swan dive
今日は7マイルを走った。
11時からテレビで深夜映画を見て、2時ごろは散歩に出かけた。いつもと違う方向、ウィリアムズバーグ・ブリッジのほうへと向かった。昔の友達に会う為だったが、待ち合わせたわけじゃない。それどころか、実は二年くらい前に僕たちは絶交した。でも彼のアパートの住所はまだ分かっているし、正直に言って彼に謝りたいことが幾つかあるんだから、とにかく彼のアパートの前で煙草でも吸いながら待ってみようじゃないかってふと思ったわけなんだよ。
でも彼のうちに歩きながらちょっと気がふれていった。マイルス・デービスをヘッドフォンで聴いていた所為かもしれないが、いつの間にか早足になって、セータのフードを目の辺りまで深く被って、今から何かの悪事を働くぜっていう振りをし始めた。パトカーと擦れ違うたびに足元を見て顔をフードで覆おうとした。
彼の住む近所はあまり安全なところじゃない。ウィリアムズバーグ・ブリッジのガード下、夜中に女性が一人で歩けないようなところだ。路上は野良猫とガラスの破片と放置されたポンコツ車で一杯で、暗い空き地だらけだ。その真ん中に彼の住むアパートがある。そこまで歩いて、少し離れた所に腰をかけて、彼が出るのを待った。
夜中の3時近くだったので言うまでもないかもしれないが、彼は現れなかった。僕は立ち上がり、ウィリアムズバーグ・ブリッジを歩くことにした。それに僕はそこで座って待ちながら気付いたんだ。僕は自ら進んで他人に話しかけるような人は情けないと思うことに。昨日僕に話しかけた元彼女もそうだった。ただ自分が淋しくて、自分が誰かに話したくて、自分が仲直りしたいから勝手に話しかける。僕はそんな弱い人間なんかになりたくない。僕は色んな意味で弱いけれど、他人を自分勝手に振り回すような人でいたくない。新たなる目的地を目指して彼のアパートの前を横切ったときに、僕は声に出して言った。「もうお前にはおさらばさ。」幼稚園のときからの幼馴染だけど、それほどいい友人だったというわけじゃない。今まで失った友達は数多くいる。もう一人を喪失したって悲しくなるものか。
ウィリアムズバーグ・ブリッジを歩きながら色んなことについて考えた。何しろ大切な思い出の場所だ。高校一年の冬は金玉が霜焼けになるような寒さで毎日それを走って登校していた。9.11のときは学校から避難して、ワールド・トレード・センターが聳え立っていたところに灰と煙がもうもうと巻き上がっていたのを背景に、ウィリアムズバーグ・ブリッジを渡って家まで歩いて帰った。高校三、四年生の頃はよく真夜中にあそこに行って泣いた。大学一年の感謝祭の休みにモリコと近所のレストランでデートしたが、地下鉄が普通になっていたのでタクシーに乗り込み、あそこを渡ってアップタウンにあった彼女が泊まっていたホテルまで行った。
そして最近気になっていることについて考えた。僕はこの数ヶ月一度も涙を流さなかった。子供の頃から泣き虫だった僕は、遂に涙をすることができなくなってしまった。そんなことについて考えると、いつも村上春樹の小説、「国境の南、太陽の西」の中にあった台詞を思い出す。
「ときどき、泣くことができれば楽になれるんだろうなと思えるときもあった。でも何のために泣けばいいのかがわからなかった。他人のために泣くには僕はあまりにも身勝手な人間にすぎたし、自分のために泣くにはもう年を取りすぎていた。」
midnight at ihop
これからこのブログを続ける上で、まず一つの、新しい単語をここで紹介したい。「起きかける」というのはそれだけど、その意味は朝早く起きて、何だかんだしてからいつの間にかまたベッドに入って遅くまで昼寝する、ということだ。その何だかんだというのはつまり、飲み物を飲んだり、歯を磨いたり、メールをチェックしたり、手淫をしたりすることだ。例文を挙げよう。僕は毎週何度か起きかけるのだ。今日も起きかけた。朝の10時ごろ起きかけたが、起きたのは午後の3時だった。ちなみに以上の例文は全部全くの真実だ。特に手淫の部分はね。
