絵本にしたいお話し~『旅するうさぎのぬいぐるみ』・・・16
| “大丈夫ですよ心配しないでください。私はマリアもジーンも助けますから、でもジーン |
| を助けるためには、マリアの力が必要なのです。頑張って下さい。” |
| マリアはそのことばを聞いて勇気がでてきました。 |
| 上空をスーっと飛んでいると、やがて、車椅子で移動している人を発見しました。 |
| 『サム!あれを見て!』 |
| マリアの身体は除除に下降していきました。近寄ってみるとやはりジーンでした。 |
| 『無事だったわ~。』 |
| 『お婆ちゃ~ん!』マリアは思わず大きな声をだしてそう言いました。 |
| マリアとサムは段々ジーンに近づいていき、地面へと着地しました。マリアは前にいる車 |
| 椅子を追いかけてまた走りました。そして、マリアは車椅子に手をかけました。 |
| 『ジーンお婆ちゃん。』 |
| 『まぁ、マリア、それにサム。』 |
| “マリア、ここからはあなたの力が必要です。あのおもちゃ屋さんまでこの車椅子を押し |
| ていくのです。” |
| マリアは小さい身体から精一杯力を出して車椅子を押していきました。 |
| 『ごめんね、マリア。孫娘のベスが無事か心配だったのよ。』 |
| ジーンはサムを抱きかかえて、車椅子にしっかりと捕まっていました。 |
| おもちゃ屋さんまで、あともう少しの所でした。まもなくするとおもちゃ屋さんが見えて |
| きました。 |
| 『マリア、頑張って!あともうすこしよ。』 |
| “もうすぐです、マリア。頑張って下さい。” |
| サムとジーンは、頑張っているマリアを励ましました。 |
| マリアは一生懸命に車椅子を押し続けました。瓦礫でふさがれた道もどうにか避けながら |
| も、時折上から落ちてくる大きな破片もうまく交わしながら、やっとのことでお店まで着 |
| く事ができました。 |
| なんと、他の建物は、崩れているのに、このおもちゃ屋だけはどこも壊れていませんでし |
| た。 |
| ドアを開け中に入ってみると、中は電気がついていなく暗くなっていました。ジーンが精 |
| 一杯の声で『エリザベス!』と叫びました。『ベス何処にいるの?わたしのエリザベス!』 |
| マリアもいっしょに声を出してベスを探しました。 |
| お店の奥に進むと、 |
| ベスは大きな机の下で、うずくまって、震えていました。 |
| 『ベス、こんな所にいたのね。』 |
| 『お婆ちゃん。声が聞こえたけど本当にお婆ちゃんだとは思わなかったわ。マリアも来て |
| くれたのね。』 |
| そう言ってベスはお婆ちゃんに抱きつき、そして、泣きました。 |
| “さあ、ジーン、マリア避難させるのです。私はあなたがた二人守れてもベスは守ること |
| はできません。二人でベスを守って下さい。” |
『どうすればいいの?』 *** つづく |
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・15
| “ベスのおもちゃ屋さんに向かっているようだ。” |
| 『お婆ちゃんは大丈夫なの?どうして、ここにいないの?』 |
| “ベスが心配で、ジーンは、おもちゃ屋さんに向かったようなんだ。マリア、私がいるか |
| ら大丈夫だ。ベスとジーンを助けにいこう。” |
| しかし、ここからおもちゃ屋さんまでは、まだまだありました。 |
| また、マリアは怖くなって、そこに座りこんでしまいました。 |
| 『サム!やっぱりマリアは怖くて、、、』 |
| “大丈夫だよ、マリア。私が守ってあげる。君なら、ジーンを助けられるよ。頑張って、 |
| ジーンのところまでいこう!” |
| マリアは立ち上がろうとしましたが、恐怖で身体が動きませんでした。 |
| その時、急に戦車が現われてきました。 |
| “マリア、逃げないと危ない。” |
| 戦車は、容赦なくあたりの建物を次々とこわしていきました。 |
