2019年11月20日(水)

 赤川次郎の小説が原作で、鬼才・岡本喜八監督がメガホンを撮ったテレビ・ドラマ「幽霊列車」(1978年)は、過去に一度DVD化されたもののすぐに廃盤になり、その後中古サイトで高値がついた珍品で(今でもAmazonでは33,000円の値段がついている)、子供の頃にたまたまこのドラマを見たことのあった私は、いつかまた見直したいと思いながら、高額なDVDにはとても手が出せずにずっと我慢し続けていた。

 しかし(おそらく)昨年このドラマが某ドラマ・チャンネルで再放送され、その後インターネットにアップロードされるようになり、かねてからの私の宿願も呆気なく果たされることになった。実際見直してみると別段とりたてて優れた作品という程ではなく、いささか拍子抜けしたくらいなのだが(★)、再見した際に調べてみると、この「幽霊列車」の後で、8作ものシリーズ作品が作られたことを知り、そうなるとそれらも見てみたくなった。

 ところがこれらの続編は、岡本喜八のようなメジャーな監督の手によるものではないからか一度もソフト化されたことがなく、そのままテレビ局に埋もれてしまっているものと思われた(映像が残っているのかどうかも定かではなかった)。

 しかし暫く前に、これら8作のうち何本かがやはりドラマ・チャンネルで放送されることが分かった。そうなると俄然その放送を見たくなって来るのはまさに「人間の欲に限りなし」で、しかし日本に住んでいない(上に滅多に帰省もしない)私には当然見ることは叶わず、いつか誰かがまたインターネットにアップしてくれるのをひたすら待つしかなかった。

 放送後暫くは頻繁にインターネットでチェックしていたのだが、いつまで経ってもアップされる様子が見られなかったため、そのうちドラマのことすらすっかり忘れてしまった。

 しかし先日たまたま別のドラマをチェックしていたところ、「幽霊○○」という題名が何本か目につき、早速見てみたところ、今月になってこの幽霊シリーズの何本かがまた放送されたらしく、今回は幸運にもそれをインターネットにアップしてくれた奇特な人がいたのである。

《★やはりいつか見直したいと思いながら、ちっともレンタル市場に出て来ずなかなか見る機会がないドラマに、「傷だらけの天使」や「俺たちの旅」、「気になる嫁さん」、「パパと呼ばないで」、そして山崎努主演のNHKドラマ「価格破壊」などがある。このうち「価格破壊」は6,000円ほどで購入できるのだが、DVD1枚あたり100円足らずのレンタル料金にすっかり慣れてしまった身にとって、2枚組で6,000円を出すにはかなり勇気が必要で、加えて上の「幽霊列車」のように、それなりの覚悟で購入しても、結果的に落胆させられた場合の精神的ダメージを考えると、ますます手を出す気になれないのである。》

 

 すっかり前置きが長くなってしまったが、今回インターネットにアップされたのはシリーズの6作目~8作目で、順番に「迷探偵コンビ死の旅へ! 幽霊温泉」(田中重雄監督、1981年)、「迷探偵コンビの危険旅行! 幽霊結婚」(日高武治監督、1982年)、「迷探偵新コンビ誕生! 幽霊半島」(児玉進監督、1984年)の3作である。最初の2作は「幽霊列車」と同じく田中邦衛と浅茅陽子のコンビ(そして上司は小沢栄太郎)によるものだが、3作目は題名からも分かる通り、浅茅陽子に代わって藤谷美和子が女子大生役を演じている。

 そこで早速時代順に第6作の「幽霊温泉」から見始めたのだが、この中にどこかで見たことがある女優が登場し、そこそこ重要な役回りを演じていることに気づいた。冒頭でメイン・キャストの役名と芸名が紹介されていたことを思い出して早速チェックしてみると、「会田良子(役) 原悦子」とあった(他にも花沢徳衛や佐藤佑介、夏圭子など、私が子供の頃に見たドラマによく出ていた人たちがいるのだが、彼らについてはいずれ別途採り上げることがあるかも知れない)。

 

   ドラマ「幽霊温泉」より

 



