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小説 【キス・キス】

★小説を一冊だけ読もうシリーズ №6★


【天国への登り道】  ロアルド・ダール

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飛行機や汽車、劇場の開幕といった、最初から決められている

時間に少しでも遅れそうになると、すぐに落ち着かない気持ちに

なってしまう、神経質なフォスター夫人。


そんな妻の性格に腹をすえかねていた夫は、いつも意地悪をして

わざと自分の行動を遅らせ、妻を困らせていた。


ある朝、夫人が1人で結婚してパリに住んでいる愛娘に会いに行く

予定だったその日も、迫る飛行機の出発時間を気にしてウロウロ

する夫人をよそに、家に1人残る夫はわざと色々と問題を起こして

は妻を困らせ、出発時間をわざと遅らせようとしていた。


初心者同志-Kiss Kiss


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『チョコレート工場の秘密』の原作者として有名なロアルド・ダールが

作者の短編小説集。


この中にはぜんぶで11編の短編が入っているけれど、その中でも

1番楽しかったのが、『天国への登り道』だった。


大きな豪邸に住む、年老いた夫婦。

貞淑で従順な妻。

意地悪で、子供じみた酷い仕打ちをしては喜ぶ夫。


よくありそうな、それほど珍しくもないような設定で、ありふれた

夫婦の関係を描いていると思いきや、最後にはしっかり短編小説

らしい、予測し得ないような、爽快な終わりが用意されていている。


ロアルド・ダールという人は、『チョコレート工場の秘密』を始め、

この本に納められている短編全般にも言えることだけど、

思い上がった考え方をする人間や、卑しい心を持った人間には、

ほんとうに、徹底的に容赦がない。


大抵はみんな、ひどい目にあう。


そんなわけでこの短編でも、冒頭からずっと夫に困らされ、

うろたえるばかりだった夫人が、物語終盤、突如、表情と心境を

一変させたときの描写が本当に素敵で、1番の見所といって

いいかも知れない。

「遅れちゃうわ」と彼女は運転手に呼びかけた。「あの人なんか待って

いられない。(中略) いそいで!空港へやって!」

この運転手が夫人をようく観察していたら、彼女の顔が真っ青になり、

表情が一変していたことに気づいたはずだ。

もはや、夫人はうろたえを見せていなかった。

一種不思議な威厳が、その態度に表れていた。

いつもはしまりのない、小さな口も、今はきりりと結ばれて、目は輝きをまし、

口をついて出る言葉は、今までにない権威に充ちている。



思わず、この先に起きるに違いない、すごい展開を予感させて

ゾクゾクッとさせられるのだ。


果たして、貞淑な妻の身に、いったいなにが起きたのか。

夫は、これからどんな酷い目にあうのか。


この物語を読んだあと、女性であれば思わず手を叩き、

男性であれば、思わず深い息を吐きだしたくなる結末が待っている。

小説 【驚愕の曠野】

★小説を一冊だけ読もうシリーズ №5★


【驚愕の曠野】  筒井康孝

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見知らぬ場所、見知らぬ家、見知らぬ部屋の中で、お姉さんは

今日も、小さな子供たちにむけて、お話を聞かせています。


すでに読み終え、積み上げられつづけてきた本は、部屋の天井につくほど。

そして、今日もお話が始まります。


じゃ、読みましょうね。


『ーーー第333巻』


初心者同志-tutui


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ホラー小説というのは、日本では消滅しかかっているジャンルの1つだ、

というのを少し前に、なにかの記事で読んだ。

〝ジャパニーズホラー〟なんて呼ばれて、ハリウッドでは大きく注目

されていたりもするのに、「え!?そうなんだ」とその時は驚いた記憶がある。


その記事には、他のジャンルに比べて、本当に面白いホラー小説を

書ける作家が、圧倒的に不足していること、出版社がホラーというジャンル

にあまり積極的ではないこと、などがその理由として挙げられていた。


確かに最近の小説をちょっと見回してみたとき、これぞホラー!という

作品があまり思い浮かばない。

(ちょっと昔を遡りはじめると、江戸川乱歩まで戻ってしまったりする)


きっと、誰もがすぐに思いつくのは『リング』だけど、映画やドラマ版が

どうであるかは別にして、少なくとも原作である小説の『リング』は、

ホラー小説とは思えない。


そもそも〝ホラー〟とは、一体なんだろう?


