ビフリュオレ通信<BIFLUORESQUEMENT VOTRE> -81ページ目

シャンソン・プリュス・ビフリュオレ基本情報

<公式サイト>
http://chansonplus.free.fr
<メンバー>
Michel Puyau ミシェル・ピュイヨー
Sylvain RIchardot シルヴァン・リシャルド
Xavier Cherrier グザヴィエ・シェリエ
Robert Fourcade ロベール・フルカド (愛称 Boubou ブブ、97年末脱退)
<結成>
南仏で活動していた2組のデュオ、ミシェル&シルヴァンの「ル・ゴング・デュ・バレイユール Le Gong du Balayeur」とグザヴィエ&ロベールの「ル・メカノフォン Le Mécanophone」が1984年に出会い、大晦日の夜の共演を通じて意気投合、カルテットとしてスタートした。98年からはブブの脱退という危機を乗り越え、トリオとして再出発、今日に至る。
<グループ名の由来>
Chanson : 彼らの演し物である「歌」
Plus : ただフツーに歌うだけじゃないから「プラス」
Bifluorée :「フッ素入り」— 愛用の歯磨きチューブを持ったブブを見て思いついたらしい
<レパートリー>
・替え歌:彼らの看板商品。古今のヒット曲に失業、BSE、サッカーW杯優勝時の監督バッシング報道など、時の話題を巧みに折り込む。
・オリジナル曲:笑いのみを目的としたナンセンスものからユーモラスだが真面目な社会派ソング、情感溢れる恋の歌まで幅広い。「枯葉」で知られる詩人ジャック・プレヴェール Jacques Prévert の詩にも2篇、曲をつけて歌っている。
・カヴァー曲:笑いの有無にかかわらず、隠れた名曲的なものを進んで取り上げている。反戦歌の古典的名曲「兵隊が戦争に行く時 Quand un soldat」などはデビュー当初から歌い続けている。
・音楽ジャンルのパロディ:オリジナル曲の一部だが、オペレッタ、古楽、ワールドミュージック、民謡などの特徴を巧妙に再現、ヴォーカル・テクニックで聴かせる。
<ステージ>
これらのレパートリーをスケッチやコントでつなぎながら進行。演奏は基本的に、メンバーそれぞれが弾く生ギターと、シルヴァンのキーボードのみを使用。楽曲によってハーモニカ、民族楽器のダルシマー、パーカッション、口ドラム、口トランペット、口ベースなどが加わる。演出上必要がある時に限りカラオケ伴奏を使用することもある。バックバンドはない。大掛かりな装置も使わない。つまり地方の小さな講堂でもパリの名のあるホールと同じプログラムを演じることができる。

