露あれはうすむらさきに影を吊る 掌
◆白露・露の玉・朝露・夜露・初露・露時雨
露けし・露の秋・露寒・露寒し
露は朝日に美しく輝くが、はかなく消えてしまう。
露けしは、露にぬれてしっとりしていること。
露寒は、露も霜に変わるような晩秋のさむさをいう。
秋の季語。
桐野夏生『柔らかな頬』文春文庫 2004
圧巻!
その壮絶、その真摯、その容赦なさ、
ひとの、人間性の極限までえぐりだすその筆致。
こんなにも痛いのにページをめくる手は止まらない。
1999年の直木賞作品。
◆本の紹介はこちら
私は子供を捨ててもいいと思ったことがある。
5歳の娘が失踪した。夫も愛人も私を救えない。
絶望すら求める地獄をどう生き抜くか。
「現代の神隠し」と言われた謎の別荘地幼児失踪事件。姦通。
誰にも言えない罪が初めにあった。娘の失踪は母親への罰なのか。
4年後、ガン宣告を受けた元刑事が再捜査を申し出る。
34歳、余命半年。死ぬまでに、男の想像力は真実に到達できるか。
装画:水口理恵子
装丁:大久保明子
山内由紀人『巨大な夕焼』河出書房新社 2025
この著作は
「16歳の時に<三島由紀夫>として誕生した小説家が、
その後30年近く華々しい創作活動をしたのち、
なぜ45歳という年齢で自死を選んだのか」(まえがきより)のテーマにつらぬかれて。
「(芸術家としての三島は)自らの肉体までも芸術とし、死をも演出した。」
「三島は、見事なまでに完璧な芸術的生涯を生きた」と、内山は言う。
今年2025年は三島由紀夫生誕100年。
この書名は「芸術というのは巨大な夕焼です。」『暁の寺』より
存在のすべてを賭けて〈作品〉とした三島、
その三島を読み解くのがこの著。
序章 三島由紀夫の帰郷 蓮田善明と林房雄をめぐって
Ⅰ
ジャン・コクトーからの出発 敗戦後の青春
三島由紀夫と昭和十年代の映画文化
戦中派的情念とやくざ映画
三島由紀夫と鶴田浩二
三島由紀夫とヴィスコンティ 死と悲劇と
映画俳優と小説家 『からっ風野郎』と映画『憂国』 ほか)
Ⅱ
三島由紀夫と短歌 塚本邦雄と春日井建
二つの「花山院」 歴史小説の方法
「スタア」の世界 映画スターと仮面
三島戯曲の六〇年代 「十日の菊」と『黒蜥蜴』
「葵上ー近代能楽集ノ内」と仏教
「卒塔婆小町ー近代能楽集ノ内」とオペレッタ映画)
終章 巨大な夕焼 三島由紀夫 最後の芸術
◆山内由紀人(やまうち ゆきひと)
1952年、東京都生まれ。立教大学文学部卒。文芸評論家。
1984年、「生きられた自我 高橋たか子論」で第27回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞
水野 暁「視覚の層 絵画の層」
群馬県立近代美術館で観てきました。
その作品は写実ですが、写実を越え、
対象へ本質へ肉迫する描き込みが凄まじい。
林檎の木は白い花をつけ、青い林檎、熟れた赤い林檎、
熟しすぎ腐りかけた林檎も画布にある。
生命がもつ力、時間が凝縮されて、
そこに存在する。
そしてたとえようもなく静謐。
その頂点といえるのが画家の母を描いた作品。
小ぶりの母の肖像画、
人間の内奥にある愛・恐れ・畏れ・焦燥が
あざやかな紅・赤・薄紅でほとばしる。
さらに頭蓋がそっとセピアでささやく。
こんなにも激しく、あたたかく、
非情なほどの視線で見つめ、描く。
榛名湖(制作中)の水・光・湖面の揺らぎのやすらぎ。
こんなにも惹きつけられる、というより
たましいまで没入してしまう作品に逢えたおののきを抱えて。
12月16日(火)まで
◆美術館の紹介
3年から4年をかけて対象と向き合い、
年月の経過を一枚の画面に凝縮させる作家水野暁。
その視覚が絵画の層となって画面に積み重なり、
写実を超えたリアルな存在として私たちの前に現れます。
https://artexhibition.jp/exhibitions/20250810-AEJ2714990/
みずの
遠田潤子『天上の火焰』集英社 2025
人間とはなんと切ない業火をかかえもつのか。
燃えさかる炎のイメージが、
備前焼窯元の父子三代の相克、
その内奥に渦巻く情念と重なってゆく。
家族とはなにかを問い続ける遠田潤子の新刊。
ドヴォルザーク「スラヴ舞曲集 第二集 第二番」
小説の中で通奏低音のように流れて。
◆本の紹介はこちら
大らかな性格で孫に優しい偉大な人間国宝の祖父・路傍(ろぼう)。
氷のように冷たく息子に無関心な轆轤の名手である父・天河(てんが)。
物心つく前に母親を亡くした城(じょう)は、
陽と陰のような二人の間で育ち、悩み苦しんでいた。
父に認められたいがゆえに歪んでいく心。
それは宿痾のように精神を蝕んでいき……。
備前市伊部を舞台に、備前焼窯元父子三世代の心の闇に斬り込み、
愛と憎しみの狭間でもがく人間たちを描いた、焰の家族史。
装画:流 麻二果
装幀:アルビオレ
◆遠田潤子 (とおだ・じゅんこ)
1966年大阪府生まれ。大阪府在住。関西大学文学部卒。
2009年、第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した『月桃夜』でデビュー。
『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」で第1位、
『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベストテン」で第1位、
『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞、『銀花の蔵』が第163回直木賞候補に。
他の著書に『アンチェルの蝶』『ドライブインまほろば』『廃墟の白墨』
『紅蓮の雪』『人でなしの櫻』『邂逅の滝』『ミナミの春』ほか。