 ここでいきなり話がそれるが、今ではすっかりくたびれ骨の抜けたような中年オヤジになった私も、一応「男」、というより「人間」の端くれで、少年期に「目覚め」て以来、性的なことにも人並みに関心を抱いてきた。しかしもともとひどく臆病な性格に加え、異常なまでの人見知りで他者との人間関係を忌避する傾向が強かったことから、風俗産業に接することなどはむろん、猥褻な書籍やヌード写真集などを買ったりポルノ映画を見に行ったりするような「具体的行動」を起こす勇気(?)とも無縁だった。

 だからせいぜい小説や漫画を読んだり、テレビや映画を見たりして「妄想」をたくましくするか、映画雑誌などに載っている女優の写真や映画の一場面を見て「コーフン」するくらいが私の幼稚な「ヰタ・セクスアリス」だったと言っていい。その点、インターネットさえあればそれこそ「何でも」見られてしまう今の時代が羨ましく思えるのと同時に、どこか味気ない気がしないでもない。


 こんな恥ずかしい話をあえて書いたのは、上の原悦子という人が、知る人ぞ知る「伝説」のポルノ女優だったからである。と言っても上記の通りの「体たらく」であるから、私はこの人の出た映画を見たことは一度もないのだが(機会があればいずれ1本くらいレンタルして見てみようかとも思っているのだが、一般作として公開された「おさな妻」(1980年)をはじめ、何本かは Amazon Prime Video でも視聴できるようである)、どういう訳か彼女の名前は知っていたし、その顔もすぐに思い出すことが出来た。その一方で、かつてこの人がにっかつロマンポルノのアイドル的存在であると初めて知った時に、その人気ぶりと対照的な彼女の余りに地味な容貌や体つきを意外に思った記憶も一緒に蘇ってきた。


 実際今こうしてかつての彼女の写真を検索して見てみても、やはりその「伝説」的イメージとは裏腹に、どこにでもいるような地味な風貌の女性にしか思えない。それでも当時彼女を支持した数多くの若者(?)たちが存在したことは紛れもない事実であり、私も彼女の映画を一本でも見ていたなら、その魅力にとらわれていたのかも知れない(そう言えば、女子プロレスや女子のバレーボールなどでも、今から見ればひどく地味な女性たちが「美女」だの「アイドル」だのと称されてチヤホヤされていたことがあり、もっと地味で「イケて」いない人ばかりだった当時のそれら「業界」においては、彼女らの登場は「画期的」なことだったのかも知れない)。

 


 そして今回「幽霊温泉」を見ているうちに、彼女がにっかつロマンポルノから引退した後で「普通」のドラマに出ているのを見たのは今回が初めてではないことに気づいた。向田邦子脚本によるNHKのドラマ「蛇蝎のごとく」(1981年)である。このドラマがDVD化されたのはわずか5年ほど前(2014年末)のことで、私はそれから1年半ほど後の2016年に日本に帰省した際、レンタルして見たのだった。

 だから幸いまだ記憶がさほど薄れていないため、彼女の演技を目にしたことをぼんやり覚えていた訳である。もっとも彼女がどんな役だったのかまでは記憶がなく、近いうちにDVDを見直してみようと思っている(早速ざっと早送りしながら見てみたが、彼女は小林桂樹と加藤治子演ずる中年夫婦の娘・池上季実子の勤める出版社の女編集長役で、出演している時間は決して長くないものの、ボーイッシュで元気な、それなりに存在感ある役柄を好演していた。以下の3枚はこのドラマより)。


 

 


 

 ついでだが、この「蛇蝎のごとく」には女優の佳那晃子も出演している(下の写真。無名時代に市川崑の「犬神家の一族」(1976年)に青沼静馬の母親・菊乃役にチラッと出ていた他、何と言っても同じく角川映画&深作欣二監督の「魔界転生」(1981年)での妖艶な細川ガラシャ役が記憶に残っている)。

 彼女は2013年にクモ膜下出血で倒れ、一時は非常に危険な状態だったらしいものの、なんとか命を取りとめて療養生活を送っているらしい。元気だったかつての姿を見ると心が痛むが、少しずつでも回復することを祈りたい。


 

 「幽霊温泉」を見終えてから改めて検索してみると、女優・原悦子の近況を伝える記事がすぐに出てきた(https://www.news-postseven.com/archives/20190424_1357596.html)。今年4月に週刊誌に載ったものらしいが、この記事(とウィキペディアなど)によれば、(1971年にポルノ路線に転じた)にっかつで「清純派」ポルノ女優として大活躍していた彼女は、24歳の時(1980年)に「本番」映画への出演をオファーされたのを機にロマンポルノからきっぱり足を洗い、その後ドラマに何本か出演して芸能界からも引退し、一転して大学生向けのミニコミ誌(フリーペーパー「カレッヂ・コミュニティ」)の編集長に転身したということである。