| そして、次の瞬間、ジーンの家めがけて、大砲が打ち放たれました。 |
| ジーンの家は“バーン”という音と共に崩れ落ち、粉々になってしまいました。 |
| 『キャー!怖い!助けて!パパ・ママ助けて!サム怖いよ。』 |
| 不思議なことに、近くにいたマリアには何もあたらず無事でした。しかし、あまりの怖さ |
| に、その場所にうずくまってしまいました。 |
| “マリア!!ここは危険だ。それに早くジーンを助けにいかないと。” |
| マリアはうずくまり、まったく動けませんでした。身体は恐怖で大きく震えだしました。 |
| “マリア!早く助けにいくんだ。早く!マリアにしかできないんだ。” |
| サムは、マリアに一生懸命、話かけました。 |
| “いいかい、これはマリアにしか出来ないことなんだよ。どうか勇気を出して、ジーンと |
| ベスの所まで向かって!” |
| マリアは突然立ち上がり、おもちゃ屋さんに向かって走っていきました。 |
| マリアは次々と大砲が打たれている中を走りつづけました。涙をふきながら、勇気をだし |
| て、お婆ちゃんを助ける為に、走りつづけました。 |
| 戦車が教会以外の建物を次から次へと壊していく中をマリアはサムを抱きかかえて走りつ |
| づけました。不思議なことに、何かに守られているかのように、マリアには何もあたりま |
| せんでした。そして、いつもならこんなに長く走り続ける事ができないはずなのに、この |
| 時はいつまでもはしり続けることができました。 |
| 目の前に瓦礫が落ちてきて、つまずきそうになると、まるで羽がついているように身体が |
| 宙に浮きました。 |
| 『うわ~。サム~どうなってるの~。』 |
| “マリア、大丈夫ですよ。でもちょっと急がないと行けない。怖がらないで、身体の力を |
| 抜いてください。” |
| つぎにまたマリアが瓦礫を飛び越そうとしてジャンプした瞬間、マリアの身体がまた宙に |
| 浮き、そしてそのまま、高く上空へと上がっていきました。屋根よりも高くあがっていき |
| ました。 |
『わ~すごい!!!』
つづく*** |
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・14
| マリアはあたりを見回しました。しかし、誰が言ったのかがわかりませんでした。 |
| そうしているとまた、 |
| “大丈夫だよ、わたしがついている。だからジーンの所へイコウ” |
| と聞こえました。 |
| サムをみると、いつものサムの顔とちがい、表情が変化していたのです。 |
| “マリア、イコウ。ワタシをジーンのところへツレテッテ。” |
| なんとサムがしゃべったのです。マリアはビックリして、サムの顔を見直しました。 |
| 『どうすれば、いいの?』 |
| マリアはおびえながら、サムに尋ねました。 |
| “教会をでて、ジーンの所へいくのです。” |
| マリアは、怖くなってママのイリアに教えたかったのですが、 |
| 《このことは誰にも言ってはいけませんよ。それがたとえママであっても、、、》 |
| というジーンの言葉を思い出して、我慢しました。 |
| “マリア!早くしないと、ジーンは死んでしまう。マリアにしか助ける事ができないんだ。 |
| わたしがついているから、勇気をだして、教会の外へ出るんだ。” |
| マリアは、ママを腕を振り切り、走って教会の出口へと向っていきました。 |
| 『マリア!マリア!何処に行くの!』 |
| ママのイリアは突然、マリアがかけて行ったので、マリアに追いつくことができませんで |
| した。 |
| 『誰かお願い!マリアを止めて!!マリアー・マリアー何処へ行くの~・・・』 |
| 教会からすぐ近くのジーンの家でしたが、大砲の音が鳴り響き、戦車が動く音がしたりし |
| て、街はとっても恐ろしいことになってました。 |