第33号補遺 サイン会顛末

 ロビーに出ると、2枚のポスターを貼った壁を背にして、横長のテーブルに椅子4脚がセットされていた。確かにサイン会が行われるようだ。しかし観客の大半は意外にもそのまま帰っていく。満足そうな話し声が耳に入ってくる。販売コーナーでCDを買い求める人もかなりいる。20~30人程の、殆どが若い人たちが、ロビーに残って仲間同士でいつまでも喋っている。暑くて外に出たい。所在ないので文化センターのイベント案内チラシなどを眺めたりしている。
 …と、ロビーの視線が一瞬、ホール左手の出口に集中した。彼らが階段を降りてくる。グザヴィエが先頭、続いてロベール、少し疲れた様子。順にテーブルに着く。ミシェル、少し遅れてシルヴァン、白い半袖のTシャツを着ている。
 待機していたみんなは、一瞬ためらった後、テーブルの回りに押し寄せる。遠慮がちに、それでも我先に、チケットの半券を差し出す。その集団の後ろについて少し様子を見る。サインをする前に名前を訊いている…。
 メンバー一人一人のサインを確かめるようにして、順番に灰色の紙片を差し出す女の子たち。そのラッシュが一段落したのを見計らって、右端に座ったグザヴィエに近づく。それでも相変わらずテーブルを取り巻いている人の群れに気後れを感じていると、グザヴィエが気後れ組を促すように一言「もうみんないいの?いらないの?」、するとまた新たに半券が差し出される。その5~6人に混じって、長い間握りしめた紙切れを、他の人たちに倣って無言で差し出した。
 グザヴィエが顔を上げる。《C'est pour qui(お名前は)?》困ったな、でも答えない訳にいかない。お願いだからあまり驚かないように。《R***》《Hein(はあ)?》《...R***》大仰に顔をしかめてこっちをまじまじと眺めるグザヴィエ。回りにいた子たちが何人か振り返り、笑いが起きる。一緒になって笑うと少し緊張が解けた。グザヴィエ、納得したように《Ah~... Ça s'écrit(スペルは)?》語学講座のスケッチみたいだと思いながらスペルを言うが、途中でグザヴィエがこのペン書けないと言い出して中断、テーブル脇にいた会場スタッフ?が、じゃあこれ使えばとか言って差し出したものに持ち替える。《Je vous écoute(どうぞ).》ようやく書き終えてからあらためて綴りを読み返し《Ah, R***!》《Oui.》ややこしくてすんまへんと思ったが、口に出す度胸などない。何やら書き込んで返してくれたが、そのまま隣に回して欲しかった、またこちらからアプローチしなくちゃいけなくなる…《Merci.》
 右隣にはロベール。半券を取るとさらさらっと書き込んでくれた。そしてそのまま隣のミシェルの方へ送りながら、こちらの意思を確かめるように、笑みを浮かべて見上げてくる。その笑顔に一瞬見とれて、危うく礼を言うのを忘れそうになった。写真のイメージでは何となくごっつくて怖そうな人かと思っていたけど、なんて優しそうで魅力的な笑顔!!
 ミシェルの回りは相変わらずたて混んでいて、自分で紙を差し出す必要がなかったせいもあり、少し後ろに押しやられてしまう。少したって、隣から回ってきた紙切れを手にしたミシェル、見慣れないアルファベットの配列に気付いて読み上げ始めた。《R***, c'est qui(これ誰), R***?》げ、どうしよう、返事をしようにも人だかりに阻まれている。しつこく《C'est qui, R***》と例の黄色い声で繰り返すミシェル。隣のロベールに向かって問いかけるがロベールは知らんぷり。答えてあげてよ…自分で返事しなさいってこと?はいはい、分かりましたよ、ちょっと人だかりも空いたし。《...Moi(私).》ミシェル、こっちを見上げてニッと笑う。《Ah, c'est vous?》Vous(あなた)と言われたのかtoi(君)だったのか覚えていない。ミシェルは一瞬考えたあと、かきかたの時間の小学1年生みたいに机にかがみ込むようにしてペンを動かす。手の動きから最後にマルを書いたのが分かる。こいつ、サインの手抜きをするか?紙を返しながら顔を上げてまたニッと笑った時の、いたずら書きをしたあとの子どもみたいな目。
 シルヴァンがいない!…どうしてもみんなに書いてもらうねん!と思って待っていると、しばらくして戻ってきた。写真ではバタ臭い日本人に間違えられそうなほど真っ黒けの髪をしているのかと思っていたが、近くで見ると案外そうでもないんだ。前の二人のときと同じようにして、半券を差し出す。それを左手で引き寄せながら、ちらっと持ち主を見上げる。余白の殆どなくなった紙片を手に持って、前の3人が書き込んだ言葉を読んで、ちょっと考えるような様子を見せたあと、紙を縦に置き換えてペンを走らせた。ちょっと窮屈そうに書き終えると、受け取ったときと逆の動作でこちらに返して、次のサインに取りかかる。…どうにか礼は言えた。が声が出ていたか自信はない。シルヴァンひとり青いボールペン。Sylvainの i の上の点がマル。
 4人のサインが書かれたライヴ・チケットの半券を、こうして手にしていることが信じられない思いで、それ以上のことはもう何も考えられない。テーブルの回りの人だかりを少し離れて立ったまま、何度も読み返す。
 サイン会はまだ続いている。彼らの姿をずっと見ていたい。けど用が済んだのにいつまでもそこにひとりで突っ立っているのも阿呆みたいに思えて、それに観光課のお姉さんの「夜は人通りがない」という言葉が脅しになって、立ち去る決心をする。不馴れな異国の郊外の町を、真夜中近くの時間にたったひとり、身の安全を自分で確保しながらホテルまで辿り着かなければならない。しかもこの混乱した頭で。外に出ると、ようやく3月の夜の冷気に当たって心地よい。時計の針は11時30分をさしている。一生一代の宝物となった灰色の紙片をジャケットの胸ポケットに大事にしまうと、自分に気合いを入れて「スズラン通り」を歩き始めた。