これについての回答は、今回紹介する筒井康孝の自選ホラー傑作集2

『驚愕の曠野』の巻末の解説部分に、かなりズバリ書いてある。


Horrorとは、最も原初的な恐怖のことだ。語源は、「毛が逆立つ」という

意味のラテン語に由来する。(中略) 人間を、獣に戻すほどの恐怖と

いっていい。

原初の恐怖とは、未知のものに対する恐怖なのである。



この部分を読んだとき、はっきりと理解できた。

幽霊やおばけ、怨霊といった存在は、私自身は見たことはないけれど、

テレビや小説、映画の中では、何度となく見てきた。


つまり、私の中ではそれらはもう〝未知のもの〟では、なくなって

いるのだと思う。


なにがなんだか分からない、理解できない恐ろしさ。

それを感じさせくれるものこそが、本当のホラーなのだとしたら、

私は自信をもって、最高の『ホラー小説』として、『驚愕の曠野』

薦めたい。


作品の中で語られることがない、すでに読み終えられた332巻の物語。

作品の中で語られることがない、物語を読みつづけるお姉さんと、それを聞く子供たちの動機。

作品の中で語られることがない、部屋の外に広がっている謎の世界。


そして、作品の中で延々と語られつづける、長い長い本の物語。



この小説の中には、なにひとつ完全に理解できるものが存在していない。


にも関わらず、なぜか決して不条理ではなく、それどころか

物語の先が知りたくて、どんどん読み進めてしまう。


それはまるで、子供のころ、大きな岩をひっくり返したとき、

そこに初めて見るような虫がいっぱいいるのを見て、

ビックリして逃げだしたときのような、そんな感覚に似ている。


全身が総毛立つくらいに恐ろしいけれど

どうしても抑えられない好奇心が

もう一度、その場所に自分を惹きかえさせる。


怖いのに、なぜかあなたは、それから決して目を離せない。

小説 【怪盗ニック登場】

★小説を一冊だけ読もうシリーズ №4★


【怪盗ニック登場】  エドワード・D・ホック

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プロの泥棒、ニック・ヴェルベットは人から依頼を受け、2万ドルの報酬で

〝価値のないもの〟だけ、盗むことを自分の仕事にしている。


つまり、お金や宝石、美術品といったものはどれだけ大金を積まれても、

盗まないが、〝価値のないもの〟であれば、どんなに盗むのが困難

なものであっても、依頼を引き受けるのだ。


今回、彼の元にやってきたのは、動物園の虎を盗んで欲しいという依頼。

それも何故か、朝の9時45分に、という時間の指定つきだった。


初心者同志-NICK BOOK


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この作品のアイデアは、ほぼ〝価値のないものだけを盗む〟という