| 『サム!怖いよ。やっぱり、マリアには出来ない!』 |
| マリアは、教会の外へ出たものの、脚が震えて、動けませんでした。 |
| 〝大丈夫だよ、マリア!私が絶対に守るから。〟 |
| そう言われても、動けませんでした。 |
| “大丈夫だよ、マリア!私を信じなさい。マリアが行かないとジーンは死んでしまうので |
| す。” |
| 『おばあちゃんが死んじゃうの?やさしいジーンお婆ちゃん!』 |
| マリアはそう思うと、ものすごく悲しく成り、目から涙が沢山溢れでてきました。 |
| 『サム、お婆ちゃんを助けて!あの優しいお婆ちゃんを、、、』 |
| “大丈夫です、マリア。行きましょう!” |
| マリアは勇気をだして、柱の影から飛び出しました。 |
| ジーンの家に向かって、走っていきました。 |
| マリアは何かの影に身を隠しながら、じょじょにジーンの家に近づいて行きました。 |
| そして、あともう少しで、ジーンの家にたどり着く所まできました。 |
| 周りの建物が次々と壊されていくなか、不思議な事に、目の前のジーンの家は、ひとつも |
| 壊されていませんでした。 |
| あとは、大きな道を渡ればジーンの家でした。マリアが恐る恐るその道を渡ろうとした時、 |
| “マリア、どうやらジーンはあの家には居ないようです。” |
| とまたサムの声がしました。 |
『えっ?何処にいるの?』 つづく*** |
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・13
| 『また戦争が始まってしまったんだ。』 |
| 神父さんは、そう言うと両肩を上下させて、深いため息をつきました。 |
| 『だからもうおもちゃ屋さんには行けないんだ。』 |
| マリアは急にそんな事を言われて涙が出て来ました。 |
| 『神父さん。なんで戦争になると、おもちゃ屋さんに行けないの?』 |
| 『戦争になると外に出歩けないんだよ、マリア。』 |
| 『なんで、なんで!』 |
| 神父さんはマリアの座っている椅子の所まで来て、抱き締めてなだめました。 |
| 『なんで戦争なんてするの?なんで神父さん!』 |
| 『こればかりは、私にも無理なんだ。御免よ。』 |
| 『神父さんには偉い神様がいるんでしょう?だから神父さんがお願いしたら、、、』 |
| マリアは悲しくて悲しくて一杯涙がでてきました。 |
| 『マリア、神さまはね。みんなに居るんだよ。でもね、いつもいつも楽しい事を与えてく |
| ださるものでもないんだよ。』 |
| マリアはお父さん、お兄ちゃんと離れ離れになった時のことを思い出しました。 |
| それも、戦争のせいでした。 |
| 神父さんの言うとおりに、たくさんの兵隊がやってきて、街が占領されてしまいました。 |
| 大砲の音や戦車の動く音が街中に響きわたりました。 |
| マリアはパパとアルと別れた時の事を思い出して、体が震えました。『ママ恐いよ~。』 |
| ママのイリアも恐怖で震えていました。 |
| マリアはジーンお婆ちゃんの言っていた事を思い出して、サムを抱き締め、サムにお願い |
| しました。『早く早く、戦争をヤメさせてテ。そして、パパとお兄ちゃんを、マリアとマ |
| マに会わせて。お願い。』マリアは身体を震えさせながらそう祈り続けました。 |
| 教会の中は逃げてきた人達でいっぱいでした。 |
| マリアは、教会のなかで、あのジーンお婆ちゃんと、ベスを探しました。しかし、見当たり |
| ませんでした。神父さんに近寄って尋ねてみました。 |
| 『マリア、困ったことに連絡がつかないんだ。』 |
| いつも強くしっかりしている神父さんが本当に困っていました。 |
| 『マリア、いっしょに祈ってくれるかい。』と神父さんはそう言って、祈り続けました。 |
| マリアもサムを抱きながら祈りつづけました。祈り、サムにお願いしていると、何処からか |
| 声が聞こえました。 |
