Between The Sheets ~夢への抒情詩~ -12ページ目

Between The Sheets ~夢への抒情詩~

寝る前にちょこっと読んでほしい、素敵な物語をあなたにお贈りします。

 ケーキを作ろう。
 誕生日でもクリスマスでもないのに、急に思い立った。

 キッチンで砂糖やら小麦粉やらの分量を量る。
 1グラムも誤差のないように、慎重に。
 量りの針がレシピどおりの数字をピッタリ指すと、あたしの緊張はふっと解れる。
 そしてまた、同じことを別の材料で繰り返す。



 するとその様子を本越しに見ていた彼が、フフッと笑い声をもらす。
 「真剣だな」
 「そりゃそうよ。分量ひとつでスポンジの膨らみが全然違うんだから」
 あたしは顔を上げず、針に視線をとめたまま返事する。

 すると彼は「へえ!」と感心したような声を上げた。
 「ところで、何でケーキ作ってんの?」
 「何となく」
 「誰かにあげんの?」
 「そんな予定はないわよ」
 素っ気なく答えると、彼は「ふーん」と呟いた。



 「なあ」
 シロップを作るための水を計量カップで測っているときに、彼が再び話しかける。
 「何よ?」
 ケーキ作りに集中したいのに。あたしは少し尖った声で聞き返す。

 「なぞなぞ」
 弾んだ声の彼に、あたしは思わず「はあ?」と声をひっくり返した。
 そんなあたしにもおかまいなく、彼は言葉を続ける。
 「適量じゃないと上手くいかないもの、
  つまり少なくても多くてもいけないもので、

  ケーキの材料みたいに目に見えないものってなーんだ?」

 「・・・何それ」
 あたしの頭は卵や生クリームやバニラエッセンスでいっぱいだから、彼の言う目に見えないものがちっとも浮かんでこない。
 「わかんない。降参」
 両手を挙げて、彼に視線を移す。



 すると彼は、にやっと笑った。
 「それは、愛情」
 勝ち誇ったような彼の顔に、あたしは少なからず悔しさを覚える。
 「なんだ、聞いて損した」
 捨て台詞を吐いて、作業に再び取り組む。

 適量じゃないといけなくて、目に見えないもの。
 愛情、か。
 小麦粉をふるいながら、あたしはその2文字を反芻する。

 この分量なら絶対成功する。
 そんな確実性があれば、全ての恋愛はきっと上手くいくんだろうな。
 だけどあいにく、愛情を量る道具なんてこの世に存在しない。



 「なあ」
 彼が再び話しかける。あたしは不貞腐れて返事をしなかった。
 「しつこいようだけど、何でケーキ作ってんの?」
 無視。
 「じゃあ質問を変えて・・・。誰と一緒に食べんの?」

 なんだ、そんな答えが聞きたかったんだ。
 鈍いあたしはようやく気づく。

 照れ臭さのあまり少し拗ねた口調になってしまうのは、許してね。
 「あなたと一緒に。ふたりで」
 ベランダに落ちた葉っぱを吸い込んでいたんです。
 
 

 家のベランダには植木鉢が置いてあって、
 その木の枝から落ちた葉っぱが
 そこら中に散らばっていたんですね。

 いい加減放っておくわけにもいかず、
 かと言って箒で掃くのも面倒なので
 (いや、そもそも箒がなかったので)
 室内用の掃除機を持ち出して吸い込みました。



 スケルトンタイプの掃除機なので、
 吸い込んだ中身を外から見ることができます。

 「寒いなー、葉っぱ多いなー」
 なんて思いながら掃除をしていました。



 ふと、掃除機のボディーを見ると。

 「掃除機の中に木枯らしが吹いてる!!」

 吸い込んだ葉っぱは吸引力によって円を描きながら、
 すごい勢いで舞っていたんです。
 その様子はまさに木枯らしでした。



 「作為的な自然」。
 
 相反するような言葉ですが、
 わたしが偶然発見した木枯らしは
 そんな表現がピッタリだなと思います。

 

