近代化と世間

阿部 謹也
近代化と世間―私が見たヨーロッパと日本 (朝日新書)
西洋史の泰斗であった阿部謹也の文字通り「最後」の書き下ろしだとのこと。人工透析の話などもあるのだが、あとがきの日付から2ヵ月後に亡くなられた様だ。それにしても、「近代化と世間‐私が見たヨーロッパと日本」というのも、文字通り、著者の最後の仕事らしい内容である。著者のいうところの「世間」が、日本の特殊的事情なのかどうかは、まだ議論があるところなのだが、西洋起源の学問を「世間」で教えなくてはならない大学の矛盾というものが、著者のテーマであったことが窺われる。その辺の事情は「自伝」に詳しく記されている様だが、輸入学問である西洋史の影の部分にも光を当てたことで、日本の「特殊性」も相対化したものの、なおも残る違和感を「世間」という答えに求めたのかもしれない。古来、日本と同じ様な「世間」が支配したヨーロッパ世界が、近代化とともに「個人」の世界に移行したとするなら、日本も、またその道を進みつつあるとみるのは自然だろう。ただ、幸か不幸か、唯一神との個人契約という条件を欠いた点が、経済的成功も、社会的矛盾も引き起こした要因なのかもしれない。いずれにしても、「西洋」を教師として捉えるのか、反面教師とするのかも、西洋という規範に則った学問で追求しなくてはならない。ある意味「オリエンタリズム」と同質な問題提起であったとは思うが、それが、日本の「世間」に関心が移ったというのも、日本的な「内向き志向」に拠るものだったのかもしれない。
★★
満州事変から日中戦争へ

加藤 陽子
満州事変から日中戦争へ (岩波新書 新赤版 1046 シリーズ日本近現代史 5)
岩波新書の「シリーズ日本近現代史」の第5弾。今年の終戦商戦に合わせて出してきたヤツなのだが、何か詰め込み過ぎの様にも感じる。小林英夫の『日中戦争』がライバルだった訳だが、あちらが異様なほど簡潔にまとめてきただけに、こちらの読み難さは引っかかる。それが東大と早稲田の差なのよ。と言われてしまえば身も蓋もないのだが、日本史専門の著者としては、一次資料の山と格闘しなければならず、どっからも突っ込まれない様に万全の体制を整えたということなのかもしれない。ただ、あとがきで著者は、このシリーズの課題に「家族、軍隊、植民地」の3つのポイントがあったことを踏まえて、この本は赤点と自己採点している。そこには一ノ瀬俊也には敵わないなんてことも書いてある。しかし、現在までのシリーズ既刊6冊読んだ感想では、「家族、軍隊、植民地」という課題は、岩波的文脈においてという留保付きなのではないかという気がしないでもない。第一弾の「幕末・維新」から「植民地」批判みたいのが出てきて、奇異に感じたのだが、そういうことだったのか。その意味では、この本は、テーマがモロ「歴史認識」を求められるものなのに、そうした色は、ほとんど出ていない。それも、中国の正史と折り合いを付ける必要がない日本近代史の研究者としては、至極当然の話なのであるが、「歴史」を史実で埋め尽くしてしまうのも、何か物足りなくなってくるから不思議だ。これも「歴史認識」に毒された者の悲劇ということなのだろうか。単なる勉強不足だと言えば、それまでだけど。
★★
道は自分で切りひらく

広岡 勲
道は自分で切りひらく―大リーガーたちのチャレンジ (岩波ジュニア新書)
広岡勲という人が野球選手だか、監督だかに、いた様な気もしたが、この著者は報知の松井番から、ヤンキースの松井番に転職した人らしい。元々、NY市立大出身の様だが、松井関係の著作が2冊あって、今回はジュニア向けの大リーグ話。ということで、松井、野茂、イチローから入って、アボットにジャッキー・ロビンソン、「オールド・ルーキー」もあって、教科書通りのジュニア新書。そういえば、小学生男子の夢は「野球選手」から、「サッカー選手」に、その座を奪われて久しいという話を聞いたのも、だいぶ前のことだが、松坂の60億だか70億の話で、その座を奪い返したのだろうか。しかし、「大工さん」が一位になって、中国人だか、韓国人だかが驚いたなんてこともあったから、カネで小学生の夢を買うのも浅ましいことではある。女子は「パン屋さん」だっただろうか。ちなみに私は「タクシーの運転手」だったのだが、この夢は、まだ実現の可能性があろう。話を戻すと、夢が「野球選手」だったとしても、イマドキはちゃちな「プロ野球」ではなく、「大リーグ」ということになるのであろう。最近は欽ちゃんとか、いろんな独立球団が出来て、「プロ野球選手」の敷居も低くなったものだが、道を自分で切りひらいて、大リーガーになれるのは、よほどの運と才能がないと無理というもの。岩波ジュニアを読むくらいの歳から、その道を切りひらこうとしても難しいのが現実である。どうも夢もチボーもないオトナが、ジュニアを読むと愚痴っぽくなっていかんな。
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