| “マリア!ジーンの所に行くのです。” |
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・12
| マリアは毎週木曜日がとても楽しみでした。大好きなぬいぐるみをたくさんみられる事よ |
| りもベスに会えることがなによりも楽しみでした。ベスとお話が出来ること。ベスに自分 |
| の絵を見せる事がなによりも楽しみでした。 |
| しかし平和な日々はそう長く続きませんでした。 |
| 最初にベスに会ってから5度目の木曜日の朝の事でした。 |
| マリアはいつものように神父さんのお部屋の前で楽しみに待っていました。しかし神父さ |
| んはいつもの時間になってもなかなか出て来まさんでした。随分時間がたった頃に、中か |
| らドアが開いて、軍服を着た人達が出てきました。その人たちが居なくなって、ドアが少 |
| し開いていたので、そこから中をのぞき込みました。神父さんは大きな椅子に座り電話で |
| 誰かとお話しをしていました。神父さんはマリアに気がつき、部屋に入るように右手をブ |
| ラブラさせて手招きしました。神父さんは受話器に手をあてながら『さあ、中に入って、 |
| ドアを閉めてそこに座りなさい。』と小さな声で言いました。マリアは丁寧にドアを閉め |
| て、神父さんの大きな机の前に置いてある椅子の一つに座りました。神父さんはマリアを |
| 招き入れるとまた電話をしたのでした。 |
| 神父さんの部屋の壁には沢山の写真とか絵とかが飾ってありました。窓の上のほうはステ |
| ンドグラスになっていて、そこに朝の陽が射してとっても綺麗でした。 |
| しばらくして神父さんの電話は終わりました。 |
| 『マリア、お早よう。』 |
| 神父さんの顔は電話しているときと違ってやさしい顔に戻りました。 |
| 『お早ようございます。神父さん。』 |
| マリアも笑顔で答えました。でも神父さんの顔がまたすぐに険しくなったのです。 |
| 『マリア、大変な事が起きたんだ。』 |
マリアはその言葉で少し身を竦めました。 つづく***
|
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・11
| ジーンはマリアに顔を近づけてそう言いました。 |
| 『あなたは他の人に、サムを、自分からあげたり、貸して上げたりしては駄目よ。』 |
| ジーンの顔は少し怖くなっていました。 |
| 『もしもそんな事をしたら。大変な事が起きるわ。』 |
| ジーンはさっきよりもマリアに顔を近づけてそう言いました。 |
| 『どんな事が起こるの?』 |
| 『わたしが実際に体験した事は、ある日、ある女の子と二人で遊んでたの。まだあなたく |
| らいの時だったわ。もうちょっと大きかったかしら、、、』 |
| 眼鏡の位置を直して、ちょっと上を見て考えていました。 |
| 『まあいいわ。それでね、わたしがその女の子にサムを貸して遊んでいてりしてたの。そ |
| れで、遊び終わってその子が帰ったの。そして、その子が家に着くまでに、突然犬に襲わ |
| れて大怪我したの。最初は全く気づかなかったわ。でも何度もそんな事が続いた時に、サ |
| ムが夢の中に出てきてそんな絵を見せてくれたの。それでやっとわかったわ。だからあな |
| たもけっしてそんな事をしないようにネ。おそらくサムが私に降り掛かる災いを吸収して |
| いたんだわ。その時に誰かが無闇に触るとその人にその災いがのり移ってしまうのね。決 |
| してサムが悪いんじゃなくて持っているほうの責任なの。だから注意してね。』 |
| 『マリアあなたは、いまママと二人っきりだわね。』 |
| 『うん。』 |
| 『ママに我侭言ってなあい?』 |
| 『今、あなたのママも必死だわ。あなたに一生懸命なのよ。あなたをひとりで、一生懸命 |
| 守ろうとしているわ。だから、ママの言う事は、聞かなきゃだめよ。戦争は、誰が悪いの |
