怒濤の新刊ラッシュにすっかりブログ更新をおろそかになってました。申し訳ない! 今日は、今週の月曜日に掲載した単行本【文芸・ノンフィクション】の2009年間ベストセラー・ランキングについて、ちょっとフォローしておきたいことがあるのでここで書いておきます。

というのは2008年12月1日~2009年11月30日の間の<日販>販売冊数でのランキングなのですが、当然ですが今年のたとえば10月発売だと販売期間が2ヶ月以下しかなかったわけで、年間の順位としてはどうしても不利になってしまう。

というわけで、2009年10月と11月発売の、年間ランキングとしては非常に不利でありながら、それでもランクインしている作品はどれか、ここでお知らせしてジャ・ジャンと褒め讃えておきたいわけであります。

まずは、2009年10月発売の部

第82位『楊令伝 11 傾暉の章』北方謙三
第99位『小太郎の左腕』和田竜
第135位『のはなし に』伊集院光
第172位『Will』本多孝好
第174位『まほろ駅前番外地』三浦しをん
第179位『哄う合戦屋』北沢秋
第208位『巡査の休日』佐々木譲
第258位『福田君を殺して何になる』増田美智子
第287位『Another』綾辻行人
第288位『掏摸』中村文則

まず、100位以内であるということと、最新のウィークリーランキングでトップになったように和田竜の人気がもはや完全に定着したということが明らか。そしてミステリー・ホラーファンと純文系ファンにうれしい『Another』綾辻行人と『掏摸』中村文則だと思うのですが、みなさんいかがですか。

次いで、なぜもっと早く出さなかったのか2009年11月発売の部

第126位『SOSの猿』伊坂幸太郎

えー、ランキングをよーく見た方なら気がつかれたかもしれません。これ1作品のみ! しかも11月もかなりどん詰まった24日の発売。実売わずか7日間でのランクイン。さすが伊坂幸太郎!

ちなみに、2009年9月発売の最高位の作品は、第11位、人気の東野圭吾『新参者』であるということもお知らせしておきます。

というわけで、本日、酒井貞道さんの書評により伊坂幸太郎『SOSの猿』をじっくり紹介していますので、ぜひお楽しみください。新刊チェックはさらに、ともに秀作の第12回日本ファンタジーノベル大賞受賞作・2作。加えて、講談社BOXの新人作品from京都、です。来週も注目作品の書評が続々登場予定です、乞うご期待! (BJ塚本)


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ジョシュ・バゼル『死神を葬れ』(新潮文庫)のオビに、ドン・ウィンズロウの推薦コメントがのっていて、おおーっ、懐かしいぞお、と思っていたのだ。
『ストリート・キッズ』からはじまるニール・ケアリー・シリーズの三作目まで、『ボビーZの気怠く優雅な人生』『歓喜の島』までは読んでいた。その後、パッタリ読んでいない。だから、ドン・ウィンズロウの名前を見たときに、まだ現役なのか、と思ったくらいだ。

そうこうしているうちに、なんと新作『犬の力』(角川文庫)が翻訳・刊行された。これがなんとあちこちですこぶる評判がいい。こりゃ、読まないわけにはいかない。
読みました。いやはや、大変な面白さです。
それにしてもドン・ウィンズロウって、こんなに濃く、ハードだったか? モデルチェンジだね、これは。

メキシコの麻薬マフィアとアメリカ人捜査官との抗争アクション巨編。と一言ではそうなるが、およそ30年にもおよぶ抗争で、捜査官は平から出世して責任者になるわ、マフィアの親玉は代替わりするわ、舞台は南米、香港へも拡大するわで、時空のスケールは広大である。
一方で、主役である捜査官アート・ケラーをはじめとする登場人物たちは、その抱えている悩みまで含めてなんとも人間的な魅力に溢れている。そして、その人物造形が素晴らしいからこそ、最後まで飽きさせない。
物語は、山あり谷あり、ド派手なアクションシーン、目を背けたくなる残酷なシーン、えーっ、そうなのーな裏取引も満載、もちろん、犯罪ものに欠かせない美しいヒロインも出ずっぱり。
ハラハラドキドキというわかりやすいシンプルな言葉がとても相応しい、実際、この先どうなるの、と何度かゴクリとさせられた、まさに文句なしの第一級エンターテイメント作品だ。

