「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド -7ページ目

「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

ブラジル移民から世界放浪 若い頃にフラッシュバック
消せないアルバムの話。

今は太平洋に船でいる。

 

この船は移民船。ブラジルを目指して今日で5日が過ぎた「はじめは船酔いで死んでいた」

 

やっと体も慣れて周り見える様になった「船は荷客船、移民の人達と他に一般の人も乗っている」

 

甲板にはプールもあり、それなりに快適ではある「多くの人が朝だ夕に甲板をランニングしたり、

デッキチェアーに寝そべり、本を読んだり音楽を聞いたり楽しんでいる」

 

俺たちブラジル移民は、この船で45日間でサントス港に着き、その後はブエノスアイレスで終わる。

 

今は移民と言う覚悟はなく「旅行者気分でルンルンって感じ 後何日かでハワイに着くからだ」

「昭和40年代でハワイ行けるのは金持ちだ」、俺の家族じゃ夢の夢。

 

アメリカのロスアンジェルスにも入港するので、多くのアメリカ人が乗っていた。

 

そのアメリカの人達には、我々に興味を持って笑顔で話しかけてくる人もいれば、

何か上から目線で無視する人等で色々だ「そう言えばプールの時間の件でもめた事がある」

 

プールの使用時間は午前と午後がある、一般の人達は午前も午後も使えるが、移民の人達は午前の

一回だけだ「なぜ我々は午前だけなのか」、船員の人に聞くと「一等客室は特別料金なので」

それを聞いて以来、移民をすると言う事は貧しいから「そう言う目で外国の人が見ていたのか」

 

「なんでブラジルなんか行こうとしたかな」後悔で悔やんだ。

 

ラグビーをやっていた。優勝候補での全国大会は準決勝で負け、決まっていた大学は親の不祥事で断念

「やけくそでのブラジル移民は逃避行」

 

こんな気持ちで移民する俺「不純な動機で船に乗っている だめな人間だ」

 

明日の夜にホノルルに着くと移民仲間が言って来た「嬉しいのと不安 混乱な十代」

 

人は皆んな旅はすると思うけど、俺の旅の始まりは楽しくなかった。

 

「忘れない あの時のハワイに夢を感じなかった事」

草木も枯れ始め、いよいよ間も無く雪の季節が草津にも到来。

 

あれから何回か、中居の若い子との湯畑での無駄話が続いた。

 

その度「今年は一緒に冬を越そうよ」「俺にだって東京に用事があるよ」

 

「どんな用事 わかった女でしょ」「まっ 色々あるから」「別にいいけどね」

 

「私はあなたの彼女じゃないし」「でもね ちょっと深い友達だからね」

 

「わかりました」この中居の子とは楽しい時間もあった。

 

それでも俺は、後一週間で山を降りる事にしていた。

 

そんな時、あの中居の子が「今日は付き合ってもらうからね」「どうしたの」

 

「それは今夜話す」何か怒っている。

 

いつもの湯畑の店で先に来て待っていた「今日も寒いな 先に熱燗でも飲んでいよ」

 

そこに彼女が息を切らして来た「ごめん 片付けに時間がかかって」「あっ もう飲んでる」

 

「まっ いいか 私は先ずビール、そして文句を言うよ」「文句って何」

 

彼女はビールを一杯飲んで「お腹の減っているのでおでんも食べよ」じっと見ていた。

 

少し落ちついたようだ「ねえ 山を降りるんだって 聞いたよ 本当」「早いね もう耳に入ったのか」

 

「冷たいじゃない」「明日でも言おうと思っていたんだ」「嘘だ 黙って行こうとしたんでしょ」

 

「俺はそんな事はしないよ」「でっ いつ行くの」「来週の月曜」「もう何日もないじゃない」

 

「この薄情者」「そんなに怒るなよ 草津くらいはいつでも来れるよ」「わかりました 約束だからね」

 

その夜は彼女のうだうだ話に多め酒で疲れた「でも 優しい女だな 後ろ髪引かれる」

 

草津を去る前の日に付き合う約束を、ひつこく文句言われ「はい 守ります」ただ返事。

 

本当に草津の山にも雪ぱらつき始めた「いいタイミングで降りれる 後は今夜か」

 

そして、その夜もいつもの湯畑で話が始まった「明日でさよならだね」「未だ その言葉は早い」

 

「私し明日休みなんで、今日はひつこいよ 覚悟して」「お手柔らかに」

 

初め頃の話から始まり、昔の彼氏の話、ホテルの話で盛りだくさん。

 

「もう話す事はないでしょ」「少し休んだら 又 話すよ」可成り飲んだけど呂律は回っている。

 

「酒強いね 俺はもう充分」「寒くなったので、最後にホテルの温泉でも入るかな」「私も入る」

 

