悪質だと思う。
 三橋氏は、補正予算を組まず、構造改革に邁進しようとする安倍政権は「逆方向」だと批判する。
 つまり、三橋氏は、今後の日本経済が悪化した場合、その原因は、安倍政権の公共事業不足・構造改革推進であり、「正しい方向」に向かわなかった安倍政権による人為的政治災害だということになる。「安倍不況」ということだ。
 三橋氏は、ここでも論理のすり替えを行っている。
 原因は消費税増税だ。
 財務省だ。
 麻生太郎財務大臣だ。
 麻生大臣・木下前次官を筆頭とする増税推進派がいて、消費税増税が押し切られ、それで今、消費税増税による景気悪化への対策として公共事業を増やすの増やさないのという議論になっている。
 消費税増税さえなければ、順調に景気回復の軌道に乗ったのだ。
 三橋氏が言っているのは、実質上、消費税増税容認だ。公共事業をやりまくるなら消費税増税OKということだ。そして、公共事業をやりまくらない安倍が悪い、という話になる。なお、供給制約を考えると、公共事業をやりまくることはおそらく不可能だろう。
 三橋氏は、麻生大臣・財務省を庇っている。
 しかも、この一文は、小泉政権が不況を悪化させたという書きぶりだが、小泉政権では不況は改善を示していた(実感なき景気回復と揶揄されたが)。少なくとも悪化はしていない。ウソが混じっている。



 かつて与謝野馨は、消費税増税を推進し、デフレ脱却政策を「悪魔の政策」と呼んだ。
 三橋氏は、かかる与謝野に激怒し、「デマゴギー」「嘘つき」だと罵ったhttp://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-10834498731.html。ちなみに、この記事で、赤旗をソースにして「TPPが何なのかが、一目瞭然になると思います。」という、危ういことを言っている。)。
 今、(与謝野的な意味ではなく、本来の意味で)悪魔の政策を推進しているのは誰か。
 消費税増税を推進する麻生大臣および財務省だ。
 悪魔は麻生・財務省だ。
 安倍総理によれば、与謝野は経済成長による税収増を否定したとのことである(つまり増税が必要だということになる)(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34188?page=6)。
 そして、倉山満先生によれば、麻生は景気回復による税収増を否定したとのことである(つまり増税が必要だということになる)(http://www.kurayama.jp/modules/wordpress/index.php?p=1246)。
 財務省はもちろん景気回復による税収増を否定する(http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20140711/ecn1407111140004-n1.htm)。
 与謝野も麻生も財務省の傀儡だ。悪魔的本質は変わらない。なお、与謝野は麻生政権で重用され、財務・金融・経済財政担当の三大臣を兼務した。
 麻生・財務省批判を避け、安倍叩きをしている三橋氏は、「デマゴギー」「嘘つき」ではないか。
 かつての持論の財務省解体・歳入庁設置の構想はどこに行った。今こそ議論されるべきではないか。
 三橋氏は、過去の自分に背いている。

 「全てが、逆方向に向かっています」のは、安倍総理ではない。
 三橋氏の方だ。
 昨年10月1日、三橋氏は悪魔に魂を売ってしまったのだ。