ご存知の方も多いと思うが、今年の翻訳エンターテイメントのナンバーワン争いはスティーグ・ラーソン『ミレニアム』とのマッチレースともっぱらの評判だ。『犬の力』、読めば納得、それだけ面白い。【Book Japan】での三浦天紗子さん☆☆☆☆☆評価も、それしかあり得ない当然の評価だ。杉江松恋さん、川出正樹さんも絶賛の嵐。

長過ぎたニール・ケアリー・シリーズによって忘れかけられていたドン・ウィンズロウが、少なくとも日本の読者にとっては第一線に復帰した。この点もたまらず嬉しかったのだが、読んでそんな印象を持たれた方は多いのではないかと思う。とにかく、読んでみてください。上・下巻を読み終えたときに、気持ちよくニンマリできることを保証します。 (BJ塚本)

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『ガラスの街』、絶版だったデビュー小説が柴田元幸訳により装いも新たに登場。まずは、今年もポール・オースター作品が刊行されて、喜ばしい限りだ。

「次はどうなるんだろう、という物語というものが与えてくれる一番根本的な興味を大いにそそる展開を次々に惜しげもなくくり出す」というのが、柴田元幸の考えるオースターの魅力だそうだが、まさにそのとおり。昨日掲載した書評で、江南亜美子さんが書くところの「とにもかくにも『物語』作家」というやつである。
こうなると、思いも寄らぬ展開があまりに続くものだから、次はたぶんこうなるんじゃないのか、などと考えてしまいたくなるわけで、意外にもページを捲るとそのとおりになったりもする。オースターって、もしかしてサービス精神も備えた作家なのではと思える瞬間もあるわけで、それも魅力のひとつだ。『ガラスの街』でいうと、主役クインとヴァージニア・スティルマンとの出会いのシーンが、典型的にそんな印象を残すシーンです。

『ガラスの街』は「コヨーテ」2007年10月号に全訳が掲載されたものであることを、ファンの人たちは知っているだろう。
以下は、その後書きで紹介されていた『ガラスの街』のエピソード。
柴田元幸は当初、白水社でこの作品を翻訳する予定であったというのだ。実際に数ページを進めたところで、ほかの出版社に翻訳権がすでに売られていたことが判明して、取り止めになり、結果としては『鍵のかかった部屋』を翻訳することになったのだという。
その翻訳権はタッチの差、というやつだろうか。すべて訳してしまってから判明したら、その原稿は…。などと考えてしまうが、なかなかにヘェーなエピソードではないだろうか。

オースターの新作の翻訳を待ちわびている人も多いと思うが、『幻影の書』より後、本国ではすでに5作品が刊行されている。『ティンブクトゥ』『幻影の書』以降の5作品はすべて初老の男が主人公で、オースターはこれらを「枯れた男の5部作」としているそうだ。

『幻影の書』の素晴らしさはいまだ忘れられない。とくに、あの作中作のめくるめくような面白さといったら! オースターはほぼ年に1冊のペースで出しているのだから、このままだと滞る一方である。柴田さんにじゃんじゃん訳してほしいものだ。 (BJ塚本)

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今週の土曜日・11月14日から、東京の恵比寿ガーデンシネマで「千年の祈り 」が上映される。
原作はご存知の方も多いであろうイーユン・リー『千年の祈り』、日本では2007年に新潮クレスト・ブックスで刊行されている。近年、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本でも中国人作家が活躍しているが、『千年の祈り』はなかでも白眉の一冊だ。