更に言っておきたいんだが、上述した単語は「起き掛け」、つまり寝床から置きだしたばかりのこと、とは全く違う言葉だ。意味も違うし、使い方も違う。起き掛けと手淫との間には何の関係も脈絡もないが、起きかけると手淫との間には密接なのがある。
でも手淫のことはもういいんだ。君は手淫のことを聞きたくない(かもしれない、もし聞きたければ望みを叶えてあげます、347.843.6428)し、僕だって言いたくは… とにかくその手の話は止そう。
起きてから近所の行きつけの美容院で予約を入れて、買い物をしにマンハッタンに行った。Old Navyで何枚かのTシャツとジーンズと、飛びっきり高い革ジャケットを買った。帰ってから甥を連れてトラックに行った。走っている途中に先日僕を尋問した二人の警察官と擦れ違った。
今日殆ど何も食べなかった所為か、ただ具合が悪かった所為か、6マイルしか走れなかった。でも6マイルだって捨てたもんじゃない。
それから家に帰って、シャワーを浴びて、夕飯を食べた。それからおふくろと近所の散歩をした。実は何週間前に僕の喫煙が彼女にばれたんだが、意外なことに彼女はあまり怒らなかった。今は彼女の前でも普通に吸うが、吸うこと自体をそれほど気にしない代わりに僕の吸うペースにいくつかの文句があるようだ。
家に帰って、友達宛のメールを書き始めたところ、元彼女がインスタント・メッセンジャーで話しかけた。僕は今までの短き生涯でたった三人の女の子と本格的に付き合ったのだが、今日話しかけたのはその一番昔の、つまり二年前に別れた人だ。この間僕を見かけたとのことだ。
「君は煙草を吸ってた」
「ああそうか」僕はこの人が大嫌いだ。それに僕たちが付き合っていたのは僕の高校時代の終わり、僕が一番残酷なガキだった頃だ。どれほど残酷だったかというと、僕はこの同じインスタント・メッセンジャーを使って、当時思いつけた一番有害で手っ取り早いやり方で彼女と別れた、二度と俺に話しかけるなよという捨て台詞を残して。だから二年後話し合っても、僕は全く同じような態度をとってしまった。そのまま黙るべきだったが、結局は会話を続けることにした。「どこで?」
「20丁目通りの辺り、何週間前に。私は買い物をしていた」
「20丁目通りとなると、Old Navy、Gap、American Eagle… 君は確かにAEが好きだったよね?」
「それは大昔よ。君を見かけたときはFeline’s Basementに向かってた」
「いいね」今度は彼女が会話のギアを回転させる番だったので、僕は暫く友達へのメールを書くことに集中した。すると、
「君は中国から戻ったって?いや、確か日本だったのね。中国に行ったのはクリスだった」
「うん、それを聞いてびっくりしたよ」クリスとは彼女の友達で僕の小学校時代からの知り合い。
「で、日本はどうだった?」
「その問には短めの答えと長めの答えがある」
沈黙が暫く続く。
「で、君は?元気にしてる?」
「ええ、今はホフストラ大学に通ってるの。」
「そうだったね、あそこはどう?」
「好きよ。あそこに編入するにはハンター大学の哲学部の副大統領の座を犠牲にしなければならなかったけど」
「フーン」
「で、日本はどうだったか教えて」
「だからその質問には短めの答えと長めの答えがあるって言ったろう?どっちにする?僕は短めの答えを勧めるけど。短いのはちょっと気のきいたやつだけど、長いのはただ苦悩の色が濃いだけだから」
「じゃあ、短いのにするわ」
「要するにあそこに住みたくないなってことだ。じゃあ、僕は靴紐を結び直さなければならないから、これにて失礼するね。じゃあね」
素晴らしい。でもここでその会話を一語一語そのまま書き上げてしまうと、自分が凄くちっぽけな人間だというような気がするね。実際にそうなんだけど。
no pain, no gain
今朝の8時に親父に起こされて、ペンキ塗りを手伝わされた。それから僕たち一家が車に乗り込んで、ニューヨークの家に帰った。ブルックリンに着いてから荷物を車から降ろし、シャワーを浴びて、甥をマンハッタンに連れて行った。
