『ガラスの街』、絶版だったデビュー小説が柴田元幸訳により装いも新たに登場。まずは、今年もポール・オースター作品が刊行されて、喜ばしい限りだ。
「次はどうなるんだろう、という物語というものが与えてくれる一番根本的な興味を大いにそそる展開を次々に惜しげもなくくり出す」というのが、柴田元幸の考えるオースターの魅力だそうだが、まさにそのとおり。昨日掲載した書評で、江南亜美子さんが書くところの「とにもかくにも『物語』作家」というやつである。
こうなると、思いも寄らぬ展開があまりに続くものだから、次はたぶんこうなるんじゃないのか、などと考えてしまいたくなるわけで、意外にもページを捲るとそのとおりになったりもする。オースターって、もしかしてサービス精神も備えた作家なのではと思える瞬間もあるわけで、それも魅力のひとつだ。『ガラスの街』でいうと、主役クインとヴァージニア・スティルマンとの出会いのシーンが、典型的にそんな印象を残すシーンです。
『ガラスの街』は「コヨーテ」2007年10月号に全訳が掲載されたものであることを、ファンの人たちは知っているだろう。
以下は、その後書きで紹介されていた『ガラスの街』のエピソード。
柴田元幸は当初、白水社でこの作品を翻訳する予定であったというのだ。実際に数ページを進めたところで、ほかの出版社に翻訳権がすでに売られていたことが判明して、取り止めになり、結果としては『鍵のかかった部屋』を翻訳することになったのだという。
その翻訳権はタッチの差、というやつだろうか。すべて訳してしまってから判明したら、その原稿は…。などと考えてしまうが、なかなかにヘェーなエピソードではないだろうか。
オースターの新作の翻訳を待ちわびている人も多いと思うが、『幻影の書』より後、本国ではすでに5作品が刊行されている。『ティンブクトゥ』『幻影の書』以降の5作品はすべて初老の男が主人公で、オースターはこれらを「枯れた男の5部作」としているそうだ。
『幻影の書』の素晴らしさはいまだ忘れられない。とくに、あの作中作のめくるめくような面白さといったら! オースターはほぼ年に1冊のペースで出しているのだから、このままだと滞る一方である。柴田さんにじゃんじゃん訳してほしいものだ。 (BJ塚本)
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