サイン入りチケット
一生の宝物

CH+B追っかけ紀行・その3[第33号 97年3月15日発行]

Chanson Plus Bifluorée à Rambouillet / 1996年3月23日
「あのねぇ、9時開演といったって、フランスじゃ9時に始まるとは限らないわよ!」— パリから最終列車で日帰りのつもりの筆者に対するイザベルの忠告は尤もだった。ホントの始まりはどうせこんなモン、というのが常識化しているのか、開演時間になっても座席の半分も埋まっていない。ようやくホールに入ってきた観客も、中でまた知り合いを見つけてはbise、つまりフランス式にほっぺたくっつけあってブチュブチュ。半ば呆れつつ観察していると、横から何やら声を掛けられた。どうやら並びの席が取れなかった二人連れが、前から9列目・通路脇の補助席に独り座っていた筆者に、替わってくれと言っているらしい。示された席は1列前進、しかもド真ん中。アバウトなプロダクションのお陰で予約が遅れ、いい席を取り損ねていただけに何てラッキー!! てなことやってるうちにようやく客席の灯りが落とされた。コンサートが始まる…。
 いかにも地方都市の市民会館といった感じのこぢんまりしたホール、ランブイエ文化センター・ニケロデオン劇場は、小・中学生から年配のカップルまでの幅広い客層で埋めつくされている。最初ちょっと反応がおとなしいかなとも思われた客席を、ヨシモトばりの(?)ギャグで笑わせ、挑発し、盛り上げていくのは、4人のメンバーのうち専らグザヴィエである。演目は既にリリースされた3枚のCD収録のものが中心だが、2ヶ月前に催された偉大な先輩カルテットへのトリビュート・コンサート、Fête aux Frères Jacquesに出演したときのナンバー「チック Les tics」を披露してくれたのは嬉しかった。スケッチやコントを交えてのバラエティーに富んだステージ構成、何より回りと一緒にゲラゲラ笑えるのが録音で聴くのと違って新鮮である。一方音楽的完成度の高さがナマでも証明され、笑いながらも聴き惚れてしまう。確かなコーラス・ワーク。ヴォーカル・アレンジは、素っ頓狂な声を上げてくるくる動き回るミシェルだ。彼らお得意の物真似、とりわけブブことロベールのなりきるブラッサンス Brassens には、待ってましたとばかりの喝采が起こる。フランシス・カブレル Francis Cabrel やアラン・スーション Alain Souchon らトップスター総出演のヒット・メドレーには、ホールの熱気も最高潮。二枚目路線のパロディで売るシルヴァンが、イヴ・デュテイユ Yves Duteil の「子どもを抱いて Prendre un enfant」を歌う合間に「さあみんな、ライターを灯すんだ!」と呼びかけると、隣席の女の子二人連れは本当にライターを揺らしていた。
 かくしておよそ1時間半、数度目のアンコールが終わっても観客はまだ4人を帰そうとせず、遂には彼らのテーマソング「イポイタイタイイェ~」を歌い出す始末。こうして再び舞台に引きずり出された4人とともに、皆立ち上がって歌い、踊るのであった。
 プロフェッショナリズムとサービス精神。ステージの後にはオマケのサイン会まであって(皆さん、自分の名前の綴りはちゃんとフランス語で言えるようにしておきましょうドキドキ)満願成就でニケロデオンを後にしたのは真夜中近くだった…宿とっといて良かった!


ランブイエ城
ランブイエ城