<昔日の一葉 5> 梅原　猛さん（1925～2019)

シリーズ第5弾は哲学者の梅原猛さん。先月、93歳で逝去されました。

撮影したのは1993年の5月頃。当時67歳。

当時は京都の国際日本文化研究センターの所長を務めておられました。当然ながら京都住まい。一度取材させていただきたいとは思っていましたが何しろ低予算の雑誌。京都出張は困難。梅原先生が東京に来られる機会を狙っていました。

秘書の方と連絡を取りあう中で、千代田区の学士会館での学会の会合に出席されると教えていただいたのでそれを狙うことにしました。でも超多忙でスケジュールは分刻みです。当然、日帰りで撮影のためにとる時間などあるわけがありません。秘書さんのガードも堅いです。

さて、どうするか。無難なのは学士会館で待ち構えてそこで撮らせていただくこと。でも学士会館の重厚なレンガをバックに重厚な梅原先生を撮っても芸がない、と思っていました。

僕の立てた作戦は以下の通りです。

[1]　秘書さんに先生の乗る新幹線の便名と車両を聞く。

[2]　当該ホームの乗車車両付近で待ち構える。

[3]　東京駅からタクシーで撮影場所にお連れする。

[4]　撮影

[5]　先生をタクシーで学士会館までにお送りする。

つまり、東京駅から学士会館までお送りする「ついでに」写真を撮るということです。これで秘書さんのオーケーを取り付けました。

問題が二つありました。

一つ　　東京駅でタクシーはつかまるか。長蛇の列になっていたりしたら撮影時間が無くなる。

二つ　　撮影場所はどこにするか。何しろお忙しい先生。東京駅→学士会館のルート上でなければいけません。。

検討の結果、タクシーはあらかじめ予約して会社から東京駅まで乗っていき、八重洲口で待っててもらい、先生と落ち合った後、またそのタクシーに乗って撮影場所に行くことにしました。撮影場所は東京駅から学士会館へのルート上と言えないこともない北の丸公園にしました。

当日、アクシデント。予約したタクシーが会社になかなか来ないのです。予約時間より大きく遅れてきたタクシーに乗り込み急がせつつ東京駅に着いたときは先生の到着時間ぴったりでした。

いかん、間に合わないっと到着ホームに向けて駆けだしたら、ちょうど先生がホームから改札口への階段を降りてこられるところでした。大柄で長髪なのですごく目立ちました。

遅刻を詫びて、東京駅から件のタクシーに乗り込み、北の丸公園に向かいました。

そこで撮らせていただいたのが上の写真です。

ここで告白すると僕は、哲学というのがまるで分りません。あと古代史、中世史についての教養も圧倒的に欠けています。だから事前学習で梅原先生の本を読んでもまるでちんぷんかんぷんでした。

なんの話をしたんだろう、あの時。たしか京都文壇のゴシップかなにかだったんじゃないかなぁ。きっとバカな編集者だと思っただろうなぁ。

父が梅原先生のファンでご著書は家にいつもありました。僕は父が好きなものは避けて通る傾向の少年だったので逆に意地でも読みませんでした。他に父の趣味だからという理由で避けていたものは、司馬遼太郎、夏目漱石、江戸古川柳。逆張りで僕は陳舜臣、正岡子規、都々逸に耽溺しました。

いやそんな野良エディプスの話はどうでもいいのです。撮影には先生はすごく協力的でこちらのリクエスト通りにいろんなポーズをとってくださいました。

撮影後は無事、先生を学士会館に送り届け、会社に戻りました。後日、ポーズは普通だけど、哲学者らしくすべてを見通すような強い視線が印象的な写真を選び、掲載しました。あとである人から「ド下手な写真だが、被写体の心を裸に近い無防備にしたのはいい」とほめてもらいました。

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