俳優の津川雅彦さんが亡くなりました。NHK「蛇蠍のごとく」で共演したときのことです。スタジオで撮影を待っている間、私の台本を津川さんが覗き見してくるんです。私の台本には細かく書き込みをしてあります。それを見て「相手の台詞や心理状態まで分析してるの。凄いね」と話しかけてきました。「僕なんて何にも考えてないよ。雰囲気でやちゃうから」と、そんなことはありません。津川さんの芝居を見ればわかります。津川さんは子役から活躍されているベテランですから、台本を深く読み込んでいます。ただ人前では、そんな素振りを見せないように、お気楽なふりをされていただけなんです。俳優同士はお互いに芝居で、バトルを繰り広げます。相手がベテランでも若手も関係なく、芝居で戦います。そうきましたか、では私はこう返します。いつだってバチバチと火花が散っています。時にはリハーサルと本番で違う芝居をすることもあります。とてもスリリングで、緊張の糸を緩めることはできません。相手の芝居を食っちゃて自分を生かすこともあります。芝居を面白くするためには、バトルが必要なのです。津川さんは時に応じて、たくさんの引き出しから有効な持ち札を選び出し、芝居に挑み貪欲に演じていました。すばらしい俳優さんです。先頃、奥さまを亡くされましたが、きっと奥さまの最後を看取るため、お役目を果たすまで頑張っていらしたのかもしれませんね。ご冥福をお祈りいたします。