 上の記事では、そのミニコミ誌が休刊になってからは「趣味のテニスを楽しむなどマイペースな毎日」と、まるで自由気ままに暮らしているように書かれているが、ウィキペディアには「学童保育の指導員の資格をとり、活躍中」とある。

 彼女は2017年9月からブログも始めたようなのだが(https://ameblo.jp/nes86eko/ →その後変更→https://ameblo.jp/nes86etu/ さらに変更→https://ameblo.jp/nes86etuko/)、そのプロフィールにも「女優の原悦子です。いまは二足のわらじで、市の学童保育の仕事をしています。母の介護もあるため女優の仕事は、できる範囲でしています」とあり(これもその後「むかし女優、いまは市役所の職員として学童の先生をしています。やんちゃな子どもたちと毎日楽しく過ごしています」に変わっている)、実際、最近の記事にも児童クラブや児童相手の防災訓練に関する内容が幾つも載せられている→https://ameblo.jp/nes86eko/entry-12527162195.html あるいはhttps://ameblo.jp/nes86eko/entry-12544177299.html などなど)。このプロフィールからすると細々ながら今も女優業も続けているように受け取れるのだが、ざっと調べてみても最近の出演データを見つけることは出来なかった。

後日追記(2023年6月)上記ブログが2023年3月6日以降、全く更新されなくなってしまっているのが気にかかっている。単に多忙のせいで更新が滞っているだけであれば良いのだが・・・・・・。後日追記(2024年4月)上記の通り、全く別のIDでブログが継続されていたことに1年以上経ってようやく気付いた(以下参照)。

 

 このブログには若かりし日々や子供時代の写真などもアップされていて(上に掲げた写真も何枚かはこのブログから拝借した)、新潟県で生まれ育った幼時の写真などはまさに「時代」や「地域」を感じさせるものだと言えるだろう(例えばこれ→https://ameblo.jp/nes86eko/entry-12398143903.html )。

 ブログを読むかぎり、その生活様式やものの見方は完全に「普通のオバサン」のものだと言ってもいいのだが(笑)、しかしその文章はシンプルながらも知性を感じさせ、例えば上の「蛇蠍のごとく」で共演した俳優・津川雅彦を追悼する以下のような記事を見ても、彼女が「頭が良く観察力のある人」であることが伺えるだろう。→https://ameblo.jp/nes86eko/entry-12396369577.html


 ひとつ身も蓋もないことを書けば、この記事に載せられている彼女の近影を目にして、正直なところ少なからず衝撃を受けたことを告白しなければならない。

 上の記事やウィキペディアによれば、彼女は現在63歳。上にも書いた通り、私はこの原悦子という女優にこれまで特別な思い入れを抱いたことはないのだが、それでもかつては比較的童顔で、むしろ年齢よりも幼く見えるような印象を抱いていた(ただし今回の「幽霊温泉」や上に写真を掲げた「蛇蝎のごとく」などを見ると、撮影当時24歳~25歳だったにしてはむしろ老成していると言えるのかも知れない)。

 また、私の周囲にも彼女と同年代の女性たちが何人かいるのだが、前から見慣れているせいか、この記事で原悦子の写真を見た時ほどの違和感(?)を覚えたことはない。

 そのせいもあって、私の抱く60代女性のイメージよりも年を取っているように感じただけなのかも知れないのだが、見た目はともかく、ブログには6時間もテニスをしたなどと書かれている記事もあり、体の方は健康そのもののようである。そして実際のところ60代の女性というのは、このような感じなのかも知れないと思ったりもするのである。

 


 

 かく言う私自身、彼女より10歳ほど年下ではあるが、もともと老け顔な上、今では頭髪がすっかり消え失せてしまったこともあり、実年齢より最低でも10歳、下手をしたら20歳以上年上に見られてもおかしくない有様であり、他人のことをとやかく言えた立場ではない。きっと若い頃の私を知る人が今の姿を目にしたら、私が今回原悦子の写真に接した時以上のショックを覚えるに違いない。
 彼女はこの雑誌の取材時の様子についても上記ブログで触れているのだが(https://ameblo.jp/nes86eko/entry-12451972519.html)、「取材中に写真も撮り、私にも画像を見せてもらったんですが写真は正直ですね。ありのままの私が写っていました」と至って謙虚である。おそらくこうして自分のことを冷静に客観視できる点も、彼女の文章に知性を感ずる一因かも知れない。

