テロ。
ずっと使い続けていた結構大きな橋が、
付近の道路整備に合わせて、最近、工事を始めた。
その橋はかなり昔に作られたもので、
老朽化が問題になっていたようで、
すべて壊してしまったあとに、また一から作り直されることになったみたい。
工事期間の終了日は来年の日付になっていた。
私にとっては、普段からよく使っていた橋だっただけに、
とても不便なんだけど、
それ以上に気にかかって仕方がないのは、
よく、工事現場には置かれている看板たち。
「頭上注意」
「迂回路」
「安全確認」
という、よく見かけるような看板の中に、
一つだけ、その工事現場の前を通るたびに目について仕方がない
看板があるんだ。
その看板というのが、
「テロ警戒中」
一体、これはどんな冗談だろう、と最初は思ったんだけど、
どうやらその看板を置いている人たちは真剣みたい。
工事が始まって以来ずっと、その看板はとても目立つ場所に
置かれつづけているのだ。
確かに、たとえそれが何に対してであったとしても、
警戒を呼びかける看板を置く、というのは、
それだけで注意を促す効果もあるだろうから、
悪くはないと思う。
ないとは思うけど、でも、言葉がさあ・・・・・・。
ここは日本なんだ。
もう少し、他の言葉はなかったのかなあ。
仕事を終えた帰り道、誰もいない月夜の下、
ふと、その看板が目に入ったりすると、
なんだかとても落ち着かない気持ちになってしまうので、
誰かが見ていないところでこっそりと、
「テロ」を、「ケロ」とでも書き換えたい衝動に
かられてしまうのだった・・・・・・。
大演説ハンター。
「ムォッホン!若き狩人よ。まずはこれまでの
そなたの活躍に礼を言わせてもらおう」
迫力ある体躯から私を見下ろしつつ、
物々しい語り口で、そう話しはじめた大長老さま。
ただ、そのあとについては、私は話し半分で聞き流しちゃった。
だってさあ、長いんだもん。
ほんと、これだから、お年寄りはさあ・・・・・・。
ほーら、御付の人なんて眠っちゃってるんだよ。
いいのかなあ、この人、この村の大臣らしいけど・・・・・・。
とにかく、大長老のさまの話を要約すると、
ハンターとしての腕前は認めてやるから、
これからもギルドから出される依頼に勤しんでくれ、ということみたい。
なんでも、上級ハンターのみが請けられる、
難しい依頼なんかもあるから、それらもぜひ挑戦してくれ、だって。
そうか、頼りにされてるんだなあ。
それとも、こんな私に頼むくらいだから、よほどの
人手不足なのかも知れないけどさ。
とにかく、この村で一番偉いという人にそう言われては、
頑張らないわけにはいかないな。
うーん、腕がなるぞ。
じゃ、早速、行ってみるとするか!
どこまでも広い、オンラインゲーム「MHF」 の世界へ!
ネコの家出。
実際に飼ってみると感じることだけど、
ネコというのはとても自己中心的で、
わがままで、自由気ままな生き物のように思える。
人間に長年連れ添われて暮らしてきた犬と違い、
飼い主に言われたことを忠実に守るわけでもなく、
どちらかというと、自分に忠実に生きているように感じる。
実際のところがどうなのかは、
ネコ自身にでも訊いてみない限り、わからないだろうけど、
ただ、一つだけはっきりとしていることがある。
それは、ネコはとても弱い生き物だということなんだ。
どんなペットにも、しつけというものが必要だ。
犬にそれを教え込む場合には、
やってはいけないことをした時、
徹底的に厳しく叱ってやらないといけないそうだ。
というのも、そうしないと、犬はそれが悪いことなのかどうか、
分からないからなんだって。
でも、ネコの場合にも同じことが通用するかというと、
それは少し違ってくる。
ネコの場合も、悪いことをしたときに叱ってやることで、
また同じ事を繰り返さないよう、防ぐことはできる。
でも、犬と違うのは、叱られたことで、
やっていけないのだと学ぶのではなく、叱られたことに傷つき、
同じ事を繰り返すのを、怖がってしなくなる、
ということだ。
この二つにはかなり大きな差がある。
というのも、犬は叱られることで、
飼い主の意図を正確に理解するのに対して、
ネコの場合は、ただ叱られたという事実だけを受け止めているからだ。
ネコはとても傷つきやすい生き物であると同時に、
とても重圧に弱い生き物でもある。
でも、実はそれは野生の生物であれば
ほとんどが、そういうものであって、
犬のほうがずっと特別なのだとも言えるのかもしれない。
ネコ科の動物は、そもそも群れて生活することをしない。
たとえペットとして飼われているネコでも、それは同様らしい。
なので、ネコが本当に必要としているのは、
自分のプライバシーが守られる空間と、孤独でいられる時間なのだ。
ても、それらはペットとして家で飼われている限り、
なかなか簡単には手に入らない。
それで、家出という問題が出てくる。
でも、それだったら飼っているネコのほとんど家出していそうだよなぁ。
そうならないのは、ネコもやはりいくらかは、飼い主に依存をしていて、
必要とされたいと願っているからなのかも知れない。
つまり、ネコが家出をするということは、
そんな飼い主に対する思いが失われた証、ということになりそうだ。
飼い主が、ペットに必要とされなくなる。
それは、ネコの場合には、どんなときに起きるものなんだろう。
実は、飼い主である人間が、ほとんど気づくこともないような、
ほんの些細なことが理由だったりするようだ。