| でもないのよ。ママに罪はないの。だから、ママを困らせるような事はしないでね。まだ |
| あなたは小さいわ。甘える事はいいけども、ワガママを言いすぎるのは良くないわ。そう |
| いう子には、サムは見向きもしなくなるわ。本心から、ママやパパ、それからまわりの親 |
| 切な人達に感謝して、毎日を過ごす事。そして、サムにお願いする時も、まずは自分自身 |
| が努力を怠らず、みんなの幸せを願いするのよ。自分のことばかりを言っては駄目よ。わ |
| かる?これが5つ目の事ね。』 |
| 『最後も重要よ。いいかい?』 |
| ジーンはまた身を乗り出して、マリアに顔を近づけて話はじめました。 |
| 『サムには、なんでも嘘を言わずに本当の事を言うのよ。あなたの、思っている本当の事 |
| を、嘘を言っちゃだめよ。嘘を言うと、それでもサムはあなたの前から居なくなるわ。そこ |
| で、あなたの人生は終わりになる事になるわ。だから、絶対に嘘をつかないでね。』 |
| 『以上7つのことはかならず守ってちょうだい。』 |
| 『わかった?』 |
| 『わかった。』 |
| 『できるかしら?』 |
| 『うん。』 |
| マリアは大きくうなずきました。 |
| 『マリア、このサムにあなたのこと、頼んでおいたわ。はい、どうぞ!』 |
| ジーンはマリアにサムを渡しました。 |
| 『今言った事は、わすれないでね。』 |
| 『ジーンお婆ちゃんありがとう。』 |
| マリアはジーンに抱きついてそう言いました。 |
| ジーンはそれから、マリアに裁縫の仕方を教わったりして、その日、一日をジーンと楽し |
| く過ごしました。 |
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・10
| マリアがそれを開けてみると、中には、色んな色の糸と布が詰まっていました。 |
| なかに入っている小さな箱を開けてみると針や鋏などがはいっていました。 |
| 『それで、何をするかというと、サムの服を作るのです。それが二つめの約束事ですよ。 |
| あなたが知っているとおりに、サムはとてもおしゃれだわ。いつもちがった服を身につけ |
| ているでしょう。あなたは、いままで、お裁縫などやったことがないでしょうけども、サ |
| ムを手にした時からおのずとしたくなってくるわ。心からそういう気になるから、今はそ |
| んな気がなくてもとりあえずそれも家に持ち帰っておきなさい。そのお裁縫道具もさしあ |
| げるわ。』 |
| 『お婆ちゃんありがとう。マリアもお婆ちゃんみたいにサムの洋服を作ってみたいと思っ |
| ていたの。』 |
| そう言ってマリアは箱にはいっていた、サムの洋服を取り出して、手にとっていました。 |
| 『あなたが、サムを大事にすることによって、自然と幸せが訪れてくるわ。だから、あい |
| ている時間にサムの服をつくるのよ。もちろん最初は上手にはできないわ。でもそれを繰 |
| り返すうちに、身についてきて、綺麗な服が作れるようになるわ。あせらなくてもいいの |
| よ。そして、どんなに古い布でもいいから作りつづける事が大切なのよ。わかった?でき |
| るかしら?』 |
| マリアはまたふかくうなずきました。 |
| 『そうしているうちに、あなたにゆっくりと、ひとつづついい事がやってくるわ。だから、 |
| それまで、我慢してサムを信じることよ。そうすれば、あなたにいずれ本当の幸せがくる |
| わ。あなたが望んでいる。』 |
| ジーンは乗り出していた身体をまたふかくソファに静めて、サムを抱えて、また話を続け |
| ました。 |
| 『あなたに本当の幸せがおとずれた時、サムは自然にいなくなるわ。あなたが、自分で本 |
| 当に幸せと感じた時、サムはあなたの所から自然に立ち去るの。その時は確実に、自然に、 |
