no reply
今夜も散歩に出かけた。昨日とは違う道を歩いたが、どうやらまたトラックに辿り着いたんだ。以前何度も何度もぐるぐる走り回ったところなんだから、一種の引力のようなものが生じたんだろうね。近くにいるとその引力に引っ張られてついあそこに行ってしまう、みたいな感じ。で、あそこで何をしたかというと、やはり昨夜と同じように1マイル走って懸垂をして、ベンチに座って煙草を吸ったんだ。裸足でさ。
今日はあまりぱっとしない一日だった。寝坊して経済学の教科書を少しばかり勉強して、トラックに行って何マイルかジョギングをして、それからおふくろに誘われて外食した。近所のカフェに行ってサラダを食べた。不味くはなかった。
何か書くことはないかって頭を捻っているところなんだけど、今のところは特にないね。こんなもんだよ、僕の人生は。でもまあ、このままじゃつまらないから、自己紹介でもするか。
僕は19歳の男性で大学生だ。ニューヨークの生まれ育ちだけどマサチューセッツ州立大学に通っているんだ。3週間前に日本留学から帰ってきたばかりで、来学期が始まるまでは実家で暮らしている。
今僕は人生の分岐点のようなところで立っているんだ。具体的に言うとだね、このままマサチューセッツの大学に通い続けるのか、それともニューヨークの大学に編入するのか、いずれにしろ専門を変えるのか変えないのか、変えるんだったら何を勉強するか、それでどんな仕事をしたいのか、云々。迷ってるんだよ、凄く。
なんだか余計につまらない話になってしまったような気がするね。
non-sequitor
久し振りの便りで何を書けばいいのかよく分からなかった。分からなかったからちょいと走りに行ってきた。というか、よし走ってくるぞと思って家を出かけたんじゃなくて、まあいつまでもパソコンの画面をただじっと睨んでいたってらちがあかないから、気晴らしに散歩にでも行ってこようかと思ったわけ。それでたまに近所のトラックに向かって行ったんだよ。熟知している道だし、久し振りに見る近所の変わり振りを観察するには持って来いの道のりだし。
外出することをおふくろに告げて、2階の玄関から家を出かけた。階段には若いカップルが座っていた。男は痩せっぽちの、いかにも苦悩に満ちたアーティストって感じの服装をしていた人だったが、僕の目を引いたのは彼の隣に座っていた女性だった。路上が暗くて、家の前に聳えている大木の枝の間から漏れていた、近くの街燈のオレンジ色の光しかなかったが、一目で美人だと見た。長いしなやかな黒い髪と、短すぎもせず長すぎもしないスカートから突き出ていた魅力的な脚。陳腐な言い方だけど、あれはまさに一目惚れだったね。
僕が玄関から出ると、そのカップルが振り向いてどいてくれたんだ。なにしろ他人の玄関なんだよね。それで男が礼儀正しく謝って、ここに座っていても構いませんかって僕に尋ねた。ああ、勿論構わないよ、と僕は階段を下りながら言って、いよいよトラックを目指して歩き出した。
角を曲がってから煙草を口に加えて、ゆっくりと歩き始めた。家族にばれないようにこそこそ吸ってる。実はそれも散歩に出た理由の一つなんだよ。トラックに行く途中に一人の女性が角を曲がってきて僕の数メートル先のところに歩き始めた。ブルーのワンピースを着ていて、両手から黒いゴミ袋みたいなものをぶら下げていた。早足で歩いていたのでどんどん僕から離れていったけど、その後姿はちょっとキュートだったよ。少なくとも僕はそう思ったね。でも僕の好みって、ちょっと変わってるから他の人が見たらどう思うかあまり分からないな。
トラックに着いたときふと走ろうかという衝動に駆られた。3本目の煙草を路上に落として、履いていたサンダルを手に取って裸足で4周を走ってみた。つまりだね、Tシャツとジーンズという恰好で、真夜中にトラックをぐるぐると走り回った。他の人が見たらちょっと滑稽だと思ったんだろうね、きっと。そして何しろ人が多かったから実際にそう思った人は少なくはないんだろう。でもとにかくとても気持ちが良かった。いいペースで走ったし(はあはあ息を切らしている奴を裸足で追い越すのって素敵)、とても涼しい夜だったし。それで4周を走ってから、ベンチに座ってまた煙草に火を点けた。それから近くの運動場でちょっと懸垂をしてみた。
家に帰ってきたらあの若いカップルはまだ玄関の階段に座っていた。僕が来ているのを見て、男性が立ち上がって通してくれた。彼はまた謝ったが、僕はとても感じのいい声で、構わないよ、座っててっていうようなことを言った。それで彼は軽い冗談を言った。「これ以上座ってたら家賃を払わなきゃならないよな」。僕は振り向きもせず、歩くペースをちっとも変えずにただ「へっ」と笑ってやった。つまりだね、挨拶みたいなものだったよ。だけど実際に口に出してみたら、それが凄く平板な声で出て、いかにも作り笑いのように聞こえた。失礼したな、とも思ったが、驚いたことにあの綺麗な女性が後ろでくすくす笑った。凄くいい感じの笑い声だったね。ちょっぴり残酷で可愛かったよ。何でもするからもう一度笑って欲しいなって思ったよ、正直な話。でもそんなこと考えたってしょうがないよね。