前略、病床の上より。
新緑の候、街には一斉に新しい緑が出て、新たなる命の力を感じる季節となりました。
病床についてからはやいもので半年。
このたび、職場の有志により発足された支援の会を通じ、皆々様の多大なるご厚意と、
そしてあ熱い激励の言葉を授かり、ことばにできないくらいの感動・・・・・・そして、希望と力を授かりました。
もしも可能なら。――今すぐにでもひとりひとりのもとへと参じ、感謝の意と感激の胸のうちを伝えさせていただきたく思うのですが、依然として入退院を繰り返す日々にそうすることもできず、歯がゆい重いです。
本来でありましたら、もっと早きうちに休職の旨も皆様におつたえするべきでしたが、
突然の病状悪化につき、大変おそくなりましたことをここにご容赦ください。
そして、ご厚意をいただきました皆様に向け、改めましてここに感謝の気持ちが少しでも伝わるように祈りつつ、
その思いを述べさせていただくとともに、いまだ直接病気の報告をできぬままになってしまった方々が本当に多数
いらっしゃることが大変心残りでもありましたので、簡単に近況報告などもさせていただければと思います。
事後報告になってしまいますが、昨年の11月末に肺癌という告知を受けました。
そして、病状はかなり進行しており、胸部と腹部のリンパ説にも転移が認められ、
ステージⅣ(末期)という現状を告げられました。
そのときのショック、悔しさ・・・・・・それはもうかなりのものでした。
やりたかった仕事、やり残した仕事、実現したかったあれやこれ・・・・・・。
あの人ともこの人とも、次に会うのを楽しみにしていたし、
どこかでバッタリ出くわしたら、笑顔で握手したりお酒を酌み交わしたりしたかった。
・・・・・・そんな思いが僕の中では写真のように止まったまま、季節は過ぎ、冬が終わってもうじき初夏を迎えようとしています。今の僕は6度目の入院をして、病院のベッドの上でこの手紙を、みなさんひとりひとりの顔を思い浮かべながら書いています。
大学2年生のとき、はじめて出版社の門をくぐり、女性誌でアルバイトとして雑用をさせていただきました。
以来、15年以上もの間、ずっと女性誌の世界にどっぷりとつかり、今日まで生きてきました。
雑誌が好きで、女の子が大好きで。
女の子の気持ちを知りたくて、喜んでもらいたくて、女性誌を買って読んでいた大学生のころ。
気づけば、いつの間にか雑誌を作ることが仕事の、大人になっていました。でも、大好きな女の子のことを考えて、女の子の笑顔が見たくて・・・・・・っていう気持ちはずーっと今も昔も、まったく変わっていないなって思います。
いま、そんな大好きなことに追われる大変ながらも幸せだった日々から、はじめて離れています。
離れてみて、いろいろと気づくこともあるし、新たにやってみたいこともあります。
時は止まることなく流れ、季節はめぐり、新しい雑誌のどんどん発売され・・・・・・僕はたまに取り残されたような、忘れ去られたような、そんな寂しい気持ちになることが、あります。
――なんて、らしくないこと言ってスイマセン。でも、そんなときもあります。
じっさいの話、病気と戦うのってやってみてわかったのですが、そうとうキツイっす!
(・・・って言いながら、ヘラヘラ笑っているいつもの僕をイメージしてください・・・笑)
でも、そうやってどうしょうもなくうしろ向きな気持ちになってしまったときに、このみなさんからの暖かい気持ちが、
激励の言葉が、気合が、僕の元に届けられました。本当に本当にうれしくって、あったかくって、気持ちをなんとか前に向けることができました。ひとりひとりの顔を思い浮かべ、そしてさまざまな思いがめぐり、絶対にまた皆様と一緒に笑ったり、仕事したり、怒られたり、企んだり、痛飲したり、夢を語ったり・・・・・・したいって強く強く思いました。
それは皆さまが僕に授けてくれた、生きる希望です。
いくら書いても足りないくらいの感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、そのいただいた言葉と気持ちをパワーに変えて、これから勇気を持って病気に挑んでいきたいと思います。
さらには、皆様方のご厚意の力で、ぼくひとりでは到底不可能だった治療の新たなる選択肢を得ることができましたことも、重ねて感謝の気持ちの意を述べますとともに、ここにご報告させていただきます。
――そして、最後にじつはお願いがあります(これだけのご厚意を授かった上の不躾をお許しください)。
僕は、けっしてあきらめず、また皆様と再会できる日を願って、毎日イメージしています。・・・・・・なので、みなさまもたまに僕のことを思い出すことがありましたら、笑顔で肩を並べている僕を、そして楽しそうに酔っ払っている僕を、そんないつもの僕のことを、イメージしてください。
思い起こす刺激に満ちた仕事の日々は、皆様の“イメージを具現化する力”に幾度となく助けられ、
そしてときににはお互いの力を出し合って、その“イメージの世界”を、雑誌という夢の箱に作り上げてきました。
人と人とが集まって、頭の中にあるイメージを膨らませて、力を合わせて形にしていく――それは何事にも勝る、幸福で素敵な作業でした。
人間の想い(イメージ)は現実になると、信じています。
みなさんのその力も、ほんの少しだけ僕に貸してください。
そして、再会できる日を待っていてください!!
草々
2008年5月17日 東京医科大学病院にて