 人間の手で意図的に作られた自然は
 自然なんかじゃない。
 ・・・と今まで思ってたけれど、

 本当はそんなの問題じゃない。

 人間が自然を作る力を持っている、なんて
 とことん驕り高ぶった考え。
 本当は全く逆で、
 自然が人間を動かす大きな力を持っている。



 だからわたしは葉っぱが落ちていることによって、
 掃除機という道具を用い、
 自然を作為するに至ったのです。

 葉っぱは風の中で再び舞うために、
 わたしを使ったにすぎない。



 なーんて、
 ちょっぴりメルヘンなことを考えてしまった
 冬の正午でした。
 どんなふうに未来が変わっても


 二人でいられるという事実は


 変わらないでいてほしい


 人は一人でも生きていけるけれど


 あなたの代わりなんて


 世界中探したってどこにも存在しないのだから

 誰かを否定することでしか

 

 自分を肯定することができない

 

 そうやって臆病な素顔を隠蔽する

 

 その仮面はいつの日か

 

 本当の顔になってしまうだろう

 

 忘れられた素顔は

 

 偽物に覆い被されたまま

 

 自らの臆病さを嘲笑う

 あたしは寒いのが苦手。
 いや、苦手に拍車をかけて、大っ嫌い。
 だからこの季節になるといつも、外に出なくなる。

 「まーた家にこもってる」
 遊びに来た彼は、あたしの姿を見るなり呆れた声を出す。
 パジャマのまま肩から布団を被ったあたしは、完全なる冬ごもり。

 「だって外は寒いんだもん」
 「だからってな、ずっと布団からすら出ないのはどうかと思うよ」
 彼はお土産のシュークリームを目の前に置く。



 「それにしても、空気悪いな」
 そう呟くと彼は立ち上がり、勢いよく窓を開けた。
 冷たい空気が、一気に部屋を侵食する。

 「何すんのよ!」
 「だってこんなとこにいたら、体調悪くするだろ」
 彼の言い分はもっともだ。
 でも、せっかくあたしにとって快適な空間が出来上がっていたのに。

 「あー、寒いっ!」
 わざと大声でそう叫び、あたしは頭まですっぽりと布団で覆う。
 彼に対する当てつけのつもり。
 しばらくしてから、窓を閉める音が布団越しに聞こえた。



 「お前さ」
 彼の声が、上から降ってくる。
 「まるで、モグラみたい」
 「はぁ?」
 
 よりによって、モグラ? 
 あたしは布団から顔だけ出して、抗議の目で訴える。
 「何でよ?」
 「そうやって内側に潜り込もうとするところが」
 
 不本意だけど、当たっているだけに反論できない。
 それでもやっぱり認めたくないので、膨れっ面を見せつける。
 「ま、モグラが苦手なのは日光だけどな」
 フォローのつもりか、彼はそんなことを口にした。