| やってくるわ。それは、色々な形としてやってくるの。あなたのようにサムの存在が気に |
| なって、欲しいと言ってくる女の子もいるでしょう。不思議な事に、でもそんな子は滅多 |
| なことではあらわれないわ。サムが認めた女の子じゃないと、欲しいなんて言ってこない |
| のよ。』 |
| 『私はサムともう60年近くいっしょにいるけれども、何度もいなくなっては、何度も |
| 戻ってきてくれたわ。実は最近戻って来たばっかりなの、となりで、戦争が始まって間も |
| なく戻ってきてくれたわ。そうやって、不思議な事に私の身に何か起こりそうな時には、 |
| 必ず戻ってきては助けてくれたの。だから、あなたもサムが突然居なくなっても、心配せ |
| ずにいるのよ。あなたが、ちょっとでも不幸になった時には、戻ってくるから、サムを信 |
| じつづける事が大事なのよ。』 |
| またマリアはゆっくりとうなずいた。 |
『これで3つ目のきまりを話したはね。まだあるわよ。』 つづく*** |
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・9
| 『きっとサムがその願いを叶えてくれるわよ。』 |
| 『実はね、これは私が作った人形じゃないのよ。わたしがまだあなたくらいの時におちて |
| いたものを拾ったの。わたしもあの時とても貧しくて、食べるものも困っていて、いつも |
| パパとママがそれで泣いていたわ。でもねこのサムと出会ってから人生が一変したの。わ |
| たしがささやかな願いを話し掛けるといつのまにか叶っていったの。こんな話は誰にもし |
| た事がないわよ。ベスにもマイクにもね。あなたにこのサムをあげるのは幸せになって欲 |
| しいからよ。そしてサムがそう願っていたのね。そう、おそらくあなたを呼んだのはサム |
| ね。でもこの事は、誰にも言ってはいけませんよ。それから今から話す事も言っては駄目 |
| よ。』ジーンは鼻からずれためがねを人差し指でスーッと戻して、マリアの目の前に顔を |
| 近づけて、話を続けました。 |
| 『まずここで言った事は、絶対に言っては駄目よ。話をしたら、いつのまにかあなたから |
| 離れ、彼はいなくなってしまうわ。注意して。ママにも言っては駄目ですよ。』 |
| 私のように、サムと過ごしたことがある人だけには、話してもいいわよ。 |
| 『サムは、あなたをきっと幸せにしてくれるわ。わたしと同じように、守ってくれるわ、 |
| 色々な悲しみや苦しみから。でもその為には守らなければならない事があるの。それを今 |
| からお話するわ。よく聞いて決して忘れないでね。』 |
| ジーンは抱いていたマリアを横にすわらせました。 |
| 『サムと今日からずっと一緒に寝てちょうだい。その時には他のお人形をいっしょにベッ |
| トにのせてたり、近づけたりしてはいけませんよ。あなたとサムだけにして、寝るの。マ |
| マとも一緒に寝たら駄目よ。もし、未だにママといっしょに寝ているのなら、今日から別 |
| のベットに寝なさい。わかったわね。』 |
| マリアは夢中になってジーンの話を聞いていました。 |
| 『サムはあなたといっしょに寝ている時に、あなたの夢を見て、それをかなえるようにな |
| るわ。厭な夢だったりしたら、その災いを取り除いてくれるの。あなたが寝ている時は、 |
| とても大事な時間となるのよ。誰かがそこに近寄ると、あなたの災いをその人が受けたり、 |
| あなたが受けたりして、大変な事になるわ。』 |
| ジーンはゆっくりと小さな声で話を続けました。 |
| 『そうしているうちに、あなたのまわりはどんどん変っていくわ。いいわねまずは今言っ |
| た事を守ってちょうだい。わかった?守れるかしら?』 |
| マリアは、ふかくゆっくりとうなずきました。 |
| 『マリア、あそこのテーブルの上においてある。木箱をもってきてちょうだい。』 |