 同時に彼女がやはりこのインタビューで語っている「女優の時から私はガードが固いんです。自分の生活のリズムが大事なので、仕事が終わったらどこにも寄り道せず、まっすぐ家に帰るという毎日。極端な話、カラミは撮影の中だけで、みたいな生活でしたよ(笑い)」という言葉や、「今も独身のままである」というその後の生き方も、「醒めている」と言っていい彼女の物の見方や人生観に起因しているのかも知れないと(お節介にも)思うのである。

 

 しかしたまたまドラマでちょっと見かけただけのこの(元?)女優について、まさかこんな記事まで書くことになろうとは思ってもみなかった。あるいは今の私には、思春期に彼女が出演したような映画に接しえなかった自分の怯懦(?)への後悔のようなものがあるのかも知れないし(思ったのだが、私は先日亡くなった八千草薫追悼のために最近見た映画「三四郎」(★★→記事の最後へ)に出て来た、上京途中の列車内で声をかけられ、ひょんなことから一晩同じ部屋で過ごすことになった女性から、「あなたはよっぽど度胸」がない人だと言われる若き三四郎そのものだったと言っていい)、あるいは当時は地味でイケていないと思っていた(若き日の)彼女の姿に、今になって遅ればせながら(年甲斐もなく)惹かれただけなのかも知れない(これは冗談だが・・・・・・)。

 ともあれ、こうして1本の記事を書くことになったのも何かの縁であり、学童保育の世界であれ女優の世界であれ、彼女のさらなる活躍を祈るのみである。

 

(後日追記)

 その後、原悦子関連の記事が週刊誌のサイトに掲載されたのでアドレスを貼付しておく。

 https://www.asagei.com/excerpt/143991

 

(さらに後日追記)

 2020年11月の原悦子のブログによれば(https://ameblo.jp/nes86eko/entry-12639683494.html)、彼女は1974年放送のドラマ「われら青春!」にも出演していたらしい(Wikipediaなどには記載されていない)。

 本放送でだったか、あるいは再放送でだったか、いずれにせよこれは私が最初に夢中になったドラマのひとつで(前作の「飛び出せ!青春」も好きだったが、こちらは「われら青春!」の後で見るようになった記憶があり、従って再放送だったはずである)、おそらく全編を見ている。だから私は原悦子という女優の姿を、小学生低学年の頃に既に目にしていたことになる。

 

《★★

・「夏目漱石の三四郎(1955年)」(中川信夫監督) 2.5点(IMDbなし。CinemaScape 4.0) テレビ放送の録画で視聴

 原作を1時間20分強という短い時間に無理やり押し込めた印象で、三四郎役の山田真二はなかなかの適役だと思ったものの、八千草薫は(その後の穏やかなイメージが強過ぎるためか)酷薄な女・美禰子にはとても見えないし、広田先生役の笠智衆や佐々木与次郎役の江原達怡もいたずらなまでに滑稽に描かれ過ぎている。

 

 

 上に記した「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と三四郎に言い放つ「女」は、若き日の塩沢とき(当時は「塩沢登代路」)が演じていて、後年の奇矯なイメージとは異なって実にキリっとして艶っぽいので驚かされた。

 

 

 

 

 原作同様、冒頭で三四郎や広田先生が列車の中から富士山を見る場面は出てくるものの、例の日本や日本人に対する辛辣な台詞は残念ながらカットされている(これだけでも私としては大いに減点対象である)。

 面白かったのは、黒澤明の遺作「まあだだよ」に出てくる「オイチニの薬屋さん」( https://www.nicovideo.jp/watch/sm12932175 )の実物(?)が出てくることである。この踊りの「元ネタ」のことなど全く知らなかったので、かつて実際にあのような歌を歌いながら薬を売り歩いた薬屋がいたことを初めて知ることになった。

 この薬屋については、例えば以下のブログを参照のこと。

 https://bluesette.exblog.jp/18252490/
 https://blogs.yahoo.co.jp/yonakanoaccordion/48602177.html ←残念ながらYahooブログの廃止にともなって消滅。》