今回は、一番のお気に入りの本を紹介します。

 

 

かわいらしい装丁のこの本は、江戸時代の江戸の民衆生活を扱ったエッセイ集です。

 

著者の杉浦日向子さんは江戸風俗をこよなく愛されていて、いわゆる「粋」な江戸っ子の生き方のかわいらしさなどを紹介されていました。

杉浦さんが46歳の若さで亡くなられた後、友人の方々によって生前に各誌に寄稿されていたエッセイなどが集められ、この本が完成しました。

 

江戸っ子の考え方や暮らしには、現代人から見るとばからしくクスッとくるようなものが多々あるのですが、杉浦さんはそのどうしようもなさを愛し、近い場所でそれを見守る母親のような視点から読者を引き込む軽妙な語り口で江戸の生活を描かれていて、短い劇を続けてみているかのような気持ちになります。

 

 

こちらで紹介されている話の中に、羊羹を扱ったものがあります。

茶文化の広がりとともにお茶うけの和菓子も広まったのですが、当時砂糖は依然として高額で、商人などの富裕層の間で広がるのみでした。

当時の歌に

「羊羹を すなおに食って 睨まれる」

というものがあったそうです。

当時の商人たちは、客に羊羹を出さないと面目が立たないと考えていたのですが、客の格によってその厚さを変えて出していたそうです。

 

そして羊羹を出された客の方はというと、貴重品ですのでそのまま食べることはせずにお茶だけいただき(本当は食べたいのだろうに!)、主人はそれをそのまま戸棚にしまう、という流れを繰り返し、そのうち砂糖が吹き出してとても客に出せる代物でなくなってやっと主人が食べる、という風習があったそうなんです。

 

妙なマナーがたびたび話題になりますが、この羊羹の話にはそれらと違い人と人との血の通った関係の中での温かみやくだらなさが感じられます。

 

 

こんな類のいろいな話が、先ほど書いたような語りで紹介されています。この話が掲載されている章の中でもまた別の話も紹介されていて、合わせて30章近くあるので、がっつり読みたい方にもあっさり読みたい方にもおすすめできます。個人的にはだらだらと読むのが良いと思います。

 

是非読んでみてください!