| 大きな木のテーブルの上の結構大きい箱が置いてありました。 |
| マリアは椅子からピョンと飛び降りて、小走りにテーブルへと向かい、それを抱えて持っ |
| てきました。 |
| 『そうよ。それをあけて御覧なさい。』 |
絵本にしたいお話し~『旅するぬいぐるみ』・・・8
| 『あなたがマリアね。こんにちは、マリア。あなたのことは良く存じ上げているわよ。ベ |
| スとマイクからきいているわ。』 |
| そのお婆ちゃんは身体をゆっくりと動かして、奧のほうへ入って行きました。 |
| 『こっちへいらっしゃい。』 |
| マリアはあとをついていきました。 |
| 『お婆ちゃん。マイクって誰なの?』 |
| 『そうだったわね、自己紹介しないとね。わたしは、ジーンよ。よろしくね。それとマイ |
| クは私の旦那さんで、神父さんの事よ。ベスは私の最愛の孫娘よ。おわかり?』 |
| 『さて、サムは元気にしているかしら。ここでおまちなさい。』 |
| というと、左側の部屋へと入っていきました。 |
| すこしたつと、ジーンは丁寧にサムを抱えて戻ってきました。 |
| そして、そのままキッチンヘと入っていきました。 |
| ジーンはキッチンに置いてあるイスのひとつにサムを座らせました。 |
| そのあと、マリアに、その隣の椅子に座るようにいいました。 |
| 『こうみるとお似合いだわね。』 |
| ちょっと笑みを浮かべて、ジーンはそう言いました。 |
| そう言われたマリアもニコっとしました。 |
| ジーンはミルクパンにミルクを入れて温めはじめました。 |
| 『わたしの家ではね、あなたのようなかわいいお客さまがいらっしゃった時はね、いつも |
| こうするのよ。』 |
| 食器棚には沢山のお皿やカップがありました。 |
| カップの殆んどには、あのおもちゃ屋さんで見た、動物などの絵が描かれていました。 |
| その中のひとつのカップをとりだして、温めたミルクを注ぎ、マリアの前に差し出 |
| しました。 |
| 『あったまるわよ、どうぞ。』 |
| 『ありがとう。おばあちゃん。』 |
| ジーンはカップをマリアに渡すと、今度はリビングに、カップを持って行くようにい |
| いました。 |
| 『暖かい所にいきましょう。』 |
| ジーンはサムを大事そうに、両腕で抱え込み、暖炉の部屋へと移っていきました。 |
| その後をマリアはミルクの入ったカップを中のミルクがこぼれないように、大事にもって、 |
| ジーンにつづきました。 |
| リビングには沢山のぬいぐるみがおいてありました。ぬいぐるみの大きなものは、天井ま |
| でつきそうなものまでありました。壁には家族の写真や動物の写真・絵などが、沢山飾っ |
| てありました。 |
| ジーンは暖炉に向かって置いてある二つのソファのうちの赤い布に覆われたほうに座りま |
| した。マリアはもう一方の緑色の布に覆われているソファに座りました。 |
| 『あったかいでしょう。わたしは、一日の大半をここで過ごしているの。みたとおり、足 |
| が不自由になってしまってね。一日中ぬいぐるみを作っているわ。』 |
| サムを膝の上にのせながらそういいました。 |
| マリアはミルクをのみながらお婆ちゃんとサムをじっとみつめていました。 |
| 『マリア、あなたの今の夢はなあいに?』 |
| ジーンは鼻からすこしずれた眼鏡越しにマリアを見ながらいいました。 |
| マリアは少し下を向いてその質問を考えているようでした。 |
| 『パパとアルに会いたいの。』 |
| とマリアは、節目がちに小さな声で答えました。 |
| 『そうだったわね。あなたは戦争で離れ離れになって、追われてここまで来たんだったわ |
| ね。かわいそうだわ。パパもきっとあなたとママを探していらっしゃるわよ。きっと。』 |
| 『カップを置いてこっちへいらっしゃい。』 |
ジーンはマリアを抱き寄せました。そしてまた話をつづけました。 つづく*** |