 「いいわよ別に、モグラだって」
 そうしてあたしは再び、布団の中に全身を収める。
 「早く春が来ないかなー」

 あたしのひとりごとに、彼は笑みをもらした。
 生気を失って


 瑞々しさを失って


 誰からも見向きもされなくっても


 君が花であるという事実は


 変わりないんだよ
 灰色の雲が空に垂れ込み


 その分厚い層から舞い降りた雪が


 地上をどんどん覆っていく


 そして完成した


 真っ白な世界




 どうかこのまま


 誰にも踏みつけられることなく


 土や泥に混じることなく


 白く汚れないうちに


 溶けてしまえばいいのに




 純粋なものほど

 
 なにものにも染まりやすい


 そうやって世界が


 変化していっても


 私はただ


 その様子を見ているだけしかできない
 7日が経って、だいぶお正月気分が抜けてきた頃です。
 
 2006年の年始も例によって、
 仲間で集まったり同窓会があったりと
 ワイワイ騒げる楽しい時に恵まれました。



 ところで、こういうときに会話の潤滑油になるのが、
 アルコールですね。
 
 まあ、そういう場で饒舌にしてくれるものでなくても、
 おいしいお酒は好きですが。



 このブログの一番初めの記事で、
 「好きなもの→チャイナブルー」と
 自己紹介を致しました。 

 チャイナブルーは
 わたしの一番好きなカクテルです。
 ライチのリキュールを使っていて、
 甘いんだけど清涼感があります。

 あと、見た目もとてもキレイなんですよ。
 ブルーキュラソーという
 青色のリキュールが少し入ってるから、
 サファイアみたいな色をしています。

 ・・・って、サファイアなんてこれまで
 お目にかかったことなどないんですけどね〈笑〉。



 お気づきの方も多いと思いますが、
 実はこのブログのタイトルの一部である
 「between the sheets」も
 カクテルの一種なんですよ。
 
 ブランデー、ホワイトラム、ホワイトキュラソー、
 そしてレモンジュースをシェイクした
 ショートカクテルです。
 
 その名から推測されるとおり、
 ナイト・キャップ用として有名です。
 いわゆる、寝酒ですね。



 そんなカクテルを
 このブログのタイトルに掲げたのは・・・。
 
 一日の終わりにふとパソコンを開いて、
 眠りに着く前のあの浮遊感に浸っているときに
 心休まるような〈?〉文章をちょこっと読んでもらい、
 そしてそのまま楽しい夢の世界へいざなわれる・・・。
 
 という読み手のイメージがわたしの中で
 〈勝手に〉構築されていたからです。
 妄想族ですね、ハイ。

 あっ。
 こんな勝手極まりない妄想を公表してしまったけれど、
 もちろん昼夜問わず読んでいただける方には
 すごく感謝していますので、
 どうぞご都合のよい時にいつでも
 遊びに来てくださいね!
 


 ちなみにわたし、
 ビトウィーン・ザ・シーツをまだ
 飲んだことがありません。
 
 そこで今年の目標、その2!
 
 「ビトウィーン・ザ・シーツを、味わう!」
 丁寧に瘡蓋を剥がして


 傷が治ったふりをしても


 心に刻まれた傷は


 深く、残る。


 そうやって幾つもの傷跡を抱えてもなお


 生きていかなければならない


 

 あとどれくらい傷を負えば


 苦しまないですむのだろう


 あとどれくらい、あとどれくらい・・・



 
 そうやって数えている間に

 
 また新たな傷が増えていく


 それでもなお


 生きていかなければならない
 あたしは彼の服を着る。
 自分の服がないわけじゃなくて。
 ただそうすることが好きで、着ている。



 「お前、また俺の服着てんのか」
 彼はネクタイを締めながら、鏡に映るあたしをその目に映す。
 「ま、いいけど」
 そして再び視線を戻し、身支度に専念する。

 今日あたしが着ているのは、紺のトレーナーと履き古したジーンズ。
 「どう、似合うでしょ?」 
 彼の後ろで、おどけてポーズを取るあたし。
 「ああ、似合うよ。悪い、ハンカチ持ってきて」
 朝の忙しなさが、彼を素っ気なくさせる。
 あたしは膨れっ面になって、ハンカチを取りにいく。



 あたしは彼の服を着る。
 いつも彼が着ている服は、彼のにおいがする。

 「はい。これでいい?」
 ハンカチを渡すと、彼は一瞬だけ笑顔になった。
 「サンキュー」
 だけど受け取るとすぐ、カバンにそれを入れて玄関に向かう。

 「今日は多分遅いから」
 靴を履きながら、行ってきますの代わりにそう言う。
 「わかった」
 少し唇を尖らせて、あたしは返事する。



 あたしは彼の服を着る。
 どうして彼の服を着るのが好きなのかって?
 
 ドアを開ける前に、彼は立ち止まる。
 そしてあたしを振り返る。
 「帰るまで、ずっとそれ、着てろよ」
 耳元でそう囁いた後、頬に軽くキスをする。

 彼のキスは、たちまちあたしを笑顔にさせる。
 「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 玄関を出て行くときの彼も、同じように笑う。
 そう。あたしが笑顔だと、彼の笑顔になる。
 


 あたしは彼の服を着る。
 こうすると、いつでも彼と一緒みたいな気持ちになれる。
 ちょっとブカめの着心地が、彼に優しく包まれている感触。

 だからあたしは彼の服を着る。