でもその前に、ちょっと散歩してくるから待っててと言って、久し振りの煙草を吸いに家を出かけた。僕は甥の前で喫煙しないことにしているから、彼と一緒に出かける前にちょっと一服しようと思ったわけ。それで近所を散歩しながら何本か吸った。久し振りの煙草は凄く美味しかった。
喫煙を始めたばかりの人はよく酸素不足で眩暈がすると言う。でも僕は何ヶ月も吸い続けているが、今でも喫煙の際はふらふらしたり眩暈がしたりして、時には冷や汗までを掻いてしまう。実際には今度もそうだったが、僕にとってはその作用が凄く気持ち良いんだよ。あの脱力感、あの倦怠感が大好きなんだ。そして眩暈がする時ほど煙草をもう一本吸いたいと思うことはない。きっと頭がおかしいんだろうな。
とにかく甥をマンハッタンに連れて行って、兄に頼まれたちょっとした買い物を済ませてからどっかに行こうかと、彼を誘ってみた。結局僕たちはビリヤードをすることにした。恒例の21丁目通りのうらぶれた店に向かって歩きながら彼と色んな話をした。死んでから僕たち人間はどうなるのかとか、お前は神を信じるのかとか、煙草のことはどう思うかとか。
天国か地獄に行く、神様よりイエスの方を強く信じる、煙草を発見した人に会えたら彼の金玉めがけて蹴ってやる、とはそれぞれの質問に対する彼の返答だった。
彼はビリヤードが凄く上手い。ビギナーズ・ラックか、生まれつきの才能か、どっちにしてもとにかくこいつは上手いんだよね。
家に帰ってから凄く疲れていたんだけど、そのままベッドに潜り込むのが嫌だったので、ちょっと走りに行った。トラックまで走って、そこで1時間ぐらい走ろうと思ったのだ。
1時間で7マイルを走った。つまり僕は高校時代より速く走っているということだ。それだけじゃなくて、スタミナも抜群だし、長距離を走っても脚や膝は高校時代のように痛まない。このまま走り続ければ、大学を卒業する前にニューヨークマラソンを走るのも夢じゃない。なんかわくわくするんだよね。性的フラストレーションって怖いな。
このときめく胸を宥めるべく一服して、マスターベーションでもするか。
skinny dip
今日も夕飯の後走りに行った。甥も誘ってみたが、昨夜の失態で自信がないんだろうか、彼は断った。結局彼のやる気はその程度のものだったというわけだな。
6時頃家を出かけて、オリエント・ポイントに向かって走り出した。30分が経過したところ、僕はあの大きな交差点の先にある墓所まで来ていた。それから折り返して家まで走って帰った。帰ってからシャワーを浴びて、散歩に行った。マリーナを横切って、湾を見渡す砂浜まで行った。今日の海は凄く静かで、水上は霧が立ちこめていた。
僕はそのように静まり返った、波と呼べるほどの波がひとつもない安らかな海が好きだ。それに夕凪に泳ぐことが大好きなんだ。だから浜辺で立って海を眺めていると、僕はついに泳ぎたくなった。服を脱いで、静かに海に入っていった。裸で泳いだことはなかったけど、実際にやってみると凄く気持ちが良かった。ただ水母に刺されないかって心配するんだよな。なにせロング・アイランド湾には水母は矢鱈に多いんだよ。
devil
今日も一時間ジョギングをした。夜の10時頃甥を連れて家を出かけた。まず彼と一緒に20分走る予定だったが、結局彼は10分も走らずにさっさと諦めた。ロング・アイランドでは街燈が疎らで外は暗かったし、小雨が降っていたし、彼にとっては走りづらかったかもしれないな。でも僕にとっては正に理想的な環境だ。彼と一緒に家まで歩いて帰ってから、僕は一人で走り出していって、夜の暗闇に飛び込んだ。
自分で言うのも何だが、真夜中にオリエント・ポイント付近の道路を走ることは凄く危険なことだ。飲酒運転をする人は多いし、交通事故多発の地域だし、前述した通り街燈が寡少なわけだし、下手をすれば車に轢かれてしまうのもありえないわけじゃない。ある道には自転車道が付いていて、それを走っていればまず問題はないが、それがない場合は車道を走らなければならない。全くの暗闇で。それって、どきどきするんだよね。