一点に集約されている、といってもいいかも知れない。


主人公ニックは、運動神経は並、暴力は苦手、でも機転と知識だったら

誰にも負けない、という、よくある知能派の犯罪者。


これで盗むのが高価な宝石や芸術品だったら、ただのあり来たりな

物語にしかならなかっただろうけど、そんなニックが盗むのは一見、

他人にとっては価値がさっぱりわからないような、変なものばかり。


例えば本作、『怪盗ニック登場』のエピソード内で依頼されたものを挙げてみると・・・・・・・。


【斑の虎】--------- 斑模様の虎

【真鍮の文字】------- ビルの壁にくっついている会社の名前の文字

【大リーグ盗難事件】----  大リーグのチーム

【カレンダー盗難事件】---- 刑務所の監房の壁に掛かっているカレンダー

【青い回転木馬】------ メリーゴーランドの馬

【恐竜の尾】-------- ティラノサウルス・レックスの化石の尻尾

【陪審員を盗め】------  陪審員13名

【革張りの棺】-------  棺桶

【からっぽの部屋】-----  からっぽの部屋にある〝なにか〟

【くもったフィルム】------映画の撮影フィルム

【カッコウ時計】------- カッコウ時計 

【ショウグンの秘密文書】--- 大統領の外務顧問をする将軍が毎朝捨てるゴミ   


「なぜ盗むのか」、「どうやって盗むのか」

この2つを毎回、きれいに解決させながら、ときにはトラブルに

巻き込まれつつも、ちゃっかり自分の報酬だけは頂いていく、

ニック・ヴェルベット。


彼のことを追いまわすウェストン警部補と、彼の仕事を怪しみつつも、

毎回、的外れな予測をして1人で納得してしまう、愛しい彼女グロリア

と共に、すでに40年も続いているシリーズである理由がよくわかる

明快さと楽しさが詰まった、短編作品。


これだけ長く続いているシリーズだから、もしかしたら、いつかは

お姫様の心だって、盗むときが来るかも知れない。


けれど、それがアニメ化されることまでは、ない。

・・・・・・と、思う。

小説 【さらば、愛しき鉤爪】

 

★小説を一冊だけ読もうシリーズ №3★


【さらば、愛しき鉤爪】  エリック・ガルシア

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借金のかたとして、生活用品までとられてしまったからっぽの事務所で

いくつもの請求書に囲まれながら生活を送る、探偵のヴィンセント・ルビオ。


今日の生活にも困る彼は、ナイトクラブで起きた火事の調査、という

至極簡単な仕事をもらって現場に赴くが、そこで大火傷を負って

病院に運び込まれたという店のオーナーが、実はなにか大切なものを

守るため、敢えて最後まで現場に残っていたんじゃないか、という

疑問をもつ。


そして、その秘密を調べていくうちに、その火事が10ヶ月前に事故で

亡くなった元相棒が、その直前まで追いかけていた、ある

大きな殺人事件と係わり合いがあるらしいことに気づき、

周囲の反対をよそに、その事件を単独で調べ始めるのだった。


初心者同志


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あのフィリップ・マーロウの有名タイトルを堂々とマネた、この作品。

一見すると、どこにでもあるような探偵小説、のように思えるけれど、

実はぜんぜん違う。


まず、主人公。

ヴィンセント・ルビオは〝人間〟じゃない。


〝人間〟の扮装をした、〝恐竜〟なのだ。


・・・・・・・・・いや、本当に。



この作品の世界では、人間界の中に恐竜たちが隠れて生活している!

・・・・・・ことに、なっている。


恐竜は、はるか昔に絶滅・・・・・・なんてしておらず、実は人間と同じように

進化して二足歩行し、生活しやすい小型な姿となって、頭脳が発達して

文化を育み、人間の中に紛れ込んで、人間と同じように生活している。


よく、じつは異星人が、知らず知らずのうちに人間の社会に溶けこんで

生活をしていて、


〝地球はすでに彼らに支配されていた!〟


なんて、SF作品があるけれど、この場合は恐竜。


しかも彼らは、人間などよりずっと昔からこの地球で生きていて、

人間が地球上で勢力を展ばしはじめると、それと敵対するのではなく、

扮装をして一緒に共存するようになった、という設定だ。


もちろん、人間たちは、そんなこと何も知らない。


たとえば、作品の中にはこんな場面がある。


年配のカップルはこっちに気づいたのだろう、ほほえみを浮かべて

軽く会釈した。恐竜同士が思わぬ所で出会うと、よくこういう挨拶をする。

マニアックなクラシックカーのオーナーが、1973年型マスタング・ファーストバック

に乗った同好の士と道路で遭遇したとき、クラクションを鳴らして

挨拶するようなものだ。



恐竜たちは、自分と同じ恐竜族以外の人たちには、この世界に

恐竜がいることは、絶対に秘密なのだ。


人間の形をした特殊なスーツも、恐竜族たちの前以外では、決して

脱いではいけない。


一見、とても成立するとは思えない、このムチャクチャな世界観だけど、

ふと、現実に戻ったときに、もしかして近所のあの人って・・・・・・なんて

思わせるくらい、リアリティのある世界を作ろうとしている努力が

作品の中であちこちに見られ、それがとても楽しい。



たとえば、


病気になった場合は、どこで診てもらうのか?