映画「千年の祈り」は、短篇集『千年の祈り』のなかの表題作を原作としていて、イーユン・リーはこの映画にも脚本として参加している。
アメリカに住む娘のところに北京から父親がやってきて、そこで親と子のこれまで秘めてきた葛藤が描かれる「千年の祈り」。イーユン・リーはアメリカ在住なので、自らの境遇が物語にインスピレーションを与えたのは間違いないが、全10篇が収められている短篇集『千年の祈り』では中国本土を舞台にした短篇もある。そしてどの短篇にも、中国の連綿たる歴史が登場人物たちの背景にいまも息づき、その人間たちを形作っていることが織り込まれていて、たとえば「千年の祈り」は本文わずか20頁の短篇なのだが、その手際の良さと濃さ、そして深さは、まさに驚異的であり、短篇を読む醍醐味の、その極みを味わえる。

「千年の祈り」は肉親の関係に焦点が当てられているが、歴史性ということでいえば「千年の祈り」をはるかに超える歴史の深淵をのぞかせる短篇も収められていて、思わずのけぞってしまうほどだ。いや、これオーバーじゃなく、なにせ中華四千年の歴史ですから。

こんなふうに書くとなんだか中華料理のようにずいぶんこってりしてそうだと思われるかもしれないが、文体はいたって端正です。脂分なし。その坦々とした表現で深淵を感じさせるのだからすごい。今回再読してみて、篠森ゆりこさんの訳が実に見事にフィットしているということにも気付かされた。

ちなみに明日【Book Japan】で掲載する書評も映画関連、12月に公開されるメリル・ストリープ主演の映画の原作本の予定です。 (BJ塚本)

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ヨシミは那覇の半分以上を仕切るヤクザ、真栄城(まえしろ)一家の理事。大きな取引を控え、組の金庫に眠っている2億円を奪って高飛びしようと考えた。その計画の手始めに深夜、組の本社を襲う。ところがそこには思いもしなかった真栄城組長がいた。成り行き上、ヨシミは組長を殺してしまう。

矢作俊彦と司城志朗のゴールデンコンビによる、なんと25年ぶりの新作『犬なら普通のこと』の、ここまではカバーの裏に書いてあるイントロだが、まだまだトバ口。
ヨシミの弟分、彬は大仕事を目の前にしているにもかかわらず、はやくも自分の役割を放棄し、沖縄を離れるに当たってのただひとつの心残り、早枝子を追い回している。
ヨシミ、彬ともに、一癖も二癖もある男だが、早枝子(もちろんいい女だ)も腹の底でなにを考えているのかまったく知れない。彬を焦らすだけ焦らしておいて、ストーカーの郵便局員! を殺ってくれたら、やってもいいわよ、なんてあからさまな嘘を吐く。

かくして2億円強奪のために露ほどの失敗も許されない、おまけに時間もないところに、余計な問題まで抱え込み、他の組員たちや、ヨシミの妻、森(この一文字が名前)もぞろぞろと登場し、さあいよいよ沖縄ハードボイルド小説本編の幕が開く……。

前段から、たっぷり濃厚。このあと、ヨシミ、彬、早枝子、森の過去が語られ、なぜこの沖縄に流れてきたかが明かされつつ、ヨシミと彬の2億円強奪作戦は進行するのだが……。
あとは読んでください。男と女の愛憎、裏切り、クルマ&銃、もちろん手に汗握るアクションシーン、さらには沖縄の歴史性や特殊性……、およそ考えられる要素は全部ブチ込んだかのような、読みどころ満載の、文句なしのエンターテイメント小説だ。

タイムリミットがあるのに、つまり本当はこのクソ忙しいにもかかわらず、なのだが、彬と早枝子がマツダ・ロードスターで国際通りをゆっくり流すシーンも用意されていて、ここでは小説の時間もややゆっくりとなる。そしてこのシーンのカッコよさといったら! まるで映画のスローモーションを観るように美しくロマンティック、それでいて彬のチンピラ魂が爆発する、今年読んだ小説のなかでも屈指の名シーンです。

そういえば、沖縄を舞台にしたハードボイルド小説を読んだ記憶がない。かつて、あったんでしょうか? なかったとすればなぜだろう?
ここを抜け出したいヨシミも彬も、沖縄を悪し様に言うが、矢作・司城コンビが描く沖縄は、濃厚で甘美な毒に満ち、もちろんたまらなく魅力的である。 (BJ塚本)

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