二人で暗い坂道をぞろぞろ歩いた「ちょっと待って」急に彼女が抱きついて来た「馬鹿」

 

「又 来るよ」若いのに情熱的な子だ。

 

ホテルの大浴場は夜中も開いている「もう この時間は誰もいないから独り占めだ」

 

「じゃ 私も一緒に入るね」「何言ってるの」「そこでサヨナラ言うよ いい」

 

彼女はさっさと風呂に入ってしまった「ここは男風呂だぞ」「誰も来ないよ」

 

勇ましい女だ「俺に裸をみられるぞ」「お別れのサービス」湯煙の向こうで彼女は笑っている」

 

草津は雪国になり、春が恋しい待ち時間に入る。

 

あの寒い湯煙の温泉での事は中々な話。そう言えば、その後二人で布団部屋でぐっすり朝まで。

 

「笑えるな 俺の温泉物語」人には言えないあの湯煙り模様。

ニューヨークで初フライトの準備でアメリカに行く事なった。

 

ワシントンDCからこの仕事との関わりとなり「もう何年になるのかな」

 

ハワイでの初フライト経験からの再びのこの仕事「あの時みたいな事はないだろう」

飛行機会社の社員もハワイと同じ人「今回は大都市のニューヨークですから万全です」

「そうですよね」何の不安も感じないまま、我々はニューヨークに着いた。

 

自分自身はニューヨークへは何度か来ている。

ヨーロッパを旅してロンドンから着いた時、ワシントンDC時代に買出しで何度か来た時など。

「色々と思い出がある街、こんな形で又来るとは分からないもんだな」心でつぶやいた。

 

初フライト前日にケータラーの方を訪問、昼過ぎに着いて打合せをし館内見学をした。

見学をした時に見た光景、これがアメリカと感じた事があった。

時計の針が間も無く14時を指す頃、館内の作業場に人が集まりじっとしている。

「何で作業を始めないのかな」不思議に見えた。

その時、時計が14時丁度になる同時に人が作業を始めた「何てきっちりしているんだ」

お金にならない時間は一秒でも働かない「これがアメリカ、労働者の権利と言うのかな」

食べ物を作る作業だと中々時間通りにはいかない「そう言う場合はどうするんだろ、不思議だ」

 

いよいよ明日の10時フライト準備で夕方に現場に入った「あれ、準備は大丈夫ですか」

担当の料理人に尋ねると「大丈夫です、未だ時間がありますから」「今日は何時までするですか」

「予定は8時位には終わります」「わかりました、又後で来ます」

 

夜7時過ぎ位に行ってみると未だ出来ていない「遅れていますけど10時までには終ります」

「大丈夫ですか。必ず終わらせて下さいね、終わらないとチェックが出来ませんから」

「分かりました、終わらせます」少し不安はあったがお願いして離れた。

 

そして時間になり再び訪れると終わっていない「どうしたんですか」少しつ強い口調で言った。

「すいません、未だ終わらなくて」「何時にチェックが出来るんですか」「分かりません」

「ふざけんな、後10時間後には飛行機は飛ぶんですよ」「すいません」

 

結局ハワイの時と同じで自分で作るはめなった。飛行機会社の社員は又おろおろ「大丈夫ですか」

「やるしかないでしょう、明日以降の手配の準備をちゃんとして下さい」「分かりました」

 

それからは喋る事なく黙々と作業をした。時間が経つのは早く朝になり少し目処がついた。

 

「8時までに飛行機に積まないといけませんが大丈夫ですか」飛行機会社の社員は言って来た。

「大丈夫です、この後の段取りは出来ていますよね」強い口調で俺は言った。

「その件は今日のフライトの後でお話します」「ちゃんとして下さいよ」「分かりました」

 

どうにか初フライトが済み疲れがどっと出てきた「お疲れ様でした」「寝ていないので寝ます」

 

何時間かしてノックがした「起きていますか、打合せをしたいんですが」飛行機会社の社員の声。

ホテルのラウンジでコーヒーを飲みながらの打合せ「昨日はありがとうございました」

「いいえ、仕事ですから。明日以降は大丈夫ですか」「その件ですが、お願いがあります」

「もう1便も確認していただけませんか、このままでは不安なものですから、お願い致します」

「又ですか。でも今度はケータラーにがんがん文句言ってやらせますよ、いいですか」

「もちろんです、何でも言ってやって下さい。見ていただけるんですか」「分かりました、やります」

飛行機会社の社員は本当に嬉しそうにお礼を言った。

 

その後は徹底した指導し段取をつけた。そしてニューヨーク市内を見る事なく帰国。

 

全米の中心的な街ニューヨーク、その飛行機会社の翼が大変な裏事情の中飛んだ。

 

俺のアメリカ出来事の中の一つではあるが「凄くでもない、まあまあな話かな」

ニューヨークに足跡一つ。