仲間の恐竜族と普通の人間を、一瞬で見わける方法は?

不測の場所で死亡者が出た場合、それを人間たちより先に収容する場合は?


など、など・・・・・・。


主人公のルビオも、物語の途中、うまくスーツの中に収まっていなかった

尻尾が痛くて仕方なくなり、捜査の途中、スーツの留め金を外して

ピョコンと、ちょっと尻尾を外に出していたら、とつぜん物陰から誰かが

近づいてくる足音がして・・・・・・!


なんて、事件の捜査とまったく関係ないところで、緊張させられたり

しているから、面白い。


とはいえ、たとえ恐竜であろうとも、主人公は主人公。


しかも、これは探偵小説。


ときには、最後の別れ際に、なんの言葉もかけてやれなかった

亡き相棒を思って沈み、事件の影で、悪事をはたらく悪党の存在に気づいて

激しく怒り、美しい女性に心揺れて思い悩む、ヴィンセント・ルビオは、

ときどき彼が恐竜だということを忘れてしまうくらいに人間臭くて、頼もしい。


ただし、ルビオによると、恐竜の若者が真っ先に叩き込まれるのは、


「ヒトに正体を知られたら、即座に対処しなければならない。

 それも、一瞬の逡巡もなく」

それは通常、迅速且つ確実な死刑執行を意味する。



ということなので、実際にいたら、かなり怖そうだけど・・・・・・。


事実、物語途中、不審者に襲われたルビオが、ヒトスーツを脱ぎ捨て

恐竜の本能を解放して戦いを挑んでいくシーンなどは、それまでの

人間臭いルビオの姿が、一瞬にしてかすんでしまうくらいの壮絶な迫力だ。


しかしその後、事件をこれ以上追いかけるなら、命の保障はできない、と

脅されたルビオが、その相手にしてみせる返答がいい。


「探偵という仕事、自分の命より大切なの、ミスター・ルビオ?」


そうきかれて、じっくりと考えた。向こうもたっぷりと時間をくれた。

それがどの程度正しいのか認識するまもなく、答えはゆっくりと、

ひとりでに口をついて出た。


「いまのところは、この仕事こそが生きがいだな」



ふと、恐竜が絶滅することなく生きていた、というのなら、


それじゃあ、今も出土している化石はいったいなんなんだ?


という疑問が生まれそうだけど、この疑問にもしっかりと作品の中で

答えていた。



その答えというのが、『恐竜たちが、自分で作っている』


化石師、と呼ばれる職業についた恐竜たちが毎日、頑張って製作しては

地面に埋めているらしい。


想像中。

・・・・・・う、うーん、なんて、努力家な恐竜たちだろう・・・・・・。

尊敬。


秋といえば本。

さあ9月。

9月といえば、毎年恒例。


夏のあいだに溜まってしまった本を、一気に消化しよう月間!(勝手に命名)


ちなみに、購入して、すでに読み終えた本。


魔術師 上・下       J・ディーバー

ハナシが違う!       田中啓文 

ギレン暗殺計画(コミック) Ark Performance    


8月に購入して、まだ未読な本。


ラッシュライフ     伊坂幸太郎

シルバー・スター   ディヴッィド・ハンドラー

火神を盗め       山田正紀

チャイルド44      トム・ロブ・スミス

暗殺のアルゴリズム ロバート・ラドラム



初心者同志


それにしても、〝読書の秋〟て、誰が名付けたんだろう。

・・・・・・いい言葉だよなあ。


私は秋を愛している。

私は読書を愛している。


私は休みの日が多い、9月を愛している・・・・・・。


9月、楽いぞー。


このブログも、9月は読書月間。