たとえば、既にネコを飼っていて、そこに新しい猫を飼い始めた場合。
飼い主が、新しい猫ばかり可愛がったりすると、
元々いたネコはそれにストレスを感じて、
家から離れていったりする。
新しい子供が生まれたときも同じだ。
生まれたばかりの子猫は可愛いから、どうしても人は、
そっちばかり気になってしまう。
そうすると親猫は、今まで自分を気にしてくれていた飼い主が突然、
子猫ばかりを可愛がっているのを感じて、
家を飛び出してしまったりする。
このことを知ったとき、私はふと、昔飼っていたクロのことを思い出した。
クロが家を出ていったきり、戻ってこなくなったのは、
子供を生んですぐのことだった。
クロはきっと、突然飼い主の興味が、自分ではなく、
自分の生んだ子猫にばかり向いていることに、あるとき気づいた。
飼い主の私たちでさえ気づかなかった、わずかな変化。
でも、クロはそれに気づいた。
クロはそれで、「飼い主に必要とされなくなった」と感じたのかも知れない。
ペットを飼う私たちは、ついつい、自分の飼う動物たちのことであれば、
どんなことでも分かってあげられる、と思いがちだ。
でもそれは、とても傲慢な考え方なのかも知れない。
仕事を終えて部屋に帰る途中、私はたびたび、
ノラネコが夜の街を自由気ままに歩いているのを見かける。
それで、ふと思う。
このネコたちは、どんな思いで飼い主の傍から
逃げ出してきたのだろうか、と。
ネコの出産。
小雨降る、学校の帰り道。
小さな箱に入れられて捨てられていた子猫を拾った私は、
それを家で飼うことにした。
名前はクロ。
それからクロは私の家で何事もなく成長し、
やがて五匹もの子供を生んだ。
まさにクロこそが、そんな生まれたばかりのときに
我が家に来たことを思うと、
そのクロが五匹もの子供を生んだということが、
私には、とても凄いことのように思えた。
小さな、捨てられていた一匹の子猫を、
子供を生むまで育てあげられたのだ、という事実が、
とても誇らしかったのだと思う。
だからこそ、
そのすぐあとにクロが家から失踪してしまった時には、
子供心にどうしてもその理由がわからなくて、
いつも太陽が沈んで、外が暗くなり始めると、
私は窓の外をみて、ずっとクロの姿を探していたりした。
クロはいつも外から戻ってくるとき、窓を開けてもらうために、
決まった場所で座って待っていたんだ。
でも、それから二度と、クロが戻ってくることはなかった。
当時はクロがいなくなった理由を、色々と考えた。
ただ帰り道がわからなくなっているだけなんじゃないか、とか、
いつもより、遠くまで遊びに行ったために、戻ってくるのに
時間がかかっているんじゃないか、とか。
どれだけ待っていても戻ってこないとわかると、
遊びにいった先で、知らない人に拾われて、
そこで飼われているのかも知れない、なんて思ったりもした。
両親はそんな私に、ネコという生き物は、ある程度まで成長すると、
人間の手から離れて生活したがるのだと言い、
当時小さかった私は、それを信じた。
クロは自由に生きたかったんだ。
狭い家の中で生活するのは、もう限界だったんだろう、と思った。
それは、少なからず正解だった部分もあったと思う。
ただ、クロが失踪した理由について、
正確に理解できていたとは、やっぱりいえなかった。
私は、それから色々な本を読んだりする中で、そのことを知った。
クロが失踪した本当の理由は、クロ自身にではなく、
飼い主にあったのだ。
昇進ハンター。
前回、苦労の末に、村のギルドマスターから直々の依頼だった、
巨大甲殻モンスターの討伐に成功した私たち。
意気揚々と凱旋してみると、
当人のギルドマスターからは、賛辞の言葉と共に、
こんな発言が・・・・・・・。
ふーん、どうやら話を要約すると、
この村には大長老という人がいて、
その人は、このギルドマスターよりもずっと偉い人みたい。
これまでの活躍を認めてくれたその大長老様に、
私は面会することが許された、ということのようだ。
確か、初めてこの村を訪れたとき、
広場には、ずっと上の方にまで伸びている長い階段があって、
興味がわいた私はすぐに登ろうとしたんだけど、
怖い顔をした守護兵に、
「これより先は、選ばれた人間だけが行くことを許されている」
なんて言われたことがあったんだよなあ。
どうやら、大長老という人はその階段を登ったところにいるみたい。
私は、過去のこともあって、恐る恐る階段を登ってみたのだけど・・・・・・、
おおっ。
そう、貴殿だよ、貴殿っ!
なんだ、わかってるじゃないか。
いやあ、なんだか申し訳ないなあ、ふっふっふ。
ちょっと呼ばれているみたいだから、通らせてもらうよ、守護兵君。
どうやら、私が大長老に呼ばれたということは、
すでに村中に知れ渡っているようで、みんなの私に対する態度も
なんだか一変。
うーん、尊敬の眼差しって悪くないなぁ、わっはっは。
私は長い階段を登りながら、あの巨大な甲殻モンスターを
倒したことを思い出して、厳しい戦いではあったけど、
それだけの価値はあったなあ、と、しみじみ思ってしまったのだった。
だってさあ、ほとんど山と変わらないような大きさだったんだよ。
あんなの、ホントよく倒せよなあ。
ま、もう、あんな大きな化け物と会うことも、
きっとないだろうけどさ。
というわけで、階段を登りきったところにあった大きな扉を
ゆっくりと開けて中に入った私は・・・・・・、
大きな化け物ーっ!?





