ネコの家出。
実際に飼ってみると感じることだけど、
ネコというのはとても自己中心的で、
わがままで、自由気ままな生き物のように思える。
人間に長年連れ添われて暮らしてきた犬と違い、
飼い主に言われたことを忠実に守るわけでもなく、
どちらかというと、自分に忠実に生きているように感じる。
実際のところがどうなのかは、
ネコ自身にでも訊いてみない限り、わからないだろうけど、
ただ、一つだけはっきりとしていることがある。
それは、ネコはとても弱い生き物だということなんだ。
どんなペットにも、しつけというものが必要だ。
犬にそれを教え込む場合には、
やってはいけないことをした時、
徹底的に厳しく叱ってやらないといけないそうだ。
というのも、そうしないと、犬はそれが悪いことなのかどうか、
分からないからなんだって。
でも、ネコの場合にも同じことが通用するかというと、
それは少し違ってくる。
ネコの場合も、悪いことをしたときに叱ってやることで、
また同じ事を繰り返さないよう、防ぐことはできる。
でも、犬と違うのは、叱られたことで、
やっていけないのだと学ぶのではなく、叱られたことに傷つき、
同じ事を繰り返すのを、怖がってしなくなる、
ということだ。
この二つにはかなり大きな差がある。
というのも、犬は叱られることで、
飼い主の意図を正確に理解するのに対して、
ネコの場合は、ただ叱られたという事実だけを受け止めているからだ。
ネコはとても傷つきやすい生き物であると同時に、
とても重圧に弱い生き物でもある。
でも、実はそれは野生の生物であれば
ほとんどが、そういうものであって、
犬のほうがずっと特別なのだとも言えるのかもしれない。
ネコ科の動物は、そもそも群れて生活することをしない。
たとえペットとして飼われているネコでも、それは同様らしい。
なので、ネコが本当に必要としているのは、
自分のプライバシーが守られる空間と、孤独でいられる時間なのだ。
ても、それらはペットとして家で飼われている限り、
なかなか簡単には手に入らない。
それで、家出という問題が出てくる。
でも、それだったら飼っているネコのほとんど家出していそうだよなぁ。
そうならないのは、ネコもやはりいくらかは、飼い主に依存をしていて、
必要とされたいと願っているからなのかも知れない。
つまり、ネコが家出をするということは、
そんな飼い主に対する思いが失われた証、ということになりそうだ。
飼い主が、ペットに必要とされなくなる。
それは、ネコの場合には、どんなときに起きるものなんだろう。
実は、飼い主である人間が、ほとんど気づくこともないような、
ほんの些細なことが理由だったりするようだ。
たとえば、既にネコを飼っていて、そこに新しい猫を飼い始めた場合。
飼い主が、新しい猫ばかり可愛がったりすると、
元々いたネコはそれにストレスを感じて、
家から離れていったりする。
新しい子供が生まれたときも同じだ。
生まれたばかりの子猫は可愛いから、どうしても人は、
そっちばかり気になってしまう。
そうすると親猫は、今まで自分を気にしてくれていた飼い主が突然、
子猫ばかりを可愛がっているのを感じて、
家を飛び出してしまったりする。
このことを知ったとき、私はふと、昔飼っていたクロのことを思い出した。
クロが家を出ていったきり、戻ってこなくなったのは、
子供を生んですぐのことだった。
クロはきっと、突然飼い主の興味が、自分ではなく、
自分の生んだ子猫にばかり向いていることに、あるとき気づいた。
飼い主の私たちでさえ気づかなかった、わずかな変化。
でも、クロはそれに気づいた。
クロはそれで、「飼い主に必要とされなくなった」と感じたのかも知れない。
ペットを飼う私たちは、ついつい、自分の飼う動物たちのことであれば、
どんなことでも分かってあげられる、と思いがちだ。
でもそれは、とても傲慢な考え方なのかも知れない。
仕事を終えて部屋に帰る途中、私はたびたび、
ノラネコが夜の街を自由気ままに歩いているのを見かける。
それで、ふと思う。
このネコたちは、どんな思いで飼い主の傍から
逃げ出